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冒険者物語  作者: 蘭プロジェクト
第2章 冒険の開始
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ルーディアの街 その一

第二十一話 ルーディアの街 その一


 俺達は隣町に行く馬車に乗っている。馬車は幌馬車というやつで、大きめの台車に白い綿の幌で覆われている。同乗者は荷物で、俺とヴェルヘルナーゼが荷物の一角に場所を取っている。キーアキーラは馭者席だ。


 キーアキーラが隣町までの護衛依頼を受けて来たのだ。報酬は銀貨二枚。決して高くは無いが、馬車費用が無料になるので移動は護衛を受けるのがよくあるそうだ。依頼人は銀貨二枚で金級が雇用できて、大変喜んでいた。


 「これから行くところはルーディアの街よ。ドーソリー伯爵家の領都ね。結構大きな街なのよ。夕方には着くわね。明日、買い物をして明後日帰るという感じかしら」


 ヴェルヘルナーゼは膝の上の俺の髪を弄んでいる。俺は目を閉じてヴェルヘルナーゼの太ももの感触を楽しんで、と言いたいが、鎧の上である。硬い。ヘボッ! 一瞬、振動で呼吸が止まった。


 「アハハ。馬車は揺れるからね。大丈夫?」

 俺は初めて馬車に乗ったが、振動に辟易している。酔うし、寝られないし、歩いて移動したい気分だ。


 こちらの馬車にはサスペションが装着されていないようだ。木の箱に車輪を取り付けただけの馬車だ。荷物用なので致し方ないであろう。車輪も当然ゴムタイヤなど無く、乗り心地は最悪だ。ゴムタイヤとサスペションを開発したい。


 馬車にサスペションを取り付けるとしたら、トレーリングアームになるであろう。トラックでよく見る形式で、丈夫なのだ。出来ればコイルスプリングとショックアブソーバが欲しいところだ。


 スプリングを作るには、バネ鋼が必要になる。炭素量0.6%、これにシリコン、マンガン、クロムを若干量混ぜて粘りのある合金を作る必要がある。「苦労して作った」とか小説で読んだ気がするが、絶対に苦労しても作れない。コイルスプリングを作るには、1970年程度の技術が必要だ。


 じゃあ板バネか・・・俺は記憶を探る。確かに馬車についていたな・・・


 俺は鉄に思いを馳せていた。俺は鉄鋼会社に勤めていたんだよな・・・今となっては懐かしくすら感じる。こちらで生きるので精一杯で、懐かしむ時間も無かったな・・・


 ショックアブソーバを作りたいけど、オイルシール部など作れないよな・・・スライムを入れておけば・・・などと考えながら馬車の時間を過ごす。


 ヴェルヘルナーゼは流石に慣れていて、揺れる馬車でも平気で寝ていた。流石である。


 昼になり、馬車は停止した。馬は草を喰み、水を与えられた。俺達は硬いパンを食べ、再び馬車に揺られる。俺はヴェルヘルナーゼの横に座る。前から聞きたかった事を聞いてみた。


 「ヴェルヘルナーゼ、一つ聞きたいのだけどさ」

 「何?」

 「魔物って何?」


 「いきなり難しい質問ね。魔力の有無とされているわ。魔力を持つ者が魔物で、無い者は動物よ。私達エルフやユージー君のような魔法使いは先ほどの定義では魔物に入るかも知れないわね。魔人と言っても良いかもしれないわね」


 「魔人・・・」


 「魔力の強い魔物は魔石を体内に持つから、魔石を持つというのは魔物の一つね。良くわからないのよ。何故魔力を持つ人がいるのか、と言う疑問と一緒なのよ」


 「確かに、俺がいた世界は魔法使いはいなかったよ」


 「ジューギーフェルトがゲールファイを作って、ロスメンディフェルトがルーシュ達を滅ぼしたんだけど、ゲールファイって魔道具みたいなものよね」


 「えっごめん、何言っているか全く理解出来なかった」


 「ああ、ごめん。エルフ以外では失われていたわね。内緒よ。鍛冶の神ジューギーフェルトが天の槍ゲールファイを作ったのよ。太陽の神ロスメンディフェルトが天の槍を使って宿敵のルーシュを狩ったって聞くわね。これから行く町はルーシュの首領、ルーディールーシュの名を戴く街ね。王国内の大きな街は、大体神々の大戦を戦った者どもの名が付いているのよ。王都はロスメンディアと呼ぶから、間違い無いのだけどね」


 「ふんふん」


 俺は興味を惹かれ、話に耳を傾ける。神話と言うものは、過去に生じた出来事を、為政者の支配の理由として書かれるものだ。日本書紀や古事記も、クーデターで政権を取った、血筋の良くない天武の正当性を綴ったものだ。


 「今は王国では『大いなる神』『天にいる者』『この世の光』とか呼ばれる唯一神を信仰しているわ。どう見ても太陽の神ロスメンディフェルトだよね。気安く神の名を呼んじゃ駄目よ。教会の人間に聞かれたら大変な事になるわ」


 唯一神か・・・元の世界の宗教を考えると、唯一神はかなり面倒な存在である。あまり関わり合いにならない方がいいだろう。


 「でね、神々の大戦で人々と神々は滅ぶのよ。でも風の神ルーディールーシュの末裔と大地の神ゲルアの末裔が流浪の末、たどり着いたのが王国らしいのだけど、なんかおかしいよね。あ、今は『大いなる者』だかなんだかが、天から舞い降りてこの地に国を作った事になっているから」


 「なるほど。最初に入植したのが風の神と大地の神の末裔で、後から入って来た太陽の神の末裔達に支配権を奪われたのか」


 「ウフフ・・・まあ正解ね」


 「天の槍って何?」

 「神々の土地だけど、北の大森林地帯と言われていて、全てを滅ぼしたらしいのよ。その残滓が魔物になった、とエルフには伝わるわ」


 「変だな? 北の訳無いよ。おかしいって。絶対南だよ」

 『神』に率いられた部族間抗争がエルフに伝わる神話だろう。『神』は十中八九、魔法使いだろう。


 「どうしてよ?」

 「文明は必ずでもないけど暖かいところから始まるんだ。ここより北だと寒すぎて暮らすには難しいよね。南に大きな川がないかい?」


 「南は砂漠よ。確かに大きな川があるわね」

 「そこじゃないかな? その砂漠がゲールファイが使われた跡じゃないのかな? 調べたらわかりそうだよね。行ってみたいな」


 俺は俄然興味が湧いてきた。


 「ウフフ・・・そんなことに興味があるとは珍しいのね。エルフでも興味を持つ人はいないのに。ゲールファイの使われた跡は爆心地と言われているわ。誰も探し得た人はいないわね。あら、確かに北の森じゃないのかしらね。調べに出たエルフは皆、北の森に行っていたから」


 俺は歴史が大好きだった。興味がそそられる。出来れば行ってみたい。


 「大地の神ゲルアが、八柱の神を産むの。ルーディールーシュが風を紡ぎ、クーディーメローシュが運命を司ったの。アルプーディーフリーシュは全てを護り、チュシディーグローシュが我らに火を与えたの。ロスメンディフェルトは全てを欲し、リディフェルトが寄り添ったの。べーフーディーフェルトが悪しき地より知恵を与え、ジューギーフェルトがゲールファイを作ったの。生き残った人々は羊飼い夫婦に連れられて新天地へはいったのよ。ルーディールーシュとゲルアの末裔よ。この二人がエルフの祖先と伝えられているわ」


 「人間はロスメンディフェルトの末裔なんだろうね」

 

「恐らくそうね。私達エルフは人間を避けて、森に入ったわ。森に入る前にいた土地が、今から行くルーディアよ。うちがこの辺りにいるのは祖先の地という意味もあるわね。ようこそ、エルフの祖先の地へ。ルーディアに到着したようよ。さ、降りましょ」


 馬車は止まり、青空と冷たい風が俺達を出迎えた。


 「ヴェルヘルナーゼ、錬金術師君、降りるぞ。ヴェルヘルナーゼは帽子を被るんだ」

 「うん」


 俺とヴェルヘルナーゼは馬車を降りた。風の神の土地らしく、風が少し強かった。


今回はちょっと状況の説明回となりました。


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