商会の発足
第六十四話 商会の発足
「ヴェルヘルナーゼはスッキリした顔をしているが、ユージーの顔は晴れないな。あれか、ヴェルヘルナーゼの話を聞いたのか」
「キーアキーラさん、ヴェルヘルナーゼの痣が一年くらいしか持たないって・・・」
「死ぬって決まった訳じゃ無いし、大きくなるかどうかもわからないのよ。ユージー君は大袈裟なのよね。それより聞いてよキーアキーラ。ルーガルの街にオーガの群れ十三匹、王一匹と将軍二匹、街に進撃してきてね。みんなの前で十匹を射撃したわ。うちはユージー君の射撃補助ね。仕留めたのは一匹だけよ」
「ほう。オーガが? どうしてだ?」
「調べるって。龍咆のユージーって、ルーガルでは大人気だよ。串焼きも、石榴もタダで貰っちゃったんだ。みんながユージー君の実力を知ってなんだか嬉しいよ」
「まあそうだろうな。いずれ隠せなくなると思っていたぞ。どうせ、オーガと剣でも渡り合ったんだろ? 何処の世界に黒鉄級がオーガと剣で渡り合うんだって言いたいよな。二人とも剣鉄級に昇格だな。おめでとう。出来れば金級になって欲しいんだが、おいおいでいいな」
俺とヴェルヘルナーゼはルーディアに借りた一軒家に帰ってきた。埃っぽかった家は綺麗になっており、コップや鍋、机などが揃っている。
「ユージー、この机はお前の机だ。羊皮紙も買ってあるから、研究はこっちでも出来るぞ。昼間は退魔の誓いのリークとフローヴが来るからな。あの二人を雇ったから。掃除はリークの姪が来てくれる。フリンカだ。明日紹介する」
「え? あの人達、剣鉄級でしょう?」
俺は驚いた。退魔の誓いはルーガルの街でのゴブリン殲滅に参加したパーティで、不幸にも二名の戦死者を出した。リークは三十歳くらいの剣士で、フローヴはちょっと年下の女魔法使いである。
「二人は結婚するから、冒険者から足を洗いたかった様だぞ。リークが店長で、フローヴはロビーリーサの補助だ。ロビーリーサは喜んでいたぞ。でだな、フローヴとフリンカに料理を教えてやってくれよ。レストランも出したいしな。ベッドも買ってあるから、休んでくれ。雇った三人は落ち着いたら家を借りるような話をしていたがな。この家じゃ狭いから」
俺は頷き、部屋に入り、鎧を脱ぐと置いてあるベッドと机を見る。一度、お金の話し合いをしなくてはいけない。恐らく、キーアキーラが自費で買ってくれたものだ。俺はベッドに横になると、そのまま寝てしまった。この世界に来て手に入れた自分の家だ。キーアキーラの病気の事も、ヴェルヘルナーゼの痣のことも、考えなくてはならなかったが、気が付いたら夜が明けていた。
一階の食堂兼休憩室に降りて行くと、キーアキーラとヴェルヘルナーゼがいた。
「おはようユージー。朝飯にしよう。硬いパンならあるが、ユージーはシチューは残っているのか?」
俺は首を振ると、三人でお茶と硬いパン、チーズを食べた。
「あのですね、一度お金の整理をしませんか? 魔動馬車の開発費で金二十枚、俺が払ってます。レングラン男爵に薬草の独占権と引き替えに伯爵に進呈する剣二振り出すと言っています。キーアキーラさんが払ってくれた雑費は幾らですか?」
「ああ、金貨三十枚だな。皆で百枚づつ負担するか?」
「いいわよ。ユージー君は金八十枚、キーアキーラが金七十枚ね。うちは百枚よ。これでいい? 出資金っていうやつかしら?」
俺が金貨を八十枚出すと、キーアキーラは七十枚、ヴェルヘルナーゼは百枚、テーブルの上に出した。
「本当にうちらの商会が出来るのね」
「お金の管理はヴェルヘルナーゼに頼むか」
「賛成です」
「え? うち?」
「キーアキーラさんが最高経営責任者です。ヴェルヘルナーゼは最高財務責任者ですね」
「なんだか難しい言葉を使うのね。ユージー君は?」
「ユージーは製造責任者・・・違うな。まずうちの商会だが、ユージーが作りたい物をちょっと多めに作って販売する商会でいいな? ついでにルーガルの補助をするということで」
「いいわよ。決定ね」
「決定?」
「ユージー、冒険者商法という言葉を知らないのか? 冒険者に商才があるのやつなんて殆ど居ないぞ。引退しても知名度があるうちは販売要員として使えるが、知名度も無くなると悲惨だからな。私とヴェルヘルナーゼでは商売にならんのだ」
「・・・わかりました・・・」
腑に落ちないが、仕方が無い。俺が実質的な経営者のようだ。
ドアが開く音がした。ロビーリーサが入って来た。
「おはよう! 打ち合わせって何よ?」
「おう、ロビーリーサ。座ってくれ。後三人くるから。今日は顔合わせだな」
俺は魔動竃を取り出すと、お茶を沸かし、皆で飲んでいたら残りの三人が来た。リーク、フローヴ、フリンカだ。
「お、来たな。まあ座ってくれ」
皆がテーブルに座り、キーアキーラの方を見ている。
「みんな、商会の発足に参集して貰ってありがとう。まず首脳陣の紹介を行う。私が会頭のキーアキーラだ。よろしく頼む。商会の全権を掌握するが、お飾りだと思ってくれ。我々の商会は副会頭のユージー・アーガス法衣騎士爵が錬金術を駆使して作り出す物を、世の中に送り出す商会だ。よって、基本的にユージーの指示でみんなが動いてくれ」
「お願いします」
俺は頭を下げる。みんな俺の方を向く。
「もう一人の副会頭はユージーの護衛兼秘書、そして財務担当のヴェルヘルナーゼだ。ヴェルヘルナーゼは護衛と秘書を兼ねるから、当商会が扱うお金の一部は店長に委任したい」
「よろしくね」
「この店、店長はリークにお願いする。基本的にここにいて客を捌いて欲しいが、今年は客など来ないと思う。私と一緒に色々動いて貰うかも知れない」
「皆様、リークと申します。よろしくお願いいたします。店長という大任ありがとうございます」
「当商会は錬金術を多用する。顧問として、ロビーリーサに来て貰った。ロビーリーサは既に大商いの売れっ子錬金術師だから、仕事が発生する度に料金を支払う、でいいのか?」
「それで良いわ。錬金術師のロビーリーサよ。ユージー君の魔動馬車のゴーレムの形成と、スライム材料の作り込みかしらね。よろしくね」
事情をしらない三人は魔動馬車で顔を見合わせる。
「後で説明する。フローヴにはロビーリーサの助手に入って貰う。ロビーリーサは癖のある人間だが、酒を飲まない限り大人しいから、絶対に飲ますな」
「ぷ」
ヴェルヘルナーゼが思わず噴き出した。
「いいじゃないの。二人で飲みましょうね、よろしくフローヴさん」
「あ、あのロビーリーサさんって魔動学園の主席入学、主席卒業のロビーリーサさんですよね! お手伝い出来て光栄です!」
「最後はメイドとして来て貰った。お掃除と洗濯、食事を頼むフリンカだ。リークの姪になる。料理はユージーに習ってくれ。食べたら驚くぞ。さて、当面の事業について、ユージー・アーガス卿から説明を願う」
見事なキーアキーラの進行に俺は驚いている。王室でも、政務担当として十分にやって行けそうである。
「ユージーです。当商会はですね、レングラン男爵領の財政改革支援と、大まかにいうと魔道具製作販売になります。レングラン男爵領ですが、前男爵及び冒険者だったガーレルの浪費により、危機的状況となっています。当商会は改革の手伝いをする事になりました。当面はヴァヴァゴ草やビーロデといった超高価格薬草を、お屋敷の敷地内で植えています。増えたら大規模な畑に移行するつもりです」
「ヴァヴァゴ草? ビーロデも? 本当に?」
「ええ、ロビーリーサさん。その他は麦の収穫アップを進言してきましたがうちとは関係無いかと。薬草の販売独占権を、べべルコさんの剣二振りで手に入れました。伯爵に進呈できるほどの出来映えですから、後で支払いに行きたいと思います」
「あの剣か。あれなら伯爵も喜ぶと思う」
「次は魔道具製作です。迷宮都市の鍛冶、べべルーさんと魔動竃を作りました。魔石でお湯が沸く小型の竃です。これですね。べべルーさん販売分五個、うちが五個で手を打ちたいなと思っています。販売が金貨二十枚。べべルーさんからの仕入れ値を今後交渉しないといけません」
「私も気になっていた。半分の販売は諦めてもらうか。そろそろ綺麗に出来上がっている頃だと思うしな」
「当面の目玉は魔動馬車です。魔石で動くゴーレムを仕込んで、馬無しで走る馬車を現在開発中です。駆動部のゴーレムはミスリルでロビーリーサさんに錬成して貰い、俺がゴーレムにしています」
「試作機が出来たと言っていたぞ」
「え! 本当ですか? 楽しみですね。当商会は乗り心地を良くするサスペション機構というものを取り入れた馬車を開発しました。サスペション付きの馬車、ゴーレム技術を取り入れた更に乗り心地のいい馬車、馬無しで走る魔動馬車をラインナップする予定です。で、当商会は馬車は下回りだけで、上は作りません。馬車を作っている工房に下回りを売りたいと考えています。あと、魔剣製作とアミュレット製作は今後どうするか、ちょっと考えます。世の中に出しすぎると、値が崩れますからね」
俺が説明し終わると、皆は黙ってしまった。
「ユージーが何を言っているのか、意味不明だと思うが慣れてくれ。いちいち驚いたら体が持たん。しばらくの主力は魔動竃と魔動馬車だな。以上だ。質問は有りすぎるだろうが、後にしよう。後、当面は私とユージー、ヴェルヘルナーゼは冒険者も続けるつもりだ。私は商会の商いが増えて来たら商会に専念するが、我々の作る物は冒険者活動中にひらめく物が殆どなのだ。そこは勘弁して欲しい。暇になるかも知れないが、許してくれ」
ついに、俺達の商会が動き始めた。いろいろ気になることがあるが、今はおいておこうと思う。ヴェルヘルナーゼが商会の発足を喜んでいる。俺はしっかり運営しようと心に誓った。
本日二本目をお送りします。
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