5.結構チートな治癒魔法だね!
目が覚めると、私はベッドの上で寝ていた。
誰の家だろう?
窓から日が射しているところを見ると、まだお天道様が出ている時間帯ってことだね。
今から24時間以内に一人救えか。できるかな?
「気が付いたようね」
そう声をかけてくれたのは初老の女性。
言葉が分かるってことは、リニフローラ様は私に、この世界の言語を理解する能力を与えて下さったってことだね。感謝します。
「ここは?」
「私のうちだよ」
「アナタは?」
「私はメアリ。道のド真ん中で倒れていたからさ。もう少しで、馬車で轢いてしまうところだったよ」
「す……済みません」
「アンタの名前は?」
「ラヤと申します」
この時だった。突然、メアリさんのステータス画面が私の目の前で開いた。
どうやら、リニフローラ様から言われていた『病人のステータス画面を見る魔法』が私の中で勝手に発動したようだ。
病名が書かれている。
どうやら、メアリさんは白内障らしい。
それにしても、このステータス画面ってものは便利だね。
多分、リニフローラ様が私のために、人々のステータス画面の中に診断用画面を用意してくださったんだと思うけど、症状までキチンと書かれてある。
正直、これがないとキツイよ。
だって、私は病気のことなんて風邪くらいしか知らないもん!
「メアリさんは、白い靄がかかったような見え方をしませんか?」
「良く分かったねぇ。実は、そうなんだよ」
「事故を起こしかけたお詫びと、私を介抱して頂いたお礼を兼ねて、私が、それを治してみます」
「えっ?」
「そのままにしてください」
私は、メアリさんに右掌を向けた。
実は、無詠唱で、しかも何の振りも無しに治癒魔法を使えるっぽいんだけど、それだと私が治したって分かってもらえないからね。
一応、私の能力で治ったってことを理解してもらうために敢えて掌を向けたんだ。
その直後、
「あれ? モノが良く見えるようになったよ!」
メアリさんは視界が急にクリアになって驚いていた。
勿論、私にとっても嬉しいよ。一先ず、これで24時間分ゲットだもんね!
私のステータス画面が開いた。
そこには、1/10,000と書かれていた。つまり、ここが10,000/10,000になるまで人々を助けろって意味だよね?
「良かったですね。目の中の濁りを取ったんです。もう大丈夫ですよ」
「アンタ、治癒魔法が使えるのかい?」
「はい」
「なら、うちの亭主も診てもらいたいんだけど?」
「イイですよ。一人でも多くの人を救うことが義務だと思っていますので」
「じゃあ、こっちの部屋に来ておくれ」
私は、メアリさんに案内されて隣の部屋へと連れて行かれた。
そこには、初老の男性がベッドの上で寝ていた。
男性のステータス画面が開いた。メアリさんの時と同じように病名が記載されている。
ラトケ嚢胞だって?
知らないよ、そんなの!?
聞いたこともない!
症状は慢性的な頭痛に吐き気だって。脳下垂体に粘液が溜まっているらしい。
しかも、この男性の場合は、脳下垂体が炎症を起こして下垂体ホルモン分泌が低下しているって書かれている。それで、身体がだるくて寒がりになっているっぽい。
「症状は頭痛、吐き気、それからだるさがあるのと、あと寒がりになっていませんでしょうか?」
「何も言っていないのに、何で分かるんだい? 私の時だってそうだ。私は何も言っていなかったのに霞がかかったように見えるって、どうして分かったんだい?」
ヤバッ!
そりゃそうだよね。
普通は、自覚症状を聞いてから診察するだろうからね。
ここは、ある程度正直に言った方がイイだろうね。
でも、さすがにステータス画面を覗けることは内緒にしておこう。
ってことで、魔法で分かるってことにしておけばイイや!
「実は、治療するための魔法だけでなく、診断魔法も使えるようなんです」
「診断魔法?」
「はい。どこが悪くて、どう言った症状が出ているかが、ある程度分かるんです」
「そんなのは初めて聞くねぇ。それで、どうなんだい? 亭主は治せるのかい?」
「大丈夫です」
嚢胞の粘液を抜くだけでイイみたいだね。多くの場合、それで再発しないみたい。
地球では、再発は1割から2割程度だそうだ。
ただ、私の場合は魔法で治す。
なので、再発は無い……ってステータス画面に書かれているよ!
私は、男性の頭に右手をかざした。
メアリさんを治した時と同じで、本当は、こんなポーズをする必要はないんだけどね。
振りだよ振り!
溜まった粘液を体外……と言うか家の外に転移!
さらに粘液が再びたまらないように処置して終了。
これで私のステータス画面の表示が、2/10,000に変わった。まだ先は長いけど、二人併せて48時間分ゲットだ!
ちなみに私は、医療行為に限定して転移魔法が使えるらしい。
つまり、病変部位を除去するために体外に転移させるとか、今回みたいに溜まった液体を体外に転移するとかはできるんだ。
でも、一般に言われる転移魔法……つまり、人や通常のモノを別の場所に移動する魔法としては使えない。
便利なんだか不便なんだか……。
「旦那様の症状は、これで治まるはずです。目を覚まされたらご確認ください」
「ホント、ありがとうね。で、治療代はいくらだい?」
「お詫びとお礼と言うことで、今回は要りません」
「本当にイイのかい?」
「はい」
メアリさん、タダって聞いてホッとした感じだ。
でも、今回は私の方が迷惑をかけたからね。その迷惑料ってことで。
「この後、行くところは決まっているのかい?」
「ブロメリオイデス教会に行きたいのですが」
「それなら、うちの前の道を北に5キロくらい行ったところだけどさ。行くのは明日にして、今日のところは、うちでゆっくりしていったらどうだい?」
「ありがとうございます。でも、どうしても急がなければならないもので、済みませんが、失礼させていただきます」
私は、メアリさんに軽くお辞儀をすると、メアリさん宅を後にした。
お日様は出ていたけど、実は、もう夕方だった。なので、教会に着いた時には、既に日没の時刻となってしまった。
転移魔法が使えないからね。
マジで歩きだったよ。
この時間なのに割と温かい……と言うか少し暑い。季節は夏なのかな?
だとすると、日没でも結構な時間だよね?
やっぱ、リニフローラ様から急げって言われていなかったら、多分、メアリさんのところで一泊していたな。
それに、お腹もすいて来たし……って言うか、すいて当然の時間帯だよね、既に……。
私が教会の前に来た時、私のステータス画面が勝手に開いた。そして、職業とか取得魔法とかが書かれているトップページから別の画面に切り替わった。
辞書機能って書いてある。そんな機能も付いているんだ!
どうも、この世界特有の言葉を教えてくれようとしているっぽい。
辞書機能によれば、この世界では地球と違って教役者のことを『牧師』とか『神父』とか『司祭』と呼ばずに『教え』の『頭』と言うことで『教頭』と呼ぶらしい。
なんか、教頭って学校の先生みたいだな……。
それに地球にいた頃、私に、
『もっと男らしくしなさい!』
ってしきりに言っていたのが、あのクソ教頭だったな。
なので、絶対に口が裂けても教頭って単語は使いたくないよ……。
でも、『導師』とも呼ぶらしい。
って言うか、むしろ、導師の方が主流っぽい?
だったら、教頭じゃなくて、絶対に導師って呼ぶことにしよう。
さて、教会に着いたけど、ここからどうしようか?
なんて思っていたら、一台の馬車が教会の敷地内に入ってきた……と言うか飛び込んで来た。
余程慌てているのか、かなりのスピードを出していたよ。
そして、馬車の中から一人の男性が子供を抱えて出てくると、
「導師は、いるか?」
と大声で叫びながら教会の中へと入っていった。
どうやら、抱えられた子供は、その男性の娘らしい。一瞬だけど、その子のステータス画面が見えたんだ。
それと、その男性のもね。
娘の方のステータス画面には、
『破傷風』
と記載されていた。
しかも、この世界では、発症したら治療を受けても致死率95%以上!?
これってマズいじゃん?
でも、私の魔法なら100%治せるっぽい。
それなら、私がその娘を助けなきゃって思って……、私は、その男性の後を追って教会の中へと、勝手にだけど入っていった。
男性の声が聞こえてきた。
「導師は、いないのか?」
なんだか横柄さが滲み出ているように聞こえるよ。
感じ悪い。
「それが、昨日から本部の方へと出かけられまして、戻ってくるのは早くても明後日になるかと……」
「誰か、娘を診てくれる人はいないのか?」
「今、この教会には治癒魔法を使える者は、残念ですがおりません」
「ここは教会だろ。ふざけるな!」
その男性に応対していたのは女性の方で、多分、この教会の人なんだろう。見た感じ、アラサーかな?
相手が女性だからなんだろうね。
その男性は、より一層態度が悪くなっているよ。
なんかムチャクチャ偉ぶっている。
多分、貴族か何かなんだろうな。
上から目線でさ。
どうやら、教会が病院代わりになっているんだね。
ただ、今日は、たまたま運悪く医師にあたる人が不在ってとこか。
でも、言い換えれば、これは私にとって患者ゲットのチャンスだ!
「あのう……」
「なんだ、お前は?」
「通りすがりの魔法使いです。娘様は、少し前に怪我をされましたね」
「それがどうした?」
その男性は、小娘が相手ってことで、一段と横柄な態度を取っていた。
女子供を完全に見下しているね。
治すの、やめようかな?
でも、そんなことしたらリニフローラ様に怒られる。元の姿に戻されちゃうかも。
やっぱり、キチンと治療してあげよう!
「その傷口から病原体が入り込んだようです。一応、私も治癒魔法が使えますので、診させてもらえますか?」
「治せるのか?」
「はい」
「では、やってみろ。治せなかったら承知せんぞ!」
「なら、治せたら、食料と飲み物を恵んでください」
「治せたらな!」
よし、これで夕食もゲットだ!
男性が、娘を近くのベッドの上に静かに降ろした。自分の娘には優しいんだよね。
その娘は、発熱、けいれん、呼吸困難が症状として表れていた。
私は両眼を閉じて、その娘の身体に両掌をかざした。これまでと同様に、別に、こんなポーズをとる必要はないけど、まあ、この方が治しているように見えるからね。
そして、治癒魔法で破傷風菌を根こそぎ叩き殺す!
時間にして、約十秒。
お腹がすいていなければ三秒くらいでできたと思うけどね。
治療完了!
その娘の症状は完全に治まった。
けいれんも呼吸困難も治まって熱も下がっていた。
「もう問題ありません。このまま朝まで寝かせてあげてください」
私が、そう言いながら男性の方に視線を向けると、男性は喜びのあまり滝のように派手に涙を流していた。
まあ、この世界で破傷風を発症したら、ほとんど助からないからね。そりゃあ、嬉しいだろうね。
たまたまだけど、私がここにいてラッキーだね。
そもそも、リニフローラ様は、私を待っているのは男児って仰っていたからね。
なので、私の本来のターゲットは、この娘じゃないってことだもんね。
でも、私としてもラッキーだよ!
これで夕食ゲットの上に、私のステータス画面の表記が3/10,000になったからね。
と言うわけで、
「では、夕食を……」
と私は、その男性に言った。
でも、
「では、喜んで明後日の夕食に招待しよう」
と返答された。
えぇ!?
じゃあ、私の今日の夕食は?