二人の秘密
第五十八話 二人の秘密
俺とヴェルヘルナーゼは宿で休んでいると、キーアキーラが帰ってきた。
「おかえり。どうだった?」
「空き宿は別な人が開業していたな。借りれなかった。その代わり、五部屋の小さな集合住宅が一棟まるままあったので、全部借りたぞ。全部で一月金貨一と銀貨五だからな。
「一人一部屋なの?」
「ああ。水場とトイレは一緒だ。一階に部屋が二つ、二階に三つだ。二階はそれぞれの部屋、一階は事務所と共用の部屋にしようか。一階は広いらしいぞ。建てたばかりだけど借り手が居なくて困っていたそうだ。驚くなよ、鍵付きだぞ。ほら、無くすなよ」
俺は小さな鍵二つと、大きな鍵を二つ貰った。
「小さな鍵は二階の個室で、一階の鍵は大きい方だ」
確かに、宿は鍵が無かった。寝るときは閂であった。
「楽しみね。個室、個室。ウフフ」
「偉くなった気分だろ?」
「そうね。ウフフ」
ヴェルヘルナーゼがすこぶる嬉しそうだ。
「宿でも個室だったよね?」
「冒険者は根無し草だからね。部屋を持つのが夢だった、とは言わないけど、憧れたのは間違い無いわね」
「そんなもんか・・・」
「冒険者になったばかりのユージー君にはあれだけど、冒険者生活も終わりに近づいたのかなって思うわね。部屋を持つとね。あ、当分は冒険者を続けるわよ? 戦える方が何かといいからね」
「さて、飯にしよう。食堂に行くか」
「あ、待って。キーアキーラは会頭でしょ、ユージー君は開発担当よね。うちは何をするのかな?」
「ああ。ヴェルヘルナーゼはユージーといちゃいちゃする係だ。大変だが頼む」
「ちょっと! 何よそれ!」
「魔剣を製作できる貴族、しかも末端貴族と知れた途端、見合い依頼が殺到するぞ。結婚命令が有るかもしれないな。少なくとも私なら見合いを企画するぞ。あ、そうそう。娘や孫をどうだ、と言われたら明確に断れよ。うん、とか言ってしまうと受けたことになるからな」
「うん、と言ったらどうなります?」
「翌日には嫁が来る。気を付けろよ」
「え? 話した事もないのに?」
「ああ。貴族の結婚はそのような感じだ。親の都合で決まる」
「が、頑張るわ。ユージー君のお見合い阻止ね」
「本当は護衛兼秘書だな。ユージーの秘書だ。ユージーに物作り以外で細かいことを考えさせるなよ」
「任せてよ」
「さ、飯にするぞ」
俺達は宿の塩スープと硬いパンを食べ、それぞれの部屋に戻った。
俺はベッドでうつらうつらしていると、ドアがノックされた。
「ユージー君、いいかな?」
ヴェルヘルナーゼがドアを開けて入って来た。
「お邪魔するよ」
ヴェルヘルナーゼは俺の左腕に潜り込んでくる。ヴェルヘルナーゼは薄いワンピースを着ており、豊満な体を押しつけてくる。
「えへへ・・・明日から一緒のお家だね」
実際には違うのだが、あえて否定はしない。
「うち、まだお子様だから良くわからないけど、なんだか緊張するね・・・」
「ヴェルヘルナーゼ、え? 寝たのか?」
信じられないが、瞬時で寝てしまった。
「いいかい。ヴェルヘルナーゼが来ただろ。寝たのか。凄いな。エッチな事が出来なくて残念だな。冒険者は瞬時で寝られないとな」
ノックの音と共にキーアキーラが入って来た。
「キーアキーラさん。一瞬で寝ましたよ」
キーアキーラは体にピッタリとしたタイツの様な服を着ている。均整の取れた体のラインが美しい。
キーアキーラも俺のベッドに潜り込んでくる。
「ヴェルヘルナーゼは五十歳位だったはずだ。エルフの寿命は五百歳位だから、人間で言うと十歳位なのかもな。実際にはこの通り凄い胸だから十歳は無いだろうけどな。ヴェルヘルナーゼに誰も常識めいた事を教える人はいなかったんだ。私も常識があるとはいえないからな。大目に見てやってくれ」
「キーアキーラさんは王室とか伯爵家とか、良いところの出ですよね」
「なんだ? ばれていたのか?」
「だって、レングラン男爵も呼び捨てだし、伯爵家もあいつ呼ばわりでしたし、敬称を使っていないですよね」
キーアキーラは体を起こすと、シャツを脱ぎ始めた。暗くてよく見えないのが少し残念である。
「ちょっと、キーアキーラさん・・・」
「なんだ? あ、それでもいいぞ。でもヴェルヘルナーゼが悲しむぞ。何年先になるかわからないが、ヴェルヘルナーゼと先にすることを進めるぞ。私はもう死んでいるかもな」
「死んでるって、何を言っているんですか・・・」
「ユージー、お前ならわかるだろ。冒険者の寿命なんて三十歳くらいだぞ。ルーディアのギルドマスターみたく老人になるなどほんの一握りだ。三十歳を超えても二十代と同じ体力と過信して魔物にやられたり、多いのが戦いの後に病気になりやすくなるんだな。魔物の傷から病気になる奴は多いんだ」
「確かに、体力のピークは三十歳前後で、あとは落ちていきます。体の抵抗力も弱くなり、傷口から破傷風になったり、狂犬病とか貰いそうですよね」
実際、人類が直面した感染症は動物の感染症が人人感染に変化した物が多い。インフルエンザは鳥、ペストは鼠なのどの齧歯類が保有している病気で、中国からシルクロードを通ってヨーロッパに伝わった。アフリカのエボラ出血熱は蝙蝠ではないかと言われている。当然、魔物も同じだと考えるべきだ。
キーアキーラは俺の手を引き締まったお腹に当てた。
「わかるか? 第一王女、姉を守ろうとして魔物から受けた傷なんだ。はらわたにも傷を受けて、生理が来ないんだ。十四のときだな。私はそこで王家から抜けて、平民にして貰ったんだ。私の実力は銀級が良いところで、金級なのは王族出身だからだぞ」
キーアキーラのお腹には、触ってわかるほどの傷跡が残っていた。キーアキーラはベッドに横たわると、俺に体重を預けてきた。
「結婚したらこんな感じなのかなって、な。ごめんな」
「ヴェルヘルナーゼ、起きているだろ。キーアキーラさんに魔力を流すからね」
「起きちゃ駄目そうだったんだよ・・・フォーリーフェーン。出て来て」
ヴェルヘルナーゼは右掌から光輝く妖精を出現させる。フォーリーフェーンは部屋の中をくるくると飛んで、灯りで満たしてくれた。
「ね、服を脱がして」
ヴェルヘルナーゼが目を閉じて俺に言った。
「ふ、服をって・・・」
「いいから。早く」
俺はいきなりの展開に、しかもキーアキーラがいる。
俺は緊張して震える手でワンピースを脱がし、下着だけの姿になる。本来なら、美しい裸体に釘付けになるはずだった。
「これが私の正体。私の中に何かがいるのよ。触ると魔力を吸い取られて大変な事になるわ。触らないでね。今まで黙ってて御免ね。本当に御免ね。ユージー君は、中身は大人の男の人なのよね。女の人を抱きたいんじゃないかって思うんだけど、私じゃ駄目なのよ」
俺の目に入ってきたもの・・・ヴェルヘルナーゼの体を覆う黒い痣のような物だ。人の頭くらいの大きさの痣が微妙に移動していた。
「う、動いている・・・」
「うん。御免ね。なんだかわからないの。だからエルフの里から追い出されたのよ」
ヴェルヘルナーゼはぼろぼろと泪を流す。俺はキーアキーラと一緒に抱き寄せた。
「そっか」
「そういうことだ。ユージー」
「え? どういうことよ?」
「俺達は身よりの無い三人なんだ」
「あ、そうか。うちらは身寄りが無いんだね」
「うちのこと嫌いになったでしょ。明日、出て行ってもいいんだよ」
「ヴェルヘルナーゼ・・・そんなことを言わないでくれ・・・」
「うちは居てもいいの? 同じパーティーでもいいの?」
「俺がその正体を暴いてやる。絶対にな」
「うん」
「なあユージー。お前は明らかに色々経験豊富だよな。病気も、馬車も、鉄も詳しいよな」
「え? あ?」
俺は変な声が出てしまった。
「あ、すまん。それはいいんだ。お前の知識が本当に体と同じ年齢だったとしたら、無理があるからな。今後は何か言われたらロスメンデなんとかの恩恵とか言っておくんだろうが、お前の体の正体はなんだ? 聞かせてくれないか? 私もヴェルヘルナーゼも秘密を話したんだ」
「・・・俺はヴェルヘルナーゼに殺されそうになった前日にですね」
「あれか。いい思い出だな」
「いやああ! ちょっと! ちょっと! 何いい話風に言っているのよ!」
「え? 俺はヴェルヘルナーゼと一緒に居られるようになって嬉しいよ?」
「もう。全く。口が上手なんだから」
「ははは。でね、前に居た世界では病気で死んだんですよ。死んだら、目の前が真っ白になって、段々と暗くなって、気が付いたらこの姿でルーガルの郊外で焚き火をしながらうつらうつらしていてですね」
「ほう。じゃあその姿は不明なのか」
「・・・持ち主には本当に申し訳無く思っているんですがね・・・でもどうにもならないし、金貨五枚と銀貨百二十枚持っていて助かりましたし、持ち主の両親を捜したいけど体を返せとか言われても困るので探さないですけどね」
「意外とつまらんな。もう少し捻って欲しかった」
「ウフフ。でも明日から、キーアキーラの治療も行うんでしょう? しっかり行うのよ。子宮の治療なんかはお手の物なんだから」
「ヴェルヘルナーゼ、いいのか?」
「うん。いいよ。ユージー君には頑張って貰うから」
「ユージー、では頼む。ガッツリ魔力を流してくれよ」
「テイムされても許してあげるわ。だから、キッチリ治してあげてね」
俺は言葉が出なかった。
「あ、テイムうんぬんは気にするな。多分何も変わらないからな」
「え?」
「魔剣を作って貰って、しかも二振り。アミュレットも作って貰って、商会も世話になってだな、しかも治療までしてくれるなんて、既にテイム状態だぞ。私を抱いても良いが、ヴェルヘルナーゼを抱いてからだぞ」
「ちょっと! キーアキーラったら何を言っているのよ!」
「わかりました。覚悟してくださいね」
「そんなものは要らんと言っているのだが、聞こえなかったか?」
俺達はくすくすと笑った。色々な事を聞かされて戸惑ったが、なんとか飲み込んだ。二人はいつもより俺に強くしがみついていた。
沢山の誤字報告ありがとうございます。
昨日は所用で執筆出来ませんで、申し宇訳無いです。
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