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167. その視線は無いでしょ!

 イリヤさんの王都出張から、一か月が過ぎた。

 その間、私は夢の中でフィリフォーリア様に会う機会があった。


 そこで、私はイリヤさんに言われた通り、

「この世界では、私は、どれくらいのペースで治癒行為を行えば良いのでしょうか?」

 って聞いてみた。


 すると、フィリフォーリア様からは、

「さすがに、一週間で三人は多いですかね。今後は、特別な事情が無い限り、一か月に一人以下でお願いします」

 って言われたよ。


 どうやら、女神様もイリヤさんと同様に、私の治癒魔法には、かなりの希少価値を持たせたいみたいだった。


 どうせ、私は女神様の使いっぱだからね。

 その意思には従うよ。



 あれから私は、メコスクスのさらに南方の街シーロムスで患者を一人治療した。

 これで、この世界で私が治したのは計四人。


 この頃になると、王都でも、

『女神の使者ピルバラナが現れて、後の世のためになる善人を選別して治す』

 と噂されるようになっていた。


 勿論、

『ピルバラナは小柄の女性で、仮面を被っている』

 ってことも併せて。


 なので、少なくともピルバラナの正体が私だとは、さすがに誰も思わないだろう。

 そもそも、身長が違うからね。



 あと、今月もステータス画面には、

『受精成功!』

 の文字があった。

 性交だけに、ここまでは成功する。


 でも、そこから十日もすると、

『着床失敗』

 の文字が。

 ちょっと悔しい。



 そんなある日のことだ。

 この日は、いつもより少し早めにイリヤさんが冒険者ギルドから帰って来た。


「ただいま」

「お帰りなさい」

「ラヤ、悪いんだけどさ」

「はい?」

「明日から、しばらくアルディに行く」

「えっ?」

「B級冒険者以上は強制らしいんだ」


 アルディは、モロプスのさらに北にある街。

 ここアエピカメルスから、北に五十キロくらい行ったところに位置している。


 また、アルディは、魔獣の侵入を防ぐため、周囲が強固な防壁で覆われていた。

 アルディの北には大森林が広がっていてね。

 そこから、魔獣が来ることがあるらしいんだよ。



 一般人が出入りできるのは南側の門からのみ。

 それ以外の門からの出入りは、特別な場合を除いて兵士達と高ランク冒険者達のみに限られていた。


 そんなところにB級以上の冒険者達が強制的に行かされるってことは、何が起きているのか、大体想像がつく。

 どうせ、魔獣絡みだろう。



「期間はどれくらいですか?」

「分からない」

「でも、危なくなったら念話で呼んでください。フィリフォーリア様からは、この国のためなら首刎ね魔法を使うことを許可されていますので」

「分かった。万が一の時は、よろしく頼む」



 言うまでも無く、またしばらく会えなくなるってことで、この日の夜は、いつも以上にイリヤさんに求められたよ。


 何をって?

 当然、ナニだけど……。


 …

 …

 …


 そして、翌朝。

 私はイリヤさんが戦いに出るのを見送った。


「行ってくる」

「気を付けてくださいね」

「うん。絶対に帰って来るから」

「いってらっしゃい」



 今回の依頼は、今までよりも数段危険だ。

 イリヤさんは、

『絶対に帰って来るから!』

 とは言ってくれたけど、正直、心配だ。

 彼が無事に戻って来られることを、私は、ひたすら祈ったよ。



 イリヤさんの姿が見えなくなると、私は家の掃除を始めた。

 勿論、生活魔法の一つ、清掃魔法を使ってだけどね。


 出たゴミは、庭に掘った穴に捨てて燃やす。

 実は、イリヤさんに、王都出張から帰ってきた翌日に、庭の端の方に畳一畳分くらいの広さの穴を掘ってもらったんだ。

 深さは一メートルくらい。


 この世界は、日本とは違ってゴミ収集車なんて便利なモノは来ないからね。

 基本的に自分達が出したゴミは、自分の家で全部処分するしか無い。

 それで焼却用の穴を掘ってもらったんだよ。

 草取りで出た大量の草も、勿論、ここで焼却する。



 あと、ゴミは溜めとくと虫が湧くから、穴の中に捨てても、余り時間を置かずに燃やすようにしている。


 万が一、ここで虫が湧いても、家の方には入って来ないけどね。

 一応、虫除けの意味も含めて家には結界が張ってあるから。


 でも、ご近所さんの目もある。

 なので、出たゴミはサッサと燃やすようにしているんだ。



 火を点けるのは火炎魔法を使うけど、攻撃に仕えるような強烈なレベルじゃない。

 飽くまでも、フィリフォーリア様からは、生活魔法としてのみ、火炎魔法が与えられている。

 百円ラーターレベルのショボい魔法だよ。


 ただ、こんな魔法でも、この世界の全員が使えるわけじゃないんだよね。

 生活魔法全般を与えられている私は、なんだかんだで、かなり優遇されているんだなって思う今日この頃だ。



 ご近所さん達も、私の家と同様に庭に穴を掘ってゴミを燃やしているけど、その時に、火を点けて欲しいと呼ばれることが多々あった。


「ラヤさん。ちょっと火付けをお願いしてイイ?」

「了解です!」


 昨日は向かいの家、今日は斜め向かいの家でゴミを燃やすのに、火炎魔法で火種を分けることになった。


 飽くまでも分けるのは火種ね。

 子種じゃないからね。

 イリヤさんからの子種を欲しがっている人がいるのは知っているけどさ……。



 あと、ゴミを燃やした後は、キチンと火を消さないと危ない。

 なので、

「放水!」

 一通りゴミを燃やし終えると、私は水魔法で消火する。


 勿論、ご近所さん達のゴミ焼き場でも同様のことを依頼される。

 でも、その際、シュンカみたいに、

「基本注水姿勢!」

 なんてことは言わないけどね!


 …

 …

 …


 そんなこんなで一週間が過ぎた。

 この日、突然だけど、イリヤさんから念話が入った。


『ラヤ。至急来てくれないか?』

『どうしたんですか?』

『巨大魔獣が現れた。今までは、小型、中型だけだったんだけど、これでは、僕でもお手上げだ。兵士達も、手の打ちようが無い』

『分かりました。では、私が到着するまで思念波を私に送り続けてください。それを頼りに現地に向かいます』

『分かった』



 私は、奥の部屋に入ると、

「チェンジ!」

 オリジナル・ラヤの姿になった。


 そして、仮面を被ると、

「転移!」

 思念波発生源……イリヤさんのいる方角に向けて空間移動した。



 一回目転移終了。

 出たところは、イリヤさんのいるところから一キロくらい離れたところ。

 敢えて私は、ここに出た。


 ここで、イリヤさんから送られてくる思念波の発生源、つまり、イリヤさんのいる場所を正確にチェックするためだ。



 確認後、私は、

「転移!」

 二度目の空間移動に入った。


 そして、転移が終了する時、私は、

「発光!」

 全身から強烈な光を発した。


 何でこんなことしたって?

 一応、女神様からの使いが来たってアピールだよ!

 イリヤさん以外の人達も、たくさんいるだろうからね。



 転移して真っ先に私の目に飛び込んで来たのは、身の丈が五十メートルにも達するであろう超巨大な熊型魔獣だった。

 さすがに、これを人間が退治するってムリがあるでしょ?


 この世界にはミサイルなんて気の利いたモノは無いし、ましてや、アニメで出てくるような巨大ロボットとかがある訳じゃない。

 人力で戦うしか無いんだから。



 それから、その場には、当然、イリヤさんの姿があったけど、彼の隣には右腕を失い、切断面から血を流している一人の男性の姿があった。

 多分、右腕は魔獣に持って行かれちゃったんだろう。


 ステータス画面を覗き見すると、騎士団総長との記載。

 この防衛戦の責任者ってことか。



 私は、

止血(ヒール)!」

 取り急ぎ、騎士団総長の止血を行った。

 このまま出血が続くとマズいと思ったんでね。



「騎士団総長とお見受けします。取り急ぎ、応急処置だけしておきました。治療は、後で行います」

「アナタは?」

「私の名はピルバラナ。女神フィリフォーリアより遣われし者」

「もしかして、メコスクス、モロプス、アルティカメルス、シーロムスで致死的な患者を治したと言う?」

「そんなことも有りましたね。今日は、そこの魔獣を退治しに来ました」

「退治って、そんな無茶な」

「無茶はアナタです。そこで大人しく、魔獣の最期を見届けなさい」


 そう言うと、私はイリヤさんと騎士団長に背を向け、超巨大熊型魔獣の方に右手を伸ばした。

 一応、私が魔法を放ちましたってアピールだよ。

 こんなことしなくても、魔法は打てるんだけどね。



「セイクリッド・デキャピテーション!」


 あと、放つのは最凶魔法じゃなくて、今回は聖属性の首刎ね魔法にしておいたよ。

 一応、女神様からの使者って設定だもんね。



 熊型魔獣の斜め上に、魔力で出来た三日月形の刃が現れた。

 そして、それは、一直線に突き進み、熊型魔獣の首を捉えた。


「ザクッ!」

 と音を立てて刎ねられる熊型魔獣の首。


 切断面からは、

「プシュー!」

 と派手に血の噴水を吹き上げていた。

 呆気なく討伐終了!



 ところが、私が後ろを振り返ると、そこにあったのは、必要以上に怯える騎士団総長の姿と畏怖の念の籠った目で私を見詰めるイリヤさんの姿だった。


 騎士団総長が怯えているのは分かる。

 事前情報なしで、

『魔獣の首が魔法で切断されて派手に宙を舞う』

 なんてのを目の当りにしたら、失禁する輩が出るのは知っているからね。

 シルリア世界のフランみたいに。


 でも、イリヤさんのその目はナニ?

 さすがに、自分の亭主に、そんな目で見られると私だって傷つくんだけど!

 彼の気持ちも、分からなくは無いけどさ……。



「騎士団総長さん」

「は……はい!」

「魔獣は退治しました。事後処理はお願いします」

「りょ……了解しました」

「あと、今回の魔獣との戦いで、多くの死傷者が出たようですね。死者を復活させることは出来ませんが、怪我は治してさし上げましょう。領域内(エリア)上位治癒魔法照射(・エクスヒール)!」


 今回は特別だ。

 これくらいの出血大サービスは、フィリフォーリア様も許してくれるだろう。



 魔獣との戦いで怪我をした人達は、私の領域内上位治癒魔法(エリア・エクスヒール)で、見る見るうちに怪我が治って行った。


 しかも、再生魔法付きの上位治癒魔法(エクスヒール)だからね。

 騎士団総長の右腕も再生した。

 これには、騎士団総長も驚いたようだ。



「こ……これは……」

「今回だけです。二度はありませんよ。それから、冒険者イリヤ」

「はい?」

「そんな怖い目で私を見ないでください。一応、これでも女ですので」

「……」

「では、私はこれで」


 そして、私は転移魔法を発動して家に戻った。

 役人とか貴族達に、

『お礼が言いたい』

 とか言われる前に、サッサと逃げたかったんだよ。

 大抵、お礼と言いながらも、自分のところに囲い込もうって魂胆が見えていること多数だからね。



 そして、家に到着。

 私は、仮面を外すと、

「チェンジ!」

 大人のラヤの姿に戻った。



「もう、イリヤさんには、戻ってきたら、ちょっと一言、言っておかなきゃだよ。そもそも、私に助けを求めて来たってことは、あの魔法を放てってことだよね? それでいて、あの目は無いよ!」


 さすがに私も、誰か聞き手がいるわけでもないのに、声に出してしまった。

 それだけショックだったんだよ。


 聖なる斬首刑魔法や、領域内上位治癒魔法(エリア・エクスヒール)を思い切り放ててスッキリした分、別のモヤモヤが心の中で発生していた。


 このモヤモヤを解消するには、イリヤさんにお仕置きするしかない。

 さて、どうしようかな?


 …

 …

 …


 数日後、

「ただいま」

 イリヤさんが帰って来た。


「お帰りなさい。ただ、ヒドイですよ、イリヤさん。魔獣討伐のために呼んでおいて、討伐したら、あんな目で私のことを見るなんて!」

「ラヤ、ゴメン。あの魔法は、事前には聞いていたけど、初めて見たし。それに、あんな超巨大魔獣を一発で仕留めるなんて、想像を遥かに超えていたから」

「でも、私だって傷ついたんですよ。なので」

「なので?」


 私は、イリヤさんの手を引いて奥の部屋へと入った。

 そして、そのままイリヤさんを押し倒した。



「ちょっと、ラヤ。何して?」

「だからナニです」


 私は、お仕置きのつもりで色々とイリヤさんを攻めまくることにした。

 勿論、性的な意味でね。



 でも、なんか妙にイリヤさんが喜んでいるみたいなんだけど?

 お仕置きどころか、これって、ご褒美になっちゃったかも?

このままだと話が先に進まなくなりそうですので、次回、一気に六十年が過ぎ去って行きます。

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