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冒険者物語  作者: 蘭プロジェクト
第3章 迷宮都市
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大牙猪 その二

第五十四話 大牙猪 その二


 「次は鼠のはずだ。盾を使う。行くぞ」


 俺達は中ボスであろう、白鼬目がけて迷宮の二階層、三階層、四階層を探索している。二階層から三階層は一体の構造となっていて、上がったり降りたり、迷うように出来ている。


 キーアキーラは迷宮を迷うことなく進んで行く。出現する敵も全て事前に教えてくれる。キーアキーラがいるだけで迷宮の難度が下がる。恐らく、総合的な遂行能力が評価されての金級であろう。


 俺達は盾と煉獄刀を構えて部屋に入る。鼠が六匹だ。俺の盾は木材に龍の鱗が張ってある。小さな鱗を張り詰めた物では無い。一枚物を貼り付けたのだ。軽く、丈夫である。恐らく、自動車に使われる高張力鋼より強度が低いと思われるが、その分弾力があって軽く、扱い安い。


 大鼠が俺の盾にぶつかってくる。正面からぶつかってしまい、俺は体勢を保つために一歩後ろに下がる。大鼠の突進を止めれたので、煉獄刀を突き入れる。煉獄刀は鼠に突き刺さり、鼠は汚い齧歯を見せながら嫌な悲鳴を上げる。


 俺は煉獄刀を抜くと、もう一度突き入れる。三度目でようやっと動かなくなった。俺の力では片手で煉獄刀を振るのは難しいのである。因みに煉獄刀は通常の日本刀と脇差しの中間の長さだ。短くしたのだがそれでも重い。


 「大丈夫か? 正面から受けすぎだ」

 既に戦闘は終わっていたようだ。


 「フフフ・・・ユージー君にも苦手があるのね」

 俺達は苦戦、主に俺が苦戦をしながら順調に進んでいった。苦手な盾捌きを覚える為にわざと攻撃を受けている。体の小さな俺は、大鼠の体当たりで体勢を崩してしまうのだ。鼠と蝙蝠の素材は面倒だから取らなかった。


 「次が白鼬だ。龍筒頼むぞ。ユージーは後ろで、射撃ができる間隔を開けて前に私とヴェルヘルナーゼか。盾を持った方がいいな」


 「わかったわ。準備はいい?」

 俺は頷くと、二人は背中から盾を外す。


 「行くぞ!」


 キーアキーラの声で俺達は部屋に入る。俺は入ると同時に索敵を開始。後ろ足で立つ白鼬を捕捉。キーアキーラとヴェルヘルナーゼは、二メートルほど離れて俺を守る位置にいる。


 「射撃」

 ぱあん。


 弾は白鼬の眉間を貫いた。鼬が音を立てて後ろに倒れた。


 「やったか? 一瞬だな」

 「いずれにしても喉を切るわ。血を抜かないとね」


 「いや。そのまま鞄に入れてしまえ。時間は止まっているんだろ? 硬直もしないさ」

 俺は白鼬を魔法の鞄に入れてしまう。


 「さ、行こう」

 俺達は戦闘をこなしながら、登ったり、降ったりを繰り返し、水場のある休憩室にたどり着く。休憩した後、猪目指して進むことにした。鼠と蝙蝠、コボルドを倒しつつ、進んで行った。


 「次は猪だ。でかいぞ。びびるなよ。流石に猪を盾で受けるのは不可能だ。私が気を引くので、部屋の隅から射撃しろ。ヴェルヘルナーゼはユージーを守れ。一撃で仕留められなかった時は魔法で焼き殺す。いいか?」


 俺は頷くと龍筒を取り出し、弾を込める。俺は部屋に入る前に索敵する。目標を捕捉。ヴェルヘルナーゼは魔龍剣ファークエルを構えている。


 「行くぞ!」


 キーアキーラの声で部屋に飛び込む。


 「猪! 餌はこっちだぞ!」


 キーアキーラが声を張り上げながら、部屋の左に走り出した。


 猪、猪と言って良いのだろうかという程の大きさだった。ヘラジカより大きい。口から巨大な牙が生えている。どう見ても魔物にしか見えないのだが、魔物ではないらしい。余りの巨躯に、一瞬目を奪われる。


 「ユージー君! 準備はいい?」


 ヴェルヘルナーゼの声で意識を元に戻す。猪はキーアキーラに向かって頭を下げ、右前足で地を掻き始めた。


 俺は静止した猪の頭に狙いを付けた。


 「射撃」

 ぱあん。


 乾いた音が響くと、頭を撃ち抜かれた猪はその場で前足を折り、目を閉じた。


 「凄いわ。ワイヴァーンも一撃じゃないかしら」

 「・・・でかい」


 俺は猪の余りの大きさに、足の太さに驚きを隠せなかった。四トンはありそうである。象と変わらない大きさだ。


 「さ、手早く頼む。魔法の鞄に入りそうか?」

 俺は魔法の鞄に収納する。収納と同時に、満杯であると感じとれた。


 満杯がわかるとは、俺が持っている魔法の鞄はもの凄い作りの良さである。上質な魔道具に感動を覚える。


 「なんとか入りましたけど、もう無理ですね」

 「そうか。とりあえず戻るぞ。部屋を三つ過ぎると休憩部屋がある。さっきとは違う部屋だ」


 俺達は猪の部屋を後にし、戦闘をこなしつつ休憩部屋に入る。


 俺は休憩部屋に入った途端、虚脱感に襲われた。歩く距離も長く、戦闘も多く、疲れたのだ。俺はヴェルヘルナーゼに鎧を脱がして貰うと、水で顔を洗い、ベンチ、魔動竃、テントを出す。俺はとりあえず湯を沸かし、二人でテントを設営して貰う。


 いつものようにお湯で体を拭うと、眠気が増してきた。何とかシチューを暖め、チキンとパンを用意すると寝てしまった。


 俺は喧噪で目が覚める。休憩室は冒険者が増えており、キーアキーラがお酒を売っている。


 「起きた? シチューを食べなよ。ほら」

 俺はシチューを受け取ると、がつがつと食べた。周囲にはシチューの良い香りが漂っている。


 「シチューとパンは売り物じゃないんだ! 何回言えばわかるんだ! 銀貨を出されても駄目だ駄目だ」

 キーアキーラが声を荒げている。


 「ウフフ・・・お酒は順調に売れるわね。やっぱりシチューも売れそうよね。誰か料理の出来る冒険者を雇ってもいい気がするわ」 俺はチキンを囓る。旨いがチキンしか食っていない気もする。


 「ね、ユージー君は今後どうしたい? 鼬と猪で魔法の鞄が一杯一杯なんでしょ? 暫くは鼬と猪専門で狩っても良さそうなのよね。鼬を又出したら値は下がるでしょうけど、一回潜って金貨十枚なら良い稼ぎだと思うのよね」


 「・・・ミスリルで作れば、容量の大きい魔法の鞄が出来ると思うんだよ。銀より、ミスリルの方が祈りの数も多く入るし、魔力の入り方が違うんだ」


 「ふーん。はい」

 ヴェルヘルナーゼはミスリルのナイフを手渡してきた。


 「え?」

 「鞄にしていいよ。煉獄刀があればゴーストも斬れるんでしょう? じゃあいいわ」


 「わかった。ありがとう」

 「何言っているの。ありがとうはこっちよ」


 「早速付与しようかな・・・テントにはいろうか」

 俺とヴェルヘルナーゼはテントに入り、魔力薬を用意する。


 「じゃあ行くよ・・・」


 俺は魔力を練り、ミスリルのナイフに流していく。ロビーリーサのミスリルは純度がすこぶる高い。俺は魔力の糸を極限にまで細くし、ミスリルの粒界に浸透させて行く。魔法の鞄化である。


 収容の条件であるが、生きている動物は収容しない。物を分割して収容しない。満杯になる場合は無理して収容しない。


 俺は魔力が減って来たため、魔力薬を半分飲む。脂汗が出てくる。二回目の魔力薬を飲み、更に魔力が尽きるころようやっとナイフ全体を鞄化することが出来た。


 「はあ、はあ、出来た」

 「おい、酒屋はお開きだ。何が出来たんだ? おい、酷い汗だぞ。大丈夫か」


 キーアキーラが入って来た。


 「総ミスリルの魔法の鞄ですよ」

 俺はミスリルのナイフをヴェルヘルナーゼに渡す。


 「俺の腕では、出し入れに魔力を使うからヴェルヘルナーゼが持っていてよ」

 「ああそうか。銀よりミスリルの方が高性能になるんだったな。ロビーリーサから仕入れたミスリルのナイフを鞄にしたのか。ナイフで斬りつける振りして鎧を奪うんだろ? 考えたな」


 「え? こう? 収納!」


 ヴェルヘルナーゼはキーアキーラの革パンツにナイフを当てる。革パンツが収納され、綺麗な足と下着が露わになる。

 

 「ぶッ」

 俺は突然現れた、キーアキーラの綺麗な下半身を見て噴き出してしまった。


 「おい、本当に私で試すのか? まあいい。私の足はどうだユージー? 下着も脱ぐか? 脱がすか?」

 「ちょ、ちょっと! ユージー君は出て行って! もう!」


 俺はテントを追い出された。綺麗な足だったが、ちらりとしか見れなかった。残念だ。


 冒険者が酒樽をウロウロしていたので、お開きです、と言って樽を収納すると非常にがっくりしていた。

猪編は今回で終わりです。

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