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106.旅立ち!

 その日の夜。

 私は、マントデア元国王とプレヴィン元侯爵に状況報告の場を設けさせていただいた。


「国王様、侯爵様」

「いや、我々は既に元国王に元侯爵。平民だ」

「いいえ。国民達は国王様と侯爵様の復帰を望んでいます」

「しかしだな……」

「既に王都の城、カセア城、クルッター男爵の屋敷は強固な結界で外界と遮断致しました。いずれも誰も出入り出来ない状態、即ち強制籠城状態にしております」

「えっ?」

「ですので、いずれ飢えと渇きから降伏することでしょう」

「……」


 なんか、マントデア元国王とプレヴィン元侯爵の視線が冷たく感じる。

 もしかして、全然信じていないのかな?



「あと、トライロバイト王国が召喚した三銃士は片付けました」

「はぁ?」

「もう、怖いモノは在りません」

「ちょっと待て。我々の四肢を再生してくれたことには感謝している。しかし、イイカゲンなことを言うのも大概にしろ!」


 なんか、急にマントデア元国王が怒り出しちゃったんですけど?

 どうやら、超結界のことも中二病トリオのことも信じてくれていないようだ。



 最初にカセア城の結界を破壊した時に、私は分厚い結界を張って収縮し、元々張られていた結界を圧し潰した……と言うか破壊した。

 でも、元国王にも元侯爵にも、その詳細については話していなかった。


 単に、

『結界は、さっき、私が破壊しました』

 としか言わなかったんだよね。


 なので、私が強力な結界を張れる人間とは思わなかったんだろう。

 単に、結界を破壊できる特殊能力を持っていると解釈していたのかも知れない。



 それと、中二病トリオの強大……と言うか凶悪な力のことも、元国王も元侯爵も知っていた。

 なので、

『あの三人が簡単にやられるはずが無いだろう!』

 って先入観を持っていたんだろうね。

 私が倒したってことが、到底信じられないってことだ。


 それに、仮に私が彼等を倒せる力を持っていたとしても、私とアデラが外に出ていたのはホンの数時間。

 そんな短時間で、あの三人をまとめて撃破するのは、到底、不可能だって思っているんだろう。

 まあ、それが常識的に考えて普通の発想だよね?



 だけど、忠臣アデラが、

「ラヤ様の仰ることに偽りはございません」

 と口添えしてくれた。


「それは、本当なのか?」

「はい。この命にかけて。ラヤ様は常識の枠を超えた聖女として、マントデア元国王とプレヴィン元侯爵の欠損部位を再生されました」

「たしかにそうだが、だからと言って、あの三銃士を倒せるとは到底思えんが?」

「一般に、対極的な魔法は使いこなせない。共に強大であれば使うこと自体が不可能。そう仰りたいのでしょう?」

「そうだ」

「しかし、聖女は、ラヤ様の仮の姿です。恐れながら申し上げます。ラヤ様は三大魔獣異常発生区域の魔獣共を大量に間引きしました」

「ちょっと待て。それは些か信じ難いが?」

「事実でございます。ラヤ様は、一見可憐な少女でございますが、中身は女神ロリダ様の教令輪身、つまり荒神様でございます。見た目に囚われてはいけません」

「信じられんが……。しかし、アデラがそこまで言うのなら事実なのだろう」

「ありがとうございます」


 なんか、勝手に神様にされちゃったけど?

 でも、アデラのお陰で、二人とも何とか信じてくれるようになったっぽい。


 さすがアデラ!

 信頼が厚いね!


 …

 …

 …


 翌日、私とアデラは、マントデア元国王とプレヴィン元侯爵を同行させて、トライロバイト王国内のアチコチを回った。

 アデラの転移魔法があるから、移動自体はムチャクチャ楽だったよ。


 私は、マントデア元国王やプレヴィン元侯爵を救出した時と同じような方法で、トライロバイト王国の各所で捕えられている元領主達を解放し、さらにトライロバイト王国の貴族や軍人達を次々と強制籠城化していった。


「まさか、こんなことが……」

「いやはや、参った」


 元国王も元侯爵も、こんなことが本当にできるのかって驚いていたよ。

 やっぱり、百聞は一見に如かずだね!



 その日のうちに、やるべきこと……つまり、全ての元領主達の解放と、トライロバイト王国の全貴族や全軍人達の強制籠城化は終わった。


 これもアデラのお陰だよ。

 移動時間がゼロに等しいからね。



 もし、これが徒歩での移動だったら、何日かかったか分からない。

 それに、時間がかかれば、それだけ現領主共の間に、城の状況とかクルッター男爵の状況とかの情報が出回ってしまう。

 なので、昨日今日で全ての領主共を超結界内に閉じ込められたのは大きいと思う。



 それから、今日、マントデア元国王とプレヴィン元侯爵に同行してもらったのは、解放した元貴族達と引き合わせるためでもあった。


 二人と会うだけで、元貴族達もトライロバイト王国討伐に向けてのモチベーションが上がるだろうからね。


 …

 …

 …


 その日の夜、私は夢の中で再び女神ロリダ様と会っていた。

 勿論、ロリダ様は、アキとそっくりの姿をした状態だったよ。

 余程気に入ったんだね、そのエロい容姿が……。


 この時、何故か私の両隣にはアデラとエルマの姿があった。二人共、ロリダ様を前に緊張した様子だった。

 タイミング的には、多分、私に次の指令が言い渡される頃合いだと思うんだけど、どうして二人が一緒にいるんだろう?


「ラヤ。お疲れ様でした」

「一先ず、ロリダ様からの依頼は、一通り終えたかと思います」

「そうですね。あとは、ラヤが張った結界を、いつ解除するかだけですが、これは、中の者達が飢えと渇きから死の直前にまで達した時に、自動解除されるよう、私の方で設定しておきます」

「分かりました」

「それから、各結界が解除される直前に、その地に向かうよう、私からアデラに啓示を授けます。アデラ、よろしいですね?」

「は……はい!」

「そして、中の者達を捕え、元の領主達に順次領地を治めてもらうようにします。また、同様にカセア城もアプソロブラッティナ侯爵からマントデア国王へと明け渡してもらいます。それから、トライロバイト王国をどうするかですが、これは、一先ずマントデア王国やブラットデア王国の采配に任せてみようかと思います。これからアデラには、マントデア国王やプレヴィン侯爵の元で、色々と働いてもらいますよ」

「はい。仰せのままに」


 ペルム世界でのことは、一先ず、ロリダ様とアデラで対応してくれるってことか。

 と言うことは、私は既に用無しだね。

 さて、次は何処に行くんだろう?


「それからラヤ」

「はい?」

「アナタには、今からエルマを連れて旅立ってもらいます」

「エルマを?」

「そうです。パンゲアの実を食べた以上、エルマの願いは絶対です。ラヤとの同行を願うのであれば、彼女には一緒に旅立つことを許可します」


 旅立ちは覚悟していたけど、エルマの同行を、ロリダ様が許可されるとは思っていなかったよ。

 さすがに、これには驚かされた。

 まあ、私としては、仲間がいてくれた方が有難いけど……。


「でも、旅立つって、行き先は何処になるのでしょうか?」

「トリアスの世界です。その世界は、別の宇宙に位置しますが、その宇宙も私が治めております。但し、次の世界では上位治癒魔法(エクスヒール)は使えますが、上位領域内治癒魔法(エリア・エクスヒール)の使用は禁止します。それから、物質創製魔法にも色々と制限をかけます」

「そうですか」


 まあ、今までが便利過ぎたからね。

 これは仕方が無いかも知れない。


 次の世界で私と近しい存在になる人達が堕落しないようにって意味なんだと思うけど、正直言って、このままだと私の方が先に堕落しそうだよ。

 ナツミなんか、完全に堕落していたからね。



 ただ、予想はしていたけど、やっぱりトライロバイト王国をどうするのか、最終的な決着を見届けることなく私は旅立つってことだ。


 そう言えば、トモティ世界でもそうだったな。

 あの時、私が戦争を食い止めたけど、最終的にケプラー総統をどうするかまでは、私は立ち会わなかったもんね。


 まあ、政治的なことは、私じゃなくて、この世界の然るべき人達に任せればイイってことだ。

 ムリに私が介入する必要は無い。



 一方、エルマだけど、この女神様の言葉を聞いて、

「別の宇宙って、どういう意味ですか?」

 と言いながら怪訝そうな表情を見せていた。


 科学の『か』の字も無いようなこの世界で、別の宇宙と言われても、全く意味が分からないだろう。


 しかし、彼女は何となくだけど言葉の意味を理解していた。つまり、行き先は、この世界の中にある国ではなく異世界であると。


「このペルムの世界とは全く違う世界です。そこには、ここと同じように多くの人々が住んでいます」

「では、やっぱり、この世界から離れると言うことでしょうか?」

「そうなります」

「戻って来れるのでしょうか?」

「多分、戻れません」

「でも、それだと困ります。私は、私やシメナのような子供達のために、私が以前いたような施設をこの世界に作りたいんです。そのために、ご主人様から軍資金も与えられていますし……」

「では、ラヤとずっと一緒にいるとの願いはキャンセルと言うことでしょうか?」

「キャンセルしたくありませんけど……」

「それでは、ラヤに同行するのは先送りと言うことにしましょうか? 近い将来、その機会を与えられるようにすると言うことで」

「あ……ありがとうございます。でも、ご主人様とは、一旦、離れ離れになると言うことでしょうか?」

「そうなります。それが、ラヤに課せられた使命ですから」

「そうですか……」


 この時、エルマは、ちょっと寂しそうな顔をしていた。

 でも、それだけ懐いてくれて、私としては十分嬉しいよ。

 今まで一緒にいてくれてありがとう。


「それから、アデラもエルマもラヤも、かなりの数の白金貨を持っていますが、白金貨は正直、使い難いでしょう。ですので、一枚だけ記念に残し、他は使いやすいように全て金貨、小金貨、銀貨に両替しておきます。では、ラヤ」

「はい?」

「次に目が覚めた時には、アナタは別の世界にいます。今度は、魔獣退治がメインではなく、聖女として働いてもらいます」

「分かりました」

「よろしくお願いしますよ」


 そうロリダ様に言われると、急に目の前が真っ暗になった。ロリダ様のいる高次元の世界から、何処か別の三次元世界に飛ばされたってことだ。

 もっとも、真っ暗なのは、私が眠っているからだろうけど……。


 …

 …

 …


 アデラとエルマが目を覚ました。

 二人に挟まれて眠っているラヤの姿を見て、二人共、ほっと胸をなでおろした。

 ラヤは、別の世界に飛ばされてなんかいない。

 まだ、この世界にいてくれると思ったのだ。

 なので、女神ロリダに会っていたのは、単なる夢の中の出来事と判断した。


 しかし、突然、ラヤの身体が神々しく輝いたかと思うと、彼女の身体が蒸発するかのように消えて行った。

 別世界に転移したのだ。


 これには、二人共、

「嘘? 何で?」

 と声を出して驚いたが、同時に、さっきまで見ていたモノが、夢ではなく現実であることを悟った。


 …

 …

 …


 一方、私、ラヤは目を覚ますと、例の如く土が剥き出しの路上の脇で膝を抱えて座っていた。

 体育座りの状態で眠っていたと言うことだ。


「ここがトリアスの世界?」


 嬉しいことに、ペルム世界で施した豊胸とかウエスト減とか、脚の伸長とかは保持されていた。

 一応、この状態で固定されたと信じているけど……。

 戻ったりしないよね?



 私は、早速、チャットボット機能を立ち上げた。

 この世界の状況を確認するためだ。


 ただ、この世界の背景は、今までの、どの世界とも違ったものだった。

 だって、全員ニート化したような世界なんだよ?

 それでいて、伝染病が世界中で蔓延している。


「もしかして、この世界を、上位領域内治癒魔法(エリア・エクスヒール)無しで何とかしろってこと?」


 もの凄く私の負荷が大きいように思うんですけど?

 さすがに私も、唖然としたよ。

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