南へ その二
第七十四話 南へ その二
フローヴとリーク、フリンカが帰ると、キーアキーラが自分でお茶を淹れた。俺は珍しいと思って見ていると、大きなため息を吐いた。
「グーリュークはな、私の婿候補だったんだ。無論、十二歳の頃の話だがな。俊英の誉れが高かったが、次男であるし、子爵家を継ぐのも無理があるし、婿候補自体に無理があったんだがな。同じ年頃の貴族が少なかったという事情もあるんだ。ミカファも候補だったんだぞ。男爵家に降嫁するなんてありえないがな」
「・・・婚約者だったんですか・・・」
「ん? お前達のような婚約者とは違うぞ? ある日、貴族の男子リストを見せられてお前の相手リストだって言われただけだ。大体な、王家から子爵家へ嫁ぐわけ無いだろ」
「王家って結婚の自由ってないの? うちは森を追い出されたから結果的に自由なんだけどさ・・・」
「ああ。無いぞ。明日からこいつと結婚して子を産め、っていう感じだな。感覚的には娼婦に近いのではないか? ヴェルヘルナーゼ、明日からフローグとリークを離婚させたから、リークと結婚しろ、と言われて出来るか? フローヴが気になるなら処刑するからとかさ」
「で、出来ないわね」
「それが貴族の結婚なんだ。ただな、グーリュークは優しい奴で、リストにあった中ではマシだと思ったんだ。あ、恋愛感情とか、どうだったんだろうな。貴族の女なんて子を産む道具だからな。今の方が自由で気分が良いぞ。さ、明日から忙しいから寝るぞ」
俺が自分の部屋に戻ると、ヴェルヘルナーゼがやって来た。俺のベッドに潜り込んでくる。同時にキーアキーラもやって来た。ヴェルヘルナーゼはくすくすと小さく笑った。二人は俺に抱きついた格好になった。
俺は二人に何か言おうとしたが、すぐに寝てしまったので口を閉じた。俺も眠ることにした。
翌朝、くすくすと笑うヴェルヘルナーゼの声で目が覚めた。
「おはよ」
「起きたか。寝顔を堪能させて貰ったぞ。フフフ。さ、起きるぞ。下で待っているからな」
「後でね」
キーアキーラが部屋を出て行くと、ヴェルヘルナーゼも出て行った。俺は着替えて食堂に向かうと、既にフリンカが来て朝食を用意していた。
「おはようございます! あら? キーアキーラさん肌つやが良いですよ?」
「ああ。ユージー分を補充したからな。ユージーは良い匂いがするんだぞ。たまに汗臭いときがあるが、それはそれで良い感じなんだぞ」
「キャー! ハーレムです! ハーレムです!」
「え? いや、あの」
「ウフフ。良い匂いは否定しないけどフリンカちゃんには嗅がせないわよ」
「え? ヴェルヘルナーゼさん酷いです! ユージーさん、いじめですよいじめ!」
フリンカが俺の元へ駆け寄ってくる。俺の首筋の匂いを嗅ぎ始める。
「くんくん・・・本当ですね・・・男性の汗のにおいの中に甘い、果実の香りがします。ここ十年で最高の出来映えです!」
俺はフリンカを体を引き離す。
「ほら、朝食を頼むよ」
「わかりました! パンは昨日、教わった焼き方です! 膨らんだので驚きです!」
「パンの生地は少し残しておいて、水に漬けて培養しておいてね。明日使えるから。うまくいけば一刻で生地が膨らむから、研究してみて」
「はい! 流石ですね! ユージーさん!」
「ウフフ楽しみね。さ、座って。お茶を淹れるわね」
ヴェルヘルナーゼが魔道竃を使ってお茶を淹れてくれた。俺達がお茶を飲んでいると、フリンカが朝食を運んできてくれた。
焼いたパンと、チーズと目玉焼きだ。パンは胡桃が入っている。俺が焼くのと同じだ。
「美味しいよ。パンは教えること無さそうだね。昼からはホワイトシチューを作ろうか」
「やった! ありがとうございます!」
俺達は朝食を終えるころ、リークとフローヴがやって来た。
「お、来たか。じゃ打ち合わせを行うか。明日からユージーとヴェルヘルナーゼはルーガル経由でアプルーディアに行く。子爵家へご遺体を届けにな。私とリークもルーガルに行って木工職人に会ってくる。ユージーがいないときは、リークに行って貰う事がありそうだからな。ユージーとヴェルヘルナーゼは南でワイヴァーンの調査と石鹸の調査だな。二十日間は帰って来ないから、魔道馬車のゴーレム部分の作成を頼む」
「ええと、大型二台分、小型二台分ですね」
「うむ。終わったらフリンカに料理を教えてやってくれ。で、リークは帳簿か?」
「帳簿は終わっています。あと、朝から石版が届きますので、設置して貰いますね。ここの壁と、事務所の壁一面が石版になりますよ。石屋さんが驚いてましたね。看板はもう少し時間がかかります」
「あとリーク、ユージーが書いた図面だとかメモは全て受け取って置いてくれ。全て製本する。我が商会の宝だからな。基本的に必ず二部作成して、一部は保存しよう。リーク、写しの作成はリークに頼みたい。ユージー、中身も教えてやってくれな」
「はい」
「フローヴはどうだ? 車輪数台分作らないと駄目だぞ」
「く、苦戦中です・・・ロビーリーサさん凄くてなかなか真似できないです」
「そうだろうな。ヴェルヘルナーゼは午前中は私と旅の準備をするか。フリンカも来い。買い物にいくぞ」
「わかったわ」
「昼から、ヴェルヘルナーゼも料理の手ほどきを受けろ」
「え? いやあの」
「私は無理だから諦めている。捌くのは得意なんだがな。ユージーとヴェルヘルナーゼが外出中、魔道馬車と魔道竃の製造を進めるぞ。リークはルーガルと魔道都市を行ったり来たりして貰う事になるな・・・魔道都市に行くときはフローヴ、護衛として一緒に行くか。ロビーリーサが行きたいとか言い始めたら連れて行ってやってくれ。それと、魔道都市では魔物食が盛んだから、一切魔道都市で買った物は口にするな。全部持っていけ。辺境病の原因が魔物食にありそうなのだ。お前達鞄持ちだろ、問題ないな。魔道竃も二つ、お前達用にするか。魔道竃は十個ではなく三十個オーダーしてこい。一個金貨三枚だ。前金で払っておいてくれ」
「魔道竃も? 良いんですか?」
「使ってみないと売れないぞ。勉強だと思ってくれ」
「あ、リークさん。魔道竃は便利ですけど、野宿には焚き火は必要かもしれませんよ。魔道竃のデメリットもあると思うんです。売るときは注意してください」
「なるほど・・・野宿もしてみますね・・・」
リークが納得していた頃、ロビーリーサがやって来た。
「おっは。あれ、まだ打ち合わせ中だった?」
「いや、終わったからいいぞ」
「あのね、魔道ギルドから魔道竃を見せて欲しいって話しが来たわ。今日来るわ。あとね、魔道竃を使ったら練金の作業がはかどるのよ。時間の半分は薪を買ったり、割ったり、燃やしたりだったから。とても良い物よ。錬金術師は欲しがるんじゃないかしらね。やはり火力の大と小、二種類あると便利だわ」
「嬉しい話しですね。ロビーリーサさんの発注された大型魔道馬車の第一号、製作を開始しました。居住部はルーガルの総力を挙げて製作します。ルーガルで取れる最高級の木材を使いますね。初製作なので一度練習で製作してから本製作に入ります。俺達は南へ行きますので。戻って来たら、二十日後に練習作を見に行きましょう。問題なかったら本製作へ入ります」
俺は魔道馬車の製作状況を話す。
「あら! 楽しみだわ。どうもね、キャンピングタイプだっけ、イメージが湧かないのよね。お邪魔したわね。じゃあフローヴ、行きましょうか。しごくわよ」
「あ、はい。行きます」
ロビーリーサとフローヴが商会を出て行った。
俺達も立ち上がり、仕事を開始した。やはり、全体的に前の世界の仕事に比べるとぬるい気がする。




