13.誤解!
王都レダクタにある、ヘクチオイデス大聖殿に行くようになって二週間が過ぎた。
ブロメリオイデス教会では、新たに受付担当者を雇うことができた。
導師陣は、既に二週間前から私とオリガ導師のシフト制に移行していたけど、これで、受付担当もシフトを組める。
やっと、フランチェスカさんも休みが取れるね!
私が来る前は、オリガ導師とフランチェスカさんの二人だけで、土日祭日も関係なく毎日患者を診ていたんだからね。
二人ともマジで凄いよ。
新しい受付の方は、スヴェトラーナさんって言う二十歳の女性。
実は、メアリさんの姪らしい。
しかも、既に結婚しているって話。
これで私の周りのアラサー独身女子の比率が少し下がったよ!
この世界でも地球と同じで一週間は七日。
仮に、こっちの曜日も月火水木金土日とすると、私とオリガ導師のシフトは、土日にオリガ導師が休みで、私が月金に休み。
火水木は二人体制だけど、この三日間は、私は午後にヘクチオイデス大聖殿に行く。
また、受付の方は、日火木土をフランチェスカさんが、月水金をスヴェトラーナさんが担当する。
それから、受付担当者が昼と夜の食事を用意する。
一先ず、こんな感じになった。
勿論、急患が同時に複数来て、一人じゃ手が回らない状態になった場合には、休日返上で対応することもあり得るけどね。
この二週間、新規の患者さんにも恵まれて、既にスコアは1,119/10,000になっていた。この分なら、数か月で目標達成できそうと、私は希望に燃えていた。
大田原金之助との決別の日は近いって。
そんなある日のことだ。
この日は、私とオリガ導師の二人で患者を診る日だった。
朝食を終えて、これから午前の診療を始めようとした、まさに、その矢先だった。
「ラヤ!」
転移魔法使いのエレーナさん同行の元、何故か怒りを露わにした表情のイリヤ王子が私のところに来た。
でも、何で怒ってるの?
私、何かしたかな?
「兄のアナトリーから聞いたけど、お前は、他の男とHなことをしているのか?」
「えっ?」
「兄が言ってたぞ! 兄とかドミトリーのアソコを見たって。しかも、アソコを見慣れていてラヤは平然としていたとか、ラヤに二人のアソコを剥いてもらったって!」
あぁ……。
これ、とんでもない誤解をしているよ。
診たのも剥いたのも、あと見慣れていたのも事実だけどさ。
でも、患者の診断記録は個人情報だし、特に今回みたいなケースは絶対に周りに知られたくないだろうし。勝手に話しちゃいけないんだよね。
困ったな。
「私は、Hなことは、していません。そもそも未経験者です」
「じゃあ、アナトリーとドミトリーのアソコは見てないんだな?」
「いいえ、診ましたよ?」
「はぁ?」
「それに、剥いてもあげました」
「なら、浮気しているじゃないか!」
これを隣で聞いて、オリガ導師とフランチェスカさんは、クスクス笑っていたよ。ドミトリーの治療の時に一緒にいたからね。
なので、アナトリー王子も同じ症状だったって、二人にバレちゃったよ。
ちょっと可哀そうな気がしてきた。
でも、浮気って……。
まだ私は、正式にイリヤ王子とお付き合いしているわけじゃないって認識なんだけど?
「では、イリヤ王子は、私が淫乱な女性とでも仰るんですか?」
「そうとしか思えないだろう?」
「では、ここから先は一切他言しないとお約束していただけますでしょうか?」
「なんでそうなる?」
「私は、アナトリー王子とドミトリーを治療したんです」
「何が治療だ!?」
「だから……。絶対に言わないでくださいね。患者の病気は個人情報で、本当は話してはいけないんですから」
ここで、私は声のトーンを下げた。だって、待合室にいる患者さん達に聞こえちゃ困るからさ。
でも、既に私への淫乱女疑惑は聞かれちゃっているんだろうな。変な噂が立たなければイイけど。
「実は、二人とも皮を被っていたんです」
「はっ?」
「つまり、包茎だったんです」
一応、真正か仮性かは、ぼかしておこう。
「はぁ?」
「それを治療してくれって言われたんです。だから、私は二人の性器を診ましたし、きちんと皮を医療行為として剥きました。ドミトリー様の治療の際にはオリガ導師とフランチェスカさんも一緒にいましたし、ウィルキンソン子爵ご夫妻も一緒にいました。皆さんが証人です。あと、アナトリー王子の時には、エミリアが私の護衛で一緒にいました。彼女が証人になります。もっとも、彼女には私が個人情報の漏洩をしないよう固く口止めしておりますけど」
これを聞いて、イリヤ王子は目が点になっていたよ。
多分、アナトリー王子は、イリヤ王子に、ワザと誤解させるように言って遊んだってとこだろうね。
先を越されて悔しいとか言ってたしさ。
「ゴ……ゴメン。済まなかった」
「もう、変な誤解しないでください」
「……」
「でも、イリヤ王子でも嫉妬するんですね」
「当然だろう!」
「じゃあ、これから診察が始まりますので」
「分かった。これで帰るとするよ。ボクもやることがあるし。ただ、今日は王都に来るんだよね?」
一応、王子も落ち着いてきたようだね。
さっきまでは、当たりがキツい言い方だったけど、やっと普段の王子の口調に戻って来たよ。
まあ、それ以上に、今は恥ずかしそうな雰囲気が強く漂ってくるけど。
「午後に、ヘクチオイデス大聖殿に行きます」
「じゃあ、診察が終わる頃に、ちょっと会いたいんだけど、イイかな?」
「分かりました」
「じゃあ、また。では、エレーナ、頼む」
一先ず、これでイリヤ王子は王都に戻られた。
と言うわけで診療開始。
そして、早速入ってきた男性の患者さん……レナートさんから、
「何があったんだい?」
と聞かれたよ。
「ほら。私って、こう言う仕事をしていますので、男女問わずアソコを診ることがあるじゃないですか?」
「そう言やぁ、前に俺のナニも診てもらったもんな。あの時は膿が出て痛かったし」
実は、レナートさんは淋病だったんだよ。旅行先で商売女を買ったらしい。それで、うつされたんだ。
非常に性欲旺盛なお方だね。
「それが変な風にイリヤ王子に伝わって誤解されたんです」
「なるほどなぁ。でも、俺だったらラヤちゃんと、そうなってもイイぜ!」
「そう言っていただけるのは大変光栄ですが、そうなっては私が困ります。それこそ、私がイリヤ王子と、レナートさんの奥さんに殺されます」
「ははは。そりゃそうだ」
「で、今日は如何されました?」
「昨日の夜に、手首をひねってね」
レナートさんは、リピーターの一人。何の仕事をしているかまでは聞いていないけど、ちょっとした怪我で来ることが結構多い。
他にもリピーターは結構いる。
リピーター相手だとカウントは増えないけど、でも、こうやって他人と触れ合えるって言うのもありがたいことだ。
地球にいた時には、男らしくないって罵倒されるだけで、人との触れ合いなんて言葉は無縁に等しい状態だったからね。
…
…
…
まあ、そんな感じで、午前はブロメリオイデス教会で、午後はヘクチオイデス大聖殿で患者さん達を相手にした。
相手にしたって、医療行為だからね!
へ……変な行為じゃないからね!
この日の最終スコアは1,199/10,000と、施設を掛け持ちしている割には、今一つ伸び悩み。先週までの伸びが良かっただけに、ちょっと期待外れな感じだよ。
レナートさんのような再診の患者が増えているからなんだろうなぁ。
診療が終わると、
「来たよ!」
私の部屋にイリヤ王子が入ってきた。
勿論、護衛付きだけどね。
同じように、私の後には、私の護衛でエミリアがいる。
なので、王子はプライベートで私に会いに来たんだろうけど、これって全然プライベートって感じが無いよ。
完全に公開だね。
「あの後、患者さんに何があったんだって聞かれましたよ」
「済まない」
「それこそ、私が尻軽女と勘違いされるじゃないですか」
「ゴメンゴメン。あの後、兄にキチンと聞いたよ」
「えっ?」
「勿論、ラヤから聞いたとは言わなかったよ。いったい、どう言う意味かってしつこく聞いたんだ」
「ならイイですけど」
「そうしたら白状したよ。アソコの治療だったってね」
「そうですか」
「で、ここに来たのは、これをラヤに受け取って欲しくてね」
そう言いながら王子が私に差し出して来たモノ……って指輪?
石はダイヤモンドではなく紫色をしていた。地球のモノで例えれば、見た目はラピスラズリみたいな感じかな?
ただ、ラピスラズリとは、どうも違う。
何故って?
もの凄い魔力を石が放出していたんだよ。
そして、王子は私の左手を取ると、その指輪を私の薬指にはめた。
これって、もしかして婚約指輪?
まだ、私は、これを受け取ることにイエスともノーとも言っていないんですけど?
「石は魔石だよ」
「魔石?」
「ダイヤモンドよりもずっと貴重な石だよ。きっと、君が魔法を使う際に、この石がサポートしてくれるだろう。これを、是非受け取って欲しい」
「……」
「父も母も君のことは気に入ってくれたよ。僕と君との結婚を面白く思っていないのは兄だけだ」
「アナトリー王子が?」
「先を越されて、しかもカワイイ系美人が相手だって……要は嫉妬しているだけさ。別に嫌われているとかってわけじゃないよ。むしろ、兄が君のことを欲しがっていたくらいだからね」
「一つイイですか?」
「何だい?」
「この話は一万人の治療を終えてからに……」
「いや。今回、兄にあんなことを言われて思ったんだ。急がないと、他の男がちょっかい出してくるんじゃないかってね。結婚は、一万人の治療を終えてからでイイ。だから、僕の求婚をここで受け入れてくれ」
うーん……。
別に婚約したって、あんな感じのことを言う輩はゼロにはならないと思うけど……。
それでも、多少は抑止力になるって思っているのかな?
護衛達の前で、イヤですって私に言われたら王子が恥をかくだろうなぁ。
私の後にはエミリアもいるし。
本当にプライベートもへったくれも無いよね?
もっとも、王族貴族の結婚って政略的なものが絡むこともあるだろうし、もともと結婚自体がプライベートってわけじゃないんだろうけど。
別に、受け入れたくないってわけじゃないけどね。
むしろ、イケメン王子……って言うかイケメン権力者に強引に迫られて、イヤとも言えずに結婚……って、どこぞの漫画にあるような展開に憧れていたのは事実だもん。
それが、いよいよ現実化しそうって思うと、私自身もドキドキしている。
正直、嬉しいって思っているよ。
こんな恵まれた環境だもんね。イヤと言ったらバチが当たる。
それに、国王陛下や御后様が外来にいらした時の感じから、どちらもウェルカム状態に見えたしね。
「分かりました」
「ありがとう」
でも、これで一万人達成を急がなきゃって気持ちが強くなった。
一日も早く、このラヤの姿で固定するためにね。
固定できなかったら、それこそ、イリヤ王子から
『詐欺だ!』
って言われちゃうよ!
次回は閑話として、イリヤ王子がアナトリー王子に何を言われたのかの補足をさせていただきます。
本編は次々回からになります。




