10.大発見!
一般外来二日目終了。
午前中は、末期のすい臓がん患者が来て大変だったけど、午後は軽症者のみ。
でも、患者数が半端じゃなかった。
午前中に六十人くらい、午後は百人くらい。
これをオリガ導師と半分ずつ診たけど、私の分担だって八十人前後になる。
意外と患者の愚痴も聞かされるし、思っていたよりも今日は疲れたよ。
勿論、疲れた一番の原因は、診断魔法でも治癒魔法でもなくて、愚痴を聞かされたからなんだけどね。
息子の嫁がなんだとか、義理の母がなんだとか、妻がなんだとか、旦那がなんだとか。
家族への愚痴ばかり。
私は、それにコメントできる程、人生経験豊富じゃないんだけど!
マジで中二なんですけど!
ただ、
「はいはい、そうですねぇ」
って言って適当に頷くくらいしかできなかったよ。
でも、お陰様で私のステータス画面には、103/10,000って記されている。
目標値の1%に達したよ!
ただ、一つ思ったんだけど、重症者でも軽症者でも同じにカウントするのって、どうなんだろう?
うーん。でも、まあ、今は深く考えないことにしておこう。
それと、ステータス画面に装備されたチャットボットで確認したけど、重症者だからパスして軽症者だけを見るってのは、私の場合は許されないみたい。
来た患者は全て拒まずだって。
基本的に来る者は拒まず、去る者は追えだって。疾患持ちが相手だからね。
診療を終えて私とオリガ導師が食堂に行くと、
「待っていたよ」
既に、そこにはウィルキンソン子爵の姿があった。
「子爵様。わざわざお越しいただき有難うございます」
「一昨日は、随分と無礼な態度を取って済まなかった。娘が、あんな状態だったもので私もつい冷静さを失っていて」
「別にお気になさらないでください」
「それで、フランチェスカさんには、さっき言ったが、今日はラヤさんだけではなくオリガ導師とフランチェスカさんも是非招待させてくれ」
「「えっ?」」
「では早速、馬車に」
「「は……はい!」」
と言うわけで、今日は三人そろってウィルキンソン子爵のところに夕食を御馳走になりに行くことになった。
子爵の家に向かう途中、私は子爵から色々と質問を受けた。
「ラヤさんは、どこでその魔法を身に着けたんだね?」
「ええと、リニフローラ様から与えられました」
「リニフローラ?」
「はい。私が前にいた世界の女神様です」
「前にいた世界とはどう言う意味だね?」
「私は先日まで異世界におりました」
「はぁ?」
さすがに、子爵から信じられないって顔をされた。
まあ、それが普通の反応だよね。
「信じられないこととは思いますが……。ただ、私がこの街に来たのは、本当に一昨日、子爵様とお会いした日の午後のことでして……」
「では、私も娘も、一昨日、たまたま運よくラヤさんに会えたってことか!」
「でも、一昨日、私がブロメリオイデス教会に来たことは偶然ではありません」
「イリヤ王子のことか?」
「よくご存じで」
「今日の昼に、そのことを知人から聞いた。イリヤ王子がラヤさんにご執心だと言うことと併せてね」
「はぁ……」
あの王子、ちょっとしゃべり過ぎ。
こうやって外堀が埋められて、私はイヤとは言えない状態に……ってありがちなパターンだよ、完全に。
そりゃあ、少女漫画でよくある展開の一つだし、憧れていたパターンだし、本当はマジで嬉しいけどね。
相手はイケメン王子だし、イイ人そうだし、今のところ彼を否定する要素は全然無さそうだもん。
でも、とにかく一万人を治すのが先。
王子とのことは、それからだよ!
その後、しばらく子爵と話をしたけど、横柄な感じはなく、むしろ領民達のことを良く考えているイイ領主だってことが分かった。
一昨日は、マジで横柄な感じに見えたけどね。
でも、娘が危険な状態で完全に我を忘れていたし、胃痛もあって、このところ心身ともにコンディションも悪かった。
しかも、その日に限って頼みの綱の導師もいなかったしね。
それだけ重なったら、誰だって悪態をついちゃうってことだよ。
むしろ、それで冷静でいられる方が人間出来すぎってことじゃないかな? きっと。
私だって地球では完全に壊れていたもんね。
だから殺人鬼に成り下がったんだ。
レベルの違いはあるけど、基本的に状態が悪ければ、誰だっておかしくなることはあるってことだよ。
そう言う意味では、今日、改めて子爵とお会いできたのは良かったと思う。
会えなかったら、横柄な人って誤解をしたままだった気がする。
そんなこんなで子爵の御屋敷に到着。
私達は、そのまま客室に通された。
「では、こちらに」
執事の方の誘導に従って、私達はテーブルに着いた。
私が真ん中で両脇にオリガ導師とフランチェスカさんが、そして、向かい側には子爵と子爵婦人、それから先日破傷風で教会に来た娘さん(長女)に、その兄(長男)が座った。
子爵の長男は18歳。割とイケメン。
イケメン男子を見ながらの食事って嬉しいなぁ。
そして、運ばれてきた料理は、先ずサラダから……。
意外とイケル!
こっちの味付けだと私の舌には合わないよねって思っていたけど問題無し。
じゃあ、私の味覚に合わせていたらフランチェスカさんやオリガ導師には合わないかなって思ったけど、問題無し。
あれっ?
そう言えば、マヨネーズみたいなのがかかっていたけど……、マヨネーズって、こっちの世界では初めて見るな。私も出していなかったし。
でも、マヨネーズなら、こっちの世界の人達も受け入れられるってことだね!
次に出てきたスープは、私には今一つって感じだった。フランチェスカさんとオリガ導師の舌には良く合っていたっぽいけど。
なんか、この香辛料が合わないんだよね。
その後、肉が出てきたけど、思っていた以上に美味しかった。
凝ったソースとか変な香辛料とかは使われず、塩と胡椒だけのシンプルな味付け。それで素材の味が生きていて美味しいって思えた。
フランチェスカとオリガもムチャクチャ美味しそうに食べている。
そうか!
お互い、下手に凝った味付けをしなければ、こっちの世界の人達も私も共通して美味しいって感じるモノが作れるんだ!
料理に色々と手をかけるのは悪いことじゃないけど、でも、それが却って独特な味付けを作り出して、お互いに受け入れられなくなる。
魚なら多分、焼いて軽く塩を振りかけるくらいでイイし、肉を食べる時は、今回みたいに焼いて塩と胡椒をかける程度にすればイイってことだよ!
胡椒は、この世界では結構高価なので一般には中々手に入らないらしい。
多分、今回は上客相手ってことで高価な胡椒を使っているんだろうけど、でも、私は特例魔法で出すことが出来る。
なので、入手可能だ。
野菜も同様。炒めて軽く塩胡椒を降ればイイ。
そう言った味付けにすれば、みんなが問題なく食べられる。双方、独特な味付けに拘るからダメってことだ。
これは大発見だよ!
人様が作った料理で、私は初めて満足できた。
「美味しかったです」
「そう言っていただけて光栄だ」
「実は、もの凄い発見をしたんです」
「発見?」
「はい。私は、今までこっちの世界の料理が全然舌に合わないって思っていました。でも、今日の料理はとても美味しかったんです」
「それは良かった」
「素材が良くて、しかも素材の味を生かすための味付けにされていたからだと思います。塩と胡椒での味付けも、とても素晴らしく思いました。今日は子爵様にご馳走になって、良い発見もあって、本当に良かったです。ありがとうございました!」
「こっちこそ、喜んでもらえて光栄だ」
ただ、この後出てきたデザートは、ちょっとキツかったけどね。味が合わなくて。
でも、フルーツは普通に美味しかったよ! 素材の味そのものだからね!
食事の後、私はお礼に子爵一家を無料で健康診断してあげた。
子爵と娘さんは問題無し。
まあ、先日診ているしね。
夫人は子宮筋腫があったけど、それを摘出&消滅した。今まで少し痛みがあったみたいだけど、
「これで身体が楽になったわ」
って喜んでいた。
そして、息子さんは…………真正包茎だった。
ゴメンなさい、イケメンだったのに、ちょっと幻滅しちゃった。
でも、本人を責めちゃいけないんだよね。好きで、この状態なわけじゃないし。
なので、治癒魔法で正常にしてあげた……って言うか、そんな手術も出来たんだ!
息子さんは、余計なものが取れたジュニアの姿を見て、
「ありがとう! これで彼女とヤレる!」
って、声に出してムチャクチャ喜んでいたよ。今までは苦痛があったっぽいからね。
一応、両親の前だし、私は未成年の女の子だし、近くに妹もいるし、まともに声に出さないで欲しかったんだけどなぁ。
でも、包茎手術もカウントしてもらえるんだね。
これで私のステータス画面には105/10,000って文字が記されたよ。
この後、私達は子爵の馬車で教会へと無事送り届けていただいた。
翌日。
今日も朝から診療。
って言うか、基本的に土日祭日は関係ないらしい。病気人や怪我人を放っておくわけには行かないからね。
まあ、毎日が充実しているからイイけどさ。でも、私達だって一応疲れる。
ロボットじゃなくて人間だもんね。
なので、私とオリガ導師の二人体制になったので、これからはローテーションで週二日ずつ互いに休めるようにシフトを組むことになった。
あと、それに合わせて受付担当も他に一人雇って、フランチェスカさんも休みが取れるようにしようって話になった。
なので、受付担当募集中の張り紙を急遽教会の扉に張った。
ゴメンね、フランチェスカさん。導師側だけ先にシフト制になっちゃって。
早く新しい受付の人が見つかるとイイね。じゃないと、フランチェスカさんだけ休めないってことになって可哀そうだからね。
そして、いざ診療!
今日は、私とオリガ導師の二人で患者を診る日。
患者さん達は大きく分けて、オリガ導師希望と私希望と、どっちでもイイの三グループに分けられる。
どっちもイヤだってヤツは来るな!
基本的に担当希望がある場合は、それぞれリクエストに従う。
希望無しの場合は、私とオリガ導師の担当患者数がトータルで同じくらいになるようにフランチェスカさんが上手に割り振る。
また、オリガ導師が診察して、彼女の魔法では治癒がキツそうな患者さんは、患者さんの希望の有無にかかわらず私に回す。
こんな感じで午前中は二人で百人近い患者を診察した。
この町の人だけなら、こんな数にはならない。
昨日と同じで、他の街からも、わざわざブロメリオイデス教会まで足を運んで来る患者さんが結構いたんだ。
特に王都レダクタから、転移魔法使いにお願いして、ここまで来る人が意外と多かった気がする。
それだけ、王都ではイリヤ王子全快のインパクトが強かったんだろう。
この日は特に重症患者はいなかったけど、とにかく患者数が多くて、ひたすら数をこなす状態だった。
昼休憩&昼食の時間。
昼食の準備はフランチェスカさんが担当してくれた。私もオリガ導師も、そこまで手が回る状態じゃなかったからね。
勿論、ウィルキンソン子爵の家で勉強した成果をここで発揮していただいた。
つまり、味付けは凝らずに塩と胡椒だけのシンプルなものにしてもらったってこと。
ちなみに胡椒は私の魔法で提供した。
これなら私も美味しくいただける。
教会の料理が初めて美味しいって感じられたよ!
うーん、満足。




