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17.まずは現場から!

 人々の多くは眠っているのか気を失っているのか分からないけど、ベッドの上で静かに目を閉じていた。

 そう言った中で、何人かの兵士達が目を覚ました。


「ここは?」

「私が造り出した特殊シェルターの中です」

「アナタは?」

「私はラヤ」

「では、ブロッキニア王国の聖女?」

「何だか巷では、そう言われているようですね。私は、皆様の命を救うために、ここに来ました」

「では、我がユーフォルビア帝国のために?」


 すると、その兵士の隣のベッドの上にいた兵士が、

「お前、ユーフォルビアの者だったのか!」

 と言いながら、ベッドから起き上がると剣を抜いた。


「なんだ、お前は?」

「俺はカトプシス王国の者だ!」

「ちょっと待て。聖女様はユーフォルビア帝国を救ってくれるのではないのか?」

「ユーフォルビア帝国に救う価値などあるものか!」


 あーあ、始まっちゃった。

 やっぱりこうなったか。想定はしていたけどね。

 でもね。今の私は、蘇生魔法以外は全て使える。当然、首ちょんぱ魔法もね。



 私は、二人に掌を向けて、

「おやめなさい」

 と言いながら魔法を放った。痛みを与える魔法だ。


「「首が……」」

 これを受けて二人は、首に大きな傷でもできたかのような激痛が走ったはず。勿論、これは脅しのために放った魔法だけどね。


「私は、今、この場で二人の首を刎ねることもできます。命が惜しければ、争いは止めなさい」

「「……」」

「ここは、中立の空間です。争いごとは禁じます。剣を納めてください」

 私にこう言われて、そのカトプシス王国の兵士は、一先ず剣を鞘に納めてくれた。



 この二人の兵士達が騒いでくれたお陰で、救助した民間人も、何人か目を覚ました。

「ここは?」

「私が用意した異次元空間の部屋です。ここで、怪我人達の治療に当たっています」

「アナタは?」

「ブロッキニア王国、ブロメリオイデス教会のラヤです」

「では、アナタが聖女様!」

「とにかく、救助が先です。食料は大量に出してありますので」

「ちょっと待ってください!」

「何か?」

「食材はあっても料理ができませんけど?」


 たしかに、肉とか野菜とかを置いといたけど、そのまま食えってわけには行かないよね?

 今、この場にあるもので、そのまま食べられるのはパンくらいだ。


「そうですね。では」

 私は、物質創製魔法でキッチンを設置した。モデルは、二十一世紀の地球で使われているタイプのもの。

 魔法でコンロも水道も使えるようにしておいた。



 まず、民間人も兵士達も、キッチンシステムが出てきたことにムチャクチャ驚いていたよ。それこそ、夢でも見ているんじゃないかって。


 だって、この世界では、物質創製魔法は人間には与えられていないはずだからね。使えるのは女神様か御使いだけ。

 みんな、完全に言葉を失っていたよ。


 でも、その場にただ固まっていられるだけでは困る。

 早速、キッチンを使っていただかないとね。


 とは言え、二十一世紀のキッチンは、ここの人達には意味不明のモノ。

 それで、私は、

「ええと、使い方ですけど……」

 近くにいた民間人の女性に、コンロや水道の使い方を教えた。


 別に大したことじゃないけどね。コンロは、つまみをひねれば火が付くし、水道も蛇口をひねれば水が出る。ただ、それだけのことなんだけどね。


 でも、私から見て、大したことなくても、こっちの人々からすれば常識を大きく逸脱している。ムチャクチャ驚いていたよ。

 そりゃそうか。

 そもそも、この世界では、ガスコンロで火をコントロールすることも、水道から水を出して、しかも使い放題なんてのも、常識的に有り得ないことだろうからね。



 それ以前に、この空間ではコンロに火の魔法、水道に水の魔法を使っているんだから、それ自体があり得ない行為ってことか。

 ガスも水道も、ここに通っているわけじゃないから、これらは魔法で使えるようにしたんだけど、火の魔法も水の魔法も、この世界には無いはずのものだもんね。


 なので、

「「聖女様!」」

 ますます、私が天から遣わされたものだって信憑性が上がったっぽい。

 もう、どうにでもしてくれ!



 まあ、それはさて置き。

 一先ず、ここは動ける人に任せて、私は、

「転移!」

 再び戦場に転移した。


 そして、

「半径十キロの、地に横たわる生きた怪我人。転移!」

 多数の怪我人達を連れて異次元空間の部屋に戻って治癒。またもや戦地に転移と、ひたすらこれを繰り返した。


 ただ、相変わらず各軍陣営内にいる人達には手を出さなかったけどね。

 ソイツらは後回し。味方に見放されて放置されている人達が最優先だもん。


 この様子を見て、

「聖女様」

「ありがたや」

 私に向けて両手を合わせる人も出てきたよ。

 でも、今は恥ずかしがっている余裕なんか無い。とにかく、やれるだけのことをやっているって感じだった。



 何人かの男性達が、

「手伝います」

 新規で運び込まれてきた怪我人達をベッドに運ぶのを手伝ってくれた。


 それでも、最初は、敵国同士が同じ空間にいることに、わだかまりがあったっぽい。

 なので、兵士達も民間人達も、それぞれ自国の人達の治療しか手伝ってくれなかったけど、そのうちに、みんなの考え方が変わってきてくれた。

 敵国の負傷者達を見ているうちに、自分達の罪深さに気付いたんじゃないかって思う。


 …

 …

 …


 これで全員を救助できたわけじゃないけど、夜が明けたら、再びこの地は戦火の渦に巻き込まれる。

 兵は減っても、どうせ補充されるだけ。

 なので、休戦してもらえるよう、それぞれの国に直談判だ!


 でも、もう私も眠いし、向こうも寝ているだろう。

 こっちの時刻で夜中の一時を回っているもんね。


 なので、一旦朝まで私も休憩……と言うか寝る。ブロッキニア王国時刻で言ったら、ほとんど完徹状態だもん。

 こっちの夜が明けたら、行動に出るよ!


 …

 …

 …


 ラヤが眠りについた頃、ブロッキニア王国では夜が明けていた。

 見回りの一人が、地下牢にラヤの様子を見に来た。ところが、肝心の牢は、もぬけの殻になっていた。


「大変だぁ!」

 それから十数分後、このことが国王陛下に報告された。

 地下牢から国王陛下のところまで、結構距離があるのだから、このタイムラグは仕方が無い。


「ラヤ導師の姿がありません!」

「なんだって?」


 まさか、脱獄?

 誰もが一瞬そう思った。


 しかし、

「ただ、牢をこじ開けた形跡はありません」

 内部犯がラヤを開放して勝手に城外に出したのか?


 ただ、鍵をイリヤ王子が管理している以上、基本的に開錠はムリだ。

 なので、内部犯がいてもラヤを開放すること自体ができないはず。


 だとすると、誰かが転移魔法でラヤを拉致したのだろうか?

 もしかしてユーフォルビア帝国の転移魔法使いか?

 それともカトプシス王国の者だろうか?



 少なくとも、ラヤ自身は転移魔法が使えないはずとの認識だし……。それで、エミリアをラヤ付きにしていたくらいなのだから……。

 しかし、あの地下牢は特殊な結界が張られていて、転移魔法使いですらラヤを連れ出すことは出来ないはず。


 では、誰がどうやって?

 いずれにしても、ラヤが消えたことはブロッキニア王国としては一大事と言えよう。


 …

 …

 …


 それから数時間が過ぎ、私、ラヤのいる戦地でも夜が明けた。

 私は能力をバンバン使って思い切り疲労していたけど、身体に鞭を打って、何とか頑張って身体を起こした。


 ただ、鞭を打つって表現はイヤだな。

 あの首ちょんぱしても生きていたアキを思い出すよ。


 私は、顔を洗って急いで朝食を済ますと、

「転移!」

 単身で戦場に移動。

 ユーフォルビア帝国とカトプシス王国の国境付近には、他にも双方共にいくつかの軍の陣営があった。


 私は、それらを順に、

「バリヤー!」

 強固な透明バリヤーで覆って、人の出入りができないようにしていった。つまり、軍隊を閉じ込めて戦いを再開させないようにしたんだ。



 そして、さらに私はカトプシス王国の王都に向けて、

「転移!」

 魔法で移動した。


 勿論、カトプシス王国とユーフォルビア帝国の両方に戦闘停止を申し入れるつもりだけど、一応、カトプシス王国を先にしたんだ。

 何故かって?

 こっちの方が東側なので、こっちから行かないと先に夜になっちゃうんじゃないかって思ったからだよ。



 私の転移魔法は、アクアティカ様が与えてくれた特性魔法。結界にも引っかからない優れモノなんだよね。

 なので、カトプシス王国の城内まで一気に瞬間移動した。

 出たところは謁見室の中。先客が居ようと関係ない。


 当然、私は、

「お前は誰だ!?」

「どこから湧いて来た!?」

 と国王陛下をはじめ、その場にいた沢山の人達に言われたけどね。


「私はラヤ。ユーフォルビア帝国との国境付近から転移魔法で直接ここに来ました」

「ラヤだと?」


 国王陛下が私の名前に反応したよ。

 まあ、知らないはずは無いだろうからね。


「はい。女神アクアティカ様より大いなる力を与えられし者です」

「お前が聖女ラヤか。ただ、国境付近から転移魔法で直接と言っていたが、この城には特殊な結界が張られていて転移魔法では入れないはずだが?」

「女神アクアティカ様より、今回の大事を果たすため特殊な転移魔法を授かりました」

「それで、聖女が何の用だ?」

「ユーフォルビア帝国との戦争を中止してください」

「降参しろと言うのか?」

「いいえ。降参ではなく中止です。勿論、ユーフォルビア帝国にも中止させます」

「そんなこと、どうやったらできる?」


 まあ、こんな問答が始まるのは想定の範囲内だよ。

 聖女って言っても治癒するだけの存在。

 一般には、

『攻撃力があるわけじゃないし、戦争を止める手立てを持っているはずがない』

 って思われているだろうからね。


 それで、私は左掌を上に向けて巨大な火球を出した。

 私の掌の少し上で宙に浮いている状態だけど、何時でも放つことは出来る。

 さらに、私は、右掌を国王陛下の方に向けて痛みを与える魔法を放った。


「私は、この炎をアナタ方に向けて放つことが出来ますし、アナタ方の首を魔法で刎ねることも可能です。私はアナタ達を殺したくありません。今すぐ、戦争の中止を御決断ください」

「お前は、ユーフォルビアの味方なのか?」

「いいえ。私は中立の立場で、この戦いを終結させたいと思っています。当然、ユーフォルビア帝国軍も武装解除させます」

「その言葉に偽りは無いだろうな?」

「勿論です。ですので、私の言うとおりにしてください」

「分かった。なら、お前に任せよう。一先ず、その炎をしまうのと、首刎ね魔法の解除を頼む」

「はい」

「それと、我が国家の安全を保障してくれ」

「勿論です」


 物分かりが良くて助かった。

 私は、魔力の放出を止めて、火球を消すと同時に痛みを与える魔法を解除した。聞き分けの良い子なら、これ以上は脅したりしないよ!


「我が国だって望んで戦争をするつもりは無い。ユーフォルビア帝国が手を出さなければ、こっちも手は出さない。人民の命を無駄にしたくは無いからな」

「私も、国王陛下の言葉を信じます。では、帝国を説得に行ってきますので、少々お待ちください」

「ちょっと待て。聖女を疑いたくはないが、一応、念のためだ。我が国の兵士を一人同行させる。良いかな?」

「構いません」

「では、アキラ。頼んだぞ」

「分かりました」


 えっ? アキラって?

 この世界ではムチャクチャ珍しい響きだ。

 顔つきも、たしかにアジア系だ!

 もしかして!?


 私は、ついつい、

「日本人ですか?」

 って聞いてしまった。すると、そのアキラ氏は、

「何故、それを?」

 って私に言いながら驚いた顔をしてたよ。

 そりゃそうか。

 でも、ケイイチロウ導師夫妻もいたし、日本人率が意外と高いのかもしれないね、この世界って。


「私も日本出身だからです」

「じゃあ、転移?」

「いえ、この世界には転生しました」

「そうなんだ。でも、転生者だから優れた能力を持っているんだね?」

「えっ!? まあ……」

「俺は斬り殺されても生き返る再生魔法を持っていてね。まあ、再生できるのは自分の身体だけだけど」

「そう言うことですか。それなら、ユーフォルビア帝国に単身で乗り込んでも死なないってことですもんね?」

「そう言うこと」

「なるほど。では、一気に行きます。転移!」

 私は、再び転移魔法を発動して、アキラ氏を連れて、その場から姿を消した。

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