表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

11/202

11.ロケットパンチ!

 昼食を終えた時間を見計らったかのように、教会に……と言うか食堂に、

「こんにちは!」

 元気な声でイリヤ王子が入ってきた。

 勿論、転移魔法使いのエレーナさんと侍女のナタリアさんに同行してもらっているけど、何しに来たんだろ?


「こんにちは」

「早速だけど、国王陛下からの許可が出たんでラヤのところに来たんだ」

「許可?」

「僕とラヤの結婚のね」

「えっ?」

「なので、今日は正式に結婚を申し込みに来たんだ」


 その話かぁ!

 ええと……。

 教会の食堂で、しかも独身アラサー四人が見守る中でって、正直、雰囲気もへったくれもないなぁ。



 まあ、オリガ導師もフランチェスカさんも、別に私のことを嫉妬の視線で見たり……なんかしてるか。

 おまけにエレーナさんとナタリアさんの視線も嫉妬が混ざっているな。

 うーん。王子には、少し、その辺のところにも気を使ってもらいたかったな。


 今、この瞬間に、私は、このブロッキニア王国のほとんどの独身女性を敵に回したんだろうね。

 だって、イケメン王子を独り占め状態だもん!



 まあ、ノロケは、この辺までにしておいて。

 別に断る理由は無いよ。

 でも、私にも条件がある。


「ありがとうございます」

「受けてくれるか?」

「お受けするのは構いませんが、ただ、一つだけ条件があります」

「条件?」

「はい。私が治癒魔法で一万人治すまで、お付き合いするのは、待っていただきたいのです」

「今、何人?」

「155人です」

「まだ先は長いなぁ」

「でも、これは私と女神リニフローラ様の約束事項ですので、それが私には最優先なんです」

「別に結婚してからでも診療は出来るんじゃないか? 再診する人だっているだろうし」

「いえ。再診の方はカウントされないルールになっているんです」

「うーん……」


 多分、イリヤ王子は、基本的に私を城内にいさせて、城内の患者だけを診させようって思っていたんだろう。

 それから、外部から私に診てもらいたいって依頼があっても、私じゃなきゃ対応できない患者に対してだけ私を派遣するって形を取ろうって思っていたんじゃないかなぁ?


 でも、再診がダメとなると城に閉じこもるわけには行かない。

 外部に対して私を出し惜しみすることも出来ない。


 何せ私が約束した相手が女神様だからね。絶対に約束は守らなきゃいけない。

 それくらいのことは、イリヤ王子も分かってくれているはず。

 なので、彼もこれ以上は無理強いをしてこないだろう。

 当然、待ってくれるよね?



 それから、女神様の約束って言葉を使ったけど、一応、私は一万人を治さないと大田原金之助の姿に戻ってしまうってことだけはイリヤ王子に伏せた。

 前世が男だって知ったら王子も嫌がるだろうと思ったからだ。


 私は、たまたま前世の記憶があるだけで、恐らく普通は、いちいち前世の性別なんて考えないだろう。

 例えば、今、地球で生きている人達だって前世で別の性だった可能性があるけど、そこまで気にする人はいない。今の性別が恋愛対象に反映する。

 なので、イリヤ王子だって、私が前世で男だって知っても大した問題じゃないって言ってくれるような気がする。


 でも、少なくとも大田原金之助の影が私の中でちらついている間は、王子を騙しているみたいで、なんとなくイヤだったんだ。

 それで、完全に前世の姿との決別が確定するまでは、絶対に恋愛も結婚もしたくないって思っていたんだ。


 すると、ここでイリヤ王子から、

「じゃあ、ここと王都と両方で診療しない?」

 ってご提案が。


「えっ?」

「例えばさ、曜日を決めて王都に来るとか、午前中はこっちで午後に王都で診察するとか。転移魔法使いを一人つけるからさ。新人の娘で丁度イイのがいるから。エミリアって娘なんだけどね」

「はぁ……」


 たしかに、これなら患者数を増やせる。目標値に届きやすくなるだろう。

 それに、イリヤ王子も私に会いに来やすくなる。

 まあ、悪い提案じゃないか。


「どうかな?」

「オリガ導師とフランチェスカさんの意見も聞かないと……」


 すると、

「私はOKだよ。午前中にこっちで、午後に王都に行けばイイよ。ただ、私の休診日だけは一日中、こっちにいてもらうけど」

 とオリガ導師。


 フランチェスカさんも、

「分かりました。では、二人で診察するのは週三日ですので、その日の午後に王都に行っていただくことで了承します」

 との回答。


 まあ、王子からの申し出だからね。断れないのが本当のところだろう。

 と言うことで、この世界も地球と同じで一週間は七日なんだけど、来週から、私は週三日、午後に王都に行くことにソッコー決まった。



 翌週。

 この日は午後に王都に行く日。

 午前中の診療が終わった段階で、私のステータス画面には、355/10,000との表記がなされていた。


 実を言うと、あの後、遠方からの患者数がグンと減ったんだ。

 だって、治ったらもう来ないもん!

 どうせ再診じゃ来てもらってもカウント外だけど……。


 来てくれる患者も、ほとんどが怪我で再診とか、夏風邪で再診とか、食べ過ぎで腹痛を起こした子供の再診とかで、カウント数が増えなくなってきたんだ。

 なので、王都に行けるのは大きい。


 これまでも王都から転移魔法で受診に来ていた人はいたけど、転移魔法使いを雇える人なんて、そう多くは無い。

 なので、王都からここまで受診に来たくても来れない人の方が多いはず!

 故に、多分だけど、王都に行けばカウントが稼げるようになるはずだよね?


「こんにちは!」

 女性の声だ。

「はい?」

 私が出ると、そこには私と同年代の少女が一人いた。


「エミリアと申します。ラヤ様をお迎えに上がりました」

「イリヤ王子が仰っていた方ですね。私がラヤです。よろしくお願いします」

「こちらこそ。私は転移魔法使いですが、ラヤ様の護衛の任務も与えられております。こちらに戻られるまで、ずっと付きっ切りで警護させていただきます」

「ありがとうございます。じゃあ、ちょっと待ってて」


 私は、オリガ導師とフランチェスカさんに、王都からのお迎えが来たことを報告した。

 要は、これから出発しますってこと。


「じゃあ、オリガ導師、フランチェスカさん。迎えが来たので、これから王都まで行ってきます」

「気を付けてね」


 一応、声をかけておかないとね。

 急にいなくなったら心配するだろうから。


「お待たせしました」

「では、行きます!」


 その直後、私は今までいたタテイの町とは全然風景の違うところに立っていた。

 そこは、お城のすぐ近くの路上。

 王都レダクタに入ったんだ。

 初めての王都……。

 ええと、初めての嘔吐じゃないよ!



 転移魔法での移動は、ノーソラム共和国にいた頃以来だな。

 少なくとも、こっちの世界に来てからは初めての転移魔法だ……と思う。


 お城が見える反対側には大きな建物があって、既に沢山の人達が並んでいた。

「こちらの、ヘクチオイデス大聖殿になります」

 まさか大聖殿とは……。

 私は、エミリアに案内されて、その大聖殿に入っていった。



 その中は、まるで体育館のように広々とした空間が広がっていた。

 その端の方に人だかりができていたけど、何だろう?


 すると、

「ラヤさんですね。丁度急患が運ばれてきました。一刻を争いますので、至急来てください」

 と初老の男性に声をかけられた。エミリアが同行している小娘ってことで、私がラヤだって分かったんだろう。


 ただ、その男性は、こっちの世界では初めて見るアジア系の顔。

 非常に珍しいな。



 彼に連れられて、私は、その人だかりの中に入っていった。

 すると、その真ん中には、二人の男性患者がいた。


 片方は、右腕を肘のちょっと上辺りから切断。腕は持って来ているけど、まだ繋がれていない。

 もう一人は両足共に膝から下が複雑骨折。

 いったい何があったの?


「工事現場で事故が起こりまして、軽傷者は全て診察室に運び、他の者が対応しております。ラヤさんには、この二人を早急にお願いします」

「わ……分かりました」


 早速だね。

 でも、毎度ながら周りの野次馬達は懐疑的な目で私を見ているよ。

 そりゃあ、こんな小娘が治療できるなんて思っていないだろうからね。


 まあ、患者さん達は、そんな視線を送る余裕なんてないみたいだけど。

 でも、やるべきことはキチンとやるよ!



 まず、右腕を切断した方。

 私は彼の方に両掌を向けて治癒魔法照射(ヒール)

 すると、置かれていた右腕が宙に浮き、まるで発射されたロケットパンチが定位置に戻って来たかのように元通りくっついた。

 その間、十秒足らず。


 でも、これで終わりじゃない。私は、切断されていた部分を両手で押さえた。

 ただくっつけただけじゃダメなんだって。そう、辞書機能の中に書いてある。神経がキチンと信号伝達できるように調整する必要があるんだ。


 そして、再び約五秒間の治癒魔法照射(ヒール)

 多分、これで大丈夫。


「指を動かしてください」

「あっ……はい」

「動きますか?」

「大丈夫です」

「肘は動きますか?」

「動く! 動きます!」


 これで一人目完了。

 すると、野次馬達の中から、

「おおぉぉぉ!」

 と歓喜の声が。


 急に私を見る目が変わったよ。

 懐疑的な視線から期待の視線に変わった。



 で、もう一人は両足複雑骨折か。

 私は、その男性の両足首を軽く握った。そして、治癒魔法照射(ヒール)


 その十秒後、完全に彼の両足は元通りに戻った。

 ただ、その患者さんの問題は、これだけじゃなかった。


 私は、彼の腹に右手を当てると、再び治癒魔法照射(ヒール)

 周りの人は導師達も含めて、私と、私に声をかけてきた初老の男性以外は気付いていなかったみたいだけど、実は、この男性患者さんは腹部大動脈瘤があったんだ。


 でも、自覚症状は無かったみたいだし、これを治して欲しいって言われていたわけじゃなかったので、これはサービス。

 治しておかないとマズいからね。両足複雑骨折を治しても、こっちを残していたら、いつ死んでもおかしくないからさ。


 一応、私は、

「念のため、他の場所にも異常が無いか診察しました。特に問題はありません、大丈夫です」

 と言って誤魔化したけどね。


「では、足を動かしてください。違和感等ありますか?」

「大丈夫です。問題ありません」

 いきなり、とんでもない患者を診ることになったけど、健常状態に戻れて良かったね。


 この時だった。野次馬達の中から、

「聖女様だ!」

「そうだ。まさに聖女様だ!」

「聖女様がご降臨なされた!」

 なんか、私を思い切り讃えてくれる声が上がったんだけど……。

 そう言われてイヤな気はしないけどね。そもそも中二だし。



 前にも、ブロメリオイデス教会で、すい臓がん患者の治療をした時にオリガ導師も私のことを聖女って言っていたし、その時の患者も私が聖女って信じちゃったってこともあったけどさ。

 ただ、これだけ大人数に言われると、なんだか恥ずかしいし、全身がむず痒くなってきたよ。


 おまけに、両ひざをついて両手を合わせて、

「聖女様……」

「ありがたや……」

 なんてお祈りし始める人まで出てきたし。

 持ち上げ過ぎだってば!


 信仰の対象にされているみたいで、正直、この場からちょっと逃げたい。

 そもそも私は元殺人鬼だし、そんな聖女なんて大それた存在じゃないんだからさ。



 恥ずかしくて、どう振る舞って良いか分からない状態の私に、エミリアが、

「この方が、この大聖殿の導師長、ケイイチロウ様です」

 とアジア系顔の初老の男性を紹介してきた。


 えっ?

 もしかして日本人?


「ええと、ラヤと申します。失礼ですが、もしかして日本の方ですか?」

「良くお分かりで。二十代の頃に、こっちの世界に夫婦で転移してきました」

「夫婦で……ですか?」

「そうです。では、ラヤさんも日本から?」

「はい。ただ、私の場合は、日本から一旦こことは違う異世界に転移しまして、その後に、こっちの世界に転生しました」

「なるほど。それにしても、噂通りの凄い治癒魔法ですねぇ。多分、この世界でダントツでしょう。イリヤ王子からは、妻を超える存在と伺っておりましたし」

「えっ? 妻って?」

「実は、教皇は私の妻なんですよ。夫婦そろって導師をやっています」

「そうだったんですか?」

「まあ、間違いなく妻よりも凄いですね。切断された腕の治療が合計十五秒。両足複雑骨折が十秒。それと、こっそり腹部大動脈瘤も治したでしょ」

「あれは、本人からの訴えはありませんでしたのでサービスにしておいてください」

「分かっています」

「本人の訴えが無いと治療しては法に触れると聞いていますけど、放っておいたら破裂して死んじゃうかも知れませんので」

「そうですね。まあ、何も無かったことにしておきましょう。その方が患者さんも不安にならないで済みます」

「そうですね」

「では、ラヤさん用の診察室に案内します。さっきの二人は、下手に動かしたくなかったのと、そろそろラヤさんが来られると聞いていましたので、ラヤさんが来たらすぐに診ていただけるように、ここにいてもらいましたが、通常は、この先の個室で診察していただきます」

「よろしくお願いします」


 と言うわけで、私はケイイチロウ導師長に奥の部屋まで案内された。

 勿論、エミリアも私の警護なので同室することになるけどね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ