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冒険者物語  作者: 蘭プロジェクト
第3章 迷宮都市
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魔動車開発 その二

第五十六話 魔動車開発 その二


 「これが新作のゴーレムです」

 ルーディアに帰ってきた翌日、俺はロビーリーサに魔石の上でくるくる回る銀貨を見せている。


 「え? これがゴーレム?」

 「そうですよ。最もシンプルなゴーレムです。魔力で動いているでしょう?」


 「いや、動いているけどさ」

 「ロビーリーサ、ユージーに付き合って儲けようと考えるなら固定概念は駄目だぞ。頭を柔らかくしないとな」


 「キーアキーラ、わかったわ。で、これをどうするの?」

 「車輪に組み込めば馬無しで走りますよ」


 「え? あ?」

 「そうだ。我が煉獄商会の商品として開発を進めるところだ」


 「え? 商会を作ったの?」

 「ああ。作ったぞ。とりあえず迷宮の二階層で酒を売ったら大好評だった。鞄持ちだからな我々は」


 「ちょっと、馬無しで走るの?」

 「ああ。走るぞ。ユージーが走ると言っているから、走るだろ。で、ミスリルは手に入ったか? ミスリルでゴーレムを作るから、部品を作って欲しい」


 「ああ、約束していたわね。魔剣の秘密を教えて貰う代わりにミスリルで短剣を作るって。待ってて、インゴットがあるわ」


 ロビーリーサは十センチ四方のインゴットを四個持ってきた。


 「どう? 一個使ってもいいわよ。一個金貨五十枚もするんだからね」


 一個で馬車一台分くらいである。車輪に仕込む魔動機ゴーレムは、円形にしようかと思ったのだが、立方体で仕込むことにする。多分大丈夫だ。


 「全部下さい。代金はこれで」

 俺は魔法の鞄から予備の煉獄刀を取り出した。


 「ユージー君、いいの?」

 「うん。それよりも開発したい」


 俺は煉獄刀を手渡す。ロビーリーサは満面の笑顔で受け取ると、煉獄刀を抜いた。赤い炎が出る。


 「す、凄い」

 ロビーリーサはうっとりと煉獄刀を眺める。


 「柄を握って、ゾーン、と呟くと集中力が増すからな。難しい作業をするときは握りながすると良いぞ」

 「わかったわ・・・綺麗な剣ね・・・」


 「ロビーリーサさん。我が煉獄商会へようこそ。その煉獄刀は仲間の印なの」

 「ヴェルヘルナーゼの言うとおり、顧問とでもしておこうか」


 「え? 私も関係者なの?」


 「ああそうだ。でだな、ユージーが馬車の車輪にスライム素材のブヨブヨした素材をくっつけたいと言っているんだ。開発を頼む」


 「車輪の外周に、小石だとかで発生する振動を吸収したいんですよ。路面とのグリップも確保したいです。滑り難くて減りにくい材質をお願いしたいです」


 「スライムを干すと確かに弾力があるけどね・・・何か魔物の素材を混ぜればいいかしらね。やってみるわ。二、三日したら来てみてよ。鱗の粉を混ぜればいいかな・・・ワイヴァーンが良さそうね」


 「あ、消耗品なんで、あまり高価な素材は駄目ですよ。安くて入手しやすい素材でないと」


 「そうか、そしたら骨系の粉ね。沢山素材があるから試してみるわよ。で、出来たら私にも売りなさいよ。幾らぐらいになるの?」


 「原価は恐らく金貨二百枚くらいですかね。売値は金貨千枚じゃないですかね。宣伝用に二台作りますから、一緒に乗れますよ。関係者ですし」


 「そうか。買わなくてもいいのね?」

 「そうですよ。でですね・・・」


 俺はミスリルの加工をお願いする。二センチ四方の直方体四個、キーアキーラと格好良くデザインしたロゴが一枚。軸受けメタルが四個である。


 ロゴがセンターコントロールゴーレムになる。軸受けメタル、要するに幅五センチの筒だ。ミスリルは硬くて滑りが良いので潤滑油が要らなさそうである。


 「わかったわ。確かにインゴット一個で一セットね。ちゃっちゃと四セット練金するわね」


 ロビーリーサはロゴデザインを下に敷き、上にインゴットを置いた。


 小さく呪文を唱え始めると机の上に魔方陣が現れる。ロビーリーサは空中にいくつもの魔方陣を描く。美しく魔方陣が輝く幻想的なロビーリーサに俺は目が離せない。魔力の少ない俺にとって、羨ましい風景である。


 あっという間にワンセットの魔動馬車の部品が出来上がる。ロビーリーサは次々に部品を作って行く。


 「出来たわ。四セットよ。で、このキーアキーラって何?」

 ロビーリーサはロゴを不思議そうに眺めている。


 「うちの商会の製品のブランドなの。煉獄商会の商品には全てキーアキーラのロゴが付くのよ」

 「へー。そうなんだ」


 ロビーリーサは良くわかっていないようである。


 俺は出来上がった部品一組を机の上に並べる。キーアキーラから受け取った魔石と、昨日祈りを込めた銀貨、速度調節とブレーキのスイッチに使う銀貨、を並べる。


 俺は頭の中を整理し、魔力を込めていく。昨日気付いたのだが、触っていなくても魔力が通る。


 「よし、出来た」

 「は、速いわね」


 ロビーリーサは驚いているが、ミスリルに祈りを込めるのは楽である。


 俺は小さな革袋四つに一つずつ車輪に仕込むミスリルを入れ、三人に渡す。俺が時速五キロの銀貨を押すと、革袋は回り始めた。皆紐を持って居るので、ぐるぐると回る。


 「回ったわ!」


 ロビーリーサが叫ぶ。俺はロゴを傾けると、傾けた方の速度が少し落ちた。


 「だ、駄目! 早く止めて!」

 俺は停止の銀貨を触る。車輪に仕込むミスリルは動きを止めた。


 「す、凄いわ」

 ロビーリーサは驚いている。


 「あんた達は驚かないのね?」

 ロビーリーサはヴェルヘルナーゼを見る。


 「まあユージー君が出来ると言ったから、出来ると思うわよ。ミスリルの魔術師ですもの」

 「まあな。これで車体を作れば馬車になるな。よし、じゃあ鍛冶屋に行くか。ロビーリーサ、頼んだぞ・・・ああそうだ」


 「何よ?」


 「レングラン男爵家に薬草畑を作ったからな。来年から収穫が増えると思うぞ。明後日にでも様子を見に行く予定だ」


 「キーアキーラ、あれを畑と言うのは無理があるわよ。お屋敷の敷地に片っ端から植えているだけじゃないの」

 「へー。よさそうだったら教えてね。買い取るわよ」


 「ではロビーリーサさん、よろしくお願いしますね」

 「スライムね? 任せて。早く乗りたいわね。じゃあね」


 俺達はロビーリーサの家を出ると、鍛冶屋に入った。


 「あらー。ヴェルちゃん、キーちゃん、それにユージーちゃんもいらっしゃい! 今呼んで来るわね! あなた!」


 妻のドワーフ、ボーローが奥に走っていく。


 「なんだ、忙しない・・・おう、来たか。とりあえず残りの三百個出来てるぜ。あと、見てくれよ。剣を打ったんだ。十五回鍛えた鋼で打った剣だ。流石にお前の曲剣みたいに四分割じゃあねえけどな。鍛冶場に入ってくれ」


 ドワーフの鍛冶、べべルコに案内されて奥に入る。


 剣は六振りあった。スタンダードな長剣と、更に長い両手剣である。剣は簡単な握りだけが付けられている。


 俺は長剣を手に取る。叩かれて鍛え上げられた美しい鋼だった。見ただけで良い剣とわかる。ただ俺には重すぎる。


 キーアキーラは長剣を持って振った後、両手剣を持っていた。両手でブンブンと振っている。


 「良い剣だ。伯爵家に献上した方がいいのではないか」

 「キーアキーラのお墨付きが出たわね。魔剣にする必要は全く無いわ。綺麗ね」


 叩いて鍛え上げられた剣は美しく、装飾の必要など全く無い。一降り欲しくなったが、俺には持てないし、剣ばかりあっても困る。


 「お前さんには重いだろ。ほら、お礼の短剣だ。銀を塗っておいたから、魔剣にするんだろ。これはお前さんの曲刀と同じ作りだ。背と刃の材質を変えてある。恐ろしく手間がかかるな、やっぱり。ほら、付与しろ」


 「おお」


 キーアキーラが感嘆の声を上げた。両刃の日本刀である。真っ直ぐなので日本刀と呼んでも良い物なのかわからない。


 俺は柄に塗られた銀に祈りを込める。集中力が増す祈りと、振ると純白に輝く祈りを込める。


 べべルコは俺から剣を受け取ると、柄を付けてくれた。当然、柄には魔石が入る様に加工されている。俺は魔石を渡すと、革でグリップを巻いて魔石が落ちないようにしてくれた。


 俺は両手で剣を振ると、一寸の振れも無く剣を振り抜けた。振ると剣は淡く光り、軌跡に光りの粒子を残した。


 「綺麗ね」

 「どうだ? やはり、良い剣はいいな。つくづく思ったぞ。礼を言うぞ。ユージー」


 「煉獄刀とどう使い分けたらいいかな?」


 俺は素朴な疑問が出た。煉獄刀も抜いてみる。比べると、煉獄刀の方が細く薄く、カミソリのような印象を受けた。


 「短剣の方が丈夫な作りだから、常用は短剣の方が良いんじゃないか。一騎打ちにはあの技が使える煉獄刀の方がいいだろうな」


 「なるほど・・・」

 俺は二振りの魔剣を見る。見ていると嬉しくなる。


 「な、ユージー。一番強い武器って何だ? ユージーなら知っているだろう?」

 「お、そいつは俺も聞きてえな。教えてくれよ」


 キーアキーラの質問に、べべルコも乗ってくる。


 「戦では槍ですね。長槍です。兵に槍を持たせて作る槍衾は強力ですよ。攻撃方法は突きと切り落としだけですから、習熟が不要です。戦だから敵は前からしか来ないですからね。相手の間合い外から攻撃します」


 「確かにそうよね」

 「まあそうだろうな」


 ヴェルヘルナーゼとべべルコが頷いている。


 「一対一では、ナギナタでしょうね。ハルバードの斬るだけのような武器です。この刀に長い柄を付けた物ですね。剣よりも長い間合いで斬る事が出来ます。習熟したら剣は敵いませんよ。剣よりも力がいらないとも言われていますね。ハルバードよりも軽くて女性でも扱えます」


 「よし、そこに棒があるな。やってみようか」

 俺は長い棒、キーアキーラは短い棒を持った。


 「先端に刃物が付いていると思ってくださいよ」

 皆で外に行くと、俺とキーアキーラは対陣する。


 「僕は経験した事無いんで、あくまでも雰囲気でお願いしますよ」


 「いいぞ。確かに長いな。間合いに入りにくい。じゃ行くぞ!」


 俺は右足を前に、剣とは違って体を斜めにして構える。鍬を持つイメージに似ている。


 俺は合図と共に、中段に構えた棒を脛目がけて振り下ろす。剣では余りない攻撃だ。受けも取りにくい。下向きに剣を構えても力が入らない気がする。基本的には躱すしかないはずだ。


 「あ」


 キーアキーラが珍しく驚きの声を上げる。


 俺の脛攻撃が決まる、キーアキーラは予想外の動きに動けなかった。


 「足を切り落とすか、バランスを崩しましたよね」


 「成る程な・・・ヴェルヘルナーゼの魔剣を長くした感じに近いんだな・・・じゃあお遊びはここまでにしておいて、本題に入るか」


 「なぬ? 今のは本題だろう?」


 「頼みが合って来たんだ。鍛冶師べべルコの力を貸して欲しい」


 驚くべべルコに、キーアキーラは本題を切り出した。


本日二回目の更新です。

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