70.惑星ラヤ?
生物誕生の場所のことは、色々と議論があるようですが、ココでは汽水域説で話を進めさせていただきます。
「女神様に確認しましたら、このスイッチを押しながら言葉で指令すれば良いってことでしたので」
「そうだったの?」
「はい」
「でも、それが本当なら、もう脳内チップは永久に機能しないってことか?」
「そうなります」
「じゃあ、このことを急いで全世界に放送しよう。それで、全員で決起して、貴族達を一斉に捕えるんだ。平等な世界を作るために」
「でも、どうやって放送するんですか?」
「たしか、ステガの部屋から世界各所の屋外大型ビジョンに繋がるはずなんだ」
「そのカメラとマイクを使えばイイんでしょうか?」
「多分」
「でも、一応、確認しますね」
私は、さっきと同様にチャットボット機能に問い合わせた。
これが最も確実で早い。
『Q:これが世界各所の屋外大型ビジョンに繋がる放送システムですか?』
『A:そうです』
『Q:スイッチは?』
『A:机の下』
よし。
確約取れた!
「女神様からは、それで間違いないと回答が来ました」
「そうなのか?」
「はい。あと、スイッチは机の下だそうです」
「了解。でも、マジで便利な女だな」
なんか、その表現はちょっと……って思ったんだけど、研究者だもんね。
多分、コミュニケーション能力が少しズレているだけだよね?
研究者が、放送システムを起動した。
そして、簡単なマイクテストを行った後、マイクに向かって話し始めた。
「奴隷諸君に次ぐ。救世主の手によってステガは打ち取られた。もう、ステガは、この世にいない。それから脳内チップには、遠隔操作システムを使って未来永劫機能を停止するよう指令を送った。なので、もう脳内チップからの罰を恐れる必要は無くなった。今こそ絶対王政も身分制度も廃止し、俺達の手で、この世界を変えて行くんだ。既に王族は捕えた。貴族達も、俺達の手で全員逃がさずに捕えるんだ!」
彼がこう言った直後、城外から私のところまで歓喜溢れる声が聞こえて来た。
城の真ん中にいても聞こえるくらい、奴隷達は自由になれたことを喜びながら大声を上げていたんだ。
その後、一時間もしないうちに、貴族達は全員捕らえられた。
そりゃあ、貴族が千人で奴隷達が五十億人だもんね。
人海戦術で来られたら、ひと溜りも無いよ。
…
…
…
ここから先は、私の出る幕じゃない。
この世界の人達が決めて行くことだ。
先ず、王族貴族達だけど、全員死刑にすることが決まった。
明日から順に刑を執行して行くらしい。
それから、脳内チップは念のため全員の頭の中から取り出すことになった。
脳内チップを無傷で埋め込む技術があるわけだからね。
その逆も、この世界の人達の手で出来るようだ。
よって、私の力を使う必要は無いらしい。
これで、もう、この星での私の使命は終わったはず。
なので、
「では私は、この辺で」
私は、そう言いながら軽く頭を下げて、その場を立ち去ろうとした。
すると、
「ちょっと待ってください」
奴隷兵士A……いや、今では兵士Aか。彼が私を呼び留めた。
「ラヤさんには、色々お世話になりました。本当に感謝しております。それで、これからもこの星で、私達と一緒に生きて行っていただければと思っているのですが」
「でも、私も自分の世界に帰らないといけないので」
「帰るって、どうやって?」
「ええと、宇宙艇を……」
と言ったところで、突然、私の周りの風景が何もない真っ白な空間に変わった。
私は兵士Aに、
『宇宙艇を一隻貸して欲しい』
って言おうと思っていたんだけどね。
どうやら私は、この空間に強制的に瞬間移動させられたっぽい。
ただ、こんなことが出来るのは女神様しかいなよね?
私は私で驚いたけど、多分、私よりも兵士A達の方が驚いただろうなぁ。突然、人間が一人、目の前から消えたんだもんね。
私の目の前に光に球体が降りて来た。
もの凄く神々しいエネルギーに満ちた光球だよ。
「リニフローラ様ですか?」
「いいえ。私の名はラメラータ。アナタが生まれた星、地球を含む世界を統べる者」
「えっ?」
「リニフローラに代わって、デボニアン世界の奴隷達を開放してくれたことに礼を言います。それから、リニフローラからアナタを今だけ借りました。理由は二つ。一つ目は、アナタが、アナタの両親や同級生達のことが気にならないかを確認するためです」
そりゃあ、気に入らない人達だったけど、気にならないって言ったら噓になる。
何も言わずに出て行ったからね。
突然、私の目の前にテレビモニターの様なモノが現れた。
そこに映し出されていたのは、私の地球時代の両親だった。
しかも仏壇の前で両手を合わせているよ。
「金之助が行方不明になってから既に八年か。生きているのか死んでいるのか……。もう、半ば諦めているが……」
一応、私みたいな息子でも、心配してくれているみたいだね。
でもゴメンね。
ここで生きているけど、本当は既に死んでいるんだよ。今の私は、リニフローラ様の手によって生まれ変わった存在だからね。
性別も変わっているし。
画面の映像が飛んだ。
今度は、私をイジメていたヤツ等の姿が映し出された。
コイツ等には恨みしかなかったはずだけど、なんだか、妙に懐かしく感じる。
絶対に会いたくないって思っていたヤツラなのに。
「ラメラータ様。両親や同級生達の姿を見せていただき有難うございました」
「どうです? 地球に寄りますか?」
「その場合、私の身体は元の姿に戻されるのでしょうか?」
「その時だけ戻ります」
「なら、やめておきます。多分、両親は私が戻って来ないだろうと、半ば諦めていると思います。でも、そこに私が過去の姿で現れて、その後、また異世界に旅立ったら、同じ悲しみを繰り返させることになるでしょう。多分、会わないでいた方が両親にとって幸せだと思います」
「そうですか。分かりました」
多分、両親や同級生達に会えるチャンスを与えてくださったのは、私が今まで色々な世界で女神様達の依頼を達成してきたことへのお礼のつもりだったんだろう。
その気持ちだけ受け取っておくよ。
「気を使っていただき有難うございます」
「この世界に一瞬とは言え戻って来られたのですから、折角ならと思ってこちらで勝手にやったことです。それからですね。実は、ラヤに一つお願いがあります。これが本題になります」
「なんでしょう?」
「地球から百億光年離れたところに、プレカンブリアンと呼ばれる世界……誕生して十億年くらいの惑星があります。その惑星の海に入っていただきたいのです」
「何故、またそんな?」
「その惑星は地球に似た条件を持っているのですが、原生生物のうち、まだ真正細菌が存在しておりません。それで、ラヤの表皮常在菌を海に放って欲しいのです」
「つまり、惑星外から細菌を海に投入すると言うことですね?」
「そうです。海……厳密には汽水域に浸かってもらうだけです」
つまり、私の表皮常在菌が多細胞生物まで進化して行くってことか。
ある意味、その生命体達は、私の子供達になるってことかな?
なんか複雑な気分。
「私なんかでイイのですか?」
「是非お願いします。宇宙線を浴びないように身体には自動的にバリヤーを張れるようにしますので」
「でも、本当に私の身体に付いている細菌から人類まで進化するんですか?」
「生命さえ投入できれば、後はこちらで何とかしますので」
「分かりました」
女神様の依頼だからね。基本的に断れないよ。
仕方が無い。私の表皮常在菌達よ、今後、プレカンブリアン世界に出現する全ての生命体の元になってくれ!
突然、周りの景色が変わった。
私は、いつの間にか見知らぬ海岸付近に立っていたよ。
この地に瞬間移動させられたってことだね。
まだ生命が誕生していない星。
つまり、植物も生えていない。
なので、地上部は赤茶けた土で覆われていた。
私が降り立ったところは深く入り込んだ湾の内側だった。
そこには、河口部から淡水が注ぎ込まれていて、たしかに汽水域と思われる。
ただ、見た感じ浅瀬なんだけど、思ったよりも高い波が打ち寄せて来ていた。
空に輝く衛星が、月よりも二倍近い大きさに見えた。
多分、ムチャクチャ近い位置にあるんだろう。
だから、衛星の引力の影響で、浅瀬なのにイメージしていたよりも波が高いんだと思う。
私は、早速、服を脱ぎ捨てると、海に浸かった。
そして、身体のアチコチを手で擦りながら十数えると急いで海から上がった。
水は冷たいし、それに、このまま海の中にいたら波にさらわれそうって思ったんだ。
「出ろ!」
私は、物質創製魔法でタオルを出すと身体を拭い、急いで服を着た。別に誰かに覗かれているって訳じゃないだろうけどね。
ラメラータ様の声が、私の頭の中に響いて来た。
「これで、この星にも生命体がもたらされました。放たれた菌が、この環境に慣れるよう進化し、さらにそこから長い年月をかけて人類誕生へと導かれるでしょう」
改めて人類誕生までって言われると、正直、恥ずかしいかな。
元が私の表皮常在菌だからね。
でも、この海に大きい方を失禁して、汚物……と言うか腸内細菌から人類が誕生するよりはマシか。
それは、さすがに想像したくないもんね。
「この星のことを、今後、惑星ラヤと呼ぶことにします」
「そんな、恐れ多いですよ、ラメラータ様」
「しかし、アナタがこの星に誕生する人類の元となったのです。これは義務と受け止めてください」
「でも、照れくさいんですけど」
「そこは開き直ってください。続いてアナタには、アナタが最も気になっている世界に飛んでいただきます」
そうラメラータ様に言われた直後、私は再び真っ白な空間に戻っていた。
多分、女神様が、いらっしゃる場所だろう。
少しして、またもや私の目の前に光の球体が降りて来た。
この感じは覚えている。
「アクアティカ様ですか?」
「良く分かりましたね。この映像を御覧なさい」
私の目の前にテレビモニターの様なモノが現れた。
ちなみにアクアティカ様は、トモティ世界を統べる女神様ね。
そのモニターには、オリガ導師やフランチェスカさんの姿が映し出されていた。
相変わらず二人とも忙しそうだ。
「トモティ世界に寄ってみたいですか?」
「本音を言いますと寄りたいです。でも、やめておきます」
「どうしてです?」
「会ったら別れが辛くなるからです。でも二人の元気な姿を見られて嬉しいです。ところで、レイラは無事、イリヤ王子を口説き落とせたでしょうか?」
「レイラはアナトリー王子に嫁ぎました」
なんで?
絶対にレイラがイリヤ王子目掛けて突撃して行くって思っていたのに。
「えっ? イリヤ王子は?」
「彼は五年ちょっと前に本人の希望もあり、別の空間に旅立ちました」
「私みたいにですか?」
「そうです」
「何処の世界に行ったのでしょう?」
「今は教えられません。しかし、いずれ知る時が来るかも知れません」
この言い方って……。
多分、約束はしないけど、そのうち教えてくれるって意味かな?
そう期待しよう。
「そうですか。イリヤ王子は元気でやっていますか?」
「それは、ラヤ次第です」
「なんだか、意味が良く分からないんですけど?」
「いずれ分かる時が来るでしょう。それと、ラヤを私のところに呼んだのは、オルドビスの世界に転生させた少女に協力してもらえないかを確認するためです」
「そこって、どんな世界なんですか?」
「実は、オルドビス世界では、全てを麻雀の勝敗で決めるルールになっています」
「なんなんですか? その世界は?」
「ですから、そこは麻雀が法律の世界です。トラブルが起きた場合でも、全て麻雀勝負で解決することになります。戦争ですら、最終的には麻雀に置き換えられます」
何だか、とんでもない世界だな。
絶対に関わりたくないよ!
「済みません。実は、私は麻雀をやったことが無いんです。一応、ルールは知っていますけど、麻雀ゲームすらやったことがありませんので」
「そうですか。残念です。では、また何か依頼事項が発生した時にはお願いします。それでは、一旦、ブルバレン世界に戻します」
そうアクアティカ様に言われた直後、突然、私の目の前が真っ暗になった。
再び女神様の転移魔法が発動したんだ。
古細菌に近い生物の中に、真正細菌に属するプロテオバクテリアの一種が入り込んでミトコンドリアとして細胞共生したものが真核生物の祖先になったとか言われているようです。




