猪狩り その三
第二十話 猪狩り その三
「終わったようね。二匹を倒すとはやるじゃない。私は三匹、キーアキーラは五匹ね。二匹の右耳を切り取るのよ。討伐証明ね。ギルドから安いけど報奨金が出るから」
俺は短剣を鞘に納めようとしたが、歪んだのか、鞘に入らなくなった。俺は短剣を地面に突き刺し、ゴブリンの俺左耳を、ナイフで切り取る。あまり楽しい作業ではない。
「切れた? ほら、この革袋に入れてギルドに持ち込むのよ」
俺は切った耳を革袋に入れる。
ガサリ、と草むらから音がする。キーアキーラだった。
「ふう、吃驚した」
俺は思わす深呼吸した。
「ヴェルヘルナーゼ、耳だ。三つあげる」
「あら、悪いわね。でもこの森でゴブリンなんか居たかしらね。ユージー君、魔法で探ってみて」
俺は周囲に魔力を放つが、二人以外に反応は無かった。
「周囲にはいないですね。獲物もかかっていないようです」
「錬金術師君は魔物も探知出来るんだな。今回は助かった。ありがとうな。いきなり襲われたら危なかった」
「いえ、たまたまですよ」
俺は歪んだ短剣をなんとか鞘に納める。
「歪んだか。ギルドで売っている数打ちの品か。錬金術師君はもう少し良い剣を入手した方がいいかもな。私は戻って依頼人に猪が獲れたと伝えてくる。護衛も兼ねるから、二人で罠の回収を頼む」
俺とヴェルヘルナーゼは残り二十数カ所の罠を回収して歩いた。
所々で魔法で探知を行ったが、大型の生き物はいないようだった。俺達が猪まで戻ると、既に農家の人が十人くらい来ていて、解体を行っている最中だった。ゴブリンの死骸や猪の内臓は見あたらない。草むらにでも放り込んだか。
「終わったわね。ユージー君は顔が真っ白よ。最初にゴブリンを斬るとクるのよね。人型の魔物を斬るのは気持の良い物じゃ無いからね」
「そうだな。明日は休みにして明後日は調査が入るな。調査は誰かに任せるか。ゴブリンの集落があるかもしれないな。数日後に山狩りかもしれんな。放っておくと民家を襲撃して攫うからな」
「ゴブリンは攫った人を食うんですか?」
「錬金術師君、男は殺されて食われるな。女は苗床だ。孕まされる。子は全てゴブリンと見なすことにしている。小さな洞窟だと、焼き払えば良いのだがゴブリンは捕らえられた女がいるかもしれんから、攻略は難しいんだ」
俺達は農家の人達に別れを告げ、川縁まで歩いた。川縁で血まみれになった鎧を脱ぎ、洗い流した。
「ほら、ユージー君は血まみれよ。川に入って洗い流しなさいな。ゴブリンの血は毒よ」
俺はシャツとズボンを脱いで下着だけなり、血を洗い流す。冷たい。ズボンとシャツも川で洗い、血を洗い流す。
「錬金術師君、君は細いな。女の子みたいだぞ」
キーアキーラは鎧を脱ぎ、血を洗い流す。上半身は血が付いていないが、ズボンにはべったりと付着している。
「わわわ!」
「気にするな。気にしたらパーティを組めん。君の好きな尻だ、ガッツリ見ておけ」
キーアキーラはズボンを脱ぎ、水で洗い流す。キーアキーラは下着だけのお尻を俺に向けてくる。足も長く、綺麗だった。
「下着を脱がしてもらうのは君には早いな。でも我慢できなくなったら言うのだぞ」
「ちょっと! あんたは止めなさいと何度言ったら気が済むの! まあいいわ。二人とも、服を持って並んで」
「火の妖精、ファークーローイ、姿を現して力を貸して」
ヴェルヘルナーゼは右手に燃えた薪を持っている。薪に息を吹きかけると火から鳥が現れた。
「フェ、フェニックス?」
俺は驚いて現れた火の妖精を見る。炎が尾が長い鳥に姿を変えた。鳥は炎で出来ていて、優雅に飛んでいる。
「驚いた? ファークーローイ、悪いけど二人を熱風で乾かしてあげて」
火の妖精は二人に羽ばたくと、熱風が俺とキーアキーラに熱風を届けてくれて、衣服や鎧を乾かしてくれた。熱風は春の水浴びで冷えた体を温めてくれた。
「フェニックスじゃないんだ・・・」
「フェニックス型の妖精よ。ユージー君は猫に猫って名前をつけないでしょ? そういうことよ」
俺は家の猫、「猫ちゃん」を思い出した。少しセンチメンタルな気分になった。
「ほら、ズボンを履いてしまうぞ? いいのか?」
「ちょっと! ズボンを履く! ユージー君も鼻の下を伸ばさないの! あとでみせてあげるから!」
「え?」
俺は驚いて声を上げる。
「嘘よ! もうあんた達は!」
俺とキーアキーラはなんか可笑しくて笑ってしまった。
「まあいいわ。ユージー君の顔色も良くなったし、帰ろうか」
俺達はギルドへ戻り、完了報告を行った。報酬は金貨四枚だった。三人で山分けした。
ゴブリンの耳は一つ当たり大銅貨二枚で引き取ってくれた。ゴブリンの耳を見ると、メーニアは難しい顔をした。
「あんた達、煉獄騎士団は明日、依頼を受けること出来て?」
「いや、交戦でユージーの短剣が駄目になった。ギルドの売り物だな。明日明後日は隣町の鍛冶屋に行こうと思う。曲がった剣じゃ戦えない。煉獄騎士団は恥ずかしいので止めて欲しい」
「わかったわ。別のパーティに調査依頼を出す事になるから、戻って来たら顔を出して。煉獄騎士団に討伐の指揮を依頼する事になると思うから、お願いするわね。煉獄騎士団は正式名称だから致し方ないわ。言っているこちらも恥ずかしいのよ」
「ああ。任してくれ。名前を変えたいんだがいいか?」
「ありがとう、キーアキーラさん。頼りにするわね、金級冒険者をね。ヴェルヘルナーゼさんが凄い顔で睨むから駄目です」
ゴブリン、小鬼とか言われている魔物だ。果たして魔物なのか、という疑問も残る。ゴブリンは人間と子を作る事が出来るようだ。事実として、人間と近親種で有ることは間違い無い。ゴブリンの遺伝子は優性遺伝子なのだろう。子もゴブリンとなるらしい。
ここがおかしい。人間と子供を作ることが出来る以上、その子供はゴブリンと人間の遺伝子を半分づつ受け継ぐはずだ。ゴブリンハーフやゴブリンクォータがいるはずだ。子のゴブリンハーフがゴブリンクォータを産めば、生物学的に人間と同種となる・・・違うな・・・ゴブリンハーフ同士で子をなせれば、だな。
何が言いたいかというと、ゴブリンは人間である可能性が高いと言うことだ。矮小化した人間ではないかと思う。こちらの世界では魔物扱いであるから、斬っても全く問題は無いが、斬って感じる罪悪感は別の話だ。
俺は宿に戻ると気持が悪くなり、目眩で立てなくなった。目を閉じると人を斬ったのだ、と感じてしまった。胃が持たれ、吐き気が襲う。人間を斬ってしまった
目を閉じると、ゴブリンの凶悪な顔が浮かぶ。血の色は人間と同じ赤だった。彼らはどこから来たのだろう?
ドアがノックされ、ヴェルヘルナーゼが入って来た。
「大丈夫? 精神的にきているでしょ? ゴブリンは人に似ているから、初めて斬るとショックが大きいのよね・・・あ」
俺は立ち上がろうとするが、ヴェルヘルナーゼは押しとどめた。
「今日は頑張ったわ。だからごほうびあげる」
ヴェルヘルナーゼは軽く、俺の額にキスをした。俺は年甲斐も無く、動けなくなった。
「さ、休むのよ」
俺は抵抗できず、ベッドに寝かされた。
猪狩り終了です。
次回から新展開です。




