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冒険者物語  作者: 蘭プロジェクト
第3章 迷宮都市
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レングラン男爵家

第六十二話 レングラン男爵家


 「ん? お前達、商会を作ったのか?」

 「ええ。キーアキーラさんが会頭です」


 「そうか・・・キーアキーラか・・・」

 どうやら、レングラン男爵はキーアキーラが王族出身と言うことを知っている様だが、詳しくは聞かないことにしておく。


 「これを見てください」

 俺は魔石を取り出し、回る銀貨ゴーレム乗せる。銀貨はくるくると回り始める。


 「俺が作ったゴーレムです。魔石から魔力を供給して銀貨を動かしています」

 「ゴ、ゴーレム?!」


 レングラン男爵が目を見開く。


 「ゴーレムは作るのは難しくありません。ただ、人型にして行動させるのが途轍もなく難しいんです。このように単純な動きで良いのなら、俺でも作れます。で」


 「で?」

 「これを馬車に取り付けます。馬の要らない魔動馬車を今作っています。ルーディアに戻ったら多分試作機が出来ているはずです」


 「魔動馬車だと?」


 「はい。恐らく値段は金貨千枚くらいだと思うんです。今回、乗り心地も大幅に改善しています。バネを取り付けて衝撃を吸収させます。ラインナップとして、衝撃を吸収させるだけのもの、上級な魔動具を付けて更に乗り心地を改善したもの、馬も要らない魔動馬車、この三種類を売りたいと思っているんです」


 「お前さんは馬車屋になるのか・・・」


 「うちの商会が売るのは、基本的に動く部分だけで、買った人が自由に架装して欲しいんです。僕にはその辺の馬車作りのノウハウがありませんから。ルーガルの街で馬車の本体を作れませんか?」


 「ルーディアとルーガルで馬車作りをするのか・・・いいぞ。いいぞというか、すまんな。新たな産業を興して貰えると助かる。明日にでも職人に会いに行くか」


 「ありがとうございます」

 「お前は錬金術師だったんだな」


 「ええ。魔力は非常に低いんで、量産が利かないんです。治療も不特定多数には無理です」

 「そうか・・・お前ら魔剣を持っていただろ」


 俺は煉獄刀をレングラン男爵に渡す。レングラン男爵は煉獄刀を軽く振ると、炎が軌跡となって現れた。


 「炎が出るぞ。凄いな」

 「飾りなんです。熱くもありませんので、ヴェルヘルナーゼの魔剣の様に燃えることはありませんね」


 「ん? どういう事だ?」

 「いや、格好いいかなって」


 「ん? まさかお前の作か」


 「ええ。もう隠せないですね。ヴェルヘルナーゼの魔剣も俺が作りましたよ。ヴェルヘルナーゼの場合は精霊使いだったから出来た魔剣ですので、そうそう作る訳にはいかないですね」


 「剣も業物じゃねえか。伯爵が欲しがるぞ」


 「献上されたらどうです? ルーディアのドワーフの鍛冶、べべルコさんにこの曲刀の製法を伝授していますので、なかなかの業物を打ちますよ。僕専用に打ってくれたのがこの短剣です」

 俺は日本刀の様な短剣を手渡す。


 「すげえな」


 「でしょう。これは僕だけですが、普通の剣もなかなかの業物でしたよ。今整備している薬草の独占権を頂けたら、二振り進呈しますよ」


 「わかった。頼むというか、お前にやって貰わなきゃどうにもならんだろ」


 俺達が話していると、メイドが不思議そうにテーブルのシチューを見ながら配膳してくれた。次にチキン、パンも配膳して貰う。


 「遠慮無く頂くぞ。これが旨そうだったんだ。白いシチューな。うん、旨い。チキンも良い匂いがするんだよ。旨いな」


 俺達もチキンとシチューを食べる。


 「薬草を練り込んで、油で揚げてあります。この辺では見ないでしょう?」

 「ああ。このチキンとシチューは作れないのか?」


 「薬草畑が立ち上がったら、名物化出来ると思うんですが、今だと金貨を用意しないとこの二つの料理は出来ないですね。薬草をふんだんに使ってますから。今考えているのは、馬車生産、薬草生産ですかね」


 「そうか。すまんな。で、農地の事なんだが」

 「ああ、連作障害ですね。羊や牛が居たからみなさんやっているんじゃないですか?」


 「そうなのか? 調べてみるか。で、魔物の肉が減った分をどうするかだが」

 「麦の生産性を上げ、耕地を開拓して、牛や羊を沢山飼う、これぐらいじゃないですか。出来れば備蓄も進めて欲しいですね。いつ飢饉が来ても良いように」


 「そうだよな。麦の生産性ってどうやるんだよ」


 「一人当たりの耕地を増やすしか無いんじゃないですか。牛で畑を耕す位ですよね。牛は必要な数が揃ってますか? 俺は男爵家が牛を放牧して農家に貸し出しても良いんじゃないかと思っていますよ。人が増えれば税収も増えますよね。キッチリとした農業振興政策を採る必要がありますよね」


 「むむ、そうだなぁ」

 「あ、あの男爵様、ユージーは魔法の使いすぎで魔力切れを起こしていまして・・・」


 「ああ、道理で顔色が良くないと思った。済まなかった」

 「明日、朝までおいとまします。で、薬草チキン用の薬草を採ってきたんで、植えて欲しいんですよ。明日、お渡しします」


 「重ね重ね済まんな」


 俺とヴェルヘルナーゼは客室に案内された。調度品は上物に間違い無いが、全体的に美術品の類が少なく、質素な印象を受ける。


 俺はヴェルヘルナーゼに鎧を脱がして貰うと、ベッドに横になってしまった。


 用意された部屋はダブルベッドだった。俺はやはり魔力切れを起こしていて、そのまま眠りたかったがヴェルヘルナーゼに起こされて下着にされ、湯で体を拭われた。


 「ほら、いいわよ」


 ヴェルヘルナーゼの許可が出たのでベッドに潜り込む。眠いのを我慢して、ヴェルヘルナーゼが湯で体を拭くのを眺める事にする。俺はヴェルヘルナーゼの湯浴みが見たい。裸体を見るまでは睡魔とたたかう・・・


 「おはよう。起きた?」

 目の前、五センチの距離にヴェルヘルナーゼの唇があった。


 「・・・ね、同じ部屋を案内されて、断りもせずに一緒に寝ちゃったね」

 「もう夫婦認定されているよ」


 「・・・もう」

 ヴェルヘルナーゼが抱きついてきた。


 「うちには何か良くない物が憑いているから別な子を探すのよ。一緒に寝るのはこれが最後」

 「いやだ。俺はヴェルヘルナーゼがいい」


 俺は軽く抱きしめて軽く唇を重ねた。


 「駄目よ・・・あああああ!」

 ヴェルヘルナーゼが俺に強くしがみつき、悲鳴を上げ始めた。美しい顔は大量の脂汗を流し始める。


 「ど、どうした!」

 「アレが、うちの魔力を吸っているの。どんどん大きくなるの。ああああ、あ、はあ、はあ、収まったみたい」


 俺はヴェルヘルナーゼの服を脱がす。


 「ちょっと」

 お腹を覆う黒い痣が、大きくなった気がする。


 「触っちゃ駄目よ。何人も気を失って魔力を吸い取られたの。魔力の少ない君だと死ぬわよ」


 俺は触れないで少量の、ごく少量の魔力の糸一本だけ痣に向けて放出する。糸は釣りで使うテグス、燃えない限り分解されないテグスをイメージし、痣に対抗してみる。


 魔力の糸が痣に触れた瞬間、糸が燃えてかき消えた。


 「くそ」

 俺は思わず声が漏れる。ヴェルヘルナーゼは立ち上がると服を着る。


 「わかった? うちにかまっちゃ駄目なのに、駄目なのに・・・」

 俺はヴェルヘルナーゼを抱きしめた。


 「ありがと。君はうちのこと大好きよね。ごめんね」


 「痣のことはキーアキーラさんは知っているの?」


 「うん。知ってる。あと一年もすれば私の体を覆い尽くすのも知ってる」


 「そ、そんな・・・」


 「ね、お願いがあるの」

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