初来店
第七十五話 初来店
「おーい、キーアキーラ居る? お客さんよ」
俺が魔道馬車のゴーレム部分を四つ、魔力薬を飲みながら製作を終えてお茶を飲んでいた頃、ロビーリーサがやって来た。
「あ、ロビーリーサさん。魔道ギルドの方ですか? キーアキーラさんもヴェルヘルナーゼも買い物に行っています。リークさん、お通ししてください」
「はい、副会頭。どうぞ、中へお入りください」
リークがロビーリーサが連れてきた老人の男性と、三十代前半の女性を連れて来た。最後尾はフローヴだ。
「キーヴェルユー・リーフローフ商会、副会頭のユージー・アーガスです。ようこそおいで下さりました。若輩者ですが、よろしくお願いいたします。こちらは店長のリークです。まだ商会を開いたばかりで殺風景で申し訳ありません。フローヴさん、済みませんがお茶をお願いします」
フローヴは俺の使っている魔道竃、飾り気が全く無い試作品でお茶を沸かし始める。
「儂はルーディアの魔道ギルドマスターのヘーリーゴークじゃ。お前さんの噂は聞いておる。ドラゴンブレスなる魔法でワイヴァーンを倒したとか。お会い出来て光栄ですじゃ」
俺はヘーリーゴークと名乗った老人と握手をする。頭からローブを被り、節々の張った曲がりくねった杖を持っている。俺は本物の魔法使いの風貌を間近で見て、興奮を抑えられない。
「魔道ギルド職員のクルースナーリです。お噂は色々お聞きしていますわ」
黒髪黒目、高くない身長の綺麗な人である。年は三十歳前後だ。ロビーリーサより年上のような気がする。スナックでお酒を注いで貰いたい女性である。黒髪黒目という前の世界を思わせる容姿に、どきりとしてしまった。
「で、これが魔道竃なのですね。ロビリが便利よって言っていましたけど・・・湯が沸きましたね」
女魔法使いと思われるクルースナーリがしげしげと見ている。ロビリってロビーリーサだろうか。
「魔道竃の下に魔石を入れていただけると、湯が沸きます。外すと、沸くのが止まるんです。これは高火力タイプ、煮込み用に低火力タイプもご用意出来ます。価格は金貨二十枚ですね」
「なるほどのう。薪を割るのが大変でな。これがあれば楽じゃの」
「あの、お二方とも錬金術師なのでしょうか?」
「そうじゃよ。魔道ギルドといいつつ、実際は錬金術ギルドじゃな。魔道師はギルドを作る意味合いも無いし、冒険者ギルドに加入するのじゃからな」
フローヴが沸いた湯で皆にお茶を淹れた。フローヴは低火力の魔道竃にケトルを置き、保温する。
「低火力はこのように沸くか、沸かないか位の火力なんです。元々スープ鍋を煮込む用途で作ったんです」
「ロビリ、あなたは使ってみたの?」
「クルリ、大を二個、小を二個買ったわ。ぶっちゃけ、作業時間が半分よ。いつもは午前中薪を割って、腰が痛くなって休んでいたからね・・・今までの仕事が午前中で終わるのよ。とても良いわよ。空いた時間で研究がはかどるわね」
「買うわ。大小一個づつ貰おうかしら。私はロビリみたいに魔力が多くないから一つづつでいいわ。お師様はいかがされます?」
「そうじゃの。いくつあるのかの?」
ちらりとリークを見た。
「我々は一つで良いですよ」
「今ご用意できるのは最大で五個ですね。リークさん、実物をお持ちして」
リークは革の箱に入った魔道竃をテーブルに並べた。
「あら、素敵ね・・・キーアキーラ・・・あのキーアキーラさんなの?」
「うちの会頭です。うちの製品は基本、キーアキーラブランドで売り出します。中身を出してみてください」
クルースナーリが蓋をあけると、革で装飾された魔道竃が鎮座していた。
「へー。素敵じゃない」
「なかなかでしょう? 職人が頑張ってくれたのですよ」
「わしは大を一個、小を二個貰おうかの」
「わかりました。元々売り物は小を作るつもりが無くてですね、デザインが同じになってしまうんです。区別をする焼き印を作ったら、無料で押させていただきますね」
俺は三個、箱から取り出すと魔力を微量流し、火力を弱くした。
「むむむ、噂の無詠唱ですな・・・真であったのか・・・」
ヘーリーゴークは俺が魔力を付与している姿をまじまじと見ている。どうやら、俺の事は段々とばれ始めているようだ。商会を開いた以上、隠すことはしないが。
「どうぞ。お二方は身元もしっかりしていますし、お代は後でも構いません」
「いや、払うぞ。確認してくれ」
ヘーリーゴークは革袋を音を立ててテーブルに置いた。リークは受け取ると、数え始める。
「でじゃ、ロビーリーサが馬車を買ったとか言っておったんじゃが・・・」
「ああ、魔道馬車ですね。ゴーレム技術の極一部を利用して作ったんです。ゴーレム馬車と言った方が正確なんです。見ますか? まだ馬車ギルドにも、伯爵様にも見せていないんで、街の外まで来て頂けるのであればご乗車して頂けますが・・・」
「うむ。構わんよ」
「ロビーリーサさんにご購入頂いたのは大型の宿泊設備付きタイプでして、今ご用意出来るのは小型の試作機ですね」
「そうよ、マスター。馬車が宿舎になっているのよ。魔道竃で余裕できた分、旅をするのよ。いいでしょ、クルリ」
クルリとはクルースナーリの略だろうか。ロビーリーサとクルースナーリは仲がよさそうである。
「た、旅ってロビリ、一人じゃ寂しくて死んじゃうわよ、駄目よ」
クルースナーリは何故か慌て始めた。
「私は一応ここの商会の顧問なのよ。魔道馬車の心臓部と車輪は私が手伝っているんだからね。ここの商会は旅が多いから、付いていくのよ。良いでしょ」
「い、いつの間にそんな・・・」
クルースナーリは目を見開いている。俺は一つの仮説を思いついた。恐らく間違いでは無いと思う。錬金術ギルドは、コミュ障どもの集まりではないだろうか? 中には普通の人もいるだろうが・・・
「あ、あの、迷宮都市やルーガルなら我々も行き来しますから、ロビーリーサさんに購入して頂いた魔道馬車に乗れば、良いかと思いますよ。護衛も兼ねて、私やヴェルヘルナーゼ、またはキーアキーラも別な車両になりますがご同行出来るかと」
「え? 本当に?」
「い、行きましょう! ロビリ! マスターも!」
「わ、わしもいいのか?」
「もちろん! 行きましょう! マスター!」
「あの、お代は確かに金貨百枚頂きました。それでは街の外に行きましょうか」
リークが金貨を数え終えたので俺達は歩いて街の外に出た。
リークに魔道馬車を出して貰う。いつもはヴェルヘルナーゼに所有して貰っているが、席を外すのでリークに持っていて貰ったのだ。
「ほう! 鞄持ちか! 若いのに、凄い人材を集めたもんじゃの」
「恐れ入ります」
リークは静かに頭を下げる。
「これが魔道馬車ですか・・・馬のゴーレムがありませんよ?」
「クルースナーリさん。馬や人型のゴーレムは私には難しくて作れないんです。本当に単純化したゴーレムを組み込んでいるのですよ。さ、乗ってください」
「じゃあお師様、お先にどうぞ」
「う、うむ」
お師様、クルースナーリがおっかなびっくり後部座席に座ると、クルースナーリが隣に座った。
「じゃ行きます」
俺は魔道馬車を発進させる。時速五キロだ。早歩きくらいの速度である。
「う、動いたわ! 揺れないわ!」
「こ、これは凄いもんじゃの! たまげたわい!」
時速十キロに上げてみる。
「速い! 速い! キャー」
クルースナーリは後部座席で甲高い声を上げた。速くはないと思うが、十分に速いらしかった。
残ったロビーリーサ、リーク、フローヴは遠巻きに魔道馬車を見ている。
「マスターとクルリ、楽しそうね。フローヴ、操縦頼むわね。あ、リークさん。あの連中に魔道馬車を売ったら駄目よ。操縦出来るわけがないわ。運動神経が良さそうな人を連れて来ない限り駄目よ。ウフフ」
「は、あぁ。操縦頑張ります・・・」
フローヴは遠い目をした。リークも同じく遠い目をしている。
「私が金貨千枚もするものを扱うなんて・・・」
「ホントだよ・・・」
「ウフフ。リークさん、フローヴさん、私じゃ絶対に扱えないもの。よろしくね」
フローヴとリークがため息をついていた頃、魔道馬車が戻って来た。
「す、素晴らしい魔道具じゃ。恐れいったわい!」
「本当ね! 私買おうかしら!」
「駄目よクルリ! 私はフローヴというバリバリの冒険者を馭者に出来るから買ったのよ! クルリには無理よ! 乗せてあげるから我慢しなさい!」
「わ、わかったわ。いつ出来るの?」
「どうなの? リークさん」
リークはロビーリーサに言われて口を開く。
「本当に第一号なので、試作機を作ってから本製作に入ると聞いていますね。試作機が出来るのが二十日後、副会頭が戻ってきてからになります。だから四十日後だと思いますね」
俺は頷く。商品の説明は俺がしても良いが、基本はリークの仕事だ。良い回答だと思う。
「た、楽しみね。ロビリ!」
ロビーリーサとクルースナーリはとても楽しそうな顔をしていた。俺は夢を売れたんじゃないだろうかと思った。




