後遺症
第二百八話 後遺症
「ユージーさん! 紅茶です・・・浮かない顔ですね?!」
「フリンカ、ユージーは色々な意味で傷心なんだ。迷宮の奥底にいた大賢者がな、ユージーを振った女だったんだ。二回もな。大賢者が死んで、古里を知る人間が居なくなったんだ。二重で寂しいさ。大賢者は無理矢理生かされていてだな、最後にユージーに会えて安らかに亡くなったのは良かったと思う。惨い、酷かった。悪魔としか言いようのない、生かされ方だった」
「そうですね・・・俺の家はここ・・・」
「そうよ。そしてルーガルよ。ルーガルはみんなあなたの家族よ」
「四人目の妻だと思ったな。いい人だったし、ユージーに古里の味を作ってやれるひとだったからな・・・」
「うん・・・じゃあ大賢者から貰った鞄は・・・魔法の鞄、極大の容量だ・・・ジャガイモ、これはメークイーン・・・馬鈴薯・・・ゴボウ、鰹節、昆布、鰺、鯖、ホッケ、鮭、海苔・・・まだ沢山の食材が入っている・・・味噌、醤油・・・お米・・・豆腐、揚げ・・・凄い・・・死ぬほど入っている。一生かかっても食いきれないな・・・」
「古里の食べ物か? ヴェルヘルナーゼ、今日から特訓だな。ユージーに古里の食べ物を作ってあげたいな」
「じゃあちょっと作りますね。どうしよっかな・・・じゃあ米を炊くか・・・」
「新メニューですね!」
「うん。見てて」
俺は米を研ぎ、厚めの鉄鍋に水と共に入れる。米は一合につき、二百ミリリットルの水で炊く。水を入れて指の腹くらいが水分量だ。半刻ほど置き、ご飯を炊く。最初は強火、沸騰したら弱火で炊く。
フリンカに頼んで鮭を焼いてもらう。俺は鰹節をナイフで削り、昆布と鰹節の出汁を取る。専用の鰹節削りを作る必要がある。
豆腐と揚げ、ネギで味噌汁を作る。鰹節と鮭のおにぎりと、豆腐の味噌汁だ。
「どうぞ。お握りと味噌汁です。フーヴェリーだっけ、おいで」
俺は片隅に隠れているフリンカの従姉妹、掃除係のフーヴェリーに声を掛ける。
「は、はい・・・」
フーヴェリーは部屋の隅で俺を伺っている。フーヴェリーはフリンカの従姉妹で、極度の人見知りだ。掃除をしてもらっているらしい。
俺、キーアキーラ、ヴェルヘルナーゼ、フリンカにフーヴェリーの五人でお握りと味噌汁をいただく。俺は箸を使って味噌汁をいただくが、皆はスプーンだ。
「うん、大賢者さんの調理と同じくらい美味しいわよ」
「そうだな・・・ユージーが作れないわけがないか」
「まあ、これくらいであれば・・・」
「やっぱり元気がありませんッ!」
「仕方ないのよ、フリンカちゃん。今までは古里を思い出すことは無かったと思うんだけど、不意に思い出さされて、心の準備も無いまま失われたのよ。仕方ないわ。ほら、元気出して。何時までも振られた女の事を考えてたら流石にうちでも怒るわよ」
ヴェルヘルナーゼは俺の両手をとり、ぎゅっと握る。
「まああの状況からすると大賢者のことが忘れられないのじゃないと思うぞ。余りにも酷かったからな。お前は大賢者の仇を取ったんだぞ。あとは一匹だけだ。我々の父を殺して欲しい。心苦しいが、頼む」
キーアキーラも俺の手を握る。
「あ・・・ごめんなさい・・・もう大丈夫です」
「うん。良い顔つきだ。龍騎士公爵はそうじゃなくちゃだめだ」
「じゃあ私もッ! 公爵ってなんですか?」
「ウフフ。フリンカちゃん。ユージーはメリーカーナ殿下を娶ることが決まったの。王位継承第四位龍騎士公ユージー・アーガス公爵なのよ」
「えええッ! す、凄いですッ!」
「王国で命令できるのは王子と王女、私くらいなんだが、二人とも妻だから王子しか命令出来ないんだ。ただ、王子のマクミリヤニもユージーの弟子だから事実上、ユージーの傀儡王朝なんだぞ」
「えええッ! それで妻が三人って少なくないですか?」
「フフフ、まずは自分の心配をした方がいいぞ、フリンカ。リーク宛フリンカの縁談が矢のように舞い込んであるからな。もう三十件は来たぞ。リークの魔法の鞄がフリンカ宛に届いた肖像画で埋まりそうだ。まだ早いと断っているからな」
「ええ? そうなの?」
「そうだぞ。展示会の料理と、新店舗の料理ですっかり有名になっているからな。貴族からの引き抜きも多数だ」
「えええッ! 聞いてませんよッ!」
「へえ。フリンカ、俺はフリンカを縛るつもりも無いし、フリンカは自由に生きて欲しい。結婚して出て行くんであれば後継を・・・」
「出て行きませんよッ! 私はこのお家が大好きなんです! ユージーさんもッ! キーアキーラさんもッ! ヴェルヘルナーゼさんもッ! お願いですから置いてくださいッ! おねがいでじゅがらあああ」
フリンカは本気で泣き始めた。俺はそおっと肩を抱き、頭を撫でてやる。
「好きなだけいるといいよ。よしよし」
「相変わらず子供扱いですッ! あ、行ってきます! そろそろお店を開ける時間です!」
「俺も行くかな」
「そうね。紅茶をいただきに行きましょうよ」
店舗に移動すると、リークとドリエウタ、モノルゲッテがいた。
「お帰りなさい。どうでした?」
「リーク、迷宮を制覇した。制覇者はユージーだ」
「確か、魔銀級の迷宮でしたよね」
「ああ。メリーも娶ったぞ。王位継承第四位魔銀級冒険者龍騎士公ユージー・アーガス公爵だ」
「す、凄いですね・・・」
リークと一緒に、ドリエウタとモノルゲッテも驚いている。
「ま、座ってください。ドーシレイ、紅茶を」
「はい」
リークは店員のドーシレイにお茶を指示する。
「ほら、苦労して芋を採取したでしょう」
「蟻塚の上のやつだな」
「ええ。でも品種改良された芋が大賢者の鞄に入ってました。これですね」
俺は馬鈴薯とメークイーンをテーブルの上に載せる。
「なんですこれ? 食べ物ですか?」
「リークさん、迷宮で得た最大のお宝だってユージーは言っているわ。寒い方が良く育つ作物なんだって」
「そうなんです。王都より北でも大丈夫です。というか、この辺りだと暑すぎて生育が悪いかもしれませんね」
「えええ? これが木に実るんですか?」
「ひとつ問題があってだな・・・土の中に実る作物らしいんだ。芋だよ、芋」
「ひえ! 芋は食べられませんよ!」
リークは驚いて芋を落とす。
「うわ、本当に食べないのですね」
俺が驚いていると、フリンカとドーシレイが紅茶を運んで来た。
「フリンカ、この芋の皮を剥いて、芽を取ってくれ。芽は食べられないんだ。指くらいに細長く切って、オリーブ油で揚げて欲しい。柔らかくなるまで。塩を振って、赤いソースと一緒に盛りつけてくれないか? 二品目は薄くスライスして、カリっとするまで揚げて欲しい。塩を振って持って来て」
「新メニューですね! わかりました!」
「あなた、本当に食べるのね?」
「うん。確かに土の中に実る芋類はやたらと苦かったり、食えない種類が沢山有るから王国では食べない風習になったのかもね。恐らくこの芋は大賢者が改良して芽だけが食べられない部位のはずだよ。この芋は安全になっているんだ」
「はあ、わかりました・・・小さい頃、言いつけを破って芋を掘って食べた事があるんです。苦くて死ぬかと思いましたよ」
紅茶を飲んでいたらフリンカとドーシレイがフライドポテトとポテトチップスを持ってきた。
「出来ました! 美味しいですッ! これ芋ですよね? こんな美味しい芋、初めてですッ!」
「こんな美味しい芋? フリンカ、あの苦い芋を食っていたのか?」
「リーク叔父さん! 仕方が無かったんですッ! 村は貧乏だったですからッ! さ、美味しいですからどうぞ」
テーブルに載せられたフライドポテトを早速食べてみる。旨い。このジャンクっぽい感じが堪らない。ポテトチップスも食べてみる。懐かしい。思わず懐かしさに涙が出てくる。
「うん、うん」
俺は皆に見つめられる中、モリモリと食べる。
「美味しそうね・・・」
「ああ、旨いよ。毒もないしね」
念の為に魔力を流してみるが、毒や病気は見あたらない。
「うちも・・・あら、いいんじゃないかしら。みんな迷信に縛られているから二人でいただきましょ」
「そうだな。迷信も常識も打ち破るのがユージーだった。流石ユージーの最初の妻だな、ヴェルヘルナーゼは・・・ぱりっとしておいしいな」
ヴェルヘルナーゼはフライドポテトを、キーアキーラはポテトチップスを食べ始める。
「お腹にくるわ・・・お腹いっぱいね・・・パンがいらないんじゃないかしら」
俺達が美味しそうに食べるのを見て、リークとドリエウタ、モノルゲッテがようやく手を伸ばす。
「本当だ、苦くないですね。龍騎士芋と名付けて、ユージーさんの人気にあやかって広めますか」
リークもフライドポテトを頬張る。
「芋を毎日食べると飽きるでしょうけどね。春になったら何処かに植えてもらおうかな?」
「ああ、耐寒種の小麦を植えた男爵にでも頼むか。ジョーモール男爵家だったな」
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物語も最終局面です。
もう少し、お付き合いください。




