ゴブリン狩り その五
第三十三話 ゴブリン狩り その五
「レイラ!」
「レイラちゃん!」
レイラが目を覚まし、起き上がる。左右を見まわした後、お腹をさすり始めた。
「あれ! 私はゴブリンに刺されて毒で死んだはずよ!」
流石冒険者である。死に際まで把握しているとは。
「傷は私が治したけど、毒は治せなかったの。しかも毒の病も一緒だったみたいね。そこはキーアキーラさんのパーティのあの子、ユージーさんに治してもらったのよ。まだ子供なのに、もの凄い使い手なのよ。驚いたわ」
レイラは驚いたあと、何かに納得した様子だった。まだ子供ってどういう事だ。
「ああ、そっか。じゃあお別れかな。三年もありがとう。価格からいったら性奴隷よね」
「ううん。違うわ。お金を借りたことになって報酬から一割引かれるの。一割の二割がギルドに運営費として天引きされるから。半年に一度は最低でもルーガルのギルドの仕事を受けるか、支払えって」
「え? じゃ私は? でも報酬から引かれるってことは二人に迷惑がかかっちゃう・・・」
「レイラちゃん。パーティは家族だって言ったのはあなたよ。全てを分かち合うのよ。あなたの防具や武器と同じ。でね、全て孤児院の運営費に回されるわ。ユージーさんはお金は要らないって。あ、因みにユージーさんはヴェルヘルナーゼさんに気があるっぽいわね。平たく言うとあなたは振られたのよ。性奴隷なのにねぇ」
年長のセラフィーナがレイラに説明をしている。
「将来有望だけど、先約付きなのね」
シルッカはため息と共に言葉を吐き出す。
「そう言う事よ。ほら、立てる?」
レイラはセラフィーナに立たせて貰うと、俺の方に歩いてきた。足取りはしっかりしている。
「お世話になったのね。ありがとう。支払ったお金はセラフィーナさんのいた孤児院に送るんですって? 何考えているのよ、駄目じゃないの自分の為に使わないと。いつでも稼げるとは限らないのよ?」
レイラは俺より年上っぽい。言葉使いも姉っぽい。
「なんだか嬉しそうな顔をしてますよ。あ、指輪はしばらく外さないでください。耐病と耐毒の指輪なんです。毒を喰らった場合でも後で付けても効果があるみたいですよ」
「何時まで?」
「十日は付けていてください」
「あ、いつでもいいだろ、ユージー」
「あ、キーアキーラさん。指輪ですか? 別に、はい」
「じゃ決まりだ。支払いが終わるときに返して貰えばいい。でだな、ルーディアの街で私の代わりに護衛を受けて欲しいんだ。女貴族の護衛は女冒険者がいいからな。その指輪があれば、楽だぞ。護衛は毒とは切っては慣れないからな」
「ぜ、是非」
残り二人も集まってきた。
「ドーソリー伯爵一家の護衛だ。ほぼ専属と聞いている。任期は五年だ。今回から帰ったら一緒にルーディア行く。いいか?」
「はい!」
三人は非常に嬉しそうだ。
「護衛っていい仕事なの?」
俺はヴェルヘルナーゼに聞いてみる。
「良い仕事よ。部屋付き食事付き、移動も余り無いでしょうし、いつも戦闘がある訳じゃ無いからね。しかも、女性だから水浴びだろうが何処でも警備が出来るわ。騎士団を呼ぶ時間を作るだけで良いのよ。彼女たちは剣士、魔法使い、神官、それに君の指輪があればどのような状況でも対応出来るわ。ぶっちゃけ、魔法の使えないキーアキーラ一人よりいいでしょ。しかもキーアキーラ一人より支払いは少なくて済むからね」
俺は頷きながら聞いている。
「ほら、君も休むのよ。君とのパーティーは続くんだからね」
「あのさ、聞きたかったんだけど」
「何?」
「俺は何歳に見える? 俺は年齢とか全くわからないし」
「え? ギルドに登録出来る十二歳じゃないの? ちょっとませているけど」
「え? 俺ってそんな子供だったのか・・・」
「そうよ。可愛い弟って感じね。ほら、テントで寝るわよ。あとでパンを持っていってあげるから」
俺とヴェルヘルナーゼは川で血を洗い流し、テントを立てて中で休んだ。
翌日、冒険者は撤退する事になった。残りの掃討は騎士が行う事で決まった。俺達冒険者は翌日から撤退を開始した。
行きより、各パーティと打ち解けた。俺は貰った魔法の鞄に入っていたタマネギと人参、キャベツを使ってスープを作り、皆に配った。塩味のスープだが、なかなか好評だった。
ルーディアの街の錬金術師ロビーリーサはドーソリー伯爵家を訪れていた。騎士達に案内され、部屋に通される。
「相変わらず、男ばっかりよね。早くキーアキーラを雇わないと、安全を守れないわよね」
「ん? 何か言ったか、錬金術師殿」
「あ、いえ、何でも無いです!」
「そうか。奥様がお待ちだ。入れ」
騎士はドアをノックする。
「奥様。錬金術師殿をお連れしました」
「入って頂戴」
騎士がドアを開けてくれる。
「あら、ロビーリーサ。久しいわね」
ロビーリーサは頭を下げる。ロビーリーサの前には老齢で髪はすっかり白くなったが、高貴さを残す女性が微笑んでいた。
「お久しぶりでございます。お変わりありませんか」
「座りなさい。お茶を淹れましょうね。あなたはお酒は駄目よね。これ、お茶を」
メイドがお茶を淹れてくれる。
「今日はなにかしら? お薬が切れるのかしら?」
「ソーラ様。新しいお薬をお持ちしました。冷え性に効いて体が温まる魔法薬です」
目の前の女性は前伯爵夫人のソーラという。その微笑みは暖かく、貴族と思えない優しさがにじみ出ていた。
「あら、本当なの?」
「ええ。私も使用していますが、体が調子良いです」
ロビーリーサは髪留め、耐病と耐毒の指輪を外すと、薬の入った小瓶を取り出し、小さなスプーンで少量を飲んだ。
「このくらいで十分に効果があります。朝晩飲んでいただきたく。特に夜は体が温まって気持が良いです」
「あら、あなたの血色が良くなったわ。凄いわね。あなたがこれを?」
「いえ。最後に若い錬金術師の助けを借りているんです」
「あらそう。じゃあ私も頂くわ。スプーンを」
「奥様、まずは」
中年のメイドがスプーンを取り出し、メイドが極少量口に含む。
「どうぞ、奥様」
メイドは新たなスプーンを差し出す。
「今ロビーリーサが口に含んだじゃないの。大丈夫よ。では、いただくわ」
ソーラはスプーンで薬を飲む。体が芯から温まり、手足の痺れや冷たさが減って行った。心持ち、胸も楽になってくる。
「ロビーリーサ、済まないけど手を貸してちょうだい」
ソーラはロビーリーサの手を借りて立ち上がると、部屋を歩き始めた。
「お、奥様!」
メイドが驚いて走り寄ってくる。
「大丈夫。お薬を頂いてから歩ける気がするのよ」
ソーラは部屋の中を歩き、窓を開ける。
「良い風ね。お薬はどれだけあるの?」
ソーラは目を閉じて風を感じていた。
「百本ございます」
「そう。一本金貨二枚で全て買い取るわ・・・あら、あなたの分が無くなるわね。半分譲っていただけないかしら」
「いえ、大丈夫です。私の分十本を残して百本です」
「そう。しばらく使わせて貰って、良いお薬だとわかったら陛下にもお送りさせて貰うわ。ねえ、お外に行きたいわ。でその前に、この髪飾り、どうして外したの? 銀の髪飾りよね」
ロビーリーサは髪飾りをソーラに手渡す。
「この度、私が扱う事になった耐病と耐毒の髪飾りです。一部がミスリルになっているのです。付けていたらお毒味にならない故、外させて貰いました」
「素晴らしいわね。とりあえずこれを頂けないかしら。おいくら?」
「あ、あの冒険者向けなので、効果は凄いのですが、デザインが奥様に似合わないかと」
「大丈夫よ。おいくらかしら」
「金貨百枚です」
「そう。鑑定させて効果が間違い無かったらお支払いさせていただくわね。もう無いのかしら? あなたのネックレス、それも銀よね?」
ロビーリーサはネックレスを外し、ソーラに付ける。
「暖かくもあり、寒くもないネックレスです。魔力を使うので、奥様だとすぐに外させていただきます」
「あら、あら、暖かいわ。確かに魔力を使っているわね。私は剣鉄級の魔力持ちだから、全く問題ないわ。素晴らしいわ。金貨百枚でいいかしら。お支払いするわ。このネックレスと先ほどのお薬があれば、体が楽というか、数年ぶりにお散歩が出来そうね。ロビーリーサ、付き合いなさい。これ、あの子に外に出ると伝えてくれないかしら。頼むわね。さ、行きましょ。エスコートお願いするわ、ロビーリーサ」
「は、はい!」
ロビーリーサはソーラの手を取ると、メイドが礼をして部屋を出ていった。
「奥様が散歩をなされます。伯爵様にご報告を。一人は護衛をお願いします。ご報告は私も一緒します」
メイドは騎士に話を付けると、去って行った。
ゆっくりと歩きながら外に出ると、ソーラは眩しそうに手をかざした。
「綺麗ね。お外はこんなに綺麗だったんですね。礼を言うわロビーリーサ。もう二度と歩けるとは思わなかったのよ」
いつの間にか、二人の回りは騎士と城詰めの役人達で溢れかえった。皆驚いてソーラを見ている。
「さ、戻りましょう」
ゴブリン編終了です。
文字数が半端でしたので閑話を挟みました。
次回から新展開です。




