176.女神ピルバラナ!
私は、どうしてもネガティブな思考を拭いきれずにいた。
すると、
「ラヤ、目を開けなさい」
とビブリダシー様の声が聞こえて来た。
現実を見るのがムチャクチャ怖かったけど、私は、ゆっくりと目を開けた。
すると、私が居たのは何故か家の中だった。
何処の家かは分からないけど。
私は床の上で倒れていた。
それで、硬くて冷たいって感じていたってことだ。
顔を上げると、そこには、ビブリダシー様と、七人の女神様達の姿があった。
この時、ビブリダシー様達は微笑ましい表情をしていたよ。
「ええと、ビブリダシー様。ここは?」
「天界にあるラヤの居住スペースです」
「私のですか?」
「ええ」
「では、儀式の方は?」
「成功しました。おめでとう、ラヤ」
つまり、今から私は、女神達の仲間入りってことだ。
ダ女神にならないように気を付けないとね。
「ありがとうございます」
「今後は、ピルバラナと名乗りなさい」
「その名前って……」
「パレオジェン世界で治癒術師として活動していた時の名前です。ただ、地上に降りた際には、ピルバラナを名乗ってはいけません」
「分かりました」
だったら、今まで通り、ラヤを名乗ればイイよね?
少なくとも金之助を名乗るつもりは無いよ!
部屋には、100インチ……もしかしたら、それ以上のテレビ……みたいなのが壁に取り付けられていた。
ビブリダシー様が、リモコンで、そのスイッチを入れた。
「これからピルバラナには、今まで訪れた世界で、特に交流が深かった者達に挨拶回りしていただきます。対象となる者達ですが、クァターナリー世界に行く前に、ガチャを回しましたね?」
「はい」
「その時、各世界の担当者の名前が書かれたボードを見たと思います」
「はい」
「そこに記された者達が、挨拶回りの対象者です。ただ、場合によっては、プラスアルファが発生する可能性はありますけど。それから、中には行かない方が良い世界や、行っても対応する者がいない世界もあります。先ず、それら世界の状況を、このモニターに映し出します」
たしか、ボードに書かれていたのは、以下の通りだった。
トモティ世界からは、オリガ導師とフランチェスカ。
エディアカラ世界からは、アーノルドとナツミ。
バージェス世界からは、ハルとナツミ。
シルリア世界からは、フユミとリジン。
ブルバレン世界からは、アキとミチル。
デボニアン世界からは、奴隷兵士Aと奴隷研究者。
プレカンブリアン世界は、該当なしで引き直し。
カンブリア世界からは、原始人のヒルデとアンネ。
カルボニフェラス世界からは、ルフィナとドロフェイ。
オルドビス世界からは、カナコとヒールスライム。
ペルム世界からは、アデラとエルマ。
トリアス世界からは、パンサラッサとテチス。
ジュラ世界からは、シュンカとインロング。
クリテイシャス世界からは、シュンカとカナコ。
パレオジェン世界からは、ヨハンとアンナ。
そして、ネオジェン世界からは、娘のエルマと息子のフラン。
たしかに、クリテイシャス世界に行っても、そこには既にシュンカもカナコもいない。
シルリア世界に行けば、多分、フユミとリジンの二人だけに会うってことにはならないだろう。
あの二人が、近くの人達を呼んで来て、会う人間が増えそうだ。
モニターに映像が映し出された。
それは、私が見たことも無い世界だったんだけど……。
すると、ビブリダシー様が、
「ここは、三十八億年後のプレカンブリアン世界です。イリヤから聞いていたと思いますが、地球で言う近代レベルの科学力にまで発展しました」
と説明してくれた。
この世界は、私としても初めて見る。
イリヤさんからは聞いていたけど、まさか、私の表皮常在菌から進化した生物達が、ここまで立派になるとはね。
感動したよ。
モニター映像が切り替わった。
次に映し出されたのは、草原近くの洞窟で暮らす原始人達。
これって、カンブリアン世界だ。
ここの対象者はヒルデとアンネだったっけ。
たしかに、あの二人に私が会っても余り意味ないもんね。
カンブリアン世界は、フユミが原始人達に薬草知識を教えただけの世界だから。
また、映像が切り替わった。
次に映し出されたのは、ルフィナの姿だった。
お妃様だもんね。
綺麗だ……けど……、ちょっと老けたな。
隣に映っているのはルフィナの相手の王子様。
今は王様になっているのかな?
そして、その他大勢の中にドロフェイの姿を発見した。
「これは、ピルバラナがルフィナを救ってから二十年後の世界です」
「そうなんですね。それで、その後、ルフィナは?」
「順調に、コチラの期待に沿える結果を出してくれております」
そうなんだ。
呪いから解放できて本当に良かったよ。
映像が切り替わり、続いて画面いっぱいに映し出されたのはスライムの姿なんだけど?
って、これはヒールスライムちゃんだ!
ここは、カルボニフェラスの世界。
たしかに、ここに行ってもカナコはいない。
ヒールスライムちゃんには会いたかったけど……。
「これは、ピルバラナが訪れてから二十年後のオルドビス世界です。ヒールスライムを抱えているのが、ヒールスライムの現在の持ち主、カナコの仲間だった一人、マイと言う女性です。彼女が、自分達のグループにカナコに入るよう勧誘しました」
「そうだったんですね」
「現在、この世界の世界統一大統領は、ナルカと言う女性で、彼女もカナコの仲間だった一人です。そして、副大統領もカナコの仲間だったイオナと言う女性です」
「ヒールスライムは分裂して、かなりの数になっていませんか?」
「はい。かなりの数が、冒険者ギルドに配置されています。それから、現状では、まだ低級治癒術師の力で治せるレベルの病気や怪我に限定されていますが、既に世界で治療費の統一価格が設定されています。ただ、どうしても全疾患で統一価格を決めるのは難しく、それは、今後の課題となっています」
その課題は、オルドビス世界じゃなくてジュラ世界でお願いした内容だけど?
でも、他の世界でも、その必要性を感じてくれた人がいるってことだ。
いずれにしても、ヒールスライムちゃん達は、随分と活躍しているんだろうね。
ただ、私がヒールスライムちゃんと直接会えるってことは無いんだろうな。
先に現在の持ち主に会って説明する必要があると思うけど、十中八九、不審がられるんじゃないかって気がする。
ほぼ100%、ヒールスライムちゃんを盗もうとしている人と勘違いされるだろう。
まあ、ここは、ヒールスライムちゃんの元気な姿が見られて良かったとしよう。
「あと、このヒールスライムには、コダマと言う名前が付けられています」
「コダマ……ですか?」
「そうです。偶然ですが、マイ、イオナ、ナルカ、カナコと名前がしりとりになっていましたので、ヒールスライムの名前をコダマにすることで、カナコ、コダマ、マイと、名前しりとりでサイクルが組めるようになります」
「たしかにそうですね」
「一見、遊んでいるように見えますが、カナコが地球に戻っても、その絆を忘れないように、敢えてしりとりでサイクルが組める名前にしたようです」
「そうなんですね」
カナコは、前世で、オルドビス世界を大変なことにしちゃったけど、イイ仲間に恵まれたんじゃないかって思う。
次に映し出されたのはパンパラッサとテチスの姿だった。
彼等の近くにはダオネラ……A区分の人で、この世界で最初に私が治療した相手だね。
「これは、ピルバラナが訪れた五年後のトリアス世界です。この世界も、随分と人々の考え方が変わってきました」
ダオネラの隣では、B区分で最初に私が治したヤツ……ワガママ小学生としか思えない男子が畑作業を手伝っていた。
ビブリダシー様が仰る通り、この世界の人々も、AIに管理された動物から脱皮して、人間としての生活を取り戻しつつあるって感じたよ。
その次に映し出されたのはクリテイシャス世界。
たしかに、ここに行っても、既にシュンカもカナコもいない。
なので、事実上、私の知り合いは、この世界には居ない。
でも、魔王マーストリヒチアンから解放されて、人々の表情は活気に満ち溢れていた。
私はペナルティを食らった世界だけど、結果的に魔王を討伐出来て良かったよ。
そして、再び映像が切り替わった。
これは……地球……日本だ!
今、映し出されているのは私が住んでいた家。
「これは、特別にお見せします。大田原金之助が失踪して二十年後の日本です。先ず、ピルバラナの両親の現在を映します」
私の両親の映像に切り替わった。
もし、私が、この世界で生きていれば三十四歳になる。
両親は、共に還暦近い。
二人の第一印象は、
『ムチャクチャ老けたなぁ』
だった。
「二人共、まだピルバラナの失踪から厳密には立ち直れていません」
「そうですか……」
「しかし、ピルバラナが当時、何を考え、何を望んでいたのかを考えるようになりました。そして、性的マイノリティを理解し、それを受け入れる必要性を世の中に訴えるようになりました」
両親には迷惑をかけたけど、あのまま私が地球にいたら、きっと耐え切れなくて殺人とか犯していたんじゃないかって思う。
勿論、そのターゲットには両親も含まれる。
それが、当時の私のことを考えるようになってくれたわけだし、これはこれで、きっと良かったじゃないかって思う。
でも、分かって欲しかったのは性的マイノリティだけじゃなかったんだけどね。
私の得手不得手も考えて欲しかったんだ。
柔道とか、やらされたくなかったし……。
次に映し出されたのはカナコ。
彼女も老けたな。
さすがに、不老の身体とかは、もらえなかったんだろうし。
地球だからね。
「彼女は、今、三十一歳。大田原金之助の三学年下になります」
「そうだったんですね。カナコがクリテイシャス世界で稼いだお金……二億二千二百万円は?」
「彼女が二十歳になった時に、ギガンテアの方で対応しました。一応、税抜きで三億円としておきました」
「そんなにですか?」
「税金分と加算分は、魔王討伐に対する褒賞金です」
「そう言うことですね。ありがとうございます」
「今では、外出することはできるようになりました。まだ、男性と二人きりになることは出来ませんが、彼女の背景を理解した会社に勤めています。在宅勤務が多いので、精神的負担も、完全にとは言えませんが、かなり軽減されると思います」
「そうですか」
ここで映像が切れた。
そして、
「では、ピルバラナ。先ず、トモティ世界に飛びなさい。そこから順に各世界を回ってもらいます。バージェス世界はピルバラナが旅立った時から約五年後、ネオジェン世界は一年後、他は、いずれもピルバラナの旅立ちから約十五年後の世界となります。ただ、トモティ世界だけは、次からは、これから行く時代から五十年後の世界にしか行くことが出来なくなりますので、悔いの残らないようにしなさい。あと、女神になることを話しても構いませんが、ピルバラナの口から伝える相手は、飽くまでも近しかった人限定でお願いします。その選定はピルバラナに任せます」
と、ビブリダシー様に言われた直後、私は、さっきまでいた室内からビブリダシー様に強制転移させられて、懐かしの教会の前に立っていた。
ただ、トモティ世界だけ次に行けるのが今から更に五十後って、どう言う意味だろう?
詳細不明だったけど、そんなことよりも、私は目の前の教会を見て感激していた。
忘れもしない。
ここは、私がお世話になったブロメリオイデス教会だ。
ただ、この時、私は背が縮んでいた。
この世界にいた当時の私の姿になっていたよ。
お天道様の高さから察するに、今はお昼頃。
早速、私は、中へと入って行った。
教会では、まだ、オリガ導師による診察が続いていた。
ただ、待合室にいる人達は、私の姿をジロジロ見ながら、何やらヒソヒソ話していた。
何でだろ?
そして、そのまま私は受付へ。
そこには、フランチェスカさんがいたんだけど、私が、
「御無沙汰しています」
って話をしたら、
「えっ? まさか、ラヤちゃん!」
って大声を上げたよ。
「ええ、まあ」
「全然、年をとっていないけど、まさか、復活したの?」
「今日……と言うか、今だけです。時間制限がありますけど、他の世界でやるべきことに、ひと段落着いたってことで挨拶回りに行けとビブリダシー様に言われて」
「ビブリダシーですって?」
フランチェスカさんが、こう言った直後だ。
なんか、急に待合室の中がざわついて来た。
そして、
「もしかして、ラヤ様?」
「やっぱり、ラヤ様だ!」
「あの石像と瓜二つ!」
「ラヤ様が復活されたぞ!」
「ああ……ラヤ様にお救いいただけるとは……」
なんか、妙に周りが喜んでいたよ。
ただ、ヒソヒソしていたのは、私が居なくなる時に、代わりに置いて行った石像の姿そのものだったからってことか。
あれって、王都にあるんだもんね。
この街の人の中にも見たことがある人は、それなりにいるんだろう。




