日本刀と龍筒 その四
第四十話 日本刀と龍筒 その四
「普通は幾ら魔力を流し込まれても、自我を保とうとして必ず抵抗するのよ。魔力は混ざり合わないわ。だけど犬とか猫とかまで知能が下がると好きとか嫌いとか、単純じゃない。自我という認識が無いから、好かれればテイム出来るのよ。相手に魔力があればね。だから魔物がテイム出来るのだけど・・・」
「私は犬猫並だと」
「ええそうよ、キーアキーラ。犬猫並にユージー君との間に壁を取り払っているのよ・・・」
「お? じゃあ魔法使い同士が結婚したらどうなるんだ?」
「当然テイムされるわ。言うなれば相互テイム状態ね。魔力の色が変わるから魔法使い同士が結婚すると魔法の使用感覚が変わると聞くのよ。エルフ同士は色が似ているから余り気にしないみたいね」
「ユージーの魔力は透明で輝いていたぞ。あれにはあらがえなかったな」
「と、透明で輝いているの?」
「そうだぞ。余りに美しくて見入ってしまったな」
「はいはいはい。テイムはそこまでそこまで。あんた達でテイムでもエロい事でもすればいいのよ。それより魔剣よ魔剣。魔法の師匠の私に吐きなさい」
ロビーリーサが割り込んでくる。
「いつからロビーリーサがユージーの師匠になったんだ? 情報料は高いぞ。今度こそミスリルのナイフ、いやミスリルの短剣だな。ユージーに払えよ」
「仕方ないわ。ミスリルを用意出来たら渡すわ」
「え? いいんですか? じゃあ話しますね。アミュレットを作ってグリップに仕込めばなんちゃって魔剣ですよ」
「え? そんなに簡単なの?」
「そうよ。見て。作り方によっては凄いのよ」
ヴェルヘルナーゼは魔龍剣ファークエルを取り出すと、刀身を発現させる。赤々と燃えるファークエルは美しい。
「凄い魔剣だわ・・・」
ロビーリーサは思わず魔剣に手が伸びるが、ヴェルヘルナーゼは無意識に遠ざける。
「これもグリップに大精霊の住処を作って仕込んだのよ。やっぱり魔剣って素敵よね」
ヴェルヘルナーゼは魔剣を収納した。
「アミュレットで売るより、耐毒の魔剣にした方が高価になるかもな。アミュレットの方が使いやすいけど」
「魔剣が作れる・・・魔剣が作れる・・・」
「こいつは目が金貨になっているな。放っておくか。一度宿に帰るぞ」
俺達はロビーリーサに別れを告げて宿に戻ると、俺の部屋に集まった。
「で、私のテイムの件だが」
「さっきの病気の話、突然動けなくなって死ぬと言っていたけど、辺境病じゃないの? 辺境病も足腰が立たなくなって寝たきりになって死んじゃうのよね。 森の魔力を吸いすぎると辺境病になると言われているけど・・・キーアキーラ、あなた辺境病の自覚があるんじゃなくて? 金級のあなたが黒鉄級の私達に随分かまってくれるなって思ったり、割の良い護衛の仕事を明星の三人に割り振ったり・・・」
「発症したら、すぐ死ぬんだよな。辺境病は。ユージー、どのくらい持つんだ?」
「・・・半年と言われています」
「ということだ、ヴェルヘルナーゼ。隠していて済まない」
「ちょっと、駄目じゃないの仲間なのよ・・・あなたそれだけじゃないのに・・・」
ヴェルヘルナーゼが大粒の涙を流し始める。
「ヴェルヘルナーゼ、決まった訳じゃ無いし、疲れているだけかも知れないぞ。この話は又今度だ。いいか、この話をしたらぶん殴るからな」
「うん・・・」
「大丈夫だ。死ぬよりテイムされた方がいいだろ。ユージーがいるから大丈夫だ」
キーアキーラがクロイツェル・ヤコブ病の恐れ・・・俺は息を飲んだ。治療すると同じパーティーの我々は気を許しているのでテイムされてしまうのか・・・
「ユージー君、ちょこっとだけ魔力を流してみて」
ヴェルヘルナーゼが手を出してくるが、キーアキーラが遮った。
「止めとけ。ヴェルヘルナーゼが抵抗出来るとは思えない。あっという間にテイムされるぞ。いや、ユージーの魔力の美しさに自らテイムされに行くと思うぞ」
「そ、そんなに綺麗なの?」
「ああ。凄かった」
なんだか事後のようで、俺は居づらくなってしまう。
「私はギルドに呼ばれたらちょくちょく抜けるが、絶対に三人がパーティなのは決まったな。ヴェルヘルナーゼ、とりあえずこれでいいだろ」
「わかったよ。一ヶ月以上離れるときは付いていくから」
キーアキーラがヴェルヘルナーゼを優しく抱きよせ、頭を撫でる。ヴェルヘルナーゼは泣きながらキーアキーラの胸に顔を埋めている。
「泣いたらスッキリした! 相変わらず男の胸よね! アハハ!」
「む・・・胸は仕方ないだろ。さ、夕飯を食べて鍛冶屋に行くぞ」
俺達は無言で夕食を宿で摂り、鍛冶屋に向かった。三人とも言葉が少なめで、鍛冶場までの距離がいつもより遠かった。
鍛冶場に入ると、奥さんのボーローが奥に案内してくれた。炭が炉の中で赤々と燃えており、横には弟子達が水温の調整を行っている。
「お、来たか。じゃあ焼き入れするぞ。なにか指示があるか? ユージーよ」
「いえ、べべルコさんにお任せします。焼き入れと焼き鈍しをお願いします」
焼き入れというのは、鉄の組織がマルテンサイト変態を起こして、微細な結晶を作り出す現象だ。焼き入れ後の硬さは炭素含有量に比例している。大体、0.7パーセントで硬さが飽和する。
日本刀の炭素含有量は0.7パーセントである。恐るべき一致と言えるだろう。焼き入れすると数倍の硬さになるが、脆くなるので改善のために低温で焼き、水に浸けて強度を少し下げる。焼き鈍しという。普通は焼き入れと焼き鈍しがセットになっている。
鉄の熱処理、焼き入れは熱処理と言われるが、冷却速度が重要なファクターを占める。でも、水に浸けてしまうとすぐに沸騰してしまうと思うので気にしない事にする。昔の刀匠は秘伝扱いだったらしい。
焼き入れは千度から千二百度である。鋼種によって温度が違い、高すぎると却って脆くなるのである。目星は、赤黒くなったら八百度、真っ赤になると千度くらいであろう。放射温度計が欲しい所である。焼き入れ温度はべべルコにお任せすることにした。
「じゃ、やるぞ」
べべルコは平箸で刀身を掴んで炉に入れる。前後に振りながら、まんべんなく加熱していく。刀が赤黒くなっていく。上手い。細長い刀を上手くむら無く加熱していく。
刀が赤黒くなる。べべルコは刀をひっくり返しながら、動かしながら焼いていく。次第に真っ赤になる。
正直、千度か千二百度か最適な温度がわからないので千度くらいで止めてく。
「これでいいです」
「よし」
べべルコは一気に水槽に刀を入れる。鍛冶場にもうもうと水蒸気が舞い上がる。
「曲がったぞ。いいのか」
俺は曲がった刀を見る。なかなかの反りだ。ぶっちゃけ、曲がったレイピアっぽい感じもしないではないが、仕方が無い。
「焼き鈍しをして下さい」
「うむ」
焼き鈍しは刀が赤くならないうちに炉から取り出し、水に浸ける。
べべルコは次々に焼き入れをしていく。俺達は黙って作業をみる。次々に刀が出来上がる。
「出来たぞ。後は研いで鞘か・・・まあいい。明日の夕方に来い。全部は無理だが、一振りか二振りは作っておく」
「あとは、ここにべべルコさんのサインを彫って貰うのと、鍔は丸い形でお願いします。別に装飾は要らないですから。あと柄は少し長めで」
俺は茎、柄になる部位に銘を彫るようお願いする。漢字でないのが残念だ。
評価いただきました。
ありがとうございます。
刀編はもうしばらく続きます。




