174.聖なる斬首刑再び!
先ず私は、
「超結界!」
魔王アルケインを超高密度結界で覆った。
ここから、結界を小さく縮めて行き、魔王を圧死させようとしたんだ。
でも、
「フン!」
魔王が身体に力を込めて魔力を放つと、超高密度結界が粉々に粉砕された。
まさに、クリテイシャス世界の魔王マーストリヒチアンと同じだ。
「これくらいで、我を閉じ込められると思ったか? 片腹痛いわ」
やっぱり、少し工夫しないとイケない。
なので、私は、
「出ろ!」
物質創製魔法食料バージョンで、魔王アルケインの消化管内に、胃や腸が破裂しそうなレベルで大量のラー油を発生させた。
さすがに、魔王アルケインも、一気に体調を崩して地に膝をついた。
「何だこれは? 貴様、何をした?」
「言う義理はありません。超結界!」
私は、再び魔王アルケインを超高密度結界で覆った。
そして、
「縮小!」
結界を小さく縮めて行った。
さすがに、カプサイシンの摂り過ぎで魔王は体調を思い切り崩した状態。
当然、魔王の魔力放出量も著しく低下した。
そんな状態で、魔王を取り囲んだ超高密度結界を縮小して行ったんだ。
魔王は超高密度結界に押しつぶされて圧死。
これで、首を刎ねずに、何とか一回目をクリアした。
超高密度結界の縮小は、魔王が死んでも止まらなかった。
本来あるべき体積よりも、さらに縮んで行ったんだ。
でも、突如、魔王の身体が強烈に輝いたかと思うと、
「ドカン!」
と激しい音を立てて結界が四散した。
魔王が生き返ったんだ。
「まさか、一つ目の命を奪われるとはな。しかし、我は、まだ死なんぞ」
「知ってます。出ろ!」
私は、再び魔王アルケインの消化管内に大量のラー油を発生させようとした。
ところが、何故か、物質創製魔法が魔王にまで届かなかったんだ。
「残念だったな」
「どうして?」
「我に同一魔法は効かん。耐性ができるのでな」
これって、初耳なんだけど?
マジで、ちょっとヤバイ。
でも、完全に同一でなければ効くのかな?
ちょっと試してみる。
「じゃあ、コッチで。出ろ!」
私は、魔王アルケインの血管内に、大量の塩を発生させた。
基本的には物質創製魔法食料バージョンってことで同じ魔法だけど、出すモノが違う。
なので、完全同一にならないかもって思ったんだ。
私の期待通り、
「ウガッ!」
魔王アルケインは、その場に倒れ込んだ。
そもそも、塩化ナトリウムの超過剰摂取だからね。
人間だったら、間違いなく即死だよ。
それと、たしかに塩は水溶性だけど、溶ける量にだって限界がある。
なので、溶け切れていない塩が脳内血管や冠状動脈を塞いじゃっているはずだ。
そんな状態なのに、瞬時に死なないのは、さすが魔王ってところなんだろうけどね。
それから数分後、魔王アルケインの鼓動が途絶えた。
二度目の死だ。
でも、再び魔王の身体が輝き、魔王が立ち上がった。
二度目の復活だ。
次に、
「出ろ!」
私が魔王の体内に出したのは大量の包丁。
一応、生活必需品ってことで、台所用品は出せる。
もっとも、ハルに強化されて家まで出せるようになっているけどね。
大量の包丁が、魔王の身体を内部から突き刺した。
身体のアチコチから、包丁の刃が突き出ている何とも言えない状態。
魔王は、
「フン!」
全身がズタズタに切り裂かれるのを覚悟で、魔力を大量放出して、体内にある包丁を一気に体外へと弾き飛ばした。
そして、魔王の身体がうっすらと輝きだした。
聖女の力を奪っているからね。
高度な治癒魔法が使えるってことだろう。
でも、今、魔王は、それ相当に弱っている。
ここで私は、
「電撃!」
痴漢撃退用に与えられた電撃魔法を最大出力で魔王アルケインに向けて放った。
これを受けて、魔王アルケインは、その場に倒れ込み、感電死したよ。
弱っていなかったら、全然、余裕で跳ね返されたと思うけどね。
でも、魔王の身体が輝いて、魔王が立ち上がった。
三度目の復活だ。
「貴様の名前は何と言う?」
「ラヤ・ビブリス」
「ビブリスの名を騙るか。なら、貴様から吸収してやろう。その後、その龍も吸収し、我こそが全宇宙で最強となるのだ!」
魔王アルケインは、魔力で作ったロープを私に向けて投げ付けて来た。
これで私を拘束し、動けなくなったところで、伸びる舌で私を捕えて飲み込もうって魂胆だろう。
イディオットの時と同じように。
でも、イディオットと同じ目に遭って溜まるもんか!
私は、
「セイクリッド・デキャピテーション!」
一回目の聖なる斬首刑を実行した。
魔王の命は、あと七個。
正直なところ、私の方もアイデアが切れていてね。
ここからは直球勝負で行くって決めていたんだよ。
私の身体が、魔王アルケインの投げたロープで拘束された。
でも、既に魔王アルケインの斜め上には、聖属性の刃が発生していた。
ここからは強制力が発動する。
魔王アルケインは、私に向けて舌を伸ばすことも出来ず、ただ、その場で硬直するだけ。
そして、聖属性の刃が魔王アルケインの首を見事に刎ねた。
さらに、斬られたところから、魔王アルケインの身体は組織が破壊されて、真っ黒な物体へと変化して行く。
それから、私を拘束していた魔力ロープも、術者の魔王が死んだことで消失した。
ただ、ここからが問題なんだ。
復活するのが、一体なのか二体なのか。
案の定、魔王アルケインの首と身体が光を放ち、それぞれが魔王アルケインとして四度目の復活を果たした。
一見、最悪の結果だ。
ところが、二体のアルケインから感じる魔力量は、それぞれが元の魔王アルケインの半分程度だった。
つまり、魔力量は、二つに分割されたってことだ。
なら、首を刎ねれば刎ねるほど、復活した魔王は、単体としては弱体化する。
魔王が立ち上がると、
「セイクリッド・デキャピテーション!」
私は、すぐさま、二回目の聖なる斬首刑を実行した。
「同じ魔法は効かんと言っただろう! 結界!」
魔王アルケインは、セイクリッド・デキャピテーションを自らの結界魔法で跳ね返せると踏んでいたようだ。
ところが、聖なる刃は、その結界を破壊して魔王アルケインの二つの首を捉えた。
宙を舞う二つの首。
五度目の死だ。
切断面から、二つの死体は組織が破壊されて真っ黒な物体へと姿を変えた。
そして、四体の魔王アルケインとなって五度目の復活を果たす。
「どうして、同じ魔法が効いたんだ? いったい、お前は何者だ?」
「女神の使いっぱです」
「それで、ビブリスの名を騙るか」
「とにかく、面倒なので行きます。セイクリッド・デキャピテーション!」
またしても魔王の首が宙を舞う。
違っているのは首の数。
今回は四つの首が飛んだ。
これで、六度目の死。
そして、八体となって復活。
「セイクリッド・デキャピテーション!」
七度目の死。
十六体となって復活。
「セイクリッド・デキャピテーション!」
八度目の死。
三十二体となって復活。
「セイクリッド・デキャピテーション!」
九度目の死。
六十四体となって復活。
ただ、さすがに、このカエルみたいな魔王が六十四匹もいると、メチャクチャ気持ち悪いよ。
「セイクリッド・デキャピテーション!」
そして、これで魔王の死亡回数は十回となった。
魔王達の身体は黒い物体に変化したまま復活することは無く、その心臓があったと思われる辺りからは、魔石が顔をのぞかせていた。
ナツミは、大きな袋をアイテムボックスから取り出すと、
「私は雑魚魔族の魔石を回収して来るね!」
と言って、部屋を飛び出して行こうとしたんだけど、
「ちょっと待って」
これをハルが止めた。
「何で?」
「回収するのは後にしようよ。それよりも、ラヤのことが先だよ」
「そ……そうね」
ナツミが、袋をアイテムボックスに収納した。
「やったね、ラヤ」
こう私に言って来たのはハル。
「うん。これも、私の体力を温存させてくれたハルのお陰だよ」
「それにしても、聖属性の斬首刑ってブラックだね」
「私もそう思う」
「でも、魔石は六十四分割になっちゃったのは残念だね」
「ああ、それなら一つにまとめられるかも?」
「ホント?」
「うん」
同一の魔石なら、もしかしたらマージ出来るかもって思ったんだ。
エディアカラ世界で、チョンマゲ男達を合体させてアーノルドを作った時みたいにね。
と言うことで、私は、六十四個の魔石を順次取り出すと、
「マージ!」
先ず、これらを二つずつ合体させて三十二個の魔石へと変化させた。
さらに私はマージを繰り返し、三十二個から十六個、八個、四個、二個、そして最終的に一個の超巨大魔石を作り上げた。
「出来た。これなら、相当な額になるでしょう?」
「うん。有難う」
「でも、換金する時間ってあるの?」
「一応、私とナツミは、換金が終わるまで、この世界に居留まらせてもらうってことを予めギガンテア様には言ってあるし、了承されているんだ」
「そうなんだ」
「でも、多分、ラヤは、目的を達成した以上、もうすぐ、この世界から次のステージへと飛ぶことになるんだよね?」
「まあ、そうなんだろうね」
ここで、少し沈黙が流れた。
正直、この世界に来る前段階では、私としても、こんな短期間で魔王討伐が完了するなんて思っていなかった。
だから、もっと、ナツミとハルと一緒にいられるって思っていたんだ。
それが、これでお別れなんだと思うと、正直悲しい。
この世界の人達のことを考えれば、急ぐべきってことは重々承知の上なんだけどね。
「ラヤ。討伐達成おめでとう」
こう言ったのはハル。
ただ、ハルがいれば、私がココにいる必要って無かった気がするんだけど?
魔王以外は、マジで全部ハルが倒しちゃったし。
ハルは、
『魔王を十回倒すのはムリ』
って言って、それで、魔王を倒すのだけ私が任された……と言うか譲ってくれたわけだけど……。
でも、一気に十回、魔王を倒すのが出来ないってだけで、何日かに分ければ不可能じゃない気がする。
だから、討伐役のハルと、タクシー係のナツミさえいれば、今回の件は何とかなるはずだったと思う。
多分、ここに敢えて私を召喚したのは、私が候補生ってことが、何か関係しているんだとは思うけど……。




