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冒険者物語  作者: 蘭プロジェクト
第3章 迷宮都市
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三人の護衛 その一

第五十一話 三人の護衛 その一


 異変を最初に感じ取ったのはレイラだった。前方にこちらを凝視する冒険者風の男がいる。レイラはパーティ「明星の剣」の剣士で、一番の若手だ。十八歳である。


 「セラフィーナさん、シルッカさん、前方の冒険者風の男に注意。騎士ではなさそう」


 セラフィーナは同じく明星の星の神官で年齢は三十歳である。シルッカは魔法使いで、二十二歳だ。食うに困った三人が結成した女三人のパーティである。キーアキーラの紹介で、ルーディアと迷宮都市を治めるドーソリー伯爵の母親であるソーラの護衛に付いている。


 本日はソーラの日課である朝の散策に出ていた。屋敷の敷地を散策している最中だ。


 レイラは周囲を見まわすが、人の姿は少なかった。レイラと目があった冒険者風の男は木陰に隠れて姿を消した。レイラは事前の話通り、レイラが前、セラフィーナとシルッカが後に位置する防御形態をとる。レイラが時間を稼いでいる間にシルッカが魔法の障壁を張り、ソーラを守る作戦だ。


 怪我を癒せるセラフィーナは最悪に備え、後方に待機となる。


 「どうしたの? 怖い顔をしているわよ」

 ソーラがセラフィーナに声を掛ける。


 「奥方様、前方の木陰に怪しい男がいます」

 ソーラが木陰を見ると、大剣を抜いた男が現れた。


 「死に損ないが、今こそ恨みを晴らしてくれる!」

 男は立派な体格の剣士だった。レイラも剣を抜く。脂汗が落ちる。


 「お、お前は・・・」

 ソーラは悲鳴にも似た声を上げた。


 「忘れたとは言わせん! 女、どけ! そいつは罪を償う必要がある! 邪魔するなら死ね!」


 男が大剣を振り上げて来た。レイラは剣を両手で持って受けるが、重たい打撃に膝が落ち、手が痺れた。


 一撃打ち合っただけで技量の差と、悲しいくらいの男女の筋力の差を感じた。


 「セラフィーナさん! 奥方様を連れて屋敷へ! 早く!」

 「奥方様、失礼します」


 セラフィーナはソーラを両手で抱えると、屋敷の方へ走り始めた。


 シルッカは後ろを監視しながら屋敷へ移動する。


 レイラは思わず唇を噛む。男の剣士の技量はレイラを上回っていた。上回るのは当然なのだ。レイラは黒鉄級の冒険者にすぎないのだ。ついこの間まで、スライムを生け捕りにして生活していたのだから。


 「駄目よ、レイラが!」

 「奥方様、冒険者は死ぬのが仕事です。お気になさらずに」


 セラフィーナはソーラの言葉を聞かず、屋敷内へ連れて行く。


 レイラは後ろに飛ぶと、ナイフを投擲した。ナイフは簡単に男に弾かれる。


 「く、効かないか・・・」

 レイラは更に下がり、もう一回ナイフを投擲する。


 「効かぬぞ! 小娘が!」

 男はナイフを避けると剣を振り上げる。


 「誰か! 侵入者です! 誰か! 侵入者です!」

 レイラは大声を張り上げる。悲鳴に似た声は良く通り、周囲に声を響かせた。


 「く! こしゃくな!」

 レイラは男が剣を振り上げた瞬間、突きを繰り入れた。


 「甘いわ!」

 男はバックステップで下がり、レイラの突きを躱すと突きを繰り出した。


 男の突きはレイラの腹に刺さり、貫通する。


 「ああああ!」


 レイラが倒れ込む。レイラは熱く燃えるようなお腹を押さえる。レイラは泪が出た。折角、セラフィーナと、あの人、少年のようなあの人に生命を貰ったのに、再び生命を終えようとしている。


 レイラは自分の技量の無さに情けなくなる。不意に目の前が明るくなった。光輝く魔法の矢が幾本も飛び、男を貫いた。いや、貫いた様に見えたが、大半は分厚い鎧に防がれた。数本が露出している部位に突き刺さる。


 「く・・・魔法使いがいるのか!」

 レイラは何者かに引っ張られた。


 「しっかりしなさい! 今魔法を掛けてあげるから!」


 レイラが目を開けると、巨大な火の玉が男目がけて飛んでいった。遠くから打たれたファイヤーボールは軌道が読まれてしまい、躱すのは比較的容易い。しかし、男が躱している時間が、レイラを救出する貴重な時間を作った。


 シルッカは唇を噛みながら呪文を唱える。


 「地の精霊よ、風の精霊よ、我の名において彼の地に結界を張りたまえ。結界は八方向の陣をなし、男を陣へ入れたまえ。陣は強固にして柔、柔にして目を眩ませたまえ。八魔よ、かの命を奪う事を許可する。八方向の結界発動」


 シルッカは呪文を唱え終わると、極度の魔力欠乏で頭から倒れた。レイラを救出し、騎士団が応援に駆けつけるのを確認して安心して気を失った。


 八方向の結界を掛けられた男は忽然と姿を消した。


 三人の騎士が消えた場所に駆け寄る。


 「消えたぞ・・・」

 「いや、ひび割れている!」

 「出て来たぞ! やれ!」


 騎士達が目の前の空間がひび割れ、男が出て来たのを見て叫んでいる。男は全身血だらけで、魔法の矢さえ防いだ鎧が砕けて無くなっている。


 「ぐぬう。死ねぇ!」

 それでも男の剣の勢いは失われず、三人は受けるだけで精一杯だった。


 セラフィーナはレイラの傷口に手を当て、魔力を込めていく。


 「大いなる者よ、尊上の者よ、光の御子よ。この小さな者の命を奪う剣の傷をお癒しください」


 セラフィーナの掌が淡く光ると、レイラの傷口が消えて行った。セラフィーナはレイラの呼吸があるのを確認すると、レイラを屋敷の中へ引きずって行った。


 セラフィーナは屋敷の人間にレイラを託すと、シルッカの元へ走った。


 シルッカは彼女の持つ最大の呪文、八方の結界を使ったようだ。シルッカは魔力が豊富な方では無い。無理をして結界を張ったのだった。


 本来であれば結界内で八匹の魔に晒され、絶命させるはずであった。男の鎧を砕いただけで終わったようだった。屠ることには失敗したが、貴重な時間を作り出すことは成功した。


 セラフィーナはシルッカを見た。顔は蒼白で、極度の魔力欠乏に陥っている。セラフィーナは魔力薬の瓶を開け、ほんの少し唇に垂らした。魔力薬は唇を潤し、体内に吸収された。顔色が若干良くなった感じがした。


 セラフィーナが男を見ると、四人の騎士に押さえ込まれて、男はようやく捕まえられた。


 騎士が一人、意識を失って同僚に鎧を脱がされていた。セラフィーナと同じくらいの年の騎士だ。


 「死なないでください! ガーグランさん! 今傷を見ますから!」

 若い騎士は泪目でガーグランという名の騎士の傷口を押さえている。お腹に突きを喰らったようだった。


 「くそ、血が止まらねえよ! どうすれば良いんだよ!」

 「退きなさい! 今魔法を掛けます!」

 セラフィーナは魔力薬を飲むと、魔法で傷口を閉じた。


 「ガーグランさんの傷が! ありがとうございます!」

 「いいえ。ご家族を呼んでいただけますか。剣の毒と便の毒が体を巡るはずです。恐らく、数日の命です。私が出来たのは、単なる延命です・・・」


 セラフィーナが下を向いて言うと、若い騎士は泣き始めた。


 「ガーグランさんは昨年母親が亡くなって親戚もいないんだ・・・俺が看取るよ」

 若い騎士ががっくりと肩を降ろした。セラフィーナは胸が張り裂けそうになった。


 「クソ! お前のせいでガーグランが!」

 四人の騎士は叫びながら男を縛り上げている。


 「セラフィーナ。レイラとガーグランはどうですか」

 「奥方様・・・」


 セラフィーナは騎士に付き添われて現場に来たソーラを見て、大泣きしてしまった。ユージーから借り受けている、貴重な指輪を使えば命が助かる可能性が高いが、今はセラフィーナが付けている。


 指輪は一つで、腹を刺され、剣の毒を受けたであろう二人のうち、どちらかしか助ける事が出来ない。セラフィーナはどちらかを選ばねばならなかった。


「どうしたの、あなたの魔法で二人ともよくなったのではなくて?」


 「奥方様、剣で刺されると剣に毒が無くても実は毒があり、命を落とす者が多いのです。しかも二人ともお腹を刺されています。便の毒が体を巡っているかもしれません。毒消薬では治らないんです。ここに借り受けた耐病と耐毒の指輪があります。この指輪であれば助かるかもしれません。奥方様、どちらかに使うか、決めてくださいませ」


 命は平等ではない。綺麗事を言う人を何人もセラフィーナは見ているが、実際は王族、貴族、騎士、平民、奴隷の順に命が軽くなっていく。セラフィーナはレイラの命を諦めていた。


 「奇遇ね。私も同じ指輪を持っているのよ。さ、早く二人に付けてあげなさい。手の空いている者は怪我人を運びなさい!」


 セラフィーナは、ソーラから手渡された指輪を見て泪が零れてきた。ユージーの指輪に間違い無かった。有り難かった。これで助かるかも知れない。


 「どうしてあなたが持っているのか、後で聞かせてね。さ、早くしなさい」


 「は、はい」

 セラフィーナは二人に指輪を嵌めた。剣の傷を受けた二人と、魔力欠乏を起こしたシルッカは屋敷内に連れて行かれた。


 「私は大丈夫だから、三人を頼みますわ。さ、行って看病しなさい」

閑話が長くなりましたので、次回も続きます。


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