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冒険者物語  作者: 蘭プロジェクト
第1章 初めての転生
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心臓の治療

第七話 心臓の治療


 俺は歩いて外に出た。革の鎧から帯剣ベルトを外し、短剣とナイフ三本を装備した。陽光は俺を容赦なく照らし、目を眩ませる。風は少し強くて結果として少し寒かった。


 俺は広場に出ると、乾燥石榴を買って持ってきた革袋に入れて貰う。広場の階段に座って食べた石榴は甘かった。


 砂糖を使った菓子が売っていないこの世界では、果物の甘さが心地よい。この世界は野菜を採る量が非常に少ない。小麦は麦芽を潰しているので、ビタミンは取れるはずだ。俺は壊血病の防止の為に、果物を摂る様にしている。乾燥果物にビタミンがあるのかは実はわからない。


 俺は目を開けて、瞑想してみる。今回の件、発端は目を閉じて魔法を使った事だ。だから目を開けて瞑想する。体の中で魔力の糸が動き出す。糸を心臓の動脈に持って行く。


 「あ、鳩。いや、少し大きいかな」

 目の前を鳥が飛んでいくと、魔力の糸は消え去った。


 「難しいな・・・目は閉じよう。待てよ? そっか」

 俺は魔力の糸を動脈瘤の位置に発生させた。そのままゆっくりと魔力を流し、動脈瘤を治療していく。


 七割の魔力を消費したところで治療を切り上げる。ほんの少し動脈瘤が小さくなった。あと七、八回治療すると無くなるだろう。朝晩、魔力を回復させて治療すれば数日で治ると思う。


 俺はそのまま魔力の糸を流していく。二本、三本、四本とどんどん増やす。十本までは数えたが、十一本から増えた糸は数えなかった。


 多量の魔力の糸が俺の体を巡っていく。体が静まり、心が落ち着いてくる。瞑想とは魔力を循環させて魔力を感じる事と、魔力を操作することなのだろうが、心の平穏やリフレッシュ効果もある。


 「今度は燃やさないでよ。石榴いただくよ」

 俺は横に誰かが座る気配を感じた。ヴェルヘルナーゼだ。俺はそのまま瞑想を続ける。大きい胸なんか考えない。そう、ヴェルヘルナーゼは胸が大きい。ギルドの受付嬢メーリヤよりは小さい気がするが、十分な大きさだ。そして、美しい容貌。俺は首を振ってヴェルヘルナーゼの美しい姿を頭から追いやった。


 俺は深呼吸をすると大量の魔力の糸を感じ続ける。


 隣にはヴェルヘルナーゼが居る。薄い魔力に電波の性質を付与して、俺を中心として射出し、反射を捕らえればレーダーにならないか?


 俺は一度目を開け、瞑想を止める。今から魔法を使うと言っておかないと、パンチを食らうかもしれない。ヴェルヘルナーゼは石像だった。いや、違う。よく見ると石像じゃないが、直感的に感じるのは石像だ。石像に見える。


 「深く深く瞑想しているのかな? まるで石像だ・・・」

 俺は石榴を一個摘み、囓るとヴェルヘルナーゼがぴくっと動いた。俺は新しい石榴をヴェルヘルナーゼの口に入れる。ヴェルヘルナーゼはモグモグと食べて飲み込んだ。


 俺はおかしくて少し笑うと、もう一個、ヴェルヘルナーゼの口に放り込んだ。


 「ほっほ! なにふるのほ!」

 ヴェルヘルナーゼ怒り顔というか、あきれ顔で俺を見る。怒り顔も素敵だった。やはり見とれてしまう。


 「なによ、私の顔を見て。瞑想中に石榴を入れないでよ」

 「ごめんごめん」


 「しかし凄い瞑想だったわよ。認識が出来なかったから。側に寄って、目を凝らして見ないとユージー君だってわからなかったわ」


 「ええとね、ちょっと魔法を試そうと思ってね。いい?」

 「燃やさないでよ? 何するの?」


 「薄い魔力を射出して、反射した魔力で位置を計る。近いとすぐ反射波が帰って来るし、遠いと反射波が帰ってくるのに時間が掛かる。魔物を捜したり出来る様に便利じゃないかって」


 「へ?」

 「やってみる。まずはヴェルヘルナーゼに向けて射出」


 俺は指の先からヴェルヘルナーゼへ向けて魔力を放った。魔力の反射波はすぐに帰ってきて、距離が伺えた。俺は心の中で喝采をあげた。魔力消費はほぼゼロだった。


 「あ、なんかきた」


 俺は続けて三百六十度に渡って魔力の射出を行う。背中は階段、目の前は人、人、建物、建物・・・一斉に情報が脳に入り込む。

 

 ぐぐぐ・・・頭が痛い!

 

 「ああああ!」

 俺は大声を上げてしまった。何人かが俺を見た。


 「ちょっと、大丈夫?」

 「ああ、ごめん。上手く行ったけど、情報が多すぎて脳が壊れるかと思った。今度は生き物だけ、魔力はもっと薄く。周囲百メートルで」

 

「え? 出来たの?」


 「うん」

 俺はもう一度魔力を射出した。俺の周囲百メートルには人が三人だ。うん、正解。


 「出来た。魔力の消費は殆ど無いし。今度は魔物を見たらやってみよう」

 恐らく、俺の考えている事を反映出来るはずだ。建物だけ、とか、魔物だけ、とか。


 「え? 今度は何も感じなかったよ。出来たの? 魔物の位置がわかれば迷宮は楽よね・・・ユージー君はとんでもないわね。魔力が少なくても使い方なのね・・・魔物を早く捕らえられるわね・・・」


 「魔物を見たこと無いから、今は出来ないよ。何回も試行錯誤しないとね。魔物の前でね・・・」

 「えっ、魔物を見たこと無いの?」


 「無いよ。だってほら」

 「ああ、そうだわね。そうよね」

 俺は転生してまだ数日、野外の活動は二日のみだ。魔物を見たことが無くても仕方が無い。


 「えい」

 俺の口に石榴が突っこまれた。


 「お返しよ」

 俺は胸がどきどきしてヴェルヘルナーゼを見つめてしまった。


 「え? あ? 別にあーんをしてあげた訳じゃないからね! ちょっと! 吐き出しなさいよ!」

 ヴェルヘルナーゼが俺の顔を掴んできた。 


 「え? 嫌だよ!」

 「吐き出しなさい!」


 俺は見事にヘッドロックされてしまう。エルフで、しかも女性なのに俺より力がある。ヘッドロック、はっきり言うと痛くないし、ヴェルヘルナーゼと密着できて至福である。ヴェルヘルナーゼはもの凄く良い香りがする。因みに顔は横乳に埋まっている。凄い。至福だ。


 「あら、街中でいちゃつくとは進歩だな。男嫌いは返上か?」

 「ち、違うのよ、キーアキーラ!」


 俺はヘッドロックを外されて声の主を見る。すらりとした長身の女性が立っていた。二十代後半と思われる、黒くて長い髪と黒い目が印象的だ。きつめの言葉通り、綺麗だがきつめの顔をしている。狐目というのだろうか。黒い髪と黒い目はモンゴロイドを連想させるのに、長身で細い体にギャップを感じてしまう。


 「何が違うのだ? あら、可愛い子じゃない。良い子を捕まえたじゃないか。私はキーアキーラ。ヴェルヘルナーゼとはパーティを組んでいた。よろしく」


 「ちょっと、キーアキーラ。うちはいろいろあってユージー君のお世話をしているの」

 「ヴェルヘルナーゼが? 世話? 嘘だ。出来るわけ無いな。君、ユージー君っていうのか? お世話して貰った? 具体的には?」


 「ええと、ええと」

 俺はヴェルヘルナーゼの胸以外思いつかなかった。


 「ほら。おっぱい以外に何も出てこないだろ。確かにユージー君の年齢だとヴェルヘルナーゼのおっぱいは魅力だろうな。それより、ヴェルヘルナーゼ、隣町の迷宮に入らない?」


 「駄目なのよ。うちはここでスライムを捕まえているから、行ってきて」

 「スライム? 青銅級の仕事じゃないか? なにやっているんだ?」

 隣町に迷宮があるのか。入りたい。行ってみたい。


 「うちは今青銅級なのよ。あの迷宮は剣鉄級でないと入れないでしょう」

 「え? 銀級だろう? 三段階降格をくらったのか?」

 キーアキーラは下を向くヴェルヘルナーゼの前にしゃがむ。


 「手違いでユージー君を殺すところだったのよ。ギルドに助けを求めたらうちの仕業だってばれちゃってね・・・大変だったのよ」


 俺は右フックのジェスチャーをする。


 「半分死にました。強烈でした」

 「おお・・・呆れたな。おお? 何で銀貨を首に下げているんだ? 凄い魔力を感じるぞ。ちょっと見せろ」

 ヴェルヘルナーゼはキーアキーラに銀貨のネックレスを渡す。キーアキーラは銀貨を凝視する。


 「これ、ミスリルじゃないか? ミスリルがアミュレットになっている? 凄い品だぞ。ミスリルのアミュレットは迷宮の下層でも出てこないんだぞ・・・」

 キーアキーラが驚いてヴェルヘルナーゼを見る。


 「いいでしょう。入手先は教えないよ。ね、ユージー君」

 ヴェルヘルナーゼは頭が悪い気がする。


 「あ、ユージー君は高位の錬金術師なのか。よろしく頼む」

 俺は差し出された右手を握る。細い手だったが、剣だこがある冒険者の手だった。でも女の人の手は気持がいい。


 「宿に戻ってからでいいですか?」

 「もちろん」


 俺はアミュレット作りを約束してしまった。

さらにブックマークを戴きました!

すごく嬉しいです!


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