114.やっぱり破壊神生活からは逃げられないか!
ここはラフルス伯爵の箱型四輪馬車の中。
座席に座る私の両脇には、ラフルス伯爵とケスノンキが、陰部をさらけ出しながら立っていた。
そう、まさに右を見ても左を見ても男性器の状態だ。
AVにありがちな設定だね。
そして私は、この父子を相手に、二本同時に…………包茎治療&増大を施していた。
ちなみに、Hなことはしていないからね。
あくまでも『性』行為じゃなくて『医療』行為だからね!
二人共、パワーアップした自分の持ち物を見て、うっとりしていたよ。
何処の世界に行っても、この治療は需要があるみたいだ。
これで二人分、治療(四十万SEN×2)と増大(四十万SEN×2)で百六十万SENゲットだぜ!
それから二時間後、私達は、チェネルペトンのギルド前に到着。
そして、私はギルドの中に入って行ったんだけど……、
「何処に行っていた?」
と、いきなり私はギルド長に言われた……と言うか、半ば怒られた感じだった。
「ラフルス伯爵のところに」
「領主様の?」
「はい。ケスノンキ様の治療のためにです。証人として、伯爵様もケスノンキ様も一緒に来て下さいました」
私の後に、ラフルス伯爵の姿を見つけると、さすがにギルド長も、私が言うことを信じてくれたよ。
それに、領主様が相手では、これ以上、何も言えないだろう。
やっぱり、同行していただいて良かった。
ただ、ギルド内は妙に騒然としていた。
私の治癒魔法を早急に必要としていたんだ。
ギルドの受付カウンター脇に設置された私の治療コーナーの前に、一人の男性が血だらけになって倒れていた。
その男性に向けて、女性治癒術師が治癒魔法を放っていたけど、出血を抑え、命を繋ぐのが限界みたいだった。
彼女のパワーでは、全然、状態改善には至っていなかったんだ。
男性は、右足を失っていた。
当然、治癒魔法を止めれば、その部位からは激しい出血を起こすだろう。
加えて、腹部には大きな傷があった。
内臓がはみ出そうなレベルだ。
勿論、治癒魔法を止めれば、そこからも一気に出血する。
私は、ギルド長に、
「何があったんですか?」
と聞いた。
いったい、何者がこんな重傷を負わせたんだろう?
すると、ギルド長は、
「北の森で、魔獣化したアロサウルスに襲われたらしい。あの男性のパーティは、半数がその魔獣に食われたそうだ」
と険しい顔で私に答えた。
ちなみにアロサウルスは、巨大な肉食恐竜ね。
地球ではジュラ紀に生息していたヤツだ。
この世界では、ここアロ王国と周辺諸国だけに生息する固有種らしい。
「マジですか?」
「ああ。その男性は片足を食われたが、仲間に背負われて、その仲間が火炎魔法を使って何とか逃げてきたらしい」
言葉足らずで分かりにくいけど、どうやら足の裏から火炎魔法を放って、ジェットエンジンの如く飛んで逃げ帰って来たってことらしい。
だったら、ラフルス伯爵も、火炎魔法が使える者を雇って飛んでくれば良かったのにね。
そうしたら、ケスノンキが心肺停止にまで陥ることは無かっただろうに……。
女性治癒術師の隣には、服が血だらけになった男性が呆然と立ち尽くしていた。
この男性が、怪我人を運んできた火炎魔法使いだろう。
火炎魔法使いは蒼褪めた顔をしていた。
仲間の半数が魔獣に食われ、しかも命からがら逃げてきた仲間の一人が、今、目の前で死にかけているんだからね。
当然の反応だろう。
とにかく、時は一刻を争う。
ちょっと横入りみたいだけど、私は女性治癒術師の後から、その怪我人に向けて、
「治癒魔法照射!」
先ず普通に治癒魔法を放った。
これで傷口を完全に塞ぎ、さらに造血促進を行ったんだ。
別に上位治癒魔法を使わなくても私の魔力は強烈だからね。
止血とか造血くらいなら、これで十分なんだ。
でも、これだけじゃ元に戻らない。
なので、続けて、
「上位治癒魔法照射!」
伝家の宝刀、上位魔法を放った。
これで、失った右足を再生。
そして、数秒後には、その男性の身体は完全復活!
治療終了だ。
この様子を見ていた人々は、
「マジか?」
「スゲー!」
「欠損部位が元に戻るとは……」
「奇跡だ!」
と歓喜の声を上げていた。
「これも二万SENなのかね?」
こう私に聞いて来たのはラフルス伯爵。
「そうです」
「本当に医療の大安売りだな」
「しかし、そうしませんと、患者達を借金地獄に落とすだけですので」
「たしかに、そうなんだが……。ただ、ここまで安過ぎると、他の治癒術師から苦情が来るぞ」
「それには慣れています。でも、そんなことよりですね……」
今、私が懸念しているのは同業者からのクレームなんかじゃない。
そんなのは、別に今更って感じだ。
むしろ、カヨワイ女性を演じていたのに、たった数日で、それを卒業しなければならないんじゃないかってことを心配しているよ。
魔獣化したアロサウルスが出現したってことは、誰かが、それを討伐しなくてはならないからね。
せっかく、この世界ではヤロウ共から『守ってあげたい存在』としてモテる女を目指していたのに!
案の定、アンリから、
「ラヤさん。魔獣討伐をお願いします」
最悪の依頼が来たよ。
まあ、読めていたけどね。
さようなら、カヨワイ私。
そして、改めてこんにちは、破壊神の私。
でも、この町のため、仕方が無いか。
「分かりました。ただ、現地までの移動はお願いします」
「それなら、そこにいる、怪我人を運んできた男性にお願いしましょう。場所も分かっているはずですし」
「そうですね」
私は腹をくくり、気合を入れるために両手で両頬を強く叩いた。
でも、私とアンリのやり取りを傍で聞いていたハンター達は、まさか私に魔獣を倒す力があるなんて思っていなかったからね。
「まさかラヤちゃんが?」
「おいおい。死ぬ気かよ!」
「って言うか殺す気か?」
「アンリ、お前、ムチャ振りにもほどがあるぞ!」
結構、ギルド内からは文句が出ていた。
それだけ、みんな私のことをカヨワイ女性って思ってくれていたんだね。
ラフルス伯爵も、
「君が戦うのか? いくら君が強力な魔力を持っていたとしても、相手は最凶最悪の魔獣だぞ。到底勝ち目なんて無いだろう?」
と、私が魔獣討伐に行くのを、一応否定してくれたよ。
いくら何でも、こんな小娘が魔獣化した凶悪肉食恐竜と戦うなんて、さすがに自殺行為だって思ってくれていたようだ。
多分、先入観からだけど。
それと、お互い、今日初めて会った相手だけど、私はケスノンキを治した上に、父子共々下半身のパワーアップを施してあげたからね。
それ相当に私に対して情が湧いたってのもあるんじゃないかな?
それで、余計に私を危険な目には合わせたくないって思ってくれた部分はあるだろう。
でも、そんな危ない魔獣を放置しておくわけには行かないからね。
討伐が最優先だ。
「大丈夫ですよ」
「いや、しかしだな」
「問題ありません。それで、この男性を連れて来てくれた方は、アナタですよね?」
私は、治癒術師の女性の隣にいた男性に声をかけた。
ターゲットの詳細な居場所を知っているのは、この男性しかいないからね。
「たしかに俺だが。本当に行くのか?」
「はい」
「死ぬ気かよ?」
「そんな気は毛頭ありませんよ」
「ただ、相手は魔獣と化したアロサウルスだぞ!」
「問題ありません。では、お願いします」
「……」
その男性は、余り乗り気では無いようだった。
私を人身御供の如く連れて行きたくないって言うのは、少なからずあるだろう。
ただ、それ以上に、そもそも論として、そのバケモノの前にもう一回行くのはイヤだってことなんだろうけど。
でも、ギルド長に、
「行け!」
と命じられると、渋々、私と一緒にギルドの外に出て、私をお姫様抱っこ……じゃなくておんぶした。
一応、ここは、お姫様抱っこが良かったんだけどな……。
そして、
「行くぞ!」
火炎魔法をジェットエンジンとして使い、まさにロケット……いや、ミサイルの如く、その場から飛び立った。
もの凄いスピードだった。
でも、これで怪我人を運んだのかよ。
よく搬送中に死ななかったな。
モノの五分程度で北の森に到着。
そこで私は探査魔法を発動した。
すぐに二脚歩行で巨大な恐竜の存在を確認。
しかも、ソイツは全身から強大な魔力を放っていた。
さすが魔獣化しただけのことはある。
一般には、とんでもなく怖いだろうね。
私は、その魔獣から五十メートル程離れたところに降ろされた。
運んできてくれた男性は、何時でもすぐに私を連れて逃げられるように、私の背後にピッタリとくっついていた。
少なくとも痴漢をするためにくっついていたわけじゃないよ!
魔獣と私の目が合った。
すると、その直後、魔獣が私達をエサと認識して、こっちに向かって猛スピードで突き進んで来た。
まさに、その大きな口を目一杯広げて、頭から私達に突っ込んでこようって感じだ。
そして、あと二十メートルくらいのところまで魔獣が迫ってきた時、私は、
「死ね!」
例の言葉を口にした。
次の瞬間、
「ブチッ!」
と激しい音を立てて魔獣の首が宙を舞った。
そう。最凶魔法が発動したんだ。
これで凶悪魔獣は絶命。
首から下は、その場に倒れ込んだ。
一方、刈られた首は、慣性の法則で私を目掛けて飛んで来た。
すぐさま私は、
「結界!」
結界魔法で透明のバリヤーを張った
バリヤーに魔獣の生首が激突。
これを目の当たりにして、私の背後では、火炎魔法使いが腰を抜かして、その場に座り込んでいた。
さすがに、全てが想像を超えた出来事だったってことなんだろう。
魔獣の首が飛んだのも、その首が目の前まで飛んで来たのも……。
まあ、仕方が無いか。
でも、一応、失禁はしていないみたいだね。
魔獣討伐の証拠に、この死体を持って帰った方が良いだろう。
それで、私は、結界を解除すると、ペルム世界に行く時に女神様にもらった死体ボックス……死体収納専用のアイテムボックスね……を開いた。
早速、ここに魔獣化したアロサウルスの死体を収納。
強烈な掃除機の如く、魔獣の身体も首も一気に吸い込んでくれた。
そして、
「帰りましょう」
腰を抜かした男性に、私は笑顔でそう言った。
ただ、その男性は、
「頼む。命だけは助けてくれ!」
何故か、そんなことを口走っていたよ。
余程、首が飛ぶのが怖かったんだろうね。
「そんなことしませんって。ただ」
「ただ?」
「私が首刎ねの魔法で魔獣を倒したことは内緒にしてもらえますか?」
「わ……分かった」
「それと、お名前を伺ってませんでしたけど」
「お……俺の名はハンスだ」
「ハンスさんですね。では、ギルドに戻りましょう」
「あ……ああ……」
ハンスは、再び私をおんぶすると、火炎魔法を使って、その場を飛び立った。
ただ、何故か小刻みに震えていたよ。
そんなに私のことが怖いのかな?
やっぱり怖いんだろうな。
魔法で簡単に首を刈れるんだもんね。
バージェス世界では、私の最凶魔法を見ても、ハルもナツミも怖がらずに一緒にいてくれた。
それどころか、当然のように食事をねだっていたっけ。
シルリア世界でも、フランをはじめ、ギルドの人達は、私の最凶魔法を知っても私を避けずに受け入れてくれていた。
特にフランなんか、最凶魔法を目の当たりにした直後に私に結婚を申し込んで来たくらいだからね。
だから、この魔法を見せたら、フランみたいに私のヒモを狙う輩が大量発生するんじゃないかって思っていた。
でも、どうやら逆みたいだね。
少なくともハンスは、ソッコーで私から遠ざかって行きそうな気配だよ。




