3.総統はカッコ良くあって欲しかった!
「私はオスミ中佐。で、お嬢さんの名前は何と言う?」
この軍人さんって中佐だったんだね。結構偉かったんだ。
「ラヤって言います」
「珍しい名前だな。この町に住んでいるのかい?」
「いいえ、今日、この町に来たばかりで住むところも寝るところも決まっておりません」
「他所から来たのか」
「はい」
「なら、今夜は駐屯地の客間を使うと良い」
「イイんですか?」
「勿論。それで、早速だが明日、首都テールに行き、ジーノス総統にお会いして頂きたい。よろしいかな?」
「わ……分かりました」
「では、店を出よう。さすがに、こんな血だらけの場所に居座る趣味は無いだろうからね。それと、その青年達」
ナンパ三人組は、オスミ中佐に声をかけられたけど、全身が硬直して全然声が出せないみたいだった。
軍のお偉いさんが相手だし、怖いのかな?
それとも、もしかすると私の魔法を見たショックが続いているのかな?
まあ、別に、どっちでもイイけどね。
「この娘のことは全て内密に願いたい。よろしいかな?」
三人組は、こう中佐に言われると、強張った顔で首を小刻みに縦に振っていた。
まあ、私の魔法を他言してないでもらえるのは有難いかな。この店を血だらけにしたのが私だってバレずに済むしね。
オスミ中佐は、何も言わずに私とナンパ三人組達の飲食代も併せて精算してくれた。気前がイイお方だ。
と言うことは、私は、中佐に奢っていただいたってことか。
ありがとう。
夕飯代くらいはキチンと身体で払うからね!
勿論、Hな意味じゃなくて軍で働いてって意味だよ!
中佐が、二人の部下と私を連れて店を出た。
「転移!」
実は、部下の片方が転移魔法使いだった。羨ましい。
そして、私は駐屯地へと連れて行かれた。
駐屯地は、クルツ町の外れに位置していた。しかも、どうやら私がクルツ町に入った側とは丁度反対側のようだ。
この駐屯地を越えたところに、ノーソラム共和国とカリセン王国の国境があるらしい。
私が駐屯地に足を踏み入れると、
「カワイイ娘じゃん!」
「どう、俺と今夜!」
「馬鹿。中佐の現地妻だろ!」
早速、ヤロウ共のH丸出しの声が飛んで来た。
こんなところにヤロウ達だけでいて、相当溜まっているんだろうね。勿論、Hなモノが。
本気で好みの男性がいたらヌイてあげてもイイかも……なぁんて思わないよ!
まだ私は、未経験者だもんね!
地球にいた時も、こっちの世界でも!
オスミ中佐は、その溜まった部下達に、
「この女性は、私の現地妻でも側室でもない。もしかすると、明日の今頃は我々の上官になっているかも知れないお方とだけ言っておこう」
と言っていた。
彼は、私を軍の上のクラスに一気に押し上げようって考えているんだろう。
首ちょんぱ魔法が使える以上、それも決しておかしな話じゃないよ。明らかに一騎当千だもん。
だけど、部下達は言葉だけじゃ理解できないよね。
なので、オスミ中佐は捕虜を一人、部下に命じてこの場に連れて来させた。
そして、中佐は私に、
「例の魔法を改めて見せてくれないか。その男を実験体にして」
と言ってきた。
つまり、その男の身体を使って、部下達に私の能力を理解させようってことだ。
連れて来られた捕虜は、どうやらラージェスト王国の偵察兵のようだ。身体をロープできつく縛られていて身動きが取れない模様。
ちなみにラージェスト王国は、この世界で一番大きな超大国だよ。
私が降臨したノーソラム共和国と隣接している。
殺されるためだけに連れて来られた捕虜。
普通なら可哀相って思うだろう。
でも、私は、その捕虜の姿を見ても同情の念すら湧かなかった。
何故って?
その風貌は思い出したくもないイヤなヤツ……私に、
『チンコついているのか!』
って怒鳴りつけていた体育教師にそっくりだったんだ!
悪かったな。付いていたよ。
しかも、私のは何故か、かなり大きかったんだ。
普通の男子だったら喜んだかもしれないけど、当時の私にとっては、そのことも悩みの種だったんだ。
付いていなくて良かったのにぃ!
むしろ怒りの念が湧き上がって来たよ。
そして、私は躊躇なく、
「死ね!」
と一言。
その直後、その男の首は、胴体から切り離されて勢い良く宙を飛んだ。
この光景を見て、中佐の部下達の表情が固まっていた。多分、全身が凍り付いているような感覚だっただろう。
さすがに、一瞬で全員が黙り込んだよ。
この時、私は死んだ男の姿に例の体育教師を重ねて見ていたから、
『ざまぁ』
とか思ってしまったけど……。
中佐は、
「外に運んでおけ」
首なしの遺体の処分を、その辺にいた部下達に命じた。
ただ、この時、中佐は顔色一つ変えずにいたからね。あの首刎ねを見て平然としているなんて、ある意味、肝が据わっていると思ったよ。
そして、その後、彼は私を客室まで案内してくれた。
「この部屋を使ってくれ」
「あ……ありがとうございます」
「それから、何か必要があったら、部屋の前に見張りをつけておくので、その者に言ってくれれば良い」
「わざわざお気遣いいただいて済みません」
「それでは明日。今日は、もう、ゆっくり休んでくれ」
それだけ言うと、中佐は自室へと戻っていった。
これを機会に私にベタベタ……なんてことはしなかったんだ。多分、紳士なんだろうね。
この夜、私は中々寝付けずにいた。
なりたかった身体に生まれ変われた喜びや、気に入らない男共を一瞬で殺せる力を手に入れたことによる圧倒的な優越感(?)から異常なほどに興奮していたからね。
気が付くと、私は自慰行為に走っていたよ。男の身体の時には全然、そんな行為には興味が無かったのにね。
ただ、その行為が功を奏したのかな?
私は疲れて何時の間にか眠っていた。
次の日、私は中佐の部下の転移魔法でノーソラム共和国の首都テールに移動した。
勿論、オスミ中佐も一緒だよ。
目の前には、まるで宮殿のような大きな建物が……。
私は、その中へと通された。
向かった先は謁見室。総統に謁見するための部屋があるんだ!?
まあ、それだけ総統は、強大な権力を持っているってことなんだろうね。共和国と言いながらも、絶対王政の王国と変わらないよ、きっと。
そこで私は、この国のトップ、ジーノス総統にお会いした。
総統って言うから、昔、宇宙を舞台にしたSFアニメで見たカッコイイ総統をイメージしていたけど、全然違っていた。
少なくとも、見た目のベクトルは私の想像とは完全に逆行していたし、それになんだか滅茶苦茶ワガママそうな雰囲気に包まれていたよ。
なんで、こんなお方が総統に?
でも、まあ、歴史上にも、そんな感じの人っているとは思うけどね。
そんなヤツでも、オスミ中佐にとっては上官に当たるからね。
なので、中佐は謙った態度を取っていた。
「ジーノス総統。お時間をいただき感謝致します」
「オスミか?」
「実は、総統に是非お会い頂きたい少女がおりましたので連れて参りました」
「少女? ハイレベルなカワイイ系美少女じゃないか。その娘を俺の側室に推挙しようとでも言うのか?」
「いえ、実は、彼女は恐ろしい魔法の使い手でして。彼女がいれば、我がノーソラム軍がラージェスト王国を相手に勝利することも可能かと思いまして」
「魔法?」
「はい」
「で、どのような魔法だ?」
「一瞬で、相手の首を刎ねる魔法です」
「何だと!?」
「もしご興味があれば、実演させますが」
「そんなものがあるなら、是非見てみたいものだ」
ジーノス総統は、側近の者達を呼んだ。
そして、
「今日、処刑予定の三人のクズ共を、ここに連れてこい。その魔法の実験体に丁度良いだろう」
と第三者が聞いたら非常に恐ろしい言葉をあっさりと口にしていた。
マジで人の命を何だと思っているんだろうね?
でも、それは私もオスミ中佐も同じだ。私達は、三人とも堕天使ラフレシアの都合の良いコマに過ぎなかったんだよ。
処刑予定者三人が謁見室に連れて来られた。
こいつらも似ている。私を罵倒していた地球のヤツらに。
見事にナイスなキャスティングだね。
私は戸惑うことなく、
「死ね!」
と言い放った。
その直後、その三人は処刑の時を待たずして胴体と首がサヨナラすることになった。
これにはジーノス総統も、相当驚いたようだ。
総統が相当だって。シャレになっているよ。
「これは凄い。君の名前は何と言う?」
「ラヤです」
「珍しい名だが、イイ響きだ。是非、我が軍を率いてもらいたい。これで良いかな? オスミ中佐」
「素晴らしいご判断です。その際には、是非、私が後見人として付かせていただきたいのですが?」
「それが良いだろう」
「ありがとうございます」
一先ずこれで、私はオスミ中佐に連れられて謁見室を後にした。
移動中、私はオスミ中佐に、
「馬に乗ったことはあるか?」
と聞かれた。
「いいえ」
「そうか。なら、敵地へ行くのに馬車にするか? それとも」
「馬に乗ってみたいです」
「そうか。では、ちょっと練習してみようか」
「はい」
珍しく私は、新しいことにチャレンジしようって気になっていた。
地球にいた頃なら、
『きっと、できないよ』
って最初から馬に乗れないって決めつけちゃっただろうね。
自分でも、随分、積極的な性格に変わったって思う。
その日の午後に、私は中佐の指導の下、馬に乗る練習をした。
ただ、思ったよりも簡単に乗れて私自身、びっくりした。
多分なんだけど、馬の方で私が危険な人間って本能的に察知したんだと思う。
気を悪くしたら一瞬で殺されるってね。
だからだと思うんだ。妙に馬が私に従順だったんだってね。
馬が言うことを聞いてくれるので、結構乗れるようになるのが早かった……気がする。
あと、地球にいた頃、私は思い切り運動音痴だったけど、こっちでは普通レベルの運動能力は与えられた感じ。
これは、ラフレシア様が私に運動神経と言うモノを少しだけだけど、お与えくださったんだと思う。
『標準レベルになれただけだろ!』
『大したことないじゃん!』
って言われそうだけどさ。
でも、ゼロから普通になれたんだもん。
私にとっては凄いことだよ。
何から何までありがとう!
やっぱり私にとっては、ラフレシア様は神様に等しい存在だよ。他に人にとっては悪魔だったとしてもね。