調査依頼 その一
第七十一話 調査依頼 その一
俺とヴェルヘルナーゼは魔道馬車から降りた。ヴェルヘルナーゼに収容して貰う。
「オーガはこの辺から出現したのよね」
ヴェルヘルナーゼが森を指差すと、俺は頷いた。
俺とヴェルヘルナーゼはルーガルから街道を北上し、数日前にオーガが十三匹も襲来した地点に来ている。先ほど、レングラン男爵に調査を依頼されたからだ。
街道は森の中を走っている。西側がゴブリンが、東側がオークが良く出る。
「考えられる事は三つよね。オーガが街を襲撃したくなったか、誰かに命令されたか、強い魔物に押し出されたか。感覚的には強い魔物が居ると考えた方がいい気がするわね」
俺は頷くと、半径一キロの範囲を索敵する。居ない。少し魔力を使ってしまうが、半径二キロの範囲を索敵する。
居た。デカイのが居る。西側、二キロ向こう。こちらの距離表記では千三百ダールだ。
「西側、千三百ダール。デカイのが居る」
俺は魔法の鞄から龍筒を取り出すと、弾を込めた。ポケットに十発ほど弾を入れる。
「大きいの? どれくらいかわかる?」
「小山くらいある・・・」
「引き返しましょう。調査は完了で良いんじゃない」
「そうだね・・・索敵・・・西側、距離千百、近づいている。速い」
「ええ? まさか飛んでいるのォ? 龍種じゃないの?」
俺はヴェルヘルナーゼの手を取り、草むらに身を沈めた。
「静かに」
俺は草むらで俯せになって身を隠す。ヴェルヘルナーゼも同じ体勢を取った。
「ギャアアアア!」
鳴き声が森に響いた。鳥たちが一斉に飛び立ち、栗鼠や狐、鹿などの動物や同程度の魔物達が一斉に逃げ始める音がした。
森に、生きている者は俺とヴェルヘルナーゼだけになった。
一拍、二拍、俺の鼓動だけが森に響いた。ヴェルヘルナーゼは難しい顔をしている。
木の切れ間から、何かが急降下する感じがした。俺はヴェルヘルナーゼの手を取ると、森の奥へ走った。大きな木の根本に息を潜めて腹ばいになる。
それは木々を打ち倒しながら、俺達の居た場所に降下してきた。
体長は十五メートルだろうか。真っ赤な鱗に覆われた、美しくも凶暴な魔物。爬虫類を思わせるが、巨大な翼が、単なる爬虫類で無い事を示していた。
「龍・・・」
「ワイヴァーンよ。手が無いでしょう。でもなんて立派な個体・・・」
ワイヴァーンは鋭い爬虫類の目、縦に割れた凶暴で冷酷な目をこちらに向ける。俺はゆっくりと龍筒をワイヴァーンに向ける。ワイヴァーンは匂いを嗅ぎながら、俺達を捜している。
俺は索敵の魔法を展開する。龍筒は俺の索敵の魔法と連動し、自動で狙いを付けてくれる。狙いは目だ。俺が索敵の魔法を展開すると、微少な魔力を感じたのか首を左右に振って俺達を捜している。
ワイヴァーンが尾を振った。木々が簡単に倒されていく。もの凄い破壊力だった。俺は息を潜めて機会をうかがう。
ワイヴァーンが横を向いた。
「射撃」
ぱあん!
反動と共に弾が発射され、左目に着弾した。
「ギャアアア!」
もの凄い音量が森に響く。俺の体がびりびりと震えた。俺は歯を噛みしめて耐える。咆哮には魔力が込められているようだ。
俺は折れそうになる心に負けず、弾を龍筒に込める。ワイヴァーンは滅茶滅茶に動き、身を守ろうとしている。俺はワイヴァーンが左を向くのを待つ。
ワイヴァーンの尾が俺の目の前を通過していく。俺は地面に頭を付けて避ける。ワイヴァーンの動きが止まる。片目で俺達を見据えた。
「ギャ、ギャ、ギャ・・・」
ワイヴァーンはとうとう俺を見つけ、歓喜の鳴き声を上げた。口を大きく広げ、鋭い牙と流れ出る涎を見せつける。
俺は大きく開いた口に狙いを付けた。
「射撃」
ぱあん!
森に射撃音が響き渡ると、静寂が訪れた。俺は弾を込め、ワイヴァーンの頭部へ狙いを付ける。
「射撃」
ぱあん!
弾は頭蓋へめり込んだ。ワイヴァーンの頭がのけぞった。
俺は魔力薬を飲み、更に龍筒へ弾を込め、頭部を狙う。
「射撃」
ぱあん!
俺はワイヴァーンが倒れるまで射撃を続けた。六発目でワイヴァーンが地面に倒れた。
「やったの?」
「どうかな? 様子を見よう」
動かないことを確認したのち、倒れているワイヴァーンの元へ近づいた。
「テイムしたかったな」
「無理よ。凄い凶暴なのよ。森の中で助かったわ。ブレスを受けて居たら厳しかったわね。森だから遠慮したのかな?」
ワイヴァーンを初めて見た。やっかいな魔物であろう。航空ユニットだからだ。恐らく、この世界最強がワイヴァーンであろう。いや、ワイヴァーンの群れと言うべきか。地上に幾ら強力なユニットを配置していても、群れで飛来してブレスされたらひとたまりも無いだろう。高速で飛翔する物体に、魔法や矢など基本的には当たらないのだ。
「ワイヴァーンって、龍よりも数が多いよね」
「圧倒的に多いわ。やっかいよね」
俺はワイヴァーンの体を触ってみる。鱗は硬く、丈夫だ。俺は一発、鱗に対して斜めに撃ってみた。
「射撃」
ぱあん!
斜めの射角では弾は弾かれて、貫通しなかった。
「嘘! 龍筒が弾かれるなんて・・・」
「見て。鱗が凹んでいる。鉄並みの強度と、しなやかさが共存している。硬いだけだと貫通するけど、しなやかだから変形だけで済むんだね。凄いな」
俺は鱗に直角に近い角度で撃ち込んでみた。
「射撃」
ぱあん!
今度は鱗を貫いた。
「うん、真っ直ぐだと貫ける。上手く狙わないと駄目なんだね。ね、ヴェルヘルナーゼはワイヴァーンと剣で立ち向かえる?」
「あの尾とどうやってやり合うのよ。ブレスも有るのよ。無理よ。魔法で焼き殺すしかないのよ。特に上位魔物はね。さ、短期的には嬉しいね。でもワイヴァーンは群れで行動するのよね・・・参ったわね」
「まあ戻ってから相談しようか。それより、翼の膜が凄いね。何かに使えるかな? 鱗と翼の膜を貰って、残りは売り払おうか」
「ウフフ。良い値段が付くわね」
「ヴェルヘルナーゼの鎧を鱗にしようよ。その分だけは貰っておこう」
「え? いいの?」
「キーアキーラさんはどうかな?」
「キーアキーラの革の鎧は地龍の皮なのよ。パンツもそうね。弾力があって、丈夫なのよね・・・何顔を赤くしているのよ。しなやかで動きやすくて音がしないのよね。お尻のラインも出ちゃうからキーアキーラくらいしか着ていないのよね」
「お尻を見せるのが趣味かと・・・」
「もう! エッチなんだから! 行くわよ!」
ヴェルヘルナーゼがワイヴァーンを楽々と魔法の鞄化したミスリルナイフに収納する。俺の作った魔法の鞄は出し入れに魔力を使用する。ワイヴァーンだとかなりの魔力を消費するはずだが、お構いなしだった。
「疲れているわね? 歩いていきましょうよ。しばらく大変になるわよ。キーアキーラを呼んだ方が良いわね。キーアキーラはお尻と、魔物の知識は凄いからね」
「お尻も?」
「悔しいけど女のうちからしても羨ましいわね・・・って何の話をしているのよ!」
「俺はヴェルヘルナーゼのお尻・・・うぶっ」
俺は頭を小突かれた。
「ほら、行くわよ! もう!」
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