決戦前夜 その二
第二百十話 決戦前夜 その二
「広いですね・・・魔道学園の前庭より広い」
「当たり前だ。ここは出陣式の場所だぞ。奥に見えるのが御所だ。どうだユージー? 魔力を感じるか?」
「凄い魔力ですね。確かに今にでも沸いて出て来そう・・・」
「ぎゃ」
軍事組、俺、キーアキーラ、ヴェルヘルナーゼ、マクミリヤニ王、騎士団長で王宮と御所のあいだの広場に来ている。内政組、臨時宰相の辺境伯、グールン子爵、法務官と外務官は物資の収拾、救護所の設営に向かっている。メリーカーナ王女はオースルーとセラフィーナと打ち合わせをすると言っている。
後では続々と冒険者が集まってきた。デルフォーが大声を上げて指示をしている。
「冒険者に芋を食わせよう。冒険者なら食うかな?」
「お、良い考えじゃない? 勝手に広めてくれると思うよ?」
ヴェルヘルナーゼが同意してくれる。
「芋ですか? 苦くて食べられないと聞いたことがあります」
マクミリヤニ王もやはり苦いはずだと言う。
「これです。大賢者から大量に貰っているんです。王都より寒い場所でしか育たない作物なんです。荒れ地でも実るはずです」
俺は一つ、マクミリヤニ王に渡す。手渡された王は不思議そうに見ている。
「大きいですね。茹でるんですか?」
「茹でたり揚げたりですね。あ、冒険者達が炊き出しを始めましたね。行きましょうか」
俺達は腕を組みながら頭を押さえるデルフォーに近づいて行く。
「デルフォーさん、どうしました?」
デルフォーはマクミリヤニ王が近づいたので跪いて出迎える。
「この戦いが終わるまではそれは禁止ですよ」
「は、閣下。実は食料の集まりが悪くてですね・・・何処かに調達に行かせようかと思っていたんです」
デルフォーが閣下という言葉を使ったので、冒険者達がざわつく。
「あ、デルフォーさん。大賢者から芋を沢山貰っているんです。食べて見て下さいよ。芽は毒なので取り除いて、茹でて塩を振って食べれば良いと思います」
俺は一個、馬鈴薯を手渡す。
「芋なの? ユージー君」
「大賢者が改良して食えるようにした芋ですね。美味しいですよ。うち等は何回も食べました。本当は油で揚げるとおいしいのですけどね・・・どうぞ」
俺はフライドポテトを取り出し、皆に摘ませて食べさせる。
「あら、美味しいわね」
「切って揚げて塩を振っただけですが、油は高いですよね」
「そうね。遠慮なくいただくわ。何処にあるの? 取りに行かせるわ」
「じゃあ出しますよ」
俺は魔法の鞄を逆さにし、芋を地面の上に取り出していく。小山を三つほど作った。
「そうだったわね・・・鞄持ちですものね・・・こんなにいいの? お前達! 魔銀級の龍騎士公から食料をいただいたよ! 炊き出し当番! 取りにおいで!」
十人ほどの若い冒険者がやって来た。
「茹でて食べて。芽は取るんだよ。毒なんだ。食べるときは塩を振ってね。皮は食うなよ」
「は、はい! わかりました! 龍騎士様! 龍騎士様の芋だ! 持っていくぞ!」
「龍騎士芋ね? わかったわ!」
冒険者達は巨大な鍋に芋を入れて運んでいった。
「龍騎士芋になっているな。どちらかと言えば大賢者芋なのだがな」
俺は冒険者の中に入っていき、挨拶を始めた。
「よろしく」
「は、はい!」
俺と握手をした冒険者は若い冒険者を中心に感激している。俺はコッソリと診察を始めている。三人目は梅毒だった。二十代の冒険者だ。
「ええと・・・メリー!」
俺はメリーカーナ、オースルー、セラフィーナの三人の姿が見えたので呼び寄せた。
「ユージーさん、どうしたの?」
「この方を治療して欲しい。梅毒だな。女を買っただろ」
「えへへ。最後かもしれないですし」
「わかったわ。こっちへいらっしゃい」
「え? 王女殿下に?」
「ああ。治して貰え。次!」
俺はどんどん診察していく。十人に二人が梅毒患者、疫病患者だ。二十人に一人、ペスト患者がいる。広場は臨時の救護所になってしまった。魔道馬車を出し、メリーカーナ王女、オースルー、セラフィーナが続々と治療を行っている。
メリーカーナ王女にはペスト患者を治療して貰う。五十人ほど診たところで魔力が尽きてくる。
「ユージーさん! 私が診るからいいわ! マクミリヤニお兄様と話をしてきて! 王都にペストが蔓延しているかもしれないわ!」
メリーカーナ王女の声に俺は頷くと、デルフォーを呼ぶ。
「デルフォーさん、ロスメンディフェルトの病が見つかりました。冒険者は全員、メリーカーナ王女の診断を受けて下さい!」
「ええ? ペストという病気ね?」
「ええ。デルフォーさんも手を・・・ああ、治療しますね・・・」
「わ、私もペスト?」
「ええ。はい、もう大丈夫です・・・おっと」
「ちょっと、大丈夫? 魔力欠乏ね?」
デルフォーはよろけた俺を抱きかかえてくれる。
「だ、大丈夫です。殿下! 王都の閉鎖を! 外出禁止令を!」
「どうしました? 冒険者達を診察しているのですか? もしかして・・・」
俺とマクミリヤニ王は顔を強ばらせる。
「ええ。冒険者にペストが出ました。二十人に一人の割合です。王都を閉鎖してください。外出禁止令を。長引くようであれば食料の支給も必要です」
「く・・・早くも戦いは始まりましたか・・・一体どうやって・・・」
「アンデットにされた貴族が感染していたんでしょうね・・・手の込んだことだ・・・」
「わかりました。騎士団長、王都の閉鎖及び外出禁止令をお願いいたします。騎士団全員で対応してください」
「は! 畏まりました!」
騎士団長は走って広場を後にした。
「ところで治療の手は足りますか? けっこうギリギリに見えますが・・・」
メリーカーナ王女達に冒険者は列になり、治療を受けている。
「あなた、ロビーリーサさんにアミュレットを渡していたじゃない。顔が青いわ。魔力の使い過ぎよ」
「あ・・・彼女は戦場に出られる人間じゃないから忘れていた・・・連れてきて大丈夫かな?」
「そうなのよね・・・キーアキーラどう思う?」
「あいつか・・・救護所から出るなと言えばなんとか・・・魔力薬でも作らせれば・・・まあ連れて来るか。行ってくる」
キーアキーラは始まりの木に移動していった。
「閣下、お願いがあるんです」
「なんですか?」
「一緒に芋を食べてくれませんか? 芋は王都より北でも栽培が出来るんです。かえって寒い地方の方が良いんです。閣下が皆の目の前で食べれば抵抗感のある芋も広がると思うんです」
「いいですよ。王宮は閉鎖されますので食事をお願いしなければと思っていたんです」
治療が終わった冒険者は炊き出しを行っていた。芋を煮ている。
「もういいかな?」
「良いんじゃねえか? 一個食ってみようぜ・・・あち・・・あ、王子様! 龍騎士様!」
「すみません、俺達にもいただけないですか?」
「は、はい! 茹でただけですが!」
俺とマクミリヤニ王は皿に一個づつ芋を貰う。俺は芋を二つに割り、熱いのを我慢してつるりと皮を剥く。塩を振って、食べてみる。
ほくほくして旨い。塩辛かマヨネーズが欲しい。
「うん、旨い旨い」
「ほう、成る程・・・あちあち」
「熱いですから冷めてからです、閣下・・・」
マクミリヤニ王は熱いのを我慢して皮を剥く。
「さあ剥けましたよ・・・ほふほふ・・・食べ応えがありますね。芋は苦いって聞いていましたが・・・苦くありませんね」
「大賢者が改良してくれたおかげです。北方の領土を持つ人達に植えて貰いたいなって思いますね。芋を半分に切って植えるだけで育ちますから。あ、もう十個貰えます? みんなで食べる分です・・・どうも」
俺は鍋に芋を貰うと、冒険者から離れた場所に魔道馬車と椅子とテーブルを用意する。俺は少し芋が冷えたら一気に皮を剥き、マッシュする。玉葱を刻み、ハールレソース、マヨネーズだ・・・と一緒に混ぜ、塩胡椒で味を調える。
「どうぞ、閣下。ヴェルヘルナーゼも食べて」
「ではいただきますね。さっきとはまた違う・・・美味しいですよ」
「違う芋の料理なのね・・・こうやって食べるのね・・・おいしいわ・・・まだ料理方法があるの?」
「あるよ。シチューに入れても良いし、芋をトロトロに煮てスープにしても良いし、小麦粉と混ぜて団子にしても良いよね。みんなの分を作っておくか・・・ヴェルヘルナーゼ、紅茶を沢山淹れて」
俺はパンを取り出すとポテトサラダを挟み、サンドイッチを山のように作る、治療を終えた三人がこちらにやって来た。みな疲れた様子だ。
「メリー、オースルーさん、セラフィーナさん、食べてください。デルフォーさんも閣下もどうぞ。冒険者達が食べている芋を使ったサンドイッチです」
「メリー、大賢者からいただいた芋らしい。おいしいよ」
マクミリヤニ王も勧めてくれる。
「ユージーさんのお料理ですね・・・うんうん」
メリーカーナ王女はサンドイッチを美味しそうに食べる。
「芋なの? ユージー君。芋は食べることが出来ない。でも食えないときは我慢して食べた・・・おいしい」
オースルーも口に入れる。
「ウフフ。冒険者はみんな苦い芋を食べているのよね・・・あら、本当に芋なのかしら・・・あ、ユージー君、色々とおめでとうございます・・・ウフフ。戦が終わるまでアミュレットは借りますね。これがあると治療があっと言う間に終わるんです」
「メリー、今キーアキーラさんがロビーリーサさんを連れて来るんだけど、魔力薬でも作って貰おうかな? 一応例のアミュレットを持っているんで、治療は出来ると思うんだけど・・・」
「ユージーさん、ロビーリーサは治療魔法出来るんですか?」
メリーカーナ王女はサンドイッチを食べながら聞いて来る。
「うーん、上がり症で血の気のある荒事には向かない人なんだ。恐らく人間も苦手だと思う。キーアキーラさんが治療魔法の事が書いてあるメモを渡しただけだからなあ。手伝いくらいは出来るかなぁ」
「軽症患者くらい診てもらうわ」
「そうだね」




