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冒険者物語  作者: 蘭プロジェクト
第6章 第四王女
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第四王女 その二

第九十五話 第四王女 その二


 「アーガス卿! 遅くまでお疲れ様です!」


 ルーガルの街の門で、門番の騎士に声を掛けられる。


 「こんばんは。男爵に緊急伝令を送ります。道中でワイヴァーンに襲われていたメリーカーナ第四王女殿下をお連れした。至急受け入れ準備を頼みます」


 「ひ! 王女殿下! わ、わかりました!」


 騎士は慌てて駆けだした。突然の来訪に驚いているのだろう。俺達は門を通り、ゆっくりとレングラン男爵の屋敷を目指す。


 「アーガス卿! 串肉ですぜ!」


 俺は串肉を四本、人数分手渡される。鶏肉を塩で焼いた物だ。


 「だんな! いつもの石榴です!」


 掌一杯の石榴を渡されるが、ヴェルヘルナーゼに受け取って貰う。


 「大変な人気ですのね、ユージーは」


 「恐れ入ります」


 「すみません、串肉を頂いてもいいですか」


 「え? 構いませんが・・・」


 メリーカーナ王女は俺の手から串肉を取ると、可愛い口で囓り始めた。


 「あら、美味しいですよ」


 「あら、アーガス卿がいるわよ! 鶏をお持ちして! 早く!」


 肉屋の女将さんが俺に三羽、鶏を手渡してくる。


 「あとでお代を・・・」


 「いやいいよ! うちの子が馬車の工房に世話になっているんだよ! ありがとね!」


 馬車工房は既に街に言い影響を及ぼしている様だ。


 「モグモグ・・・早速経済効果が出てますわね・・・モグモグ・・・それにしても美味しいですわ・・・フォールーは食べないわよね・・・私が・・・モグモグ」


 「お肉が新鮮なので美味しいのです。地方の特権ですね」


 串肉を食べ終わる頃に屋敷に到着する。玄関まで、魔道馬車をゆっくりと走らせる。屋敷の敷地内はあらゆる箇所に鬱蒼と薬草が茂っている。


 「確かに凄いワイルドです・・・」


 「高級薬草なんです。そこのビーロデ(アイヌネギ)は一株で銀貨二枚の高級薬草です。今年は薬草を集めて、来年から整備開始ですね」


 「薬草は初めて見ました。あとで触ってみてもよいですか?」


 「もちろん」


 話しているうちに玄関に到着する。レングラン男爵と妹のハールレ、執事のグーフルが出迎えていた。


 「ご苦労。メリーカーナ・ロスメンディア、第四王女です。レングラン男爵、そしてハールレかしら。夜半に無理をいうけど、一晩お願いしますわね。それと私の護衛騎士、フォールーが負傷しています。看護を頼みます」


 「は!」


 レングラン男爵は跪いた姿勢のまま返事をする。


 「ユージー、降りますので手を貸して」


 俺は魔道馬車を降り、左手でメリーカーナ王女の右手を取って馬車を降りた。


 「殿下、お部屋へご案内いたします。ハールレ、ご案内しろ」


 「はい、お兄様。殿下、こちらへどうぞ」


 「ハールレ、世話になります」


 「勿体ないお言葉です」


 ハールレはすっかり元気になっていた。多重人格に罹患し、今でも症状を抑える指輪を付けている。


 「フォールー様、立てますか」


 名前を呼ばれて護衛の女騎士フォールーは目を覚ます。


 「こ、ここは?」


 「ルーガルのレングラン男爵家です。立てますか」


 ヴェルヘルナーゼがフォールーの手を取ると、フォールーはお腹を押さえながら立ち上がる。


 「いつの間に? 私は寝ていたのか・・・う。殿下は?」


 「大丈夫ですか? お部屋までご案内いたします。殿下は既にお部屋にお連れしています」


 ヴェルヘルナーゼがフォールーの肩を支え、メイドに付き添われて屋敷に入っていった。


 「おいおいアーガス卿、どういうこった? どうしてメリーカーナ殿下がルーガルなんかに・・・タイミングが悪いな。酷い庭だよなクソ。確かに名誉だけどよ」


 レングラン男爵がため息をついた。


 「チュシーディアの近くでワイヴァーンに襲われている所を助けたんです」


 「なるほどな。ワイヴァーンは少しはルーガルにおろしてくれよ。何体狩った?」


 「四頭でした。恐らく、南部のワイヴァーンはもういないかと」


 「流石だ。ワイヴァーンはもう大丈夫だろうな。南部はどうだった?」


 「酷いですね。灰色牙狼が多く、かなりの腕の冒険者でないと旅は難しい状況です。全部で四十七頭狩りましたよ。レーキは連作障害ですね。レコールは牛肉が余り、小麦が不足です。クーディア、アルプーディアも物資が不足です。南部は物資が全く動かない状況です」


 「そうか・・・お前達に行って貰って良かったな」


 「レコールでは農作業用の牛を調達出来そうです。どうやって運ぶかですけどね。レーキでも連作障害対策が興味があるようです」


 「わかった・・・」


 「男爵、ミハークで酒を仕入れました。カルツァールという酒なんですが」


 「おう。あの不味いやつな」


 「十年くらい樽に寝かすと琥珀色になって美味しくなるんです。現地では腐ったとか言って飲まないんですが、大量に仕入れてきました。この職人の息子がルーディアにいるみたいなんですよ。連れてきて酒を造らせましょう」


 「新しい酒? よし、作る。やれ。何か必要なものはあるか」


 「基本的にはうちで準備しますが、泥炭が必要です。少なくても五年後にしか出荷出来ませんので、ミハークにある在庫を全て入手しようかと。広い倉庫があれば助かります」


 「うむ。わかった。で、飯を頼む」


 「え?」


 「おまえ、硬いパンと塩スープを食わすのか? 殿下に?」


 「はあ、わかりました」


 ヴェルヘルナーゼが戻って来たので料理をする事にした。俺は暇そうにしていた騎士のドドーレを捕まえると、卵黄とワインビネガー、菜種油をひたすらかき混ぜさせた。結構疲れる作業である。ドドーレは泪目だ。


 「ひー。まだだろうか?」


 「まだまだ。とろとろになるまでかき混ぜてください」


 ドドーレにマヨネーズをかき混ぜさせながら、俺とヴェルヘルナーゼは鶏を捌いて鶏ガラスープを作る。半分に分け、一つはいつものホワイトシチューだ。一つは牛肉をミンチにしてコンソメスープにする。


 今日は鶏は揚げず、ラールという白身魚をフライにする。パン粉で揚げた。


 「ま、また新しい料理よね・・・」


 「そう? ドドーレさんが作っているマヨネーズで食べると旨いよ」


 パンは在庫を使う。生地は捏ねておく。街で貰った乾燥石榴はデザートだ。メイドに頼んで食事を運んで貰う。


 「おい、流石だな。食事は俺とハールレで対応する。お前さん達は居てくれないか? 料理の説明をしてくれ。メイド達はびびっているが、大丈夫だろう」


 俺は食堂の壁際で待機している三人のメイドを見る。酷く緊張しているのがわかる。


 「お兄様、殿下が見えられました」

 ハールレが食堂に入ってくると、場が一瞬で引き締まった。ハールレの後ろに、メリーカーナ王女、フォールーと続いた。


 メリーカーナ王女、フォールーと席に着くと、レングラン男爵とハールレが座る。


 「男爵、急に世話になり、感謝いたします。明後日の朝、発ちたいと思います。明日はユージーにこの領の改革について話を聞き、馬車工房を視察したいと思っています」


 「魔道馬車ですね。わかりました。午前中は話をさせて頂いて、午後に案内いたします。夕食なのですが、なにぶん辺境でして、たいした物はご用意出来ないです。辺境式で、テーブルの上に料理を盛らせていただいています。お口にあうか。この辺はスープとパンを食べるのが食事になります。どうぞ」


 「あの、レングラン男爵。見たことの無い料理なのですが・・・良い香りです。まずはいただきますね」


 メリーカーナ王女はホワイトシチューを口に含む。にっこりと微笑んだ。


 「美味しいです! フォールーは食べられないと思うけどこのスープなら食べられるわよ」


 内臓の損傷も全て治しておいたので、食べれるはずである。


 「では、頂きます・・・美味しいですね」


 フォールーもゆっくりとシチューを口に運ぶ。時折顔を顰めていた。


 レングラン男爵が俺に目配せをする。


 「お口に合うでしょうか? 白いソースを使ったシチューです。こちらは南部で買い付けたラールという魚のフライ、油で揚げた料理になります。こちらのマヨネーズを付けてお召し上がり下さい」


 子供の舌はマヨネーズが好きなはずだ。こちらには酢が無いため、ワインビネガーで代用した。甘みのある、ちょっと赤いマヨネーズになる。


 メリーカーナ王女はマヨネーズを付けてラールのフライを口にした。


 「美味しいです! なんですかこのソースは?」


 俺は勝ったと思った。やはり、マヨネーズは旨いのだ。


 「パンに付けてもなかなか美味しいです」


 俺が言うと、メリーカーナ王女はパンにマヨネーズを付けようと、パンを手で千切る。


 「柔らかいです・・・王宮のパンより・・・」


 メリーカーナ王女は少し迷ったが、マヨネーズを付けずにパンを食べた。


 「あ、胡桃・・・おいしい・・・男爵はいつもこのような美味しい物を?」


 「アーガス卿の料理はいかがですか? 今日はアーガス卿が居るので私も美味しい物が食べられるんです。いつもはこの地方の名物、塩スープです」


 「あら? どうしてユージーが説明してくれるのかなって」


 「アーガス卿の食事に対する情熱はもの凄いです。当家に引き入れる前、冒険者として雇ったときは野営でも周囲に旨そうな匂いを振りまくんです。その時の料理が白いシチューです」


 「え? 野営でこのスープですか?」


 「そうなんです。こっちは硬いパンと、干し肉を囓るだけなんです」


 「ウフフ、面白いですね。ね、フォールー。フォールー?」


 フォールーは無言でがつがつと食べていた。


 「フォールー、あなた子爵家の出でしょう? はしたないですよ! きゃ、ちゃんと食べてから話しなさい! もう!」


 「美味しくてつい・・・」


 フォールーはやっとフォークを置いた。


 俺はメイドにお願いしてティーカップを用意して貰う。俺は紅茶を淹れる。


 「お茶の木を入手出来ましたので、紅茶なるお茶をご用意しました。南部では珍しいのですが、王都では飲まれるのでしょうか?」


 お茶は南の産物である。飲んでいないと思う。俺はポットの紅茶を四人に淹れた。カップは白い磁器ではないのが残念である。


 「い、良い香りがします・・・これは?」


 メリーカーナ王女は愕然とした表情で紅茶を飲んだ。


 「ゲーディアで見つけた灌木の葉から作ったお茶です。いかがでしょうか?」


 「驚きました。毎日飲みたいわ・・・香り、微かな甘み、美味しいです」


 「申し訳ありません、灌木を数本、運良く入手出来たんです。植えて増えたら、御献上させていただきたいと思います」


 「そうですか・・・残念ですが待っています」


 俺は頭を下げる。


 「そうだアーガス卿、新しい酒と言っていたな?」


 「飲みますか?」


 レングラン男爵に言われ、俺はヴェルヘルナーゼを見た。ヴェルヘルナーゼは瑠璃のグラスを四人に配る。


 「ウィシュケという名の酒になります。瑠璃のグラスでお飲み頂きます。琥珀色が映えて、美味しいです。酒精が強いので、男性向きです。殿下にはお口に合わないかもしれません。瑠璃のグラスはミハカール王国の産です」


 ヴェルヘルナーゼは瑠璃の瓶に移し替えたウィシュケを四人に注いでいく。ワンフィンガー、一センチくらいを注いだ。


 「ほう、これか・・・良い香りだ。酒精が高い南部っぽい酒だな・・・旨い」


 レングラン男爵は頷きながら飲んでいる。


 「ちょっと私にはきついですね・・・」


 メリーカーナ王女はばつが悪そうにグラスを置く。


 「お気になさらずに。荒れくれ男達に売ろうと思っている酒ですので、女性にはキツイかと」


 俺が言うと、メリーカーナ王女は頷いた。


 「ハールレも無理しなくてもいいのよ。あなたもね、フォールー?」


 レングラン男爵の妹、ハールレは畏まってグラスをテーブルに置いた。やはり若い女の子には難しいのだろう。


 フォールーは一気に飲み干すとたん、といい音を立ててグラスをテーブルに置いた。良い飲みっぷりである。


 「旨いです。ルーガルは素晴らしい所ですね。あの」


 「駄目よ、あなた死ぬ怪我だったのよ」


 お代わりを止められたフォールーは少し悲しそうな顔をした。

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