魔動機
第四十八話 魔動機
地上に上がると、俺達はギルドの受付に移動する。
「買い取りお願いします。蝙蝠の翼四十組、鼠の尻尾十七本。あと白鼬です。白鼬は解体もお願いします」
「結構ありますね。解体場までお願いします」
受付の女性は背が低い、可愛い感じの子だった。名前はわからない。少し残念だ。
「解体場だろ。こっちだ」
キーアキーラはギルドから出ると、隣接されて居る大きな建物に入った。中に入ると、半分が大きなホールで、全体的に血なまぐさかった。解体場にも受付カウンターがある。血で汚れたバケツや桶がいくつも並んでいる。
「おう。買い取りか。小物は桶に、大物は直接置いてくれ」
初老の冒険者風の男がやって来た。白髪だが体は今だ大きく、立派である。片目なので、怪我で引退したのか。俺は魔法の鞄から蝙蝠の翼と鼠の尻尾を出し、桶に入れる。白鼬は床の上に置いた。
「おおー。若いのに鞄持ちで綺麗に白鼬を仕留めているな・・・キーアキーラじゃねえか。お前のパーティーなら理解出来るな。魔石も出るだろうな。査定させるから待っていろ」
「頼むぞ、グルード。出来れば魔石は回収したい。いいか? 酒場で待っているぞ」
「綺麗に血が抜けているな。皮をすぐ剥ぐから取っておいてやる」
「グルードさん、お久しぶりです」
「ヴェルヘルナーゼちゃんか。派手にやらかしたって聞いたぞ。おっぱいを触ったけしからん奴をパンチで仕留めたって聞いたけどな」
「え? 何それ? 嘘でしょ?」
「ほらほら行った行った」
俺達は追い出され、酒場で待つことにした。時刻は夕方に近く、どんどんと迷宮から出てくる冒険者が増えてくる。俺達はエールとチーズ、ナッツを頼んで、摘みながら飲んでいたら、いつの間にか寝てしまっていた。
「ウフフ。確かにズーフィーさんの言うとおり可愛い寝顔よね」
「おいユージー、帰るぞ」
「んんん?」
俺は目を開けると、ギルドの酒場はごった返していた。キーアキーラが立ち上がると、ヴェルヘルナーゼは俺を立たせた。
「眠い」
「ほら、宿に行くわよ。立ちなさいよ」
二人とも元気である。俺はすっかり体内時計が狂っている。人間の体は朝、太陽が昇ると体内時計がリセットされて一日が始まるのだが、迷宮は陽が昇らない。時計も無いし、正直疲れたら寝て、起きて探索しながら歩くという、ほぼ夜勤にも近い状態だった。
宿に着くと、俺の部屋で夕食となった。お茶とパンと腸詰めを食べる。腸詰めは猪である。少しワイルドな味がする。
「疲れた様だな? 四日後に潜るぞ。今度は猪に会いに行こう。そこで引き返しだ」
「わかったわ。ユージー君、迷宮は潜った分だけ休むのがセオリーよ。三日潜ったから三日休むの。ユージー君は魔道竃作りかしらね」
「ユージー、売り上げだが白鼬は金貨十枚になったぞ。又持って来てくれって。毛皮だけでなく、肉や骨も使えるそうだ。何に使うんだろうな。あとは細かいやつもな。今日からパーティの売り上げは一括管理だ。宿代や武器代、物資もここから出す。まぁ武器は暫くは要らないか。小遣いとして一人金貨一枚渡すから、自由に使え」
「いいわ。物資をパーティ共通のお財布から出したらお金はあまり使わないわよね」
「あ、はい。じゃあ預かりますね。冒険者って結構儲かる・・・ヴェルヘルナーゼやキーアキーラさんがいるからか・・・」
「ウフフ。違うわよ。君がいるからよ。魔法の鞄も、魔剣も全部君がくれた物よ」
「う、うん」
「魔道書を書いたほうがいいわね。忘れたら魔法界の損失だよ。今までに結構作ったよね。耐病と耐毒のアミュレット、耐熱のアミュレット、集中力が増す魔剣、妖精の住処、煉獄刀。あとゴーレムも作るんだったわよね? 魔剣が光ったから、ゴーレムだって作れるんじゃない? 煉獄騎士にふさわしいゴーレムが欲しいわよね」
「ゴーレムかあ・・・」
俺は少し考え込んだ。動物の動きと言うのは複雑である。特に二足歩行の人間の動きは複雑だ。俺は一時期、3Dグラフィックソフトで遊んだことがあった。モデリングがもの凄く難しいのですぐに止めてしまったのだが、3Dグラフィックソフトで人体を動かすのは相当難しいことだと気が付いたのだ。
腕ひとつとっても、肩、肘、手首、指五本、指ごとに関節が三つ、掌と動く。これら全てを人間そっくりに動かす事はかなり難しい。映画などはモーションキャプチャーと言って、俳優の動きを取り込んで3Dグラフィックスに反映しているのである。
何が言いたいかというと、俺の行っている付与はある種プログラミング言語に似ていて、俺は簡単な命令を記録している感じである。
ゴーレムの場合、全ての関節の動きをインプットしないと駄目だろう。二足歩行は特に難しい。片足を上げた瞬間に足一本で体を支える事になる。重量のバランスが崩れ、倒れてしまうのだ。
倒れないように重心位置を変える必要がある。持ち物や手の動き、歩く速度で変わって来るだろう。片足を上げた事により変化した重心位置に対して発生すると思われる傾く力の加速度を打ち消す位置に重心を移動させる、という操作が必要になる。
恐らく位置決定には、ニュートンの力の方程式かなにかを連続で解かねばならず、微分か積分演算が必要になる気がする。これをX軸、Y軸、Z軸について演算を行う必要がある。極めて難しい問題である。
「どうしたの? 難しいの?」
「多分作れるけど、動かすのは難しいんだ。関節一個一個に命令をしないとね・・・人間の体って沢山の関節があって、凄く難しい動きをしているんだよ。ゴーレムやスケルトンなんかはどういう命令をしているんだろうね。恐らくもの凄く複雑な魔方陣があるはずだよ・・・」
ゴーレムやスケルトンを動かす術式をアナログで作った人には敬意を表したい。コンピューターを使っても難しい動きをアナログで作りあげたはずである。スケルトンやゴーレムに出会ったら隅から隅まで調べたいと思う。
俺は革袋から銀貨を取り出すと、俺の命令で表面を基準に右に回るように念じる。動力源は魔石で。
「出来た。銀貨ゴーレム。ええと、魔石魔石・・・」
「ほら、白鼬の魔石だ」
俺は小指の爪より小さい魔石を受け取る。
「小さいだろ? 強い魔物はもっと大きい魔石を持っているぞ」
俺は魔石の上に銀貨ゴーレムを乗せる。
「ゴーレム、回れ」
俺が命令すると銀貨はくるくると回り始めた。
「わあ! 動いたわ!」
「ご、ゴーレムなのか? 私の認識とかなり違うが?」
「り、理論はゴーレムです!」
俺は出来上がった物に驚いた。ゴーレムモーターである。魔石で動くモーター、電動機ならぬ魔動機である。俺は魔動機を作ってしまったのだ。
「つ、ついにゴーレムを作るのね。明日はゴーレム作りよ。つ、作るわよ。何を作るのかしら?」
「ええ? 回転の強さは材質や込める魔力の量による気がする。銀とミスリルが大量に必要な気がする・・・ロビーリーサさんに用立てて貰うかな。ええと、馬車も作るか・・・馬車をゴーレムにします」
「馬車をゴーレム? ユージー君何言っているの? ゴーレムって人型だよ・・・あ、魔石が濁って来たね。これ以上使うと砕けるよ。魔力を込めてあげる」
「ゴーレム、止まれ」
俺が命ずると銀貨は回転を止める。
「本当に止まるんだな。凄いな」
「でも、魔力を使いすぎですね。やはり総ミスリルか・・・とんでもないお金になりますね。あ!」
「どうしたの? 魔力欠乏よ・・・寝た方がいいわよ」
「アミュレットを総ミスリルで作ったら、どうなるのかな? 同じ魔力でも効果が強くなったり、使用する魔力が少なくなったりしないかな?」
「なるほど、確かに言えているわね。でも価格を考えると銀で作った方が良いと思うわよ」
「わはは。色々作りたいのはわかったが、ユージーは今すぐ寝るべきだな。さ、ヴェルヘルナーゼ、魔石に魔力を込めたら引き上げるぞ。仕方が無い。私が茶碗を洗おう」
「え? 明日は雨が降るわ?」
「ぷ」
「笑ったな? ユージー、私は何でも出来るんだぞ? 早く寝ろ!」
俺はキーアキーラに無理矢理寝かされる。今日はちょっと楽しかった。俺は物作りがしたいのかもしれない。技術立国である日本人のDNAは既に失ってしまったけど、魂はいまだ日本人であるようだ。
冒険者をしながら、物作りもしていきたいと思いながら、眠りに就いた。
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しばらく、錬金術師パートになります。
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