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冒険者物語  作者: 蘭プロジェクト
第1章 初めての転生
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瞑想

第六話 瞑想


 夕刻、目が覚めた。魔法を使う度に気を失うのはいかがなものかと、反省をしながら寝返りをすると、ベッド脇、俺の足下で居眠りをするヴェルヘルナーゼがいた。


 俺はヴェルヘルナーゼを起こさないように魔力を循環させていく。細い魔力の糸を右心房へ入れて、動脈に入れる。いいぞ。操作も思い通りに出来る様になってきたぞ。


 動脈瘤にたどり着いたら、魔力を流して治療を行う。今回は本当に少しづつ、魔力を流していく。魔力を流すと、体の中の何かが減って行く感覚がある。恐らく、減り過ぎると意識を失うのだろう。ぎりぎりの線を見極めなければならない。


 七割。元の魔力の七割が減ったら止める。動脈瘤は少し小さくなった。俺は魔力が七割減った感じがしたので魔力を流すのを止め、目を開ける。


 「ん?」

 ヴェルヘルナーゼがじっと俺の事を見ていた。


 「今、瞑想していたでしょう? すっごく繊細な瞑想だった。あり得ないくらいに小さな魔力の動きだったよ。あの時もその繊細な瞑想に魅入られてさ、お隣に座って見させて貰っていたの。あ、ごめん。石榴食べちゃったの。目を綴じたまま動かないから。私も悪かったんだけどさ、ユージー君が無詠唱で魔法を使うから、私も対処できなくて、私のローブが燃えちゃって・・・」


 俺は上体を起こして深呼吸する。目眩も無いし、心臓も痛くない。大丈夫。


 「で、俺が火傷の治療で、あの・・・謝って済む話じゃ無いだろうけど、ごめん。無我夢中で、治さなきゃってね・・・本当にごめん」


 ヴェルヘルナーゼは顔を真っ赤にした。


 「そう、うちの、あの、さわられて・・・男の人が苦手で、ついね・・・あの、治療してくれてありがとう。触ったのはチャラにしておくね。で、治療魔法を使えるなんて、凄いわね。その年で、無詠唱で、治療魔法ってどんな激しい修行をしたのかなって」


 男性恐怖症なのか。美人なのに勿体ない。で、触ったのが何処までだったのか、非常に気になるが、聞くと美しい弧を描く右フックを食らいそうなので止めておく。今度喰らうと、本当に植物人間になる気がする。


 「ええと、寝込む前までは冒険者登録して二日目だったんだ。だから、今日を入れて魔法を使ったのは三日とか四日だよ」


 「え?」

 ヴェルヘルナーゼが信じられない顔で俺を見た。


 「嘘よ。いくら今回うちが悪いからって嘘を言わなくても良いじゃない。無詠唱魔法を使った記録は、大賢者ショー・クルースまでに遡るのよ。回復魔法は使い手が少なく、パーティーでは引っ張りだこだよ」


 何? 大賢者は誰だか知らないが、やってしまったくさいな? 俺は静かに暮らしたいんだ。目立つのはやだなぁ。


 「ヴェルヘルナーゼはたとえばさ、指先から火を出すような魔法は使える? 小さな火の玉を出すとか」

 「出来るわよ」

 ヴェルヘルナーゼは聞いた事の無い言葉で何かを呟くと、掌に小さな火の玉が出現した。


 「こんな感じ? じゃ消すね」

 再び何かを呟くと、火の玉は消え失せた。


 「俺はね、それが出来なかったんだ。だから、燃焼という現象を更に分解していったんだ」

 「分解?」


 「うん。薪が燃えるのは、薪が加熱されてね、木が熱分解されて燃える成分が煙となって薪の外に出るからなんだ。俺は薪を、ほんの少しだけ加熱して、煙が出たら火花を飛ばしたんだ。これがあの時の燃える魔法だよ」


 「う、うん。なんだか難しいのはわかったわ」

 「あとはね、瞑想?っていうの? アレが繊細だっていうのはね、俺の魔力量は青銅級らしくて、少ないからだと思うよ」


 「ああ、青銅級なんだ・・・それもあるのね・・・」

 ヴェルヘルナーゼは残念な表情を見せた。


 「魔力が青銅級ってやっぱり少ないんだ・・・」


 「う、うん。伸びるかも知れないから悲観しないでね。普通魔法使いを名乗るのは魔力量銀級からで、それ以下は焚き火用の火を起こすとか、飲み水を作るとかそれぐらいかな。銀級でも火の玉や火の矢が数発撃てる程度なので、戦力というと微妙なのよ。まあ流れ人は知らないのは仕方ないよね」


 「そっか・・・んんん?」

 俺は聞き捨て出来ない言葉を聞いた。流れ人だと?


 「あれ? 違った? さっきの魔力量の話は冒険者には常識だよ。大賢者ショー・クルースは無詠唱で、病気も治したって記録にあるからね。ユージー君は似ているのよ。大賢者は書物を沢山残したらしいのだけど、現存していないのよ。難解だったと聞くわね」


 そうか・・・大賢者も流れ人かも。日本人だといいな。来栖翔君かな? 先輩がいたんだ。


 「内緒にしてくれよ。数日前に気が付いたら街道で焚き火をしていたんだ。こっちに来てまだ数日なんだよ。だから魔法も数日ってなわけ。ユージー・アーカス、これが俺の本当の名前だよ」


 「ウフフフ・・・わかったわ。アーカス卿。さっきの話は参考になるわね。現象を分解して単純な物にわけてしまうのね・・・簡単なようで難しいわ」


 「ね、魔法を教えてよ」

 「え? 必要無いわよ。こっちが教えてほしいくらいよ」


 「どうしてさ?」

 「だって、魔法を作れるんだから、作れば良いじゃない。今の魔法は古代エルフ語で呪文詠唱を行うから、なかなか難しいのよ。エルフ語をマスターして、更に古代エルフ語よ。そもそも青銅級でも使える魔力量の魔法なんて無いわよ。薪を燃やす魔法くらいね。水を作る魔法は無理じゃないかな」

 青銅級の魔力量は厳しい・・・のか・・・


 「そっか・・・でも古代エルフ語は覚えたいな」

 「魔法を開発した方がいいよ。いいなぁ。流れ人凄いね」

 ヴェルヘルナーゼは視線を上げてため息をついた。


 「瞑想中に病気を見つけたんだ。治すのにかなり掛かるから、付き添いはもういいよ。冒険者に復帰してよ。三十日は復帰できないから」


 「へ? 悪いところがわかるの?」

 「ウン。誰にも言わないでね」


 「す、凄いわね。病気も治るはずだわ。大賢者も病気を治したっていう記録は残っていないから、アーカス卿は大賢者超えね。大賢者の魔力量は三重魔銀級トリプルミスリルだったっていうから、魔力量は比べものにならないけどね」


 「ミスリルか・・・ミスリルって何? ミスリルっていう金属は存在しないから、気になっていたんだよ」

 「ミスリルかぁ。私もミスリルの杖とか欲しいんだよね。ミスリルはね、強大な魔力にさらされた銀が長い時間を掛けて魔力が染みこんだ結果、という認識が良いんじゃないかな。王都の魔力学園も同じ見解だよ」


 俺は懐から銀貨を取り出し、布で綺麗に擦る。香の灰に水を垂らし、擦るとピッカピカになった。


 「魔力を流してみよう」


 俺は銀貨に魔力の糸を流す。糸は弾かれて銀貨に入って行かない。俺は銀の結晶組織を思い浮かべる。まずは不純物、銀以外の微量の鉄や鉛、亜鉛、錫、硫黄などを取り出す。銀貨に粉が吹き出す。純度が百パーセントになった。俺は金属組織に沿って、魔力を流していく。


 この辺が機械系エンジニアの強みだ。金属の知識なら任せて欲しい。


 金属は結晶が固まった物で、ミクロン単位の金属結晶が連続して並んでいる。俺は魔力を結晶の粒界にそっていれていく。すうっと魔力は吸収されていく。粒界から、銀に魔力が染みこむ。染みこむ量はもの凄く少ない。銀は魔力を吸い、どんどん変質していく。


 ん? 願いを込める事が出来る気がするぞ。なんだろう。ヴェルヘルナーゼが病気にならないように。世話になったような、変な感じだけど世話になったのは間違い無いから、専用の願いを込めよう。ヴェルヘルナーゼが体に悪い細菌や物質を取り込まないように。これだ。


 「ふう。出来た気がする。はい、体に悪い物を取り込まないようにお願いもしておいたよ」

 俺は銀貨を手渡す。銀貨は心なしか光り輝いている気がするが、イマイチ見分けが付かない。


 「え? ミスリルになったの? 冗談はやめてよね・・・ミスリルだわ」

 ヴェルヘルナーゼは銀貨をしげしげと見る。


 「凄い。見て、ここよ。小さい点があるのわかる? ここがミスリルになっているよ。あ、なにか魔力を感じるよ。お守り? ミスリルのアミュレットだ・・・」


 「うん。病気や毒よけになっているはず。効果はわからないけどね。全部ミスリルにならなかった?」

 「そこは残念ね。ほんの少しよ。でも凄い・・・」


 「それ、ヴェルヘルナーゼ以外には使えないからね」

 「そうなの? でも嬉しいわ。買ったら金貨百枚はするわよ。ペンダントにしよっと。ちょっと行ってくるわね」


 ヴェルヘルナーゼは走って宿を出て行った。魔力操作の練習も兼ねて、銀貨を全部ミスリルにしても良いかもしれない。アミュレット製作が出来る様である。どのようなアミュレットを作るべきか。耐病気、耐毒、耐呪いくらいか。呪いってなんだろう。イマイチイメージが湧かない。耐病気と耐毒の指輪だ。自分用に作って見る事にする。

ブックマーク二件、いただきました。

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