50.生活基盤は出来たと思う!
翌朝、私は約束の十時には余裕で間に合うつもりで、八時にはホテルをチェックアウトして現地に向かった。
九時半前には家に着いたんだけど、既に役所の方らしき男性が私の家の前にいた。
結構待たせちゃったかな?
その人の横には馬が一頭。
ワザワザ馬で来たのか。
「お役所の方ですか?」
「はい」
まさか、お役所仕事なのに、予定時刻の三十分以上前に来てスタンバっているとはね。
ちょっと想定外だったよ。
マジで、対応ハヤッて思った。
「アナタがラヤさんですね?」
「そうです」
「地図を見て来ましたが、この大きな家で間違いないでしょうか?」
「はい」
「でも、パッと見たところ三百平方メートルくらいありません?」
「そうですね」
「千五百万Venくらいかかりますけど、大丈夫ですか?」
「それは大丈夫です」
「そ……そうですか。この柵の中だけでよろしいですね?」
「はい」
「では、査定を開始します」
「お願いします」
さすがに、こんな小娘が千五百万Venも出せるって思っていないだろうなぁ。
ちょっと怪訝な表情をしていたよ。
でも、仕事だからね。
一応、魔法で計測してくれているみたい。
右手を水平に上げて、私の家の方に向けると、目を閉じてブツブツ言い出したよ。
こう言った魔法は初めて見る。
それから五分くらいして、役所の人が目を開いた。
どうやら、査定が終わったっぽい。
「三百十二平方メートルですね。小数点以下は繰り上げになります。ですので、登録料は千五百六十Venになります。では、査定証明書と登録用書類を渡しますので、これを持って役所の方で手続きしてください。それから手続き費用として一万Venが別途かかりますので、合計千五百六十一万Venをご用意ください」
そして、カバンの中から書類を出すと何やらペンで記入して、それを私に差し出した。
これが必要な書類だね。
なので、私は、それを受け取ると、急いでアイテムボックスに収納した。
「ありがとうございます」
「収納魔法も使えるんですね」
「ええ、まあ」
「では、私はこれで」
そう言うと、その男性は、馬にまたがって町の中央の方に向けて去って行った。
まあ、他の仕事もあるんだろう。
それはそうと、早く自分の家に住みたいからね。
私は、急いで役所へと向かった。
役所に着いたのは十時半過ぎ。
そこで私は、いつものサービスカウンターに足を運んだ。
多分、ラッキーだね。今日も前回対応してくれた女性の方がいたよ。
「済みません」
「先日の方ですね」
「査定が終わりましたので、受け取った書類を持ってきました」
「では、書類内容を確認しますので、ご提出ください」
「はい」
私は、アイテムボックスから査定証明書と登録用書類を出して、その女性に渡した。
すると、その女性は、目を丸くして驚いていたよ。
「こんな広いんですか?」
「はい」
「こんな大金、支払えますか?」
「大丈夫です」
「わ……分かりました。では、ご案内しますので、こちらに」
その女性は、カウンターから出てくると私を奥の部屋へと連れて行った。
すると、そこには、さっき査定してくれた男性がいたよ。
だったら、一緒に連れて来てくれても良かったのに!
彼は、私の方を見ると驚きの表情を見せていた。
「もう、お金の用意が出来たんですか?」
「はい」
「大抵ですと、お金の準備に数日かかるものですが。では、さっきの書類と登録料、手続き費用をこのテーブルの上にお出しください」
「分かりました」
私は、アイテムボックスから書類と千五百六十一万Venを出してテーブルの上に置いた。
これを見て、受付の女性は、
「収納魔法が使えるんですか?」
って驚いていたけどね。
それから、書類の方には、日付とサインを入れるところがあった。
私は、その場で、それらを記入すると、査定してくれた男性に提出した。
「では、お願いします」
「その年齢で、本当に支払えるとは思っていませんでしたよ。では、こちらが手続き完了の証明書になります」
「ありがとうございます」
私は、証明書を受け取ると、それをアイテムボックスに収納した。
とにかく、重要なモノは、すぐにアイテムボックスにしまう。これが無難だね。
何はともあれ、これで手続き終了!
と言うことで私は、急いで自分の家に向かった。
一時間くらいかかったけど、家に到着。
家に着いて、先ずやるべきことは、家具を揃えたり着替えを出したり、それから医院の設備か……。
椅子と机とベッドと棚と待合室の椅子、それから受付カウンターとか……って、結構あるじゃん?
私は、バージェス世界で作った医院を思い出しながら、必要なモノを物質創製魔法で作り出して行った。
生活必需品の定義が緩くて家まで出せるくらいだからね。
大抵のものは魔法で作り出すことが出来る。
食料品も料理完成形で出せるし。
これって、生きて行くだけなら無敵のチート能力って気がするよ。
ただ、家も家具もバージェス世界で作ったのとマジで同じにしちゃったから、なんか、ナツミとハルのことを思い出しちゃったよ。
二人とも元気かなぁ。
ヤバい。なんだか、涙が出て来ちゃった。
…
…
…
ちょっと時間はかかったけど、一先ず医院の設備はOKだし、応接室も形になった。
これで誰が来ても大丈夫。
バージェス世界の時は、一階に客室を二つ作ったけど、今回は一部屋にまとめて、そこを広めの応接室にした。
自分の居室もリビングダイニングも、必要な家具類は全部揃った。
洗面もお風呂も魔法具で使えるようになっているし、これで生活基盤は整ったと思う。
それから着替えも、細かな生活用品も魔法で出したし、これで問題無いよね?
まあ、もし後から必要なモノが出て来たら、追加で出せばイイや。生活必需品なら物質創製魔法で、いくらでも出せるはずだからね。
そう言えば、この家って、ナツミとハルの部屋もあったんだっけ。
さらに納戸にしていた部屋が二つ。
片方はルナの部屋に変わったけど。
それから広めのリビングダイニング……。
二階の生活スペースがムダに広いや。
余計悲しくなってきたよ。
それから、医院の前に看板を立てた。
あと、料金表もね。
記載内容は、
『高熱の治療は一人一律2,000Ven』
『大怪我の治療は一人一律10,000Ven』
『小さな怪我なら一人一律600Ven』
基本的に料金はバージェス世界と全く同じ。
貨幣価値が違うから、数字が倍になっただけだよ。
なので、上限はバージェス世界が五千Xenだったから、こっちでは一万Venにする。
なんか一万円ぽっきりの店みたいだね。
バージェス世界では五千Xenぽっきりの医院って言われてたけど。
それでも致死的な病気が日本の貨幣価値で考えて、五千円で治せるなら安いもんだよ。
本当は、食堂も同時営業したいけど、先ずは医院が軌道に乗ってからだね。
さすがに一緒に働いてくれる人がいないと両方はムリ。一人で医院と食堂の両方を同時に切り盛りするのは身体が持たないもんね。
開院は来週からにする。多分、フユミから急ぎで依頼される内容があると思うから、一先ず、そっちを優先しなくてはならないだろう。
でも、私の医院は立地が悪いからね。
街外れだからなぁ。
開院しても、最初は、そんなに患者も来ないだろうな。
翌朝、私はギルドに行った。
今日の十時にフユミと待ち合わせだからね。
ギルドに着いたのは九時半くらい。
ちょっと時間があるので、私は受付カウンターまで行って、受付の女性に、
「済みません。このチラシを置かせてもらいたいのですが」
とお願いした。
医院のチラシね。
「構いませんが、ラヤちゃんでしたら医院を開くより魔物討伐の方が稼げるんじゃないですか? 先日の魔獣ですけど、あの後、ギルドのスタッフが現地に飛んで査定したところ五千万Venの値が付きましたよ」
「そうなんですか?」
「ラヤちゃんが討伐したモノだってフランさんが証明してくれましたので、その賞金はラヤちゃんに全額支払われます。あちらの奥で手続きしてもらえますか?」
「手続きってすぐに終わりますか?」
「十分くらいです。それと収納魔法も使えましたよね?」
「はい。厳密にはアイテムボックスですけど」
「金貨五百枚ですから、かなり大荷物になりますけど、収納魔法が使えるのでしたら大丈夫かなと思いまして」
「たしかにそうですね。では、奥で手続してきます」
十分くらいなら問題ないかなって思って、私は受付の女性に言われた奥の部屋へと移動した。
すると、そこでは一人の気真面目そうな男性スタッフがデスクワークしていた。
「済みません。ラヤと申しますが」
「アナタがラヤさんですか? では、ハンターの免許をご提示ください」
「分かりました」
私は、アイテムボックスから、先日発行してもらった免許証を取り出して提示した。
それを見て、その男性は、
「アナタが噂の4Sさんですか」
と私に言って来た。
「4S?」
「ええ。治癒魔法と飲食物を出す魔法、物質創製魔法にハンター免許。それら四項目が全てS級の化け物がいるって聞きましてね。でも、こんな少女だとは想像もしていませんでしたよ。では、金貨五百枚ですね」
その男性は、一旦、奥に引っ込むと、ゆっくりと台車を押しながら戻って来た。その台車の上には金貨五百枚が乗せられていた。
金貨って結構重いんだよ。
日本で以前作られた十万円金貨が一枚三十グラムもあるからね。
ここの金貨は、その半分の重量だけど、それでも五百枚あったら結構重いでしょ?
それで台車で運んで来たんだと思う。
「では、ご確認ください」
「ええと、二十五枚重ねが二十ありますので、大丈夫です」
「それでは、お納めください」
「はい」
私は、この賞金を二十五枚ずつ取って順にアイテムボックスの中に収納した。
たしかに魔獣専門のハンターで生きて行った方が私の場合は稼ぎになりそうだ。
でも、このシルリアの世界で私に出された課題は魔獣討伐じゃないからね。
とにかく女神様からの依頼事項が最優先だよ。
「ありがとうございました」
「お気をつけてください」
私は、奥の部屋からハンター達が屯している方へと戻って来た。
すると、そこでフランの姿を見つけた。
洗った服を返さないとね。
それから、私が魔獣を討伐した証人になってくれてたお礼もしなきゃね。
普通は手柄横取りだって有り得る話だもん。
それで私は、フランの方に近付いて行ったんだけど、なんか、フランが変な話をしているっぽい。
「凄い優良物件だろ? それで、結婚してってラヤちゃんに言ったんだけど、今はダメって言われてさ。でも、俺の反応しかけたナニを丁寧に処理してくれてさ」
これって、この間のことか。
でも、処理って表現はおかしくない?
それって、絶対にHなことと勘違いされるってば!
なんかアナトリー王子のことを思い出したよ。
イリヤ王子のお兄さんね。
イリヤ王子にワザと誤解させるような言い回しをして遊んでいた人。
私は、
「フランさん。言葉は正しく使ってもらえますか?」
って彼の背後から声をかけた。
すると、
「えっ?」
フランが私の方を振り返ると、急に慌てた表情を見せていたよ。




