68.やっと余計なモノが体外排出されたよ!
完全に日が暮れて、外は真っ暗になった。
そろそろお腹がすいたな……なんて私が思っていた頃だ。
「ステガ様がお呼びです」
「……」
私は、奴隷兵士に連れられてターンテーブルの置かれた部屋へと連れて来られた。
脳内チップのこともあるし、私は何も考えたくなかったからね。何も言わずに、その兵士に従って黙って付いて来たよ。
その部屋の中では、エネルギーに満ち溢れた感じの中年男性が、先にテーブルに付いていた。
多分、私を待っていたんだろう。
ステータス画面チェックをすると、彼がこの惑星の最高位、帝王ステガだった。
年齢は五十代前半。
眼光は鋭く、まとう雰囲気からは、全然、年を感じさせない。
これだけのパワーに満ち溢れていないと最高位には立てないってことだろうね。
「一緒に夕食をと思ってな。座りたまえ」
「は……はい……」
「私は、このデボニアン星の帝王ステガ。君の名は?」
「ラヤと言います」
「何処から来た?」
「遠いところです。ブルバレンと呼ばれる世界から来ました。ただ、そこで私は戦いに敗れたんです」
ええと……。一応、嘘は吐いていないからね。
この宇宙に限って言えば、私はブルバレン世界を出発して来たのは事実だし、もう八年も前になるけど、ブルバレン世界で私がアキ達に負けたのも事実だもん。
「それで逃げて来たってことか」
「ステガ様が助けてくださったのですか?」
「私は指示を出したまでだ。ただ、完全生身の人間だから助けたと言うのはある」
「生身じゃなきゃダメなんですか?」
「この星のみならず、全宇宙を通じで私には敵が多くてね。人工物で置き換えられた部分がある場合は、例えば、そこが爆弾になっている可能性もあるだろ?」
「たしかに、そうですね」
「なので、それが私を殺すために送り込んで来た刺客と言うことも考え得る。勿論、完全に生身の部分が無い者など論外だ。それで、完全な生身でなければ助けなかったと言うことだ。それから、もし君が男だったら助けなかったかも知れないな。女性でもアラサーならスルーしたかも知れん」
つまり、フユミもアキも、アキの仲間でドラゴン級の人……ミチルって言ってたな、この三人だと、ここまで連れて来てもらえないってことか。
フユミは身体がアラサー……精神年齢は五十五過ぎだけど。
それから、アキは生身の人間じゃないし、ミチルは男性ってことでね。
そのまま宇宙を漂流し続けることを余儀なくされるか、殺されるかのどちらかってとこだろう。
それで、リニフローラ様は、私を単身で行かせることにしたんだ。
料理が運ばれて来た。
どうやら、フルコースメニューになっているっぽい。一応、私を、もてなそうとしてくれているんだろう。
とにかく私は、今だけは何も考えないことにした。
前にも言ったけど、本来の目的のこととか女神様のことを考えたら、全身に激痛が走りそうな気がしてね。
脳内チップが間違いなく発動するよ。
この日は、美味しい食事をいただけたけど、ステガからデボニアン世界に関する話は全然聞かせてもらえなかった。
何かの情報になるかと少しは期待した部分もあったんだけど、まだ私のことを信用しているわけじゃないだろうからね。
逆に、私が今まで何をしてきたのかについて色々聞かれたよ。
脳内チップのお陰で嘘はつけないから、真実を話すしかないんだけど、当然、話す内容は選択したよ。
一先ず、治癒魔法使いとしての活躍を中心に話をしたんだけどね。
食事時で悪かったけど、血なまぐさい話も多かったよ。
でも、全然ステガは動じていなかったけどね。
それから、ハンターの話とか首ちょんぱ魔法の話は敢えてしなかった。
その話を口にしたら間違いなく警戒されるからね。
そう言えば、やっぱり食事がマズかったのって、結果的にトモティ世界だけだよね、今のところ。
バージェス世界でも最初はマズいって思ったけど、闇龍支配から解放されたら元に戻ったもんね。
食事の後、私は元の部屋に戻された。
ただ、勝手に出歩けないように外からカギがかけられた。まあ、室内にバス・トイレが設置されているから別にイイけどね。
この後、私は、シャワーを浴びてからベッドの上で横になった。
ただ、夕方まで眠りっぱなしだったから、眠れないんじゃないかなって思っていたんだけど、意外とすんなり眠りにつけた。
多分、まだ宇宙艇の中で嗅がされた薬が効いているのかも知れない。
翌朝、私が目覚めた時には、かなりお日様が高くなっていた。
普通で言ったらお寝坊さんだね。
私は、朝が決して弱い方じゃないんだけど。
やっぱり、薬のせいだと思う。
それと時差ボケ。
この二つの要素が悪い方に相乗作用を引き起こしたんだろう。
一先ず起きたけど、そのまま私はベッドの上で横になっていた。
女神リニフローラ様からの要望にどう応えるかについても考えていなかった。
とにかく異物の体外除去が出来るようになるまで、私は、極力ボーっとしていた。
あと、昼食は部屋にサンドウィッチがデリバリーされた。
結構おいしかったよ!
そして夕方。
私が昨日、目覚めたのと丁度同じ時刻になった時だ。一瞬だけど、私の身体がうっすらと光った。
その直後、私の目の前には、訳の分からない金属製のチップが置かれていた。
つまり、ようやく私の体内から私の身体に害をなすものを自動除去する機能が復活したってことだね!
これで病気にもならない。
毒にも侵されない。
便利な身体に戻ったってことだ。
多分、この金属製チップが私の脳内に埋め込まれていたヤツだけど、念のため、私はステータス画面を開いてチャットボット機能を立ち上げた。
『Q:この金属製のチップが私の脳内に埋め込まれていたモノ?』
『A:その通り』
『Q:GPS機能付きとのことだったけど、会話も拾う?』
『A:マイク機能が無いため会話を拾うことは無い』
『Q:奴隷達のも同じ仕様?』
『A:同一仕様』
ってことは、この金属チップの前で反ステガに繋がる話をしても大丈夫と言うことだ。
一先ず、私は、そのチップを胸ポケットに入れた。
それから少しして、
「夕食の用意が出来ました」
一人の奴隷兵が私の部屋に入ってきた。
多分、ステガから私を呼んで来るように言われたんだろう。
手始めに、この奴隷兵から行くか。
「ちょっとイイですか?」
「何でしょう?」
「そこで、動かないで、ジッとしていてください」
私は、その奴隷兵の額に右手を伸ばし、拳を握った。
そして、
「物質転送!」
私は、彼の脳内に埋め込まれたチップを私の右拳の中に瞬間移動させると、その拳を開いて彼に金属チップを見せた。
「私の魔法で、脳内チップを取り出しました。これが、今までアナタに埋め込まれていたモノです」
「えっ? そんなことが出来るんですか?」
「物質転送魔法で」
「そんな魔法があるんですか?」
「ありますけど、ちなみに、この世界では、どんな魔法がありますか?」
「火炎球を出すとか、氷の矢を放つとか、それくらいです」
「攻撃系の魔法ってことですね?」
「そう言うことになるのでしょうか?」
「それから、魔法を使える人の割合はどれくらいでしょう?」
「1%にも満たないと思います」
「そうなんだ。でも、これで脳内チップに怯える心配はありません。試しに、軽くステガの悪口でも考えてもらえますか?」
「じゃあ、奴隷から解放されたい……」
彼は、小さな声で呟くように言った。
万が一、その言葉をキャッチされたら困るとでも思っているんだろう。
「どうです?」
「痛みはありません」
「それでですね。他のみなさんからもチップを取り出したいと思っています。なので、私の夕食が終わった頃を見計らって、一緒に行動を起こしてくださる奴隷兵を一か所に集めて欲しんです」
「分かりました。取り敢えず百人くらいでイイですか?」
「そうですね。余り多いとバレるリスクもありますので、一先ずは、それくらいがイイでしょう。それと、このチップはマイク機能こそありませんが、GPS機能は付いています。ですので、一先ずポケットにでも入れておいてください。アナタがいる場所とGPS機能でキャッチされた場所が違っているとマズイと思いますので」
「了承しました。では、一つ下の階のフロアに集めます。それにしても、アナタ様は、いったい?」
「女神リニフローラ様の依頼で異世界から来た者です」
「リニフローラ様が?」
「はい。この世界を修復するためにです」
一応、女神様の存在は信じられているようだ。
厳しい奴隷生活をさせられているから、
『神も仏も無い』
って女神様の存在を否定している可能性もあるんじゃないかなって思っていたけど……。
むしろ、逆に虐げられているから、女神様にすがりたいって思うのかもね。
「食事中に、私がステガを倒します。でも、それだけでは、今いる貴族の中から第二のステガが誕生するだけじゃないかと思います。ですので、そうなる前にみなさんでクーデターを起こして欲しいんです」
「クーデターを?」
「そうです。この城を占拠します。そのために行動してくださる仲間が必要と言うことです。あと、占拠した後に、他の奴隷達も順に、この城に連れてきてください。金属チップを全員から取り除きます」
「了解しました」
「では、一旦、食事の場所に案内してください」
「はい。では、こちらに」
この時、その奴隷兵の目は、生きる希望をすべて失った、いわゆる『死んだ目』から希望に満ち溢れる『生きた目』に変わっていた。
今までとは打って変わって、表情全体が明るくなっていたよ。
私は、昨日と同じ会食の場所に通された。
その場に居るのはステガのみ。間違いなくチャンスだ。
ここで私は、勝負に出る。
ただ、その前にステガについて確認しておかなければならないことがあるんだけどね。
昨日は、下手に動いて、脳内チップから罰則が発動すると面倒なので、何もしなかったけど、ステガの身体がどうなっているのかを確認しないと。
早速、私はステガのステータス画面を覗き見した。
そして、その備考欄に描かれていたのは、
『首の付け根から上と生殖器官のみ生身で、他は全て機械の身体』
とのこと。
脳みそ以外の全てが機械とか、脳みそまで機械……つまり全て機械ってレベルの一歩手前まで改造されているってことか。
一先ず、私は何食わぬ顔で昨日と同じ席に腰を下ろした。
ただ、ステガは妙に怪訝な表情を私に見せていた。
「脳内チップの信号が、貴様の頭部からではなく胸……いや、胸のポケットから感じるが、それは、いったい、どういうことだ?」
あれっ?
脳内チップを取り出したことがバレてるよ。
まあ、素直に言うか。
「私の身体は、病原体となる菌、ウイルス、寄生虫は勿論、私に害をなす毒物や異物も体外排出される特別な魔法がかけられているんです」
「魔法だと?」
「はい。女神リニフローラ様がお与えくださったのです」
「女神?」
ステガの視線が、ムチャクチャキツイ。
完全に敵認定した目だよ。
もし、ラフレシア様が仰っていた通り、この世界が堕天使マンドラゴラによって支配されているんだったら、間違いなくステガは堕天使側の救世主。
完全に女神様の敵だもんね。
ステガは、銃を手にすると、それを私の方に向けて来た。




