魔剣ゾーン
第二十六話 魔剣ゾーン
「ギルドに寄っていくから、先に宿に帰っていてくれ」
ルーガルの街に帰ってきた俺達は、キーアキーラと別れて二人で宿に帰っていった。帰る途中、串肉と石榴を買って広場に座る。
「あのさあ、みんな魔剣って持っているの?」
「魔剣? ロマンね。魔剣は数が少ないのよ。王族や伯爵、白金級や魔銀級くらいじゃないかな? 今は作れる人がいないのよ。迷宮の奥で出てくると聞いたわ」
良いことを聞いた。ビジネスチャンスがある。
「よし、じゃあ作って見よう」
俺は懐から銀貨を取り出すと、落ちている石で潰した。
「え? 作るって魔剣を? 銀貨で?」
「うん。魔剣もどき」
俺は潰した銀貨に魔力を通す。スポーツ選手が集中したとき、ゾーンに入るという。時間が止まって見えたり、相手が遅く見えたり。野球選手などはボールが止まって見えたり、大きく見え、どんなボールでも打てるらしい。
メカニズムは、脳の前頭葉、A10神経からアドレナリンを放出、興奮。鎮める為にβエンドルフィンという覚醒物質が放出される。モルヒネの6.5倍の鎮静作用があり、集中力が増して雑音が聞こえなくなり、時間感覚に歪みを生じさせる。ゾーンと叫んだらアドレナリンとβエンドルフィンを放出させてゾーンに入る。
するり、と潰した銀貨に魔力が入って行く。一部がミスリルに代わり、アミュレットが完成する。
俺は短剣のグリップの皮を外し、潰した銀貨を入れて皮を巻き直す。
「出来た。魔剣ゾーン」
「え? 出来たの?」
「うん。じゃあ試してみよう」
俺は立ち上がって短剣を構えた。
「ゾーン!」
小さく叫ぶと、周囲から雑音が消え、短剣の先が大きく見えた。特に斬る相手もいないので止めておく。俺は剣を鞘に納め、大きく息を吐く。ふう、疲労感が残る。恐らく成功だ。
「うんうん、良い感じ」
「え? 何が? 魔剣要素ゼロだよ?」
「使ってみてよ。ゾーンと言うと発動するから。集中力が増して、相手が止まって見えるよ」
「本当に? じゃあ貸して。うちの短剣を貸してあげる。切り込んで来てよ。本気でね。ユージー君の打ち込みはうちじゃ対処出来ないのよね」
俺達は剣を交換し、互いに構える。今は二人とも剣道スタイルで構える。
「ゾーン!」
ヴェルヘルナーゼが叫ぶと、顔つきが変わった。明らかに集中力が高まっている。
「行くよ!」
俺は右足を踏み込み、中段から籠手目がけて剣を入れる。いつもなら、なすすべも無く剣を払い落としている状況だ。
ヴェルヘルナーゼは短剣を右に上げ、剣を受けた。
「ユージー君の剣を受けたわ・・・凄い・・・止まって見えた・・・なんだか幸せだった・・・も、もう一回よ!」
ヴェルヘルナーゼは腰から砕けて座り込んでしまった。
「あ、あれ?」
「極度に集中したから、疲れるんだよ」
「ふー。疲れるね。でも幸せだったわ。ね、私も欲しい!」
「剣術だけじゃないんだよね。どんなことでも集中が高まった方がいいよね」
「そうね。高位魔法の詠唱も間違えないだろうしね」
「集中したらパンチを繰り出しながら魔法を使えるんじゃない? ほら、ジャブ、ジャブ、ストレート! このタイミングで火の玉をぶつけるとか」
俺はボクシングの真似事を披露する。
「ん? 今の何?」
「え? あ? パンチの種類?」
「え? パンチに種類があるの?」
「ええ、俺は経験者じゃないんで詳しくはないけど、ジャブ、ストレート、フック、アッパーの四種類」
「詳しく教えて!」
凄い食いつきだ。
「じゃあ行きますよ。構えはこう」
俺は左足を前に、両手で拳を構える。ボクシングの構えだ。
「軽くステップで。基本はジャブで牽制して、ストレートを打ち込む。相手の体勢が悪くなったら、フックかアッパーで顎を狙う。チンって言うんだ。これは僕が何回も喰らったやつだ。ボディ、鳩尾を打つと相手の足が止まる」
「ふんふん」
「防御だけど、ステップで躱すのは剣術と似ているかな。あと両手でガードするんだけど、相手が刃物だと止めた方が良いかな。体を反らしてスェーで躱した方がいいかな。軽くパンチしてみて?」
「こう?」
ヴェルヘルナーゼは軽くストレートを打ってきた。俺は体を右後ろに反らせてかわす。
「お! 躱した!」
「ヴェルヘルナーゼは見かけは凄い可愛いから、かつ魔法使いなので突然パンチを打つと効果が高いんじゃないかな」
「ちょっと、可愛いって・・・もうユージー君ったら口が軽いんだから」
「はい、じゃあ立って」
俺は両手を開いてパンチを受ける体勢をつくる。
「う、うん、立つね」
「軽く打ってきてよ」
「わかったわ」
「ジャブ、ジャブ、ストレート!」
ヴェルヘルナーゼは俺の声でパンチを放つ。
「ステップが甘い! もっと軽やかに!」
ヴェルヘルナーゼは天性の素質があるのだろう。どんどん動きが良くなる。
俺達はボクシングの真似事をしていたら、キーアキーラが帰ってきた。
「おーい、明後日から山狩りだ・・・何やっているんだ?」
「え? 魔剣ですよ」
「私の目がおかしくなったのか? 無手の修行に見えたのだが」
「あ、ああ。そうよね。私は魔剣じゃ無い方が良いんじゃないかって話になって、魔法でも効果があるってね」
「ヴェルヘルナーゼ、何を言っているんだ」
ヴェルヘルナーゼが説明するが、全く伝わらない。
「魔剣ゾーン。握ってゾーンと言うと発動しますから」
俺の魔剣化した短剣を手渡す。
「う、うん。じゃあゾーン」
キーアキーラの顔つきが変わった。
俺はヴェルヘルナーゼの短剣で思いっきり突きを入れる。キーアキーラは一度も躱せなかった俺の突きだ。中段で構えるキーアキーラは後ろに下がりつつ、剣で突きを受けた。
「どうです? 魔剣でしょう。キーアキーラさんはいつもゾーンに入っている気がするけど」
「・・・なるほど。自動で集中が増す魔剣か・・・」
キーアキーラ短剣をしげしげと見ている。流石金級、体力は問題ないようだ。
「最適な魔法の選択だったり、複雑な詠唱だったり、作戦指揮にも良い影響を及ぼすはずです。ただ疲労が凄いですが」
「いや、私は大丈夫だ。この剣はルーディアで買った剣だろう。魔剣化したのか・・・凄いな・・・金貨いくらだ・・・もう蓄えが・・・」
「要ります?」
俺は短剣を返して貰い、鞘に納める。
「要るに決まっているだろう。よし体で払おう」
「え? 駄目よ! 何言っているのよ!」
ヴェルヘルナーゼが立ち上がる。
「二人分作りますから、大丈夫ですって」
「いいのか? 済まんな・・・借りになるな・・・」
「良いですって。ちなみにこの魔剣だと幾らぐらいですかね?」
「金貨二百枚くらいだろうか? 魔剣は数が出回らないから、良くわからないな」
「も、文字通り錬金術ね。アミュレットより魔剣の方が欲しいわよね」
ヴェルヘルナーゼがため息をつく。俺は銀貨を潰し、魔力を込めて魔剣ゾーンの中身を作る。
「これをグリップの皮の下に巻いてください。そうすれば、魔剣になりますから」
俺は魔剣の元を手渡す。
「成る程。グリップに仕込みがあるのか。耐熱の魔剣とかでも良いんだな」
「魔剣にしたら名前を付けてくださいね」
「名前? け、剣吉で」
「うわ。最低な名前。魔剣ゾンキチじゃない?」
「名前はなんでもいいんだ。健やかであったらな」
俺は子供に名前を付けたような台詞で思わず笑ってしまった。キーアキーラは細身の長剣を抜き、グリップの皮の下に魔剣の元を巻き付けた。
「私も魔剣持ちか。頼むぞ魔剣ゾンキチ」
「いや名前を変えましょうよ」
「ね、うちの魔剣は?」
「今日はもう作れないから明日の朝作るよ」
「絶対よ! 絶対!」
「じゃあどうするか考えておいてよ。何処に仕込むかね。俺は籠手に仕込むといい気がするけど、仕込みずらいかな」
新たに評価を頂きました。
本当に嬉しいです!
今後ともよろしくお願いいたします!




