南部小領主地区アルプーディア その一
第八十五話 南部小領主地区アルプーディア その一
俺は煉獄刀を引き抜いた後、目を閉じた。どうしようも無い無気力というか、虚無的な気持が沸き上がってきた。
からん。
竜の首は消え失せ、人の髑髏が床を転がった。ヴェルヘルナーゼは人骨となった頭部と顎の骨を拾い、布で包んだ。
「息子よ、ありがとうって。彼女が言っているわ」
「・・・」
「出なさいって」
俺は俯いて歩き出すと、多数有ったミイラの風化が始まりつつあった。塵となり、土となって自然に還ろうとしていた。
俺とヴェルヘルナーゼが歩いて外に出ると、洞窟は崩れ、扉も崩れ落ちた。神々の墓所、首塚が消えて無くなった。
「クーディーメローシュだったのかな」
「多分ね」
「クーディーメローシュの子とゲルアが結婚したって言っていたね」
「ね、あなた、このご神体どうしようっか・・・魔力が多すぎて私の鞄には収納出来ないのよ」
俺はクーディーメローシュの髑髏を受け取ると、魔法の鞄に収納した。
「凄いわね。流石オリジナルの魔法の鞄よね・・・さ、行こうか」
俺とヴェルヘルナーゼは言葉が進まないまま、首塚の跡を立ち去った。
翌日、俺とヴェルヘルナーゼはクーディアを跡にし、アルプーディアを目指した。いつも通り、魔道馬車に乗っている。
「ね、女神なのになんだか寂しい結末だったね」
「うん。手に今だ感触が残っているんだ。俺は何かを斬ったんだ。何だろうね。わからないけど斬ったよ」
「でも、総ミスリルの人形に、アダマンタイトの剣に、ご神体まで・・・そのご神体どうするの?」
「故郷に帰してあげたいけど、誰かに悪用されるのも嫌だよね」
「そうね・・・しばらく持っていましょうか」
「で・・・クーディーメローシュってドラゴンだったのよね・・・」
「違うな。いわゆるドラゴンとは違う。魔力が多すぎて人の姿を維持出来なくなった人間だろうね。死んでもなお、強大な魔力で生き続ける、魔力の固まりが神々、いやルーシュ神族の正体だね」
「そうなの?」
「だって、子孫の君が生きているだろう? だったら人間だよ。人間は人間の子しか産めないからね。何回も言った気がするけど」
「うん。そうだね。人間だよね。なんだか魔力がありすぎるのも不幸だなって思っちゃったね」
「で、ご神体をどうするかだけどね・・・」
「あなたの決定に従うわ、神殺しの龍殺しさん」
「神殺しか・・・」
俺とヴェルヘルナーゼは珍しく灰色牙狼の出ない街道を走っていった。
「見えてきたわ。アルプーディアじゃないかしら? アルプーディーメローシュはいるのかしら?」
「さあね・・・じゃあ降りて、歩いて行くよ」
俺とヴェルヘルナーゼは歩いて門に向かう。門は人影はまばらだった。俺は衛兵を捕まえると、レングラン男爵の手紙を衛兵に見せた。
「ルーガル公レングラン男爵より、アプルーディア公ドルゲーフェ子爵様へ親書をお持ちしました。重大な用件なので、直接手渡しをしたいと思っておりますが、取り次ぎをお願い出来ないでしょうか。私はレングラン男爵より爵位を受けた銀級冒険者ユージー・アーガス法衣騎士爵です」
「アーガス卿、子爵へご用件か。内容を教えて頂けないだろうか。内容によっては、取り次ぎが可能である」
衛兵は手紙を確認し、口を開く。
「ルーガルにて、グーリューク様のご遺体を見つけましたので、お持ちした次第です。ヴェルヘルナーゼ」
ヴェルヘルナーゼは頷くと、棺を取り出した。
「か、鞄持ちか」
「不作法で申し訳ありません。この地は旅だけでも命がけ故、御棺を収納させていただいておりました。お詫び申し上げます」
「う、うむ。で、グーリューク様のご遺体だと証拠はあるのか」
ヴェルヘルナーゼが冒険者ギルド証を差し出した。
「ギルド証・・・確かに・・・」
衛兵は棺を開け、布を取ると白骨が現れた。衛兵は一瞬ぎょっとしたが、鎧を見ると大きく頷いた。
「確かに、グーリューク様の鎧である・・・こちらで待たれよ。御棺は我らが運搬いたす。ご苦労であった」
俺とヴェルヘルナーゼは案内された部屋で座って待った。俺は居心地が悪く、二人で黙って待った。小一時間すると、護衛の騎士と一緒に身なりの良い男が現れた。三十代半ばの細めの男である。
「こちらの冒険者の方か」
「は。ドルゲーフェ子爵様。銀級冒険者のユージー・アーガス法衣騎士爵と同じく銀級冒険者のヴェルヘルナーゼ嬢です」
衛兵が俺とヴェルヘルナーゼを紹介すると、ヴェルヘルナーゼが一通の手紙を取り出した。
「私ども、ルーディアで商会を開きまして、会頭のキーアキーラから手紙を預かっています」
「キーアキーラ様が・・・? 私に?」
俺の言葉に、ドルゲーフェ子爵は跪いて両手で手紙を受けた。
「子爵様、キーアキーラは既に貴族籍から抜けていますので、そのような・・・」
「いや。籍を抜けようとキーアキーラ様はキーアキーラ様なのだ。我らの世代の貴族は皆憧れたのだ。アーガス卿、そなたの奥方も相当お綺麗だが、キーアキーラ様も負けずお綺麗だろう? 当時の若手貴族は皆骨抜きにされたのだ」
俺は頷いてしまった。アイドル的存在だったのだろう。ドルゲーフェ子爵は熱心に手紙を読み始めた。
「なるほど、今は商会を開いていらっしゃるのか。弟はワイヴァーンの巣で見つかったのか。レングラン男爵の手紙にもワイヴァーンの調査とあったが、そう言うことであったか」
「はい。ルーガルの森には鬼族が生息しておりまして、はぐれワイヴァーンが飛来したことによりオーガが森から追い出され、街を襲撃するということが起きました。ルーガルでは見過ごせない件となっています」
「だろうね。ワイヴァーンの山は、北西のチェシーディアの更に西にあるガレル大南山脈なのだが・・・」
「アルプーディアには飛来しませんか?」
「来ないね。最後に確認されたのは七年前のはずだ」
「そうですか・・・わかりました」
「ところで、キーアキーラ様の手紙に魔道馬車と書いてあったが、何だ? 興味があればそなたに言えば対応すると書いてあったが」
「乗ってみますか?」
俺が言うと、ヴェルヘルナーゼは魔道馬車を取り出した。
「魔法の鞄か・・・流石キーアキーラ様の商会だ・・・馬がいないのか? こちらで準備すればいいのか?」
「いえ子爵様。魔力で動く馬車です。さ、どうぞ後席へ。護衛の方もどうぞ」
俺が後席を示すと、ドルゲーフェ子爵と衛兵が乗り込んだ。ドルゲーフェ子爵は感心した顔をしているが、衛兵は不思議な顔をしている。
「では行きます」
俺は魔道馬車を発進させ、驚く衛兵を尻目に門を出た。街道を時速二十キロで走り、引き返して戻って来た。
ドルゲーフェ子爵は魔道馬車を降りると、非常に興奮した面持ちだった。
「魔道具の馬車か・・・凄いな。馬無しで動くのも凄いが、乗り心地が今までの馬車以上だな」
「金貨千枚になります」
「む、やはり値段も凄いな」
「乗って頂いた乗り心地で、馬で引くタイプ、魔道具を取り除いた板バネ搭載のみをラインナップする予定です。価格はそれぞれ安くなっていきます。大型の宿泊可能なタイプはただいま試作機を制作中です」
「宿泊可能な馬車があるのか?」
「はい。重たくなるので馬で引けるのか、完成したらテストしなくてはと、思っています」
「なるほどな・・・馬車にはキーアキーラ様の名が入るのか・・・」
「いけませんよ子爵」
魔道馬車が欲しそうなドルゲーフェ子爵だったが、衛兵に止められていた。
「わかってるよ。それより、話がある」




