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8/202

8.初日!

 翌日、私はフランチェスカさんに、朝六時に起こされた。

 私は一応、例外的に平民よりも高い身分とされる治癒魔法使いなんだけど、教会で働く以上はフランチェスカさんの部下になる。

 なので、フランチェスカさんから、

「掃除をお願いね」

 と言われて、私は教会の掃除をした。まあ、軽く掃き掃除したくらいだけどね。

 その間に、フランチェスカさんとイリヤ王子付きの侍女の方……ナタリアさんが朝食を準備する。



 私が掃除を終えて食堂に戻ると、既に朝食の準備が整っていた。ムチャクチャ美味しそうな匂いがする。

 でも、昨夜のパンとスープのことを考えると、味は変に期待しない方がイイかな?


 それから、そこには既にイリヤ王子の姿もあった。もう食べる気マンマンって顔でテーブルに着いていたよ。

 さすがに相手が王子様だからね。彼には、雑用とか料理の依頼はしていないよね?

 って言うか依頼なんかできないよね?


「ラヤ、おはよう!」

 イリヤ王子は朝から元気だ。この表情からは、昨夜まで脳腫瘍で苦しんできた人間だなんて、さすがに思えないよ。


「おはようございます」

「こんなに気持ちの良い朝は久しぶりだよ。よく眠れたし。全部、ラヤのお陰だ。本当にありがとう!」


 朝からイケメン王子様の笑顔。

 こっちも元気が出てくるよ!


 そして、ナタリアさんからも、

「本当に私からもお礼を申し上げます。イリヤ王子の元気な姿を見るのは、本当に久しぶりです」

 とお礼の嵐。


「そんな、お礼なんて。元気になられて良かったです」

 転生前に殺人鬼だった私が言うのは滑稽に聞こえるかも知れないけど、本当に彼を救えて良かったと思う。



 朝食は、まあ……普通……以下かも……。

 昨夜の感じから考えて、こんなもんでしょ。

 でも、これは私自身の問題だと思っている。


 例えば、日本人が海外に行って本場のモノを食べて本気で美味しいって思えるかって言うと必ずしもそうじゃないでしょ?

 それと同じで、こっちの世界の人の味付けに私が慣れていないだけなんだろうね。

 だって、イリヤ王子は普通に美味しいって言いながらバクバク食べているもんね。


 お昼は自分の分は自分で作ろう。

 調味料だけは私に合ったものを特例魔法で出させてもらえるしね。



 朝食を済ますと、後片付けと食器洗いをナタリアさんに任せて、私はフランチェスカさんと一緒に医療活動の受付準備を始めた。

 って言っても、『受付はこちら』の看板を出すとか、診察室を簡単に掃除するとか、大した作業は無かったけどね。

 イリヤ王子には、こう言った雑用をやらせるわけには行かないから、一先ず離れの病棟(?)でゆっくりしていてもらった。



 そして、9時から受付開始。

 記念すべき私の一般外来初日。

 受付はフランチェスカさんが担当して、私が患者を診る。


 どんなもんかなって思っていたけど、まあ、チラホラと人が来た。

 今は夏なので、風邪とかインフルエンザとかの患者はいなかった。午前中は、かぶれ、湿疹、汗疹(あせも)、水虫などの皮膚病患者ばかりだった。



 患者は全部で十人。

 予めフランチェスカさんから、

『今日はゲオルギー導師が不在なのを知っている人も多いから、患者は少ないだろうね』

 って言われていたけどね。


 いつもは、この三倍以上は来るって。

 でも、これくらいの疾患が相手なら、治療にかかる時間はマジで一瞬だもんね。

 思っていた以上に、今日は暇になってしまった。



 これら皮膚疾患の治療代は、一人当たり百Zen程度。勿論、私は既に教会の一員になったから、これらは全部、教会の収入になる。

 そこから、改めて私に給料が支払われるけど、だいたい、治療費の半分くらいが私の給料になるらしい。

 出来高制ってヤツだね。


 食費三食分と宿代は合わせて一か月三千Zenを徴収される。

 まあ、昨日の稼ぎがあるから三千Zenくらいは問題ないけどね。



 そうそう。ウィルキンソン子爵親子の治療費は、まだ私が教会の一員になるって話をする前のことだったから、あの八千Zenは、全部私のモノだけど、イリヤ王子の治療費ってどうなるんだろ?


 多分、この教会で働くって約束した後の話だからね。教会の収入だね。

 フランチェスカさんも内心ウハウハだろうね。

 別に私は、自分の衣食住が最低限満たされれば、それだけでイイけどね。



 それから、イリヤ王子と言えば、健康体に戻ったら、すっかり暇を持て余しちゃって、離れの病棟から私のところまできて、色々とちょっかいを出してきたよ。

 正直、邪魔なんだけど。

 でも、暇な時間の方が長かったし、まあ、イイかな。



 昼ちょっと前に、メアリ夫妻が、わざわざ二人で教会に来てくれた。

 私に改めてお礼がしたいってことでね。


「メアリさん、こんにちは」

「こんにちは。あなた、この子がラヤちゃんよ」

「君がラヤさんか。想像していたより若くてびっくりしたよ。頭痛も完全に消えたし、身体も楽になった感じがする。ありがとう」


 メアリさんの御亭主は、私が未成年だったことに相当驚いていたっぽい。

 元男だって知ったら、もっと驚くだろうな。


「また、何かあったら教会におりますのでいらしてください」

「そうさせてもらうよ」


 ちなみに、この世界の成人は18歳ね。なので、私は未成年労働者ってことになる。

 まあ、治癒魔法使いに成年も未成年も関係ないんだろうけどね。



 昼食は、私とナタリアさんで作った。

 フランチェスカさんは、私を教会で正式に雇うために、町に提出する書類があるとかで、この昼の空き時間に役所へと出かけた。導師の雇用に関する書類とか言っていたから、多分、この世界特有のモノだと思うんだけどね。

 午後の診察が2時からなので、それまでには戻るとのこと。


 それから、私の住民登録もフランチェスカさんが代理でしてきてくれることになった。

 本当は、私の住民登録なんだから私がするべきだと思うけど、役所に行くついでにってことで。

 私が何処から来た人間かを証明する書類がないから適当に内容をでっち上げるんだろうけどね。


 もっとも、この世界では流浪の民が勝手に街に居ついたりするし、何処から来たかの証明になる書類の発行なんて考えが、まだ無いみたいだから、住民登録の書類自体も地球に比べれば、かなりイイカゲンなモノなんじゃないかって推察する。



 そして、昼食の方だけど、王子様は…………味見担当かな?

 ただ、ナタリアさんが作った方に対しては、

「美味しいですよ!」

 って言っていたけど、私の料理を口にすると、

「うーん……」

 イリヤ王子は顔をしかめていた。


 調味料だけは特例魔法で出せるようにしてもらえたからね。その中から、特例中の特例でカレー粉(日本メーカー製)が出せたんでカレーにしてみたんだけど……。

 ライスが無いからカレー&パンね!


 でも、こっちの世界じゃカレーすらダメなんだ。

 先ず見た目がアウト。下品な意味でね。専門店の皆様方にはムチャクチャ大変失礼な話だけどさ。


 一応、イリヤ王子は、私が作ったモノだからってムリムリ食べてくれたけど、味も口に合わないって言われた。


 まさかカレーが否定されるとは……。

 日本メーカー製のカレーだよ! 日本人なら間違いなく無難に誰もが美味しく食べられるはずのモノなのにぃ!



 やっぱり、地球の味覚とこっちの味覚じゃ全然違うってことだろうね。地球とは全然食文化が違うだろうし、これは仕方が無いんだろうなぁ。

 私が、こっちの食文化に慣れて行かないとだね。キツそうだなぁ。


 そう言う意味では、ノーソラム共和国の食べ物は私の舌に良く合っていたってことだね。

 たまたまなんだろうけど。



 お昼過ぎに、お城からイリヤ王子の様子を見に、使いの人達が来た。

 勿論、その中には転移魔法使いが一人いて、お城からここまで直行ね。


 ちなみに転移魔法使いは女性で、年齢は、多分フランチェスカさんと同じくらい。

 つまり、アラサーっぽいってこと。


 使いの人達は、

「王子。全快なされたのですか?」

 って言いながらムチャクチャ驚いていたよ。


「さすがゲオルギー導師ですね。ところで、ゲオルギー導師は?」

 と使いの一人に言われて、王子は、

「いや。治したのはゲオルギー導師じゃない、彼女だ」

 と言って私を使いの人達に紹介した。さすがに彼らも、

「えぇぇっ!?」

 こんな小娘が治したって言われて再び驚いていたよ。


「まさか、こんな娘に?」

「では何か? 僕が嘘をついているとでも言うのか?」

「いいえ、そのようなわけでは……」

「彼女が僕を治したのはナタリアも見ている」

「それで、ゲオルギー導師は、どちらにいらっしゃるのでしょうか?」

「導師は僕を治療できる人材を紹介していただくために教皇のところまで行っている」

「では、この娘が教皇様からの紹介で?」

「いや、ゲオルギー導師は、まだ戻ってきていない。彼女は、僕を治すために女神様から遣わされた最上級の治癒魔法使いだ。失礼の無いように」

「分かりましたぁ……」


 うーん。ここまで持ち上げられると、さすがに私も全身がむず痒くなってくるよ。

 ただ、使いの人達に対するイリヤ王子の口調は、私と話す時と比べて少し横柄っぽく感じたな。やっぱり、王子様としての威厳を保たなきゃならないからかな?

 多分、そうなんだろうね。



 使いの一人が、

「では、イリヤ王子は、私共と一緒に戻られるのですね?」

 って王子に聞いた。


 そりゃあそうだよね。

 もう治ったんだから、ここには用無しのはずだもん。

 でも、イリヤ王子は、そう考えていなかったみたい。


「一応、ゲオルギー導師が戻ってきてからにするよ。僕のために教皇のところまで出向いてくれているんだ。その礼を言ってから帰るとする」


 礼儀正しいんだね。

 やっぱり中身もイケメンだよ!


「なので、エレーナ」

「はい!」

「みんなを一旦、城まで連れて帰って、また、ここに来てくれ」

「分かりました」


 転移魔法使いは、エレーナさんって言うのね。覚えておこう。

 そのうち、世界中を治療して回る際に、その力を借りるかも知れないからね。イリヤ王子に貸しを作ることになるけど……。


 それでイリヤ王子から、

『貸しは返してもらうよ!』

 って言われて迫られて……なんて少女漫画的展開が……それどころかTLコミックみたいな……って、完全に頭の中がバカになっているな、私。

 とんでもない妄想をしているよ。


 あっ!

 そう言えば、私、既にイリヤ王子から求婚されているんだった。

 まだ現国王陛下の許可が得られていないから、どうなるかは分からないし、その求婚を受け入れるべきかどうかも分からないけど、地球にいた頃よりはずっと幸福を感じられる。

 転生して、きっと良かったんだよね?



 一先ず、使いの方々は、エレーナさんに連れられてお城に引き上げて行った。王子様命令だからね。

 侍女のナタリアさんだけは残ったけど。まあ、イリヤ王子のお世話係ってところなんだろうね。



 それから少ししてフランチェスカさんが戻ってきた。

「ラヤちゃん。手続きは出来たから」

「はい。ありがとうございます。それで実は、フランチェスカさんがいない間に、お城から使いの方々が来まして……」


 一応、私とナタリアさんで、フランチェスカさんが不在時にあったことを報告した。

 この教会の真の責任者はフランチェスカさんだからね。知らせておくべきだって思ったんだよ。


 その直後、エレーナさんが教会に戻ってきた。

 お城がある王都レダクタまで二百キロくらい。それを簡単に行き来できるんだから、転移魔法って、やっぱりすごい能力だと思う。


 …

 …

 …


 2時になった。午後の診察開始!

 チラホラと患者は来てくれたけど、やっぱりゲオルギー導師が不在って、みんな結構知っているんだろうね。

 午後はたったの五人しか患者が来なかったよ。



 特に重症者も無し。ちょっとした怪我とか虫刺されとかで来た人だけだった。

 ちなみに怪我の治療代は、一人5Zen程度と凄く安い。これは、仕事で怪我をする場合もあるかららしいんだけどね。


 もし、怪我の治療代が高いと、怪我を治さずに作業を続けて、結果的に作業効率が下がってしまうことも起こり得る。

 それを回避するために怪我の治療費だけは安くしているってところらしい。


 いずれにしても、今日の午後の患者さんは、ムリに治癒魔法に頼るレベルでもない人ばかりって感じだった気がする。

 むしろ5Zenですら取ってイイのか微妙って思ったよ。



 この日だけで患者は十五人。

 昨日と合わせて私のステータス画面中の表記が20/10,000に変わった。道のりは長いけど、これなら数年で何とかなるかな?



 それにしても、かつて殺人鬼だった私が人を救う仕事をするなんてね。

 前世では、あれだけたくさんの人を殺して……。

 今から思うと、あの時の私は、本当にどうかしていたんだなぁ。



 たしかに私が殺人鬼に変わったのには、堕天使ラフレシア様が一枚絡んでいる。

 ラフレシア様に、そそのかされたのは事実だもんね。まさに悪魔の囁きだった。


 でも、私はラフレシア様のことを恨んでなんかいないよ。

 本来、この姿を与えてくれたのはラフレシア様だし、むしろ感謝している。


 もっとも、あのまま地球でストレスを抱え続けて生きていたら、どのみち私は、耐え切れずに狂ってしまって人を殺していたかも知れないしね。


 それから勘違いしちゃいけないのは、そもそも殺人鬼になることを決断したのは私だってこと。

 なので、悪いのは自分。


 あと、私を、あそこまで追い詰めた人達の存在が問題だったわけだもんね。

 だから悪いのはラフレシア様じゃなくて私自身と、地球時代に私の周りにいたヤツラだよ。



 それに、あの頃の精神的負荷から解放されて、むしろ今の方がスッキリしているし、その第一歩を与えてくれたのは間違いなくラフレシア様だと思っているからね。


 つまり、今の幸福な人生の全ての起点はラフレシア様による召還。だから、私はラフレシア様を恨んでなんかいないんだ。


 人生のやり直しの機会を与えてくださったリニフローラ様にも、今の人生を送る最初のきっかけを与えてくださったラフレシア様にも、どっちも感謝しているってことだよ!

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