三人の護衛 その二
第五十二話 三人の護衛 その二
セラフィーナは三人、魔力欠乏に陥った魔法使いのシルッカ、腹に剣の傷を受けた剣士のレイラと騎士のガーグランを見ていた。大きめの部屋、恐らく医務室で三人が寝かされている。
シルッカは手持ちの魔力薬、魔力を回復させる魔法薬を瓶の半分飲ませたので直に回復するであろう。
問題は傷を負った二人だ。付けている指輪は、耐病の指輪であって、無効化したり治癒させる物では無い。あとは二人の体力が問題になるであろう。
立派な体格のガーグランでさえ、熱が出て来ている。魔法の回復薬を飲ませて、体力を回復してあげたい。
黒鉄級の冒険者であるセラフィーナに取って、体力の回復薬は高値の花だった。傷が治るわけでもなく、毒が抜けるのでも無く、疲れが取れるだけの魔法薬だ。資金に難があったセラフィーナ達は買うことが出来なかった。
ガーグランも熱を発しているが、レイラはもっと高熱だった。このままでは助からない。
「セラフィーナ殿、皆さんの容態はいかがかな」
「これは隊長様」
正直、セラフィーナには今入って来た初老の騎士がなんの隊長だかわからない。しかし、頼むのはこの人しかいなかった。
「魔力欠乏のシルッカは大丈夫と思われますが、傷を受けた二人は体力勝負になっています。回復薬を飲ませないと、助からないと思います。お屋敷から都合していただけないでしょうか」
「話はわかった。持ってくる」
隊長が部屋から出て行くと、セラフィーナはタオルを絞り、二人の額に乗せる。
今は昼、先ほどの戦いがあってから更に魔法で治療を行っている。魔力薬も尽き、治療はここまでである。基本的に傷口は閉じているため、これ以上は無駄であろう。
しばらくすると、瓶を持った隊長が入って来た。五本もあった。
「回復薬だ。狼藉を働いた男は先代の類縁なんだ。よくぞ持ちこたえた。伯爵様に代わり、お礼申し上げる。伯爵様はお慶びであったぞ。それでは頼む」
セラフィーナが頭を下げると、隊長は医務室を出て行った。
「ありがとうございます。早速回復薬を飲ませてみます」
セラフィーナは回復薬を小さなスプーンで受け、ガーグランの唇を湿らせる程度に飲ませてみる。何となく、顔色が良くなった気がした。
違うスプーンでレイラの口に回復薬を含ませる。セラフィーナは良くなることを祈りつつ、交互に少しづつ回復薬を含ませていった。徐々にであるが、熱は下がって来た様である。セラフィーナは安堵して座り込んでしまった。
陽も完全に落ちると、シルッカが目を覚ました。
「セラフィーナさん・・・ここは?」
「良かった、シルッカ。目を覚ましたのね。お屋敷の医務室よ。気分はどう? レイラは一命を取り留めたわ。またユージーさんの指輪のおかげよ。今は回復薬を飲ませて、様子を見ている所よ」
シルッカが体を起こし、起き上がると、レイラの側まで歩いて来た。
「・・・又この子に嫌な役を押しつけちゃったわね」
シルッカは汗ばむレイラの顔をタオルで拭いた。シルッカはレイラの熱を確かめるが、熱はなさそうだった。
「私が神官で、シルッカが魔法使いだから私が剣を持つねってね・・・」
シルッカは布団をめくり、レイラのお腹を触る。つるつるしていて綺麗な肌だった。服をめくってみると、お腹に大きな傷が一つあった。隠しても隠しきれない傷だ。
シルッカはボロボロと泪が出た。
「お嫁に行けないくらいの傷になっちゃったね」
シルッカはレイラのお腹を隠すと、毛布を掛けた。
「ね、セラフィーナさん。三人で剣を学ばない? この子にもう負担は掛けたくないわ。それに、魔力が銀級の私はこれ以上の魔法の伸びは無いから。ヴェルヘルナーゼさんだって剣を結構使うわよね。あの人、精霊使いとして有名だったけど魔剣を持った剣士になっていたじゃない」
「そうね・・・剣を買おうかしら。でもねぇ、シルッカ」
「そうなのよね。先立つものが無いのよね、セラフィーナさん。借金もあるしね」
「あ、そうだわ。レイラの剣はもう駄目よ。刃ががたがたで、剣も曲がっちゃったし、使えないわね」
「なまくらで安物だったしね。良くあんな剣で戦ったわよ」
「わかった。任せて欲しい。それと、借金とはなんだ」
「ひ!」
「ひゃ!」
セラフィーナとシルッカは突然の声に驚きの声を上げてしまった。ガーグランが目を覚ましていた。
「ガーグラン様、おはようございます。まだ体から毒が抜けていないはずです。寝てて下さい。あと、これから十日間は指輪を外さないで下さいね。奥方様からお借りした、病気を癒す魔道具ですので。それと、レイラに変わりましてお礼を言わせてください。止めを刺されそうなレイラをかばっていただいてありがとうございました。おかげで死ぬような目に・・・」
「いや、こちらこそ奥方様を救っていただき、恩に着る。本来は我々の任務なのだ。狼藉者の侵入を許したのは俺の責任なのだ。済まない」
ガーグランが頭を下げてくる。
「二人とも腹に剣を喰らったのだよな・・・結構な傷だな。俺にとっては敵から逃げなかった名誉の証しであるが、レイラ殿にも傷はついたであろう。この勇敢な娘に可哀想な事をしてしまった」
「すみません、私の腕ではこれが精一杯なんです」
セラフィーナが頭を下げる。
「ち、違うのだ。聞いて欲しい。俺の受けた傷は致命傷で、俺の部下だったら間違い無く俺が止めを刺して楽にさせた傷だ。セラフィーナ殿がいたから俺は生きているんだ。で、済まないが借金とはなんだ? お前達は借金でここに働きにきているのか?」
「ええとですね・・・」
セラフィーナはちらりとシルッカを見た。シルッカは小さく頷いた。
「この子はですね、お腹に剣を受けたのはこれで二度目なんです。こちらに来る前、ゴブリンの討伐隊に参加したのですが、ゴブリンの剣をお腹にですね・・・私が傷口の治療をしたのですが・・・」
「毒か。ゴブリンの刃には毒が塗ってあると聞く」
「ええ。息を引き取る寸前、ある冒険者の方が、高価なこの魔法具と魔法で毒と病の治療をしていただきました。我々冒険者は自由です。自由と引き替えに、命の責任も自分で取ります。失敗して死ぬときは自己責任。自由に生き、稼ぎ、そして大半は黒鉄級で死んでいくんです。彼は治療費は要らないと言ったんですが、払わないと彼に不利益になります。どんな治療も無料で引き受けるってなりますから、治療を受けた場合は教会での治療費用と同額をお支払いするのが共通の認識なんです」
「そうか・・・で幾らなのだ」
「金貨八十枚です」
「む! それは暴利ではないか」
「いえ、こちらから言い始めた額です」
「俺も金貨八十枚を支払わないと行けないのだな、済まないが持ち合わせが・・・」
「い、いえあの」
「セラフィーナさん、すっごい困りますねこれ。ユージーさんも嫌な顔していたよね」
「駄目でしょ、名前を言っちゃ」
「あ、今のは内緒で。彼はどうしてか名前を出すのを嫌がってますよね。もう病気の治療まで出来る凄腕だってルーガルでは有名なのに」
「病気は治せないのか?」
「ええ。かの大賢者、ショー・クルースくらいじゃないかと思いますわ。怪我って見たらわかるのでいいのですが・・・」
「あの、セラフィーナさん、あの」
真剣な顔で話すセラフィーナとガーグランは、奥方様、ソーラが入って来たことに気が付いたシルッカの言葉が聞こえない。
「話が逸れたな。流石に金貨八十枚は難しいが、三人分の武具は用立てよう。俺は君たちは盾を持った方が良いと思う。あと笛か何かだ。君たちは不味い状況になったら合図を出して貰い、ひたすら時間を作って貰えばいい。ひたすら合図を出すのだ。相手を倒す必要は無い。盾で受け続ければいいのだ。隙を突いて、細い剣で突きを繰り入れればいいだろう。盾の使い方は騎士が一番心得ている。それで金貨八十枚の代わりにしてくれないだろうか」
「いいのよ、ガーグラン。私が用立てするわ。あなたは付き合いなさいよ。この子達に訓練が必要なのかしらね? じゃあガーグランはしばらくこの子達の世話を頼むわ。いいこと? そして貴方たち、借金ってどういう事? 貴方たちを借金で縛るなんて許せないわ。どういう事?」
「あのですね・・・」
セラフィーナは借金に陥ったいきさつをソーラに話す。
「で、借金は受け取らずにルーガルの孤児院に全額寄付、そして借金のある内は指輪が使えて、孤児院はセラフィーナがいたところだというのね。その指輪は金貨百枚なのよね」
「はい・・・そうです・・・え? 金貨百枚ですか? そんな高価な物を・・・」
セラフィーナは絶句してしまった。シルッカも同じく驚いている。
「素敵な人ね。会ってみたいわね。ユージーと言ったかしら。伯爵家で雇えないかしらね」
「奥方様、レングラン男爵から任命されたユージー・アーガス法衣騎士爵殿では無いでしょうか? 珍しい名前です。叙勲理由は見事な指揮でレングラン男爵家の騎士を動かし、ゴブリンを殲滅した、と聞いています」
「あら、そうなの? じゃあキーアキーラを呼び出して調べて貰おうかしら。最近、腕のいい錬金術師がこの辺りにいるようなのだけど、名前が出てこないのよね。恐らくユージー法衣騎士爵ね。先を越されたのですね・・・」
「奥方様、キーアキーラさんとユージーさんはパーティーを組んでますので・・・」
「あら、そうなの? セラフィーナ。良いことを聞いたわ」
「奥方様、一つ厚かましいようで恐縮なのですが、お願いがございます。レイラのお腹の傷跡ですが、一つしか無いんです。私の魔法の腕では傷跡まで消せないので、ユージーさんが治してくれたのだと思います・・・」
「おっと、駄目よそれ以上言っちゃ。可愛いレイラの傷を頼みましょうね。で、どんな方なのかしら? ユージー卿は」
「小さくて、細くて、白くて可愛い子ですね。レイラも一目惚れだったんですが、瞬時で失恋です」
「そうなの? レイラを振るなんて許せないわね」
「違うんですよ。同じパーティのエルフと良い関係らしいんで、駄目だって何度も言って聞かせてようやく最近落ち着いてきたんですよ・・・そもそもまともに話した事も無いのに・・・困った子ですが、わからなく無いですね」
「あらあら。それは面白そうね。ウフフ。キーアキーラを早速呼び出そうかしら。ウフフ」
ちょっと長くなりましたが、閑話二話目をお送りいたします。
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