煉獄刀
第四十二話 煉獄刀
鍛冶屋から出て、俺はヴェルヘルナーゼに日本刀を手渡した。
「ヴェルヘルナーゼは普通の剣がないよね。これを使って」
「い、いいの?」
俺は頷く。
「あ、ありがとう」
ヴェルヘルナーゼはすらりと抜く。刀身は月夜に照らされ、美しく輝いた。
「綺麗」
ヴェルヘルナーゼは鞘に納めると、にっこりと笑った。俺はその笑顔で嬉しくなった。
「わ、私のは無いのか?」
キーアキーラが泣きそうな顔をしている。
「数日後に出来たらお渡ししますよ」
「本当だな? とりあえず見せろ」
キーアキーラは俺の手から日本刀を奪うと、抜いて月夜に照らす。一歩踏み込んで刀が空を切った。
「ちょっと短いな。私の剣より細いのか。成る程、剣を合わせるのを嫌うユージーにはいいな」
俺は刀を返して貰うと、腰を落とし、鯉口を切った状態で構える。そのまますっと抜く。刀は鞘で滑り、回転モーメントが最小の状態で走って行く。居合いである。
回転モーメントというのは物体が円運動するときのエネルギーの事だ。重量と回転半径の積になっており、長いものを振り回せば振り回すほど大きなエネルギー、途轍もない腕力が必要となる。
居合いは鞘方向、回転運動ゼロで抜くため、モーメントが極小になり、力が余り必要ではない。速いのには理由がある。
「速いわよ・・・煉獄斬りね。これは煉獄の剣よ。煉獄の剣を持つ者が煉獄騎士よ」
「え? 止めてよ。居合いという技だよ」
煉獄騎士団が俺達のパーティー名だ。
「ね、魔石を仕込んで振ったら赤い炎が出ないかしら。ね、格好いいと思わない? よし、ユージー君、付与しなさいよ」
ヴェルヘルナーゼは俺の手を引っ張って鍛冶屋に戻る。
「おう。ユージーは恐ろしく速い使い手だな。で、どうした?」
ドワーフの鍛冶、べべルコはお茶を飲んでいた。
「べべルコさん、柄に魔石が入る様になりませんか?」
ヴェルヘルナーゼの言葉に、べべルコは俺をちらりと見る。
「かまわんが・・・どれ」
べべルコは刀の柄を分解すると、柄をくり抜き始めた。
ヴェルヘルナーゼが魔力薬をくれたので半分飲み、魔力を俺色に染め直す。
刀の茎に塗布してある銀に祈りを込める。振ったら赤く、炎の様なエフェクトを付与。ついでにゴースト類も斬れるよう付与。魔力は柄に仕込まれた魔石から貰う。三点を願った。俺が付与を終えると、べべルコもくりぬき終えた。
べべルコは刀を組み、柄の尻に開いた穴から魔石を入れる。動かない様に布を詰め、革で魔石が出ないように巻いた。
「出来たぞ。嬢ちゃんの持っている刀もよこせ」
俺は軽く刀を振った。剣は炎を噴き出し、残像を残しつつ、炎は消えた。全く熱くない。
「す、凄いわ。魔石と才能の無駄遣いここに極まれりって感じね。うちは青い炎がいいな」
「か、格好いい・・・ユージーは龍の鎧に龍の炎の刀。あとは騎乗用の龍をどう確保するかなだな」
ヴェルヘルナーゼは自前の魔石を渡していた。俺は残りの魔力薬を飲み、ヴェルヘルナーゼの刀に魔力を付与する。二振りの刀が出来上がると俺達は礼を言って鍛冶場を後にした。
「煉獄斬り!」
ヴェルヘルナーゼも俺の真似をして居合いを行う。刀は青い炎を発し、目に残像を残す。
「凄い。青く燃えたよ・・・」
「ゴースト類も斬れるように願っておいた。斬れるといいね」
「わ、私の煉獄刀は無いのか・・・そんな・・・」
「何日か待って下さいよ。じゃ帰りましょう」
俺達は刀、煉獄の剣改め煉獄刀を眺めながら夕食を食べている。
「明日は休んで、夕刻に鍛冶場に行ってだな・・・どうする? 予定有るか?」
キーアキーラが聞いて来る。
「そうね。ユージー君の鎧、どうやらルーディールーシュが使っていた鎧らしいのよ。でも新しすぎるから、もっと新しい時代の物だと思うのだけどね」
「おお?! ヴェルヘルナーゼの祖先だったか。じゃあ隣町の迷宮になにかあるかもな。行くか。明日は潜る準備をするか」
「その前にロビーリーサさんの所に寄っていきます」
「待って! その前にね」
「ん? なんだ?」
ヴェルヘルナーゼの声に、キーアキーラのパンを持つ手が止まる。
「煉獄の兜と煉獄の面頬が必要だと思うの」
「要らないよ」
「ああ。必須だな。迷宮都市には防具屋もある。龍の素材を持ち込んで作って貰うか・・・それより問題はユージーの騎龍をどうするかだ」
キーアキーラは頷きながらパンを囓る。
「乗りませんって」
「本当ね・・・で龍に乗るなら長槍が必要よね」
「要りませんって」
「ああ。素材をどうするか、考えないとな。龍を刺す槍でないとな。よし、じゃあ煉獄騎士ユージー、頑張ろうな」
「え、ええ・・・」
俺は符に落ちないまま、迷宮都市に行くことに決まった。翌日、俺達はロビーリーサの元を訪れた。ロビーリーサは俺とヴェルヘルナーゼの腰の煉獄刀に釘付けだった。俺が血行の良くなる薬に魔力を付与している間、楽しそうに俺の煉獄刀を振り回していた。
「金貨五百で買うわ」
「お金に困ったら売ります・・・」
煉獄刀を欲しがったロビーリーサをなだめ、魔法回復薬、魔法傷薬、魔法解毒薬、魔力薬を二十本づつ購入した。お金はヴェルヘルナーゼとキーアキーラが持ってくれた。金貨三十枚だ。
残念がるロビーリーサを置いて街に出る。
「迷宮都市だから、やっぱり食料よね。持っていかないとね・・・オークは食べたくないし」
「え? 食べ物が無いの?」
「そうよ。魔物の肉しかないわ。折角魔法の鞄があるのだから買い込むわよ」
小麦、小麦粉、硬いパン、腸詰め、チーズ、バター、オリーブオイル、鶏、玉葱、キャベツ、セロリ、人参、大蒜、塩、エール、乾燥石榴、オレンジ、乾燥杏、ワイン、牛乳・・・店にあるもの片っ端から購入した。
エールとワインは大樽で買った。鶏などは店にあった二十羽全て買った。鍋も五個ほど購入した。調理しておいて魔法の鞄に収納しておくのだ。
「テーブルと椅子、竃が欲しいですね。あと石鹸も。毛布も買いましょう」
「テーブル? いるか?」
キーアキーラの反応は鈍いが、木製のベンチを三個買った。背もたれの無い、キャンプで使うコット、簡易ベッドのサイズだ。椅子とテーブルとベッドを兼ねている。
竃は道ばたの石を数個拾った。毛布は一人三枚づつ購入した。あとは食器やまな板を購入。
テントは冒険者ギルドで購入した。この世界のテントは、当たり前だが、アウトドア素材、薄いナイロンに表面処理を施したシルナイロンとか無いので、重い綿で出来ている。魔法の鞄が無かったら諦めていただろう。
これで、キャンプの準備が整った。楽しく野営がしたい所感だ。
今回から新章です。
2020.4.19 日間ファンタジーBEST300にて、262位にランクインしました。
嬉しいです!
今後ともよろしくお願いいたします。




