140.受付代理!
「終わりました!」
私が監視員らしき男性に言った。
すると、その人が、
「い……今の魔法は、何なんだ?」
と蒼褪めた顔で私に聞いて来た。
さすがに、こんな魔法は見たことが無いだろう。
相当驚いただろうし、それ以上に恐怖を感じているようだ。
私を見る目に畏怖の念が籠っている。
「首刎ね魔法です」
「首刎……」
「ただ、女神様の取り計らいで、人間には発動できませんので、ご安心ください」
「そんなの、信じられるか!」
こう言いながら、彼は後ずさりしていた。
一応、走って逃げようとだけは、していなかったけど。
でも、顔はヒドく強張っていた。
もっとも、今の仕様だと、最凶魔法は人間にも発動しちゃうと思うんだけどね。
発動しないのは『シルリア世界の人間のみ』って設定のはずだから。
ただ、それを言うわけには行かない。
ここは、
『人間には発動しない』
と嘘を押し通す!
「本当ですってば。それと、この魔獣の死体は、ここにあると邪魔ですよね?」
「まあ、そうだが」
「では、私の方で収納しておきます」
私は、死体専用アイテムボックス……通称死体ボックスを開けた。
すると、まるで強力な掃除機に吸い込まれて行くゴミのように、あっと言う間に魔獣の死体は死体ボックスの中に収納された。
これを目の当たりにして、監視員らしき人は、今度は唖然とした表情を見せていたよ。
ただ、度重なる精神的衝撃からかな?
顔は、より一層蒼褪めているように見えた。
「この死体って、何処か買い取ってくれるところってありませんでしょうか?」
「そ……それなら冒険者ギルドに行くとイイだろう。街中にある」
「本当ですか?」
「ただ、ギルドに登録する必要が出て来るが……」
じゃあ、取り敢えず、この街のギルドに登録して様子を見ればイイかな?
シュンカも、私の方を見て頷いているし。
「情報ありがとうございました」
そう監視員らしき男性に言うと、私はシュンカと一緒に街中へと向かった。
そして、歩くこと三十分。
道行く人々に聞きながらギルドに到着。
早速、私達は受付カウンターへと向かった。
そこには、ジュラ世界の冒険者ギルドでお世話になった受付嬢のアンリに、勝るとも劣らない巨乳の受付嬢が座っていた。
「ギルド登録したいんですけど」
「登録証は一人、一万Qenになりますが」
「では、よろしくお願いします」
「お名前を伺ってもよろしいでしょうか?」
「私がラヤ・ビブリス。もう一人がシュンカ・シュウトウです」
「ラヤ・ビブリスさんにシュンカ・シュウトウさんですね。では、登録料の方をお願いします」
「はい」
取り敢えず、ここは私がシュンカの分も合わせて支払った。
多分、後で返してくれると思うけど……。
別に私の負担でもイイケドさ。
「それと、適性検査を行ってもらいます」
「分かりました」
「職業決めとレベル測定を行ないますので、こちらの検査板の上に利き手の掌を当ててください」
「はい」
その板には、極太のケーブルみたいなのが付いていて、背面にあるATMみたいな機器に繋がっていた。
多分、その機器が測定機になっているんだろう。
先ず、シュンカが検査版に右掌を乗せた。
すると、その板が赤く輝いた。
「これは凄いです。魔力レベルはS。十万人に一人ですよ、これ」
「そ……そうですか?」
「魔法は攻撃系。あと、転移魔法に収納系……。運動能力にも長けていますね。これなら、魔導士、いえ、魔法剣士になれますよ」
「ええと、賢者って職業はありませんか?」
「ああ、ありますね。たしかに賢者にもなれます」
「では、賢者でお願いします」
「分かりました。魔力レベルSですので大賢者ですね。ただ、冒険者ランクはFからになりますが、すぐにSランクに上がりますよ」
「了解です」
「では、こちらがギルドカードです」
受付嬢が、ATMみたいな機器から出て来たカードを取り、それをシュンカに渡した。
これで、シュンカの登録は無事終了。
でも、ランクFの大賢者って……。
ルール上は仕方ないけど……。
それはさて置き、次は私の番だ。
「次の方」
「はい。こちらですね」
私が検査版の上に右掌を置いた。
すると、辺り一面が強烈な白色光に包まれた。
その直後、受付嬢は、驚きの余り、その場で固まっていたんだけど、少し間をおいて口を開いた。
「アナタ人間ですか?」
「一応、人間ですが……」
「魔力レベルはS越え。測定不能です。魔法は攻撃系、防御系、治療と診断、さらに物質創製に収納系……。ほぼ何でもありですね。魔法系の職業でしたら何にでもなれますよ! それこそ、冒険者じゃなくて宮廷魔導士すら超余裕じゃないですか?」
でも、宮廷に仕えるのは避けたいなぁ。
この世界に永住するわけじゃないだろうし。
責任ある立場には着きたくない。
「宮廷勤めはお断りします」
「そっちの方が、給料が安定していますけど? 高給取りですし」
「堅苦しいのはちょっと……。あと、職業は一つに絞らなくてはいけないのですか?」
「副業を二つまで選択することが出来ます」
「では、メインは治癒術師でお願いします」
「いえいえ。これなら聖女と名乗らなければイケナイでしょう」
そんな、聖なる存在じゃないんだけどな。
女神様からペナルティを受けたし。
それ以前に、ナンパされたいって思っているし。
「……では聖女で。あと、副業ですけど魔導士は可能でしょうか?」
「これでしたら全能魔導士でも大魔導士でも良いのではないでしょうか?」
「では、副業は大魔導士でお願いします」
さすがに、本当の意味で全系統の魔法が使えるわけじゃないからね。
私でも『全能』を名乗るのは、抵抗があるよ。
「分かりました。では、職業は聖女で、副業が大魔導士ですね。ただ、先程、コチラの方にも申し上げました通りランクはFからになります」
「分かってます。あと、ビーチに現れた魔獣ですけど」
「あれですね。あのお陰で、この町全体が困っています」
「討伐依頼って出ていますか?」
「町から依頼が出ていますけど、やるんですか?」
「もう、討伐してきたのですけど」
「えっ?」
受付嬢の顔が固まった。
さすがに、信じられないみたいだね。
「査定をお願いしたのですけど」
「はっ?」
「大きいのでギルドの前に出してもよろしいでしょうか?」
「あの……いくらお二人でも……。冗談でしょ?」
「マジです。今、アイテムボックスの中に収納しています」
「アイテ……。わ……分かりました。ただ、ギルド前に出されても困りますので、コチラに来てください」
私達は、受付嬢に案内されて、ギルド裏の解体場へと移動した。
そこは、バスケットボールのコートが二面取れるくらいの大きさの体育館と同じくらい広々とした空間だった。
私達から見て、奥の方には魔獣共の死体が数体あって、それらを合計二十人くらいの解体スタッフで処理していた。
「では、こちらに」
「了解です」
手前のコート一面分のうちの半分くらいが空きスペースになっていた。
私は、死体ボックスを開き、そこにモササウルスモドキの死体を出した。
人間なんか余裕で丸飲みできるくらい巨大な頭部。
そして、首を失ってなお、二十五メートルを超えるであろう巨大な身体。
これを目の当たりにした受付嬢は、全身を震え……させるのを超えて、完全に硬直していた。
顔も蒼褪めていたし、死体とは言え、相当怖がっている感じだった。
「こ……これって……」
「例の水生魔獣です」
「噂には聞いていましたけど、これ程までに……。これは、さすがにギルドと致しましても、適正金額で買い取ることが出来ません」
「えっ?」
「申し訳ございませんが、当ギルドには、そこまで、お金がありません」
別に私達は、死体の買い取りまで期待していなかったんだけどね。
それよりも早く、ビーチでナンパされたいし。
だから、可及的速やかに退治しただけなんだけど。
「ええと、私達は討伐代だけでイイんですけど」
「それは出ますけど、町からの討伐代だけですと五千万Qenのみです。労働対価としては全然釣り合いません」
日本円で二千五百万円か。
受付嬢の言いたいことが分かったよ。
たしかに、凶悪な巨大魔獣の討伐だからね。
その金額だと安い気がする。
でも……。
「それでも構わないんですけど」
「いえいえ。それでは大損です。それで、死体を素材代としてギルドで買い取ろうかと思っていたのですが……」
「別に、お金には困ってませんし」
「そう言うわけには行きません。それで、提案ですが、オークションに出されては如何でしょうか?」
「オークション?」
「はい。王都で、週一で開催されています。王都まで運ぶ必要はありますし、お金を手に入れるのはオークション後になりますけど」
そんな方法もあるんだね。
急ぎで大金が必要ってわけでもないし、私はイイかな?
シュンカの方を見ると、彼女もOKサインを出しているし。
「それで、運搬費用とかは?」
「それは、一旦ギルドの方で立て替えておきます。落札額から、運搬代と手数料を頂くことになりますけど。合わせて落札額の二割としています」
「分かりました。それでお願いします」
「それと、どちらにお住まいですか?」
「グラシリスって安宿にいます」
「あそこですか。では、討伐のお礼として、もっと良い宿にしばらく無料で滞在できるよう、ギルドから町に交渉します」
これはありがたい。
じゃあ、そっちの宿に拠点を変えて、さらにイイ宿を探すことにしよう。
「ありがとうございます」
「それで、いつまで、グラシリスに?」
「二泊ですので、明後日の朝、チェックアウトです」
「その後の宿泊先は?」
「決まっておりません」
「でしたら、明日中にはギルドの方からご連絡致します」
「よろしくお願いします」
「では、ギルドの受付の方に戻りましょう」
再び私達は、受付嬢に連れられてギルド本館へと戻った。
そして、
「こちらが討伐代です」
受付カウンターで、私達は受付嬢よりお金の入った袋を渡された。
「ありがとうございます」
「こっちこそ、町を代表してお礼申し上げます。これで、ビーチが解放できますので」
「そうですね。あと、パーティ登録ってできます?」
「はい。パーティはお二人で?」
「はい」
「パーティ名は?」
「特にありませんが。無いとマズいですか?」
「無くても問題ありません。では、パーティ登録しますので、お二人のギルドカードをご提出ください」
私達は、その受付嬢にギルドカードを渡した。
すると彼女は、ギルドカードをATMみたいな機器に順に挿入して、何やら操作した。
そして、数十秒後に再び出て来たギルドカードを、彼女は私達に差し出した。
「登録完了です。メンバーの追加等ありましたら、再手続しますので、その時には申し出てください」
「分かりました」
「それと、実は相談がありまして」
「相談ですか?」
「はい。手が空いた時に、こちらのギルド内でラヤさんの治療コーナーを設けられないかと思いまして。勿論、ギルドの方にお金を納める必要は無いので」
これは、私にとっては悪くない話だ。
治療院を開くのは面倒だからね。
でも、この世界の治療費がどの程度のものなのか、まだ私は調べていなかった。
なので、何らかの基準があると有難い。
「それでしたら問題ありません。ただ、治療費の設定は、如何致しましょう?」
「特に法で定められていませんし、ギルド内でもルールはありません。ラヤさんに任せます。ただ、余り高額ですと誰もかかれませんので」
「その辺は分かってます。でも、ギルド長に相談せずに、この場で勝手に決めても大丈夫なんですか?」
「言っていませんでしたね。私がギルド長のアヤです」
「えっ?」
「今日は、二人いる受付スタッフが同時に休みで。それで、私が代理で入ったんです。よろしく、聖女様、大賢者様」
「よ……よろしくお願いします」
まさか、ギルド長だったとはね。
診断と称したステータス画面覗き見をしていなかったから、純粋に驚いたし、それに、こっちが緊張してしまったよ。




