21.起源って!
融合魔法を目の当たりにして、村人達は驚いていた。
百人の人間が合体して一人になっちゃったんだから当然だろう。
それでいて、体積は一人分だし体重も一人分。
完全に質量保存の法則を大きく逸脱しているよ!
質量保存の法則は近似に過ぎないって言われているけど、今でも事実上は多くの場面で運用上有効な法則だよね?
なので、誰がどう見たって普通は、
『他の九十九人は何処に行ったんだ!』
ってなるよね?
ただ、百人の野盗が一人になったんで、少なくとも集団で村を襲われるってことが無くなったって村人達は思っていたみたいだ。
つまり、見た目の数が減ったんで安心していたってこと。
それでなんだろうね。
多くの人達が安堵の表情を浮かべていたよ。
実際には、百人分の破壊ができるだけのパワーを融合人間は秘めているから、戦力的には全然変わっていないんだけどなぁ。
単純に野盗の数が減ったことで勝手に安心しちゃっているけど、その辺はイメージとか先入観的なモノもあるからね。
集団相手だと怖いけど一人相手なら怖くないってヤツ。
まあ、そこは仕方が無いのかも知れないなぁ。
私は、この融合人間をアーノルドと呼ぶことにした。
でも、アーノルドは、性欲が自制心を大きく上回っているからね。このままでは乙女の身が危ない!
なので、
「性欲減退!」
魔法で彼の性欲スコアを自制心スコア以下に落とした。
これで万事OKだね。
それに、アーノルドは志の高い真面目な男のはずだし、使える男だよ、きっと!
と言うことで、私は、
「皆さん、ご安心ください。百人の人間が一人になったわけですので、頭の出来も体力も百人力。人間性も百倍上がっています。用心棒に雇うにはもってこいだと思いますが?」
と村人に言ったんだけど……。
「悪に百をかけたら百倍悪いに決まっているだろ!」
「そうだそうだ!」
「わしらババアの貞操だって危ないんじゃないのかい?」
「食いもんも百倍必要なんじゃねえのか?」
完全に勝手な思い込みからダメ出しされた。
そりゃあ、今までやってきたことから考えれば、そう言われてもおかしくはないとは思うけどさ……。
随分な言われ方だよ。
アーノルドが可哀そう。
でも、それだけ野盗共が一般民に恨まれているってことだ。
「そう仰るなら仕方がありません。この融合人間は私が預かります。で、皆さんに聞きたいのですが、この近辺で、野盗はどれくらい出現していますか?」
これに、一人の老人が答えた。
「ワシが知る限り、単独犯なら月一回くらいはあるけど、集団は、これで二回目じゃ」
「一回目は何時ですか?」
「二年前に今回みたいな連中が現れてのぉ」
「その時の被害は?」
「食料と若い女を全部持って行きおった。ただ、見た目が同じようなので、今回のと前回のが同じヤツ等か別のヤツ等かは分からん」
うーん。
一般民からすれば、悪党は全員似たような容姿に見えるってことなんだろうね。
正直、似たような体格のヤツラに似たような恰好をされたら、第三者視点では全然区別が付かなくても仕方ないよね?
しかも、髪型が個性的過ぎるし。多分、それしか覚えてないよね?
じゃあ、前回のと今回のが同一犯かどうか、アーノルドに聞いてみよう。
一応、融合前の連中の記憶を持っているはずだからね。
「ここに来たのは二回目?」
「いいえ、初めてです」
おお!
融合前には無縁だったはずの敬語が使えるようになっているよ!
やっぱり合算すると知的レベルが上がるんだね。
「じゃあ、ここを前回襲ったのって、今回のグループじゃないってことだね?」
「そうです」
「別グループとコンタクトを取ることってあるの?」
「基本的にありませんが、数か月前に見かけたことがあります」
なるほど……。
じゃあ、この村の女性を取り戻すためにも、他のグループを探してみますか。
でないと村に新しい命が誕生しないもんね。
女性って、マジでババアしかいないんだもん。
こういう言い方は失礼だけど、もう、機能的にも終わってるっぽいし。
なので、
「検索!」
私はステータス画面の検索機能を使って、二年前にこの村を襲ったヤツ等の居場所を特定してみることにした。
って言うか、そんなことできるのかなぁ?
と思ったら、
『A:北に百キロ』
『Q:リーダーの名前は?』
『A:ブラウン』
回答が出たよ。マジで便利!
と言うわけで、
「では、探索してきます。転移!」
早速、私はアーノルドを連れて転移魔法で北百キロ地点に移動した。
そして、目的地付近に到着。
「前方50メートルが目的地近辺です」
ステータス画面からの音声だ。
完全に、自動車についているナビゲーションシステムみたいになっているよ。
一応、この音声は私にしか聞こえないようになっているんだけどね。
周りに聞こえたら私が隠れているのがバレちゃうからさ。
ナビ機能の言う通り、確かに前方に、それらしき集団を発見した。
人員構成は、さっきの村を襲った連中と同じで、大男一人にチョンマゲ男百人くらいだった。この大男の名前がブラウンなんだろうね。
こう言う構成にするのが流行っているのかな?
偶然にしては出来過ぎって感じがするけど……。
それから十代後半から三十代前半と思われる女性が合計二百人程いるのが見えた。でも、イヤイヤそこにいるって感じではなさそうだ。
連れ去られたにしては、中良さそう……じゃなくて仲良さそうだな。
中良さそうじゃ、Hな意味だよ!
まあ、それはそれとして、私は、
「転移!」
アーノルドを連れて、その集団のど真ん中に移動した。
ここでも、特に魔力は感じなかった。
魔法がある世界って聞いていたけど、やっぱり、この世界では魔法を使える人が、殆どいないってことなのだろう。
そして、私は、
「死ね!」
いきなりだけど、首ちょんぱ魔法を発動して大男を撃破。
こいつを一緒に融合すると、融合人間の中での精神バランスが崩れる気がしてさ。それで使えないから始末したってとこね。
続いて私は、
「眠れ!」
睡眠魔法で、その辺にいるチョンマゲ男達を全員眠らせた。
さらに、
「融合!」
チョンマゲ男達達を融合魔法でアーノルドと融合させた。
これでアーノルドは、二百人分の知力と体力と精神力を持つ男に進化した……と思う。
万事OKだね!
ってことで、
「皆さんを助けに来ました。これから、元いた村や町に戻れます!」
って私が言ったんだけど、どうも女性達は私に対してご不満の様子。
それどころか、何故か私の方を思い切り睨んでいたよ。
何で?
その直後、私への罵声が……。
「ちょっと、困るわよ」
「そうよ。せっかく食料も水も調達して来てくれるミツグ君ができたのに!」
「村に戻ったって、アイツら小さいし早いし。でも、こいつらのはサイズもタイムも逞しくて、私達を満足させてくれるのよね」
「しかも無精子症なんだと思うけど全然妊娠しないし。楽しみ放題だったんだけど!」
「髪型は変だけどね」
ええと…………。
もしかしてコイツ等、この男共と上手く楽しくヤッてたってこと?
本当に中良さそうな仲だったってこと?
さすがに、髪型には違和感があったみたいだけど……。
でも、この世界を立て直すためには、やっぱり真面目に生きてもらわないと。
子供も産んでもらわないとならないだろうし……。
でも、無精子症?
アーノルドのステータス画面には、そんな記載は無かったけど?
なので、今一度、彼のステータス画面を確認した。
すると、書かれていたのは、
特筆点:構成アミノ酸や構成糖の絶対立体配置が逆。
えっ?
私は、自分のステータス画面や、ここにいる女性達のステータス画面を急いで確認した。
すると、記載されていたのは、地球の生物と同じでアミノ酸はL-アミノ酸が中心だし、糖部分はD-糖が中心だった。
ところが、この野盗達は、これが逆になっている。
それで、性行為をしても遺伝子同士が巧く嚙み合わずに、子供ができないってことなのかな?
でも、ここで大きな謎が生まれた。
この世界のチョンマゲ野盗達は、もしかして地球外生命体では?
もしくは人工生命体か?
いずれ解き明かさなければならない問題だろう。
それにしても、この世界はトモティ世界よりも随分と設定がムチャクチャだし、頭が痛いんですけど?
ぶっ飛んでいる気がするよ。
マジで、イカれた世界だね!
一先ず、この男共の起源については後回し。
それより、この女性達を村に戻さなければ。
うーん……。どうしよう。
じゃあ、せめて、これくらいのところで折れてくれないかな?
「では、村の若い男性達の下半身を魔法で強化してあげます。それで村に戻ってもらえませんか?」
「あと食料もねえ。それに働きたくないし」
「その辺は、村に行ってから交渉してください。私が勝手に決められませんので。それで、出身の村とか町は、どちらですか?」
「私はK村」
「F村」
「H村」
「Hムラムラ」
なんか、一人変なこと言ったヤツがいたけど……。
基本的に、K村、F村、H村ね。
と言うわけで、二百人を連れての超転移魔法発動!
「転移!」
先ず、私はK村に飛んだ。K村が、さっきアーノルドの構成成分達からの襲撃を受けた村ね。
村に到着すると、
「おお!」
「本当に連れ戻してくれた!」
連れ去られたはずの女性達との再会に喜ぶ亭主や恋人達……なんだけど、女性の方は少し白けた表情をしていた。
仕方が無い。
約束は守るよ。
ってことで私は、
「時間停止!」
私とK村の女性達以外の時間を停止した。
そして、
「下半身強化をお願いしたい男性を教えてください」
と私はK村の女性達に言った。
すると、
「私は、この人と、この人と、この人」
「私は、この五人かな?」
「私は、この七人!」
って、ちょっと待てい!
何故、複数人なんだよ!
すると、目が点になっていた私に、そのうちの一人が、
「だって、一本じゃ物足りなくない?」
って言ってきたよ。
ただ、何で単位が『人』じゃなくて『本』なんだよ!
結局のところ、この村にいた頃から、そう言う性生活を送っていたってことなんだね。同時なのか連続なのか日替わりなのかは知らないけどさ。
いずれにしても、この世界の感性について行ける自信が無いよ、私……。
イリヤ王子のところに戻りたくなった。
でも、こっちの世界に来ちゃったんだから仕方ないよね。
それに、この女性達との約束だもんね。
と言うわけで、私は、
「転移!」
指定された男性達の服を転移魔法で剝ぎ取った。
服だけ転移してあげたってことね。
転移魔法の応用で、こう言うことも出来るんだよね。
もっとも、今回の場合は、女性達に見せてあげるために脱がせたんだけどさ。
続けて私は、
「進化&強化!」
大事なところを逞しくしてあげ、さらに、
「最大時に変化!」
魔法で彼らのパワーアップした部分を使用時……つまり最大値にしてあげた。
これを見て、一応、女性達は納得したようだ。
しかも、うっとりした表情を見せている。
相当、好きなんだね、アレが。
それでも、私が地球人時代に装備していたモノの方が大きかったけどね。
マジでデカかったんだよね、あの頃は……。
そして、
「最大時解除!」
使用時にする魔法を解除して彼らのモノを落ち着かせた後、再び転移魔法で、
「転移!」
男性に服を着させ……、つまり、服を転移魔法で元の位置に戻したってことね。
その後、
「時間再開!」
私は時間を元通り動くようにした。
K村の人達からは、
「ありがとう」
「戻って来れるとは、まさに奇跡じゃ!」
色々お礼を言ってもらえたけど……。でも、女性達と巧くやって行けるとイイけどね。
Hな方も、普通の生活の方も。
でも、これで終わりじゃない。
まだ、F村とHムラムラ……じゃなかった、H村に女性を届けなくてはならないんだ。
なので、
「それでは、先を急ぎますので。転移!」
私は、続いてF村に向けて女性達とアーノルドを連れて転移した。




