ルーディアの街 その二
第二十二話 ルーディアの街 その二
俺達は馭者から報酬を受け取り、馬車を降りた。目の前には巨大な城壁が見える。
「でかい・・・ルーガルの城壁が小さく見える」
俺は壁を見上げてしまう。ルーガルとは俺達が拠点としている街である。
「錬金術師君、いくぞ。日が暮れてしまうと野宿だぞ」
俺は慌てて門の列に並ぶ。五十人は並んでいるだろうか。商人風、冒険者風が多い。
俺達は衛兵にギルドの登録証を見せて、無事通り抜けた。門の前は広場になっていて、様々な人々が荷物の整理を行い、旅の終わりを喜んでいるようだった。
俺達は街を見物しながら冒険者ギルドを目指した。門の回りは広場で、露店が建ち並んでいる。広場の回りは店が建ち並んでいた。ルーガルの街とは店の数が違う。数倍はある。ルーガルにパン屋は一軒しかないが、ルーディアは三軒はある。
俺はお腹が空いたので、串焼きを頬張りながら歩いた。串焼きも色々な屋台がある。オーク肉、羊肉、鹿肉、牙猪肉。牙猪は魔物らしい。俺は躊躇わず羊肉にした。羊肉を食べて前の世界を思い出してしまった。俺がいた北海道では、羊肉を食べる。ジンギスカンだ。ニンニクの効いたタレで臭みを抑えて食べると旨いのだ。今食べている串焼きは塩だけで味付けされているので、羊独特の臭みがある。
俺が食べている姿が旨そうに見えたのか、二人も購入し食べていた。ギルドは商業街を抜け、職人街に面した場所にあった。建物は石造りの三階建てだ。一階は酒場で、凄い賑わいだった。受付は二階にあった。受付も凄い列で、返り血を受けた人が沢山いて生臭かった。職員は大変だなと思う。
キーアキーラが報告に行ったので、俺とヴェルヘルナーゼは二階の片隅で待っていた。
「凄い人だね」
「人混みは苦手ね。酔っちゃうのよ」
「わかるわかる。俺も嫌だしね」
「あ、キーアキーラが帰ってきたわ。こっちよ!」
ヴェルヘルナーゼは笑顔でキーアキーラに手を振る。キーアキーラはヴェルヘルナーゼを認めたが、顔を強ばらせて左を向いた。
キーアキーラの前に、男が立っていた。黒髪で無精髭。身長は百八十五センチはあるだろう。体は太く、背には巨大な剣を吊している。雰囲気が只者ではなかった。明らかに上位冒険者であろう。
「何か用か、キーク。私は用は無いぞ」
「探したぜ、キーア。戻って来い。お前が必要だ」
キーアキーラがキークと呼ぶ冒険者は、荒々しくキーアキーラの右手を掴む。
「離しな。私はあんたなんか必要無い。戻るったって、あんたと私は赤の他人だぞ。これ以上乱暴するなら斬る」
揉めているようだ。俺は近づくと、キークの右手を掴む。
「キーアキーラさんの手を離して下さい。上位冒険者とお見受けしますが、ちょっとレディに対する仕業じゃないですね」
俺は両手で右腕を背中に捻り、極める。キークは驚いて俺を見る。
「ガキか。離せ」
「嫌です」
俺はさらに腕を決めると、キークは片膝をついた。周囲からはどよめきが起きる。
「龍断のキークが・・・子供に・・・」
「どうなっているんだ・・・」
関節を決めているだけなのだが、こちらには無い技術なのだろう。
「小僧!」
「消えてくれますか。キーアキーラさんが嫌がってます。拒否するなら腕を折りますよ」
「この女は俺の女だ! ガキは黙ってろ!」
「キーアキーラさん、この方は恋人かご主人ですか」
「いつから私がお前の女になったのだ。パーティーすら組んだことが無いぞ。挨拶したくらいだ」
「違うようですね。お帰り願えますか」
「うるせえ!」
キークは腕が外せないと見ると、俺に向けて体重を掛けてきた。俺は躊躇いなくキークの右手に力を入れ、肩を脱臼させた。
「があああ!」
キークは叫び、俺と逆へ逃げようとした。俺は右手でキークの左手を掴み、引きながら腰をキークの体に入れる。俺は腰を跳ね上げ、キークを思いっきり投げた。一本背負いだ。キッチリ頭から落とす。キークはよろよろと立ち上がり、首を大きく振った。
俺も転がるが、受け身を取りながら立ち上がる。中学校での柔道のレベルでの対処だった。
「すまん。ユージー」
「行きますか」
俺がギルドを出ようとすると、キークが立ち上がった。
「があああ!」
キークは壁に右肩を打ち付けた。凄い。自分で右肩を入れた。凄い根性だ。
「てめぇを斬る!」
キークは興奮して大剣を抜いた。
「おい、ギルドで抜いたら三階級降格だぞ。納めたら見なかったことにするが。でもあれか。黒鉄級にやられっぱなしじゃあな」
キーアキーラが言い放つが、キークは鬼の形相を俺に向ける。キーアキーラはナチュラルに煽ってくる。
「死ねえ!」
キークは両手で、顔を顰めながら剣を振り上げる。大剣は重い。振り上げる時、振り揚がった時、必ず動きが遅くなる。人間の力では、大剣を短剣並みには振ることは出来ない。
遅い。余りにも遅かった。威力はあるのだろうが、人を斬るのにこんなに巨大な剣は不要であろう。俺はでかい魔物ではないのだ。
俺は右足を大きく踏み込むと、短剣を抜いて切っ先をキークの喉に食い込ませた。皮膚が裂け、血が短剣から流れ落ちる。
「キーク、私の剣の師匠に喧嘩を売るとはたいした者だ。死にたくなければ剣を投げ捨てろ。貴様は私的に剣を振るった。私が見た。金級冒険者キーアキーラが貴様の罪を認め、緊急討伐をこの者に命ずる事が出来る。剣を捨てて罪を受け入れろ」
「待て待て! どうなっている!」
初老の男性が野次馬をかき分けて割り込んできた。俺は短剣を喉から外す。
「キーアキーラ! 何をしている!」
「私は何もしていない。私はこの男から狼藉されかけたので、パーティーメンバーが助けてくれたのだ。黒鉄級二日目の冒険者に、腕を取られて肩を脱臼され、小さなこの冒険者に思いっきり投げられて、怒って剣を抜いたら剣を振るまでもなく敗北した。三回は死んでいたぞ。礼を言って欲しいところだ」
「どうにかならんか。この街唯一の金級なのだ」
「ならん。わかりきったことを言うな。それ以上の発言は中央ギルド案件で、私は事態収拾の為に白金級の派遣を依頼することになる。白金級が認めればお主は解雇、気が荒い奴だと首を落とされるぞ。白金級は癖が酷い奴らばかりだが、不正は絶対に許さないからな。今ならギルドマスターの権限内だと思うが」
キーアキーラがぐうの音も出ないほどに初老の男性を追い詰めた。いいのだろうかと思ってしまった。
「わかった。もう帰れ。二度と来るな。キーク、お前は三階級降格だ。今から黒鉄級だ」
「酷い言われ様だが、キークの三階級降格確かに聞き入れた。帰ろう、ヴェルヘルナーゼ、ユージー。冒険者は力がある故に、容易に剣を抜いては駄目なのだ。剣は何かを守る時のみに抜かれるべきなのだ。それが冒険者のはずなんだ。欲望に負けると、あっという間に転げ落ちるんだ。それが冒険者に課せられた枷だ。こいつは金級のくせに欲望に負けたのだ。私の尻がそこまで美しいということだぞ」
キークは剣を落とし、膝から崩れ落ちた。
俺達は沢山のギャラリーの中、ギルドを出た。
「凄い煽りね。スカッとしたわ。スライムに負けたのに対人には滅法強いわね。あの投げ技は何? どうして小さいユージー君が大きなキークを投げることが出来るの?」
「ああ、スライムには負けたが金級撃破二人目か。凄いな。今日から金級を的にする冒険者ユージーか。金的のユージーだな」
「え、そんな」
「ウフフ。いいなぁ。格好いい二つ名。私なんか鉄拳よ鉄拳。魔法使いに鉄拳て何よって言いたいわ」
外は日が落ち始め、真っ赤な夕陽だけが俺達を出迎えた。俺は、キーアキーラの言葉が耳から離れなかった。冒険者は力がある故に、何かを守る時にのみ剣を抜く。俺は頷くと、心に言葉を刻み込んだ。
「きゃ」
風が強く吹き、砂嵐を飛ばした。
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ルーディアの街編、続きます。




