101.奴隷解放!
一応、私達は超大陸中央の大砂漠を避けて移動することにした。
万が一、転移先が砂地獄だったりするとマズいからね。先を急ぎたいのは山々だけど、安全確保も大事だ。
アデラの転移魔法の最長移動距離は二百キロ。
申し訳ないけど、彼女には何回も転移魔法を繰り返してもらった。
でも、ムリはさせられないからね。
彼女がいくら頑丈でも、最大移動距離の転移を数回繰り返せばガス欠になる。
それで、転移を行う度に、私が回復魔法でアデラの体力を復活させることにした。
先ず私達は、コエラカントゥス山脈の麓の街セイムリアから北東に向かい、冷涼地帯に入ると、そこから東に進んだ。
海岸……超大陸の最東端に出ると、そこは既に日が傾いていた。
時差が八時間くらいあるからね。
これは仕方が無い。
ここから私達は、南下して亜熱帯地方まで突き進んだ後、西に進路を変えた。
なんか、とてつもなく大回りした感じだ。
単に砂漠地帯を避けるだけなら、ここまで派手な迂回は必要なかったんだけど、アデラもエルマもシメナも海を見たことが無かったらしくてね。
三人揃って、
『是非見てみたい!』
って言うもんだからさ。
それで、敢えて海岸線まで出るルートにしたってことだ。
そして、移動開始から数時間でコルダイテス高原の東に位置する街フズリナに到着。
移動距離は一万キロを超えたかも……。
その結果、アデラには何十回も転移魔法を使わせることになったけど、こっちには回復魔法がある。
お陰で、アデラは元気ハツラツなままだ。
本当に回復魔法には助けられているよ。
感謝だね。
と言うか、何でもアリだね! 魔法って便利!
フズリナとセイムリアの時差は四時間くらい。
私達の感覚としては、朝出発して数時間だから、これからお昼ごはんってとこなんだけど、この地域は、もうすぐ夕方になる。
一応、この地域の時間に慣らさないといけないから、マトモな食事は夕食まで……あと数時間だけ我慢してもらうことにした。
でも、代わりに、
「出ろ!」
おやつを出してあげたよ。
常夏の熱帯地方ってことで、今回はアイスクリームだ。
やっぱり暑いんだもん!
アデラ達は、アイスクリームを食べるのが……、いや、それどころか見るのすら生まれて初めてらしく、
「冷たくて嬉しい!」
味よりも冷え冷えの食べ物であることを喜んでいたかも?
まあ、気持ちは分かるよ。
この日は、フズリナで宿をとることにした。
コルダイテス高原はフズリナから西に広がっている。
これが完全徒歩での移動だったら、街の西の方の宿に泊まった方が、明日の移動は間違いなく楽になる。
しかし、今はアデラの転移魔法がある。
お陰でムリに西の方の宿に拘る必要は無い。
それで、私達はパッと目に留まった宿にソッコーで入ることにした。
でも、その前に、
「二重大結界!」
私はコルダイテス高原全体に二重結界を張った。
さらに、
「縮小!」
今までと同様に、内側の結界だけ面積を限界まで縮小した。魔獣共を部分結界に閉じ込めるためだ。
それと、コルダイテス高原が、ちょっとどんな状態か気になる。
と言うことで私は、
「探索!」
探査魔法を発動した。
すると、魔獣共の邪気に満ちたエネルギーを至る所に感知したよ。
ただ、残念なことに人類や亜人と思われる反応は、ここフズリナの街以外には一切感じられなかった。
多分、高原内の街は全て魔獣達に破壊され、人々は全員殺されたってことだろう。
仮に生きていたとしても、この距離では感知できないレベルの生体エネルギーしかない状態……つまり、半死半生に違いない。
今すぐ救助できなければ死んでしまうレベルだ。
何の手掛かりも無しに、広大なコルダイテス高原内で大至急探し出すのは、事実上不可能だろう。
急いで魔獣退治をガツンガツン行ないたいところだけど、ここからの移動もアデラに頼らなくてはならない。
いくら回復魔法をかけているとは言っても、キチンとした休息は取らせないとね。
それで私は、今日の作業はここまでにして宿に入ることにしたんだ。
…
…
…
翌日、私達は宿を出発すると、早速アデラの転移魔法で最も近い部分結界まで一気に移動した。
そこは、フズリナの街から五百キロほど離れたところだった。
捕えられた魔獣を見て驚いたよ。
いきなりだけど、部分結界内にいたのはティラノサウルスだった。
こんなのがいたなんてね。
しかも、魔獣大量発生区域だからね。
他にも数多くのティラノサウルスがいることが容易に予想される。そりゃあ、高原内の街が全滅するはずだよ。
ところで、ティラノサウルスとマンティコアって、どっちの方が、よりがヤバい魔獣だろう?
一度戦わせてみたいな。
なんてことを考えながら、
「死ね!」
私はティラノサウルスに最凶魔法を放った。
その後、
「死体回収!」
例の如く死体ボックスを開いてティラノサウルスの死体を収納した。
そこからさらに、私達は近いところから順々にアデラの転移魔法で部分結界を巡りながら、中に捕らえられていた魔獣共を始末していった。
ただ、コルダイテス高原の魔獣ってマジでヤバい。
最初のティラノサウルスだけでも度肝を抜かれたけど、その後、ブレキオサウルス型、トリケラトプス型、ラプトル型等、恐竜タイプの魔獣しかいなかったんだよ!
草食の恐竜型魔獣は、付近の植物をガツンガツン食べちゃって、広範囲にわたって完全に植物が絶滅状態。
肉食のヤツ等は……言うまでも無く凶暴でヤバいよね。
しかも、思った通りティラノサウルス型が何頭もいた。
もはや完全に地獄だよ、ここは。
とにかく、私は全力でコイツ等を葬って行った。
この日の午後に、私達は巨大な街を見つけた。
高い壁に覆われていて、完全に要塞都市と言っても良いような感じだった。
でも、ゲートは壊されていたし、中からは人の気配が全然感じられなかったよ。
既に全滅した後だった。
自然界の魔力の歪み具合だけなら、最初に大掃除したアカントーデス平野の方が強いんだろうけど、魔獣のヤバさでは、このコルダイテス高原の方が上じゃないかな?
なんか、そんな感じがしてきたよ。
それから数日間、私は、
「死ね!」
至る所で、この台詞ばかりを繰り返した。
最凶魔法発動の言葉だけどさ、少なくとも詠唱とは言えないよね、内容的に。
そして、最後の部分結界内の魔獣共を処理した後、
「ラヤ様、お疲れ様でした」
とアデラが私に労いの言葉をかけてくれた。
私も、
「アデラこそ、転移魔法で私に協力してくれてありがとう」
アデラには御礼申し上げたけどね。
結構、それなりに時間はかかったけど、三か所の魔獣大量発生区域での魔獣根絶作業は一通り終わった。
あと、私が女神ロリダ様から受けた依頼は一つだけだ。
その依頼を果たすために、私は、
「それで、申し訳ないんだけど、ここから一気に南下してくれる?」
アデラにお願いして、コルダイテス高原から遥か南に位置する海岸まで連続転移で移動してもらった。
どうしても海岸に出る必要があったんだ。
海岸に到着すると、すぐに、
「時間停止!」
悪いけど、私はシメナの時間だけを止めた。
女神様にお願いして、今日だけちょっと特別な魔法を二つだけ使えるようにしてもらったんだ。
その一つ目が、この時間停止魔法。
そして、私は、
「アデラとエルマに分け前を与えます。振り込み!」
私のアイテムボックス……死体ボックスじゃない方……から二人のアイテムボックスの中に、ウェイゲルティ地区のダンジョンで稼いだお金を送金した。
一応、三分の一ずつってことでね。
実は、この送金魔法が二つ目の特殊魔法ね。
正直言うと、二人に送金するのをシメナには見られたくなかったから、彼女の時間だけ止めたんだ。
さすがに彼女の目の前で、彼女だけ分け前無しのやり取りをするのは可哀そうだからね。
送金するお金のメインは白金貨だし。
この段階では、アデラもエルマも何が起きたのか分からないって顔をしていた。
でも、私に、
「アイテムボックスの中を確認して」
と言われてアイテムボックスを開いた途端、二人共、顔が硬直した。
そりゃあそうだよね。いつの間にかアイテムボックスの中に、白金貨を中心に沢山のお金が入っていたんだもん。
驚きの余り、思考が停止しても不思議じゃない。
一瞬の間をおいて、
「こんな大金、いただけません!」
「私もです!」
二人共、受け取りを拒否して来たけど、今後、二人共、間違いなく大金が必要になるはずだからね。
なので、受け取ってもらうよ。
「このお金は、私の元で働いてくれた対価としてアデラとエルマに受け取ってもらいたいのよ。それと、今日で二人共奴隷から解放するね」
「解放って、どう言うことですか?」
「契約解除!」
私は、特段、何の説明も無しに、強行突破で奴隷契約を解除した。二人とも納得できないような顔をしていたけどね。
でも、奴隷から解放されるのがイヤなのかな?
そんなに私の奴隷でいたいのだろうか?
もしかして、奴隷じゃなくなったら美味しいモノが食べられなくなるから奴隷でいたいとか、そんなオチじゃないよね?
二人の胸元から奴隷紋が消えた。
これで二人とも自由だ!
「二人の境遇は理解しているよ。アデラは以前仕えていた領主が捕らえられていて、その救出がしたいんでしょ? でも、そのためには人を集めなくてはならないだろうし、集めた人達に対価を支払わなくてはならないよね? だから、そのお金は、そのために使ってもらいたいの。それから、エルマは施設を復活させたいんでしょ? だったら、そのために、そのお金を使って頂戴」
「……」
「それと、二人を奴隷から解放したのには理由があるのよ。これから私は海を渡って、この世界にあるもう一つの大陸に渡らなくちゃならないの。そこに、二人を連れて行くのは、私としてもちょっと抵抗があってね……」
つまり、二人を特殊人族に会わせて良いものか、私も迷ったってこと。今までの常識が完全に覆ってしまう気がしたからさ。
別に見て気持ち悪いモノとか怖いモノってわけじゃないんだけど、普通では感性がついて行けない気がしたんだよ。
でも、二人共、
「お供します!」
私についてくる気マンマンだったよ。
「もう、二人共奴隷じゃないんだよ」
「なら、友人として同行させてください。それに、私の転移魔法があった方が移動には便利でしょう?」
こう言ったのはアデラ。
たしかに、彼女の言う通り、来てもらえた方が助かるのは事実だ。
一緒にいてもらえた方がありがたいって、私だって本音では思っている。
正直、心が動いた。
一方のエルマも、
「私は、これからもご主人様をお守りしたいです。それに、パンゲアの実を食べた時に、ずっとご主人様と一緒にいたいってお願いしました。だから離れません!」
と言ってくれた。
でも、パンゲアの実を食べた時に一緒にいるって願ったから離れたくないって、ちょっと話がズレている気がするけど……。
まあ、下手に突っ込むのはやめておこう。
「ただね。これから行くところには、かなり変わった亜人がいるんだけど……」
「大丈夫です。ラヤ様以上に常識の枠を飛び越えた人や亜人はいないでしょうから」
「何となく言いたいことは分かるんだけど……、でも、アデラが思っている非常識とは随分とベクトルが違う気がするんだけどね」
「問題ありません」
「分かったよ。ただ、これから行く大陸のことは、他言無用でお願いね」
「承知しました」
「それと、もう主人と奴隷じゃないからさ。アデラもエルマも普通に話して欲しいんだけど」
「私は、今までの方が話しやすいです。それに、奴隷でなくなったとしても、今はラヤ様にお仕えしたい所存です」
「私も今までどおりが楽です」
うーん。
ただ、そう言われても私に抵抗があるんだけどな……。
でも、ここで話をしても平行線のままだよね。
仕方が無い。
「分かった。今まで通りの話し方で許容するよ。それと、お金のことは、シメナには内密にお願いね。シメナとの出会いは、あのダンジョンに行った後だったから、シメナに分け前を与えるわけには行かないって思ったんだけど、かと言って見せびらかしたら可哀そうだし」
「承知しました」
「じゃあ、シメナにかけた時間停止魔法を解除するよ。復帰!」
次の瞬間、何事も無かったかのようにシメナの身体が活動を再開した。
ただ、アデラもエルマも私に同行してくれるわけだし、シメナだけ、ここに放置するわけには行かないよね?
なので、シメナも特殊人族大陸に連れて行くことになるわけだけど……。
でも、本当に三人共感性がついて行けるかな?
ちょっと心配な気がするよ。




