ルーディアの街 その三
2020.4.18日本刀の部位で、硬い部位と柔い部位が逆でした。ご指摘ありがとうございました。
第二十三話 ルーディアの街 その三
俺達はヴェルヘルナーゼがいつも使う宿に部屋を取り、夕食の為に一階の食堂に集まった時だった。
「チ・・・嫌な顔を見た。明日は宿を変えよう」
キーアキーラは奥のテーブルの五人組を見る。キークが下を向いてひたすらエールを飲んでいる。女魔法使いに色々言われているが、キークは全く声が耳に入っていないようだ。
「キークのパーティ、龍断の閃光だ。同じ宿だったか」
キーアキーラ吐き捨てる様に言う。
「龍断のキークと閃光のホールフールが中心のパーティーね。二人とも金級よ。あ、違うか。ほら、怒っているのが閃光のホールフールよ。あ、閃光がこっち来たわね」
ヴェルヘルナーゼが俺に説明してくれていたとき、魔法使いがこちらに歩いて来た。三十前後と思われる女魔法使いだった。高価そうなローブに身を包んでいる。金髪と白かったであろう肌はそれなりに綺麗だと思うが、なんだろう、母親っぽい印象が湧いて来る。担任の先生と言っても良いかもしれない。
「黒豹、説明してくれないかしら? うちのドラゴンスレイヤーがさっきからあんな感じでエールばっかり飲んでいるのよ。しかも三段階降格だっていうしさ。ギルマスには黒豹に聞けって言われて、疲れた顔だったし」
「閃光母さんか。説明って言われてもな」
俺は『母さん』と言う言葉に噴き出しそうになった。やはり皆考える事は一緒なのだ。ヴェルヘルナーゼはちらちらと俺を見てくる。顔がちょっと笑っている。
「明日から討伐だって言うのに、使い物にならないじゃない。喉に傷があったしさ」
「ああ。ショックが大きいと思うぞ。そこの黒鉄級の坊やに腕を折られて、見事にぶん投げられて、剣を先に抜いたのに一太刀も振ることなく負けたからな」
「ちょっと、なによそれ」
お母さんが俺を睨む。ご飯抜きとか言われそうだ。
「私を俺の女だとか、言われて凄まれたから、この子が間に入ってくれたのだ。母さんとキークは籍を入れていないのか? お前達子供がいただろう」
「何ですって? 済まなかったね。お仕置きをしてくれて礼を言うわ」
お母さんこと閃光のホールフールが戻って行った。キークがホールフールに怒鳴られていた。残りの三人は席を立つとこちらにやって来た。
「ウチのリーダーが世話を掛けた。次が最後の依頼だな。俺達は龍断の閃光から抜けるよ。あの馬鹿二人に付いて行けねぇな。じゃあな」
壮年の剣士が挨拶して食堂から出て行った。
「つかれたわ、キーアキーラ。酷い日だったわよ」
「ああ全くだ。子供もいる癖に、堂々と私を奪おうとする根性だけは認めるが、どうも冒険者の男は頭が悪すぎるな」
皆、ようやく夕食を食べ始めた。硬いパンと不味い塩スープだ。
「じゃあ明日は鍛冶に行って、夕方は錬金術師に会いに行くぞ」
「錬金術師? 特に用は無いですよ?」
俺はパンを持つ手を止める。
「何を言っている。チキン用の薬草がいるじゃないか」
俺達は急いで食事を取り、部屋に戻った。部屋は俺が個室、ヴェルヘルナーゼとキーアキーラが二人部屋だ。俺はなんだか疲れてしまい、汗を拭うとそのまま寝てしまった。
翌日、俺達は鍛冶屋の前にいる。周囲は職人街となっており、木工、革細工、縫製などが軒を並べている。鍛冶屋からは槌の音が響いてくる。俺はわくわくしながら建屋内に入っていく。
「はいいらっしゃい。剣かい?」
背の低い、幼児みたいな女性が声を掛けてきた。幼児みたいであるが、どう見ても成人である。体つきも横幅があり、ガッチリしている。
「あら? 珍しそうにしているのね? ドワーフなのよ。ドワーフの鍛冶屋へようこそ」
「あ、ど、どうも」
俺はドワーフの女性に締まらない返事をしてしまった。ドワーフがいるとは・・・エルフがいるので、ドワーフがいてもおかしくは無いだろう。俺は驚いて声も出なかった。
「ボーローさん、お久しぶりです」
「おや? ヴェルちゃんじゃないか。いつも可愛いねぇ。おや、珍しいね。キーちゃんじゃないの。今日は手入れかい?」
「ユージー君の剣を探しているの。ほら、ギルドで買った安い剣はすぐに曲がったのよ」
俺は短剣を苦労しながら抜くと、ドワーフのボーローに手渡す。ボーローは剣を受け取ると、剣を叩いたり曲がりを確認したりしている。
「うーん、焼きも入っていない鈍ね。短剣でいいのかしら? これはどう? ちゃんと焼きも入れたわよ。金貨三枚ね」
「出来れば片刃の曲刀が欲しいんですよ」
俺は短剣を受け取って刃を眺める。両刃の短剣だ。長さは六十センチくらい。今までの剣と変わりない。美しいスカンジナビアンカットの刃だ。剣の両側が、真っ直ぐに鋭い刃となっている。マイクロヴェヴェル、刃先の極小の研ぎも綺麗に入っている。
俺は短剣に微量の魔力を流してみる。炭素量はおおよそ一パーセント、若干のクロム、バナジウム、シリコン、リンが認められる。リンとシリコンは余分だが、クロムとバナジウムが入っているため、刃物用の鋼としてはなかなかだと思う。モリブデンが入っていれば良かったと思う。
組織は綺麗なマルテンサイト。相当硬い。硬いのがわかって居るのだろう。刃厚が厚くなっている。硬く脆くなったのを刃厚で補うのであろう。
「うん、良いですね。ちょっと刃が硬すぎる気もするけど、研ぐのが大変そうですね」
鍛冶屋の入口はショールームになっていて、ナイフや長剣は置いてあるが、曲剣は置いていない。
「若いのに目利きだな。費用が嵩むが打つぞ。好みを言ってみろ」
奥から背の低い、髭モジャの男が現れた。俺は胸が高鳴った。本物のドワーフだ!
「おや、紹介するよ。主人のべべルコよ。珍しいわね、あんたがオーダーを受けるなんて珍しいわね」
「良いんですか? 片刃の曲刀が欲しいんです。この短剣と同じような硬さの刃を、もう少し硬い鉄で挟んだ剣です。鍛造、焼き入れ焼き戻し。刃幅はこの短剣の半分、刃厚は同じくらいで。焼き入れは温度はこの短剣と同じでいいです。焼き入れ時に背に粘土と灰を混ぜたものを塗って、乾かせてから焼き入れしてください。背の方が柔らかくなって、剣に粘りが出ます。反ると思うので、自然に反らしてください。反りが欲しいんですよ」
俺は日本刀の製作方法を一気に説明する。
「む? ちょっと待て。随分と細けぇな。焼き入れが特殊だな。焼き入れは立ち会って欲しい。作った事無い製法だからな・・・板金三枚使うとすると一気に三振り出来るんだけどよ・・・長さ的には金貨四枚の剣だ。九振り打つ。恐らく成功は一振りだ。金貨三十六枚になるがいいか?」
俺は懐から金貨五十枚を取り出した。
「金貨五十です。これで納得するまで打って下さい。あと、材料の鉄を見せていただけませんか」
「わかった。受ける。数日後、とりあえず一振り打っておくから見に来て欲しい。こっち来い」
俺はべべルコに鍛冶場に案内された。思ったより広い鍛冶場だった。半分がタタラ場で、半分が鍛冶場だった。鉄はタタラで製造しているようだ。俺達が入って行くと、作業の手が止まり、静かになった。五人のドワーフが働いていた。皆髭モジャなので、区別は付かない。当然年もわからない。
タタラとは砂鉄や鉱石を、炭と一緒に粘土や煉瓦の炉に入れ、ふいごで風を送って還元反応を起こす炉である。鉄は、通常は酸化鉄の形で地上に存在している。風を送ると、炭が燃えて一酸化炭素を発生させる。一酸化炭素が酸化鉄から酸素を奪い、鉄になるのである。
炉から出て来た鉄は炭素量が四パーセント程度含まれている。鋳鉄である。これを鍛えていくと、炭素量が下がっていく。刃物では概ね0.6パーセントから1.2パーセント程度である。これを鋼という。炭素量が多いと硬くなって脆くなる。炭素量を下げると粘りが出てくるが、柔らかくなる。鉄は成分を変えることで性質を自由に変えることが出来るのである。
熱が十分に回るとタタラの口を開いて真っ赤なケラだしを行う。これは鉱石に含まれる非鉄成分が溶けて排出される。初めて見る人は「鉄だ!」と思うのだが、冷えると石になるのである。
俺は頷きながら、積まれた板金を見る。横に玉鋼を見つけた。二十個ほど有る。タタラから出したばかりの巣で一杯の鋼である。少し魔力を流してみる。炭素量は四パーセント。二十個全ての炭素量は同じくらいだ。
「この玉鋼でお願いします。ではやり方を説明します」
俺は静かに言い放つと、鍛冶場全体に声が響き渡った。
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次回も鍛冶場の予定です。




