ゴブリン狩り その一
第二十九話 ゴブリン狩り その一
翌日。俺達が荷物を背負って冒険者ギルドへ行くと、ギルドの前は人だかりが出来ていた。
「凄い人だ」
俺は左右を見まわす。皆背に荷物を背負う冒険者だ。
「左側が魔法使いのゴーフー率いる赤色傭兵団だ。ゴーフーは銀級だ。彼らが一番の実力者だな。ゴブリンの住処を探ったのは彼らだ。次にくるのは退魔の誓い、剣鉄級の剣士ガエークがリーダーだ。魔法使いを持っているので火力が強いな。一番右の迷宮騎士団も負けていない。神官がいるから、粘り強い。注目しているのは明星の剣の女三人だ。皆黒鉄級だが、魔法使い、剣士、神官と一番バランスがいいぞ」
「キーアキーラさーん!」
明星の剣のメンバーが近づいて来た。魔法使いの女と剣士の女は若い。後ろから頭を下げながら神職風の女性が近づいてくる。
「おお、シルッカとレイラ。元気だったか」
「はい! キーアキーラさんと一緒の作戦なんて光栄です! 私達手柄を上げて追いつきますからね!」
剣士風の女がキーアキーラと激しく握手をしている。
「うわ、キーアキーラさんは人気なんだね」
「そうよ。流石金級だわね」
俺とヴェルヘルナーゼは一歩下がってやりとりを見ている。
「あの、ヴェルヘルナーゼさんですよね? 初めまして、明星の剣のリーダー、シルッカです。金級に近い方だとお聞きして・・・あれ? どうして剣の柄だけを持っているんですか? ひょっとして魔剣ですよね!」
「え? 魔剣?」
明星の剣のもう一人、剣士風の女も近づいて来た。ヴェルヘルナーゼが困って俺を見たが、俺は小さく頷くしか出来ない。目立つのはヴェルヘルナーゼの仕事で、俺はひっそりと生きるのだ。
「仕方が無いわね。見せてあげる。ファークエル」
ヴェルヘルナーゼが小さく名を呼ぶと、炎の剣が現れた。
「うわああああ! 凄いです!」
「スゲェ」
ヴェルヘルナーゼはすぐに魔剣をしまう。
「内緒よ? それに私はへまをして黒鉄級に降格したの。貴方たちと同じかしら? よろしくね」
俺は彼女たちのやりとりを後ろから見ている。女の子が殆ど集まってしまったので、男どもはこちらを見てる。皆、品定めをしている目つきだ。
「お前ら! 集まれ!」
ギルドからギルドマスターが出て来て、大きく叫んだ。皆がギルドの前に集まっていく。
「これからゴブリン狩りに出発する! この街を守る作戦に参加して貰い、お礼を申し上げる! 今回は、五泊掛けてゴブリンの殲滅作戦を行う! 実際の作戦はレングラン男爵の手勢が行う! 我々は道中の確保と、予備戦力となる! 赤色傭兵団は先攻して索敵に努めてくれ! 退魔の誓いと迷宮騎士団は草を刈って通行路の確保! 明星の剣と煉獄騎士団は殿だ! 宿泊は各パーティにテントを用意した! 牛で運ぶから、現地で引き渡す。以上! では出発!」
ギルドマスターは荷物を背負い、歩き始める。付いていくのは牛を引いた男性だ。後のメンバーはぞろぞろと後ろに付いていく。城門の外に出ると、赤色傭兵団が先行し始める。草をかき分けながら進むから大変そうである。
続くのは退魔の誓いと迷宮騎士団。ギルドマスターから鎌を渡され、二パーティ八人で草を刈っている。明らかに嫌そうだ。たまに立ち上がって腰を伸ばし、俺達を憎々しく見ている。
次が筋肉ムキムキのギルドマスターと牛。牛を引く男性はギルド職員だろうか。次が明星の星の女性三人組。最後に我々だ。
「あ、ユージー、今回我々は報酬無しだから手伝う必要は無いぞ。あんな事があったばかりで、まさか投入されるとは思っていなかったからな」
明星の星の三人が、疲れた人に変わって草を刈り始めたタイミングでキーアキーラが大きな声で俺に言った。無給・・・なのか・・・
俺は居心地の悪さを感じつつ、草を刈られて歩きやすくなった森を進んで行く。昼に小休止を取り、二、三時間進んだところで小川にぶつかり、野営地となった。各パーティにテントと食事が配られた。テントは朝に牛で運んでくれるとのことだった。
テントは分厚い綿で出来ていた。テントを張ると、パーティごとで焚き火を始め、食事を取っている。皆は湯を沸かして茶を飲みつつ、干し肉を囓りながら硬いパンを食べていた。
俺は捌いた鶏を取り出して塩を振り、採取した薬草で焼いていく。薬草はバジルに似た、フールー草である。この草は年中取れるらしい。目を凝らしながら歩いたが、他の薬草は見あたらなかった。
鶏を焼くジューという旨そうな音が響く。一方でパンも焼いていく。今日は胡桃入りだ。パンは毎日焼くが、肉を食えるのは今日だけだ。
「ウフフ。ユージー君のチキン♪ ユージー君の薬草チキン♪」
「パン焼けました?」
俺はキーアキーラに訊ねる。手伝っているように見えるが、実際は見ているだけである。
「大丈夫そうだぞ」
パンの生地は昨日捏ねておいた。食べたらまた捏ねて、夜に焼く。これを繰り返す予定だ。
俺達は美味しく頂いた。皆がちらちらと俺達を見ていた。デザートは乾燥石榴だ。パンとキチンではビタミンが不足するから、三人で石榴を食べる。チキンは食べ終えたが、パンはまだ残っている。明日の朝の分である。
「あ、あの、美味しそうですね」
明星の星の魔法使いシルッカが偵察に来たが、分ける訳にはいかない。全員の分を配る事は出来ないからだ。
「シルッカか。うちの専属コックがいるからな。初日は景気づけに肉を焼いたけど、明日からは我らも干し肉だぞ」
「でも、凄い良い匂いがします・・・」
「こら、シルッカ。迷惑ですよ。あ、ごめんなさい。ほら、涎を拭いて」
「ええ? セラフィーネさん。だって」
神官風の女性、セラフィーネに手を引っ張られて戻っていった。セラフィーネは三十歳を超えていそうな大人の女性だった。二人のお母さんという感じだろうか。
夜警は順番で行うとのことだった。我々は最後に担当するかも知れない。夜はパーティ毎にテントで就寝だ。テントはいわゆる五人用で、五人寝られなくはない、と言うサイズだ。余裕を持って就寝できるのは精々三人である。
「最初に言っておくが、パーティで男女同じテントで嬉しいのは最初だけだぞ」
キーアキーラは毛布にくるまって俺を見る。俺はドキッとしてしまう。もの凄く浮かれている。
「何日間も水浴びもせず、魔物の血を拭っただけで寝るのだ。結構匂いがきついぞ。冒険者同士、結婚しない理由でもあるな。なんかこう、冷めてくるんだよ」
「そんなもんですか?」
「あら? 大丈夫よ。私は臭くないからね? 臭いのはキーアキーラのお尻だから、気を付けるのよ」
初日は、悶々としてなかなか寝付けなかった。何故か俺が真ん中で、両手でヴェルヘルナーゼとキーアキーラを腕枕する形になっている。
翌日も同じように進んだ。我々は干し肉の野菜炒めと干し葡萄パンだ。パンを焼く香りと、野菜炒めの音が周囲に響く。明星の星のシルッカは一食に銀貨一枚を払うから食べさせてくれと頭を下げられた。銀貨を貰うと、報酬が無くなる気がするが、良いのだろうか。
三日目の昼、大きな川岸にキャンプを張った。張り終わったら、赤色傭兵団が索敵に出かけた。凄い元気な人達だ。俺達は貰った硬いパンと干し肉、乾燥石榴を食べている。
「ユージー、索敵出来るか」
俺は頷くと周囲に魔法を放つ。川下に四十くらいの集団がいる。俺達は川に直角に歩いて来た。合流する騎士では無い。川上の方に五人いる。赤色傭兵団だろう。
「川下に四十程の数がいます。川を歩いて近づいて来ています。川上に五人。これは赤色傭兵団だな」
「近いか? ユージー」
「距離は三百ダール! ※一ダール1.6メートル」
「近いな。赤色の奴らがいないか」
「マスター! 川下からゴブリンの群れ四十匹! 距離は三百! 全員剣を抜け!」
凛とした声が周囲に響き渡る。俺とキーアキーラは魔剣を抜いた。ヴェルヘルナーゼは魔龍剣を抜いた。いや、柄だけを持った。
「どうした! キーアキーラ!」
ギルドマスターが慌てて立ち上がった。
「魔法で索敵を行った。来るぞ。マスターの腕は鈍っていないだろうな。自信が無いのなら引っ込んでいろ」
キーアキーラはギルドマスターを挑発する。
「まだ鈍っちゃいねえよ。お前こそ、最近は依頼を受けてねぇだろ。ち、赤色の奴らは索敵を外したか」
「我が煉獄騎士団の強さを見せてやるぞ。行くぞ、ヴェルヘルナーゼ、ユージー」
キーアキーラは魔剣を抜くと川下へ走り始めた。俺とヴェルヘルナーゼも付いていく。
初めての大規模な戦いに、俺の顔は強ばった。キーアキーラとヴェルヘルナーゼはにやりと笑みを浮かべた。
本日、無事に断線したPCのアダプターがとどきました。
明日はキャンプに出かける予定です。
更新は難しいかも知れません。




