魔龍剣ファークエル その一
第二十七話 魔龍剣ファークエル その一
「ネックレスで良いんじゃない? ヴェルヘルナーゼは剣も使うし、無手でも出来るし、魔法も使うし、剣じゃ無くても」
「ええ? 私も魔剣が欲しいのよう・・・」
ヴェルヘルナーゼと俺の部屋で魔剣について話をしている。夕食を食べて魔力が回復しただろうから、魔剣を作る事にしたのだ。
ヴェルヘルナーゼの良い香りが部屋の中に広がる。俺は余りの心地よさに目眩がしそうだ。ヴェルヘルナーゼ個人の香りなのか、エルフ固有の香りなのかはわからない。
ヴェルヘルナーゼは上目遣いで俺を見る。俺はどきりとする。
「じゃあ銀貨を・・・」
「大丈夫、潰して来たわ」
俺は潰した銀貨を受け取ると二つに割った。
「一つは集中力を高める魔剣。もう一つは早口になる魔剣かな・・・ね、魔法って必ず呪文を詠唱しないと駄目なの?」
「え? 魔法? そうねぇ。魔法は大きく分けると二種類あるのよ。いわゆる魔法と、精霊魔法ね。精霊魔法は普通に呼べば、契約精霊が来てくれるけどね。魔法はそうはいかないわ。神々が使っていた奇跡を言葉に直したものが魔法だもの。呪文の中に、神々の力が籠もっているとか、英知が詰まっているとか言われているわ。君くらいよ、無詠唱なのは」
「なるほど・・・僕の魔法はメカニズムを明確にイメージして発動するから、呪文の中に発動するためのメカニズムが詰まっているんだろうね。メカニズムが明確にイメージ出来たら魔法は発動するから、呪文はそこら辺を補助しているのか」
「なるほどね・・・魔方陣で補助するという考え方も有るのよ。アミュレットは普通は魔方陣が書いてあるわね。だから結構大きいのよ。どんなに小さくても掌くらいはあるわ。不思議ねぇ。じゃ剣にさ、ファークローイとエルフィーンを住まわせたいわね。住処だったらイメージ出来ない? 前はどうして燃えるのかが全くわからないから火が出せないとか言ってたわよね」
「住処か・・・わかった。じゃあ集中力を高め、火の妖精と風の妖精を住まわせ、名前を呼ぶだけで出てくるって言う感じ? 違うな、妖精の住処を二つ作る感じか」
「そうね、良いと思うわ。妖精は魔力の塊だから、ミスリルに宿りやすいはずよ。みたことないけど・・・」
「いっぺんに三つは作れないからまずは集中力を高めるアミュレットを作って」
俺は二つに割った銀貨に魔力を込め、集中力を高める魔力を付与した。
「ふー。じゃあ妖精の住処をつくるよ」
俺は目を閉じて魔力の糸を流していく。どのように住まわせるか。DRAMやSDカードみたいにしよう。ミスリルの結晶一つに微細な魔力を保存させる。結晶を魔力で覆い、沢山の結晶で巨大な魔力を分散保存。分散保存は保存性が良いよな。妖精にとって、住みやすい場所で有るように。とにかく結晶粒一個一個に処理。処理。終わらない。だめだ。数が多すぎて終わらない。
俺は目を開ける。先ほどの集中力を高めるアミュレットを握り、ゾーンと唱える。再び潰した銀貨に魔力を流していく。今度は並行処理だ。いわゆるマルチタスクだ。
一度に二つ。大丈夫。四つ。大丈夫。八つ。行ける。十六、三十二、六十四で脳が限界を言ってきた。俺は今、六十四コア状態だ。凄いだろ。同時に六十四個の結晶を処理していく。どんどん処理が終わっていく。ああああああああ。脳が熱くなる。ああああああああああああ。ああああああああああああああああああああ。
「ん?」
俺はベッドから起き上がった。
「朝だ」
俺は伸びをしながらベッドから起き上がる。気分爽快だ。いつ寝たんだろう。とにかく、もの凄くお腹が空いたので朝食を食べる事にする。一階に下りるとヴェルヘルナーゼとキーアキーラがパンを食べていた。
「あ、ユージー君! 大丈夫だった?」
「ん? 魔剣殿はヴェルヘルナーゼに魔剣を作っていたんだったか」
「あ、なんかありました?」
覚えていないので座りながら聞いてみた。
「あのね、昨日アアアアアアアアアアア!!!!って叫びながら白目を剥いて泡吹いて寝ちゃったのよ。死んだかと思っちゃったのよ・・・ごめんなさいね」
「え?」
「でも、見て。エルフィーンが気持ち良さそうに住み着いたわ」
ヴェルヘルナーゼがポケットから潰れた銀貨を取り出すと、小さな半透明の鷹が顔を出して、くえ、と鳴いた。エルフィーンは風の妖精だ。
「うちが契約しているファークローイが拗ねちゃって・・・悪いんだけどもう一つお願いしたいなって・・・」
「良いよ、食べたらやろう」
「だ、大丈夫なのか?」
キーアキーラが一応気遣ってくれている。
「私はこれからギルドに行ってくるから、今日は依頼は受けないからな。明日はゴブリン狩りだからな。じゃ行ってくる。魔剣殿、無茶するなよ」
キーアキーラが席を立ったので、俺は朝食を食べて、部屋に戻った。
「じゃあやるよ」
俺は目を閉じて潰れた銀貨に魔力を込める。左手には魔剣ゾーンを握り、集中力を高める。六十四コアは堪えるので三十二コアで止める。六十四コアより時間が掛かるけど、脳に負担なあああああああああああくしょりがあああああああああああ!
「うわ、寝たのか」
俺はベッドから起き上がる。気分はスッキリしているが、お腹が空いた。外を見ると既に昼下がりの様だ。
「起きた? 半日寝ていたのよ。重ね重ねごめんね。ほら、見て。ファークローイが気持良さそうなの」
ヴェルヘルナーゼの手の上の潰れた銀貨からちろりと炎が見えた。
「じゃ、魔剣にするわよ」
ヴェルヘルナーゼは短剣のグリップの皮を外し、三つの銀貨の破片を皮で巻いて固定する。
「出来たわ。うちの魔剣。ファークローイとエルフィーネが住んでいるからファークエル。魔剣ファークエルよ」
剣は元々高級そうだが、妖精が二人も住み着いているからか、何とも言えない気品が漂っている。
「ね、凄くお腹が空いたんだ。広場で串を買って食べながら川縁に行こうよ」
「いいわね。流石に奢るわよ。石榴もでしょ?」
俺とヴェルヘルナーゼは広場で串肉と石榴を買い、食べながら川に移動した。門を出るときに、衛兵からデートか! と声を掛けられた。
川に到着すると、ヴェルヘルナーゼは難しい顔で短剣を引き抜いた。
「エルフィーン、出て来て」
ヴェルヘルナーゼは剣を軽く振った。半透明の鷹、風の妖精エルフィーンが飛んでいき、川の上をぐるりと回って帰ってきた。
「次はファークローイ」
剣を振ると炎の鳥が剣から飛び、帰ってきた。
「凄いわ・・・剣に炎をまとえないかしら。ファークローイ、お願い」
剣がメラメラと燃え始めた。
「あ、駄目・・・」
ヴェルヘルナーゼは楽しそうに剣を振っている。メラメラと、炎を纏う剣は美しかった。
「ユージー君、剣を抜いて! 行くわよ!」
「駄目だって!」
俺は思いっきり振られた炎の剣を受ける。炎の剣は根本からぽっきりと折れた。折れた剣身の金属音が響き渡った。
「折れちゃった・・・どうしよう・・・折角作って貰った魔剣なのに・・・どうしよう・・・」
ヴェルヘルナーゼは大粒の涙を流し始めた。激しく錯覚しているが、魔剣の本体はグリップの下に仕込まれた潰した銀貨である。
「大丈夫だから落ちつけって」
「どうしよう! どうじよおお」
「仕方ないんだ、鉄は熱を加えると柔らかくなるから。鍛冶の時だって真っ赤に焼くだろ? 俺は折れると思っていたよ。炎の剣なんて理屈ではあり得ないんだよ。だから火の妖精と風の妖精にお願いして剣身になって貰えば良いんだよ。風の妖精は剣みたいに鋭かったしさ」
「え? そっか。やってみる・・・エルフィーン、ファークローイ、一緒に出てみて」
剣の柄から、巨大な翼を持った龍が現れた。炎の龍だ。
「うそ・・・大精霊だわ・・・」
炎の龍は川の上で羽ばたきながらヴェルヘルナーゼを見ている。
「名を付けよ」
「いいのですか?」
「許す」
「有り難き幸せです。この魔剣、ファークエルの名を捧げたいと思います」
「我が母と父の名だな。良い名だ。我を呼ぶが良い。小さき母と、小さき父よ。そなた等に従おうぞ。我は小さき母の剣の柄の魔銀に父と母と一緒に宿る」
炎の龍は剣の柄に入って行った。
本日二回目の更新です。
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