初めての女魔法使い
2020/06/14 主人公とヒロインの出会いですが、書き直しています。
違和感があろうかと思いますが、ひとえにアマチュア作家の私の技量不足でございますので、
ご容赦の程をお願いいたします。
第五話 初めての女魔法使い
目が覚めると、見知らぬ女の子が俺を見ていた。
「あ、目が覚めた? 無意識で魔力を練って、自分の治療魔法を掛けていた感じだったよ」
俺は一安心して左右を見ると、首が動かなかった。だが女の子が俺を見ているのが見えた。魔法使いの様で、暗い色のローブを羽織っている。ローブは下の部位が焼けて穴というよりスリットになっていて、女の子の太ももが露出していた。綺麗な金髪、尖った耳。美しい顔と、白い肌。スレンダーな体だが、胸と腰の主張はなされている。エルフのようだ。俺は再び意識を失った。
俺は強烈な吐き気で目が覚めた。誰かに介抱され、大量に吐いた。口をゆすがれると落ち着き、目を閉じた。再び目をさますと、胃の中には何も無く、胃液しか出なかった。
三日目にようやく目を開けることが出来た。ようやっと状況を飲み込み始めた。ここは俺の部屋ではない。同じ宿の違う部屋だ。何故ここに居る? 俺は立とうと思ったが、立てず、ベッドに横になった。
俺は段々思い出してきた。女エルフのパンチを顎に食らって、脳震盪を起こしたんだ。パンチには精霊らしき透明の鳥が宿っていた。
「気が付いたの?」
見たことの無い女の子が心配そうに俺を見ている。
「だ、誰・・・・だ・・・」
上手く話す事が出来ない。脳にダメージがあるのかもしれない。恐らく脳挫傷だ。
俺は目を閉じ、魔力の糸を脳を中心に循環させる。脳震盪前の脳と脊髄になるように回復をイメージする。魔力の糸は何十本も俺の脳を巡り、回復させて行く。頸椎も損傷していたが、治っていた。俺は無意識で治療魔法を掛けていたらしい。
魔力の糸が消え失せ、俺は目を開けた。吐き気や目眩、頭痛が消えている。脳震盪と脳挫傷、頸椎は治ったようだ。
「む、無詠唱で回復している・・・」
知らない人が、俺を見ている。しかし、再び目眩に襲われ、意識を手放した。
ようやっと目覚めたのは朝だった。
「いつの朝だろう? 酷い目にあった・・・んん?」
俺は目の前の美女に驚いた。信じられないくらいの美女が俺と一緒のベッドで寝ていたのだ。あり得ないくらいに良い匂いがした。
かなり興奮したが、段々と思い出してきた。俺はこの女エルフにパンチを何発もくらい、脳に損傷をくらったのだ。なんとか魔力を循環させることで損傷を治す事ができたのだ。俺は脳の損傷も治り、魔力も復活して起き上がれる体になったはずだ。
俺は上体を起こしてみる。大丈夫だ。腹が減っているが、それ以外に不調は無い。左右の手を握りったり開いたりしてみるが、きちんと動く。
「あ、あ、あ。テステステス本日は晴天なり。本日は晴天なり。俺の名前はユージー・アーカス」
よし、大丈夫だ。全快。
「え? 何? あ、起きられるようになったの? 良かった・・・」
女エルフは安心したのか、ワンワンと泣き始めた。
「お、おい」
「ごめんなさい。本当にごめんなさい」
女エルフが泣いている。困ったな。
「すみません、お腹が空いたのでご飯を食べに行きましょう」
俺は立ち上がろうとしたが、転びそうになった。
「丸々四日も寝ていたのよ。肩を貸して」
俺は女エルフに体を支えて貰いつつ、一階の食堂へ移動する。体が自由に動かず、移動は大変だった。
俺としてはこんな美人と密着できて嬉しい。すぐに手が出る凶暴エルフでなかったらいいのだが・・・何しろ、脳挫傷ぎみだったからな・・・
「あら、ユージー君! 大丈夫だったの!」
一階に移動してきた俺を見て、女将さんは驚きというか、安心した顔を見せてくれた。俺じゃなかったら植物人間だった。
「ほら、今朝ご飯を用意するわ。パン粥がいいわよね」
女将さんはまずハーブティーを持ってくれた。俺はゆっくりとハーブティーを飲む。体に水分が染み渡る。女将さんはお茶の入ったケトルを持って来てくれた。俺はすぐに飲み終え、女エルフがお茶を注いでくれた。
「俺はユージー。鉛級の冒険者なんだ。よろしく。数日間迷惑を掛けたというか、掛けられたというか」
女エルフは下を向いている。
「ごめんなさい。うちはヴェルヘルナーゼ。元銀級の冒険者よ。見てわかると思うけど、エルフよ。あ、あの、もう大丈夫なの? あの、ろれつも回らなかったし、満足に動けていなかったから、うち、あの壊しちゃったかなって・・・治らなかったら冒険者は除名、騎士に通報で処罰か奴隷落ち。治ったら三段階降格で青銅級からやり直しだって。治って良かったよ・・・」
女エルフ、ヴェルヘルナーゼはハーブティーを口に含んだ。
「さ、今日から活動を再開しようかな」
慌ててヴェルヘルナーゼが俺を止める。
「駄目よ、頭をやっちゃったんだから。しばらくは安静にしていて。うちが面倒見るから」
「う、うん」
ヴェルヘルナーゼが泣き始めたので俺は頷くしかなかった。
「ほら、駄目よ、折角ユージー君が良くなったのに、ヴェルヘルナーゼさんがめそめそしていちゃ、ね。パン粥を食べて休むのよ」
女将さんが二人にパン粥を持って来てくれた。俺は一口啜ってみる。パンをエールで煮たものだ。決して旨くは無いが、絶食していた体に染み渡る。
二人は無言で食べた。俺は沢山食べたいのだが、胃が全く受け付けなかった。何とかパン粥を食べ立ち上がると少し力が湧いてきた。
俺はヴェルヘルナーゼに手を引かれ、階段を昇っていった。俺は自分の部屋に戻ろうと思ったが、ヴェルヘルナーゼの部屋に戻された。
俺はヴェルヘルナーゼのベッドに寝かされる。この女エルフはわかって居るのだろうか? モヤモヤする。
「ごめんなさいね。思わず殴っちゃって」
ヴェルヘルナーゼは俺が寝ているベッドに腰掛けた。
「聞いたわよ。話題のルーキーだったんでしょう? 薬草採取が凄いって。受付のメーニアさんに損失がすごいよって言われたわ。寝ているのよ。うちはギルドに行ってくるから。怒られてくるね」
俺はベッドにで天井を見ていた。起き上がると、数日ぶりに自分の部屋に戻った。部屋は隣だった。俺の部屋には、短剣や革の鎧が置いてあった。薬草入れのザックもある。元々の荷物も大丈夫だった。
俺は虫除けの香を魔法で燃やす。鼻に独特の刺激臭が突き刺さる。俺は除虫菊を乳鉢で砕いていく。数分で疲れてしまった。俺は木窓を開け、朝の冷たい空気に身をさらした。
俺はベッドに横たわり、目を閉じた。体に細い魔力の糸を泳がせる。脳や脊髄を中心に泳がせ、悪い箇所を修復していく。脳細胞が少し修復された。完全に治っていたわけでは無かったようだ。
俺は長い間、魔力の糸を体の中で泳がせた。糸は大まかに操作出来るものの、狙い通りに動かない。俺は魔力の糸を感じることから、動かす事に意識を変える。
意識を変えると、糸は少しづつであるが意のままに動く様になる。俺は右心房から動脈に糸を乗せようとしたが、針に糸が通らない感じで、なかなか上手くいかない。
俺ははっとひらめいた。見えていないのに、上手く動くわけは無いと。俺は魔力の糸が、内視鏡の様に糸の先端で映像を撮影するイメージを持つ。頭にぼんやりと映像が映る。ピンク色の心臓だ・・・写ったぞ。
動脈はあそこか。よし、行くぞ・・・んん? ん?
血管に詰まりがあるぞ・・・やべぇな・・・血が止まると不味い。血管の修復を・・・俺は詰まりのない綺麗な血管をイメージし、魔力を流す。ほんの少し動脈瘤が小さくなったところで、俺は意識を失った。




