アーガスプラン
第百八十五話 アーガスプラン
「話? いいですよ」
「ウン。うちでいいのかな?」
「お聞きしますわ。キーアキーラ様」
「じゃあ言うぞ・・・アーガスプランを発動する。明日は第一歩だ」
「アーガスプラン? なんですそれ?」
「何言っているんだ? お前、ダガに言ったんじゃないのか? ダガから手紙が来たぞ。公侯爵家を解体して大きな王家を作り、政治はルーガルみたいに寄り合いで処理したいってな。お前が言って聞かせたんだろう」
「あ・・・グールン子爵にさらっと言った気がしますね・・・」
「ポイントは幾つかあるが、最大の目的は強大な軍事力を持つ王家を作り、軍閥を解体することだ。当主がアンデットの公侯爵家は取り潰しだろうな。残った公爵家で第二王家、第三王家を作る。同じく残った侯爵家から公爵家を昇格させる。当主は追々考えるか。王はマクミリヤニ、私が摂政か何か大臣にでもなるのだろうか? メリーでいいか。姉弟で王家を運営する形になるか。何処かでユージーの血を入れないと駄目だろうな」
「でしょうね。キーアキーラ様」
「え? どうして?」
「そりゃああなたが大暴れする予定だからじゃないの?」
「しないよ?」
「はっはっは。魔道学園じゃ大暴れだったじゃないか。勲功からして、ユージーは子爵や伯爵を貰ってもいいぐらいだぞ。私が降嫁しても誰も文句は言えないだろ」
「問題ないと思いますわ。グールン子爵はユー君に何かの役職に就いて欲しいようでしたわ。大臣職を用意したいけど無理だろうって」
「だろ? デルフォー。ユージーの血が入ってようやく安定した王家になると思うな・・・ヴェルヘルナーゼの子を貰うか。長生きの王妃だがいいだろ」
「まあ今後十年の活動として聞いておきます・・・気が重いな・・・」
「フフフ、ユー君も駄目ね。もう王宮じゃ王家の人間がユー君に首ったけだってわかっているわよ。隠す必要は無いのよ。大祠祭儀とアンデット伯爵の件は大きな意味を持ったわよ」
何故かデルフォーが詳細に説明してくれる。
「うちは女の子ね・・・夜はお肉を少なめにしてお野菜を多めに摂ろうっと」
「フフフ・・・王都聖堂枢機卿会を潰したいんだが、どうすれば良い? ユージー」
「こそこそしている連中は光を当てれば消滅します。全員の前で、アンデット臭い人間と握手させてもらえば瞬時に・・・面倒だな・・・ルーアナーゼルーシュの鱗にアンデットを滅する魔法を仕掛けておきますよ。物理的に光を当ててやる」
「それはいいな。王宮は臭いから、浄化してくれ。フフフ」
「具体的にうち等は何をすればいいの?」
「ああ、スマンスマン。悪巧みはダカがドーレリィールを呼ぶといっていたから、二人でやるんじゃないか? ドーレリィールって辺境伯な。お前が呼べと言ったらしいな。成る程と思ったぞ。ドーレリィールはたいした男だから、適任だな。お前達二人は普通にしていればいいぞ。お前らの普通は普通じゃないからな」
「普通でないって・・・まあいいや・・・殿下が学園で一番の男と褒めていた人は辺境伯の息子さんじゃなかったっけ。好人物だったですよ」
「そうよ。頼りになるのは南部の男っていっていたわね。ちょっと嬉しかったわ」
「ほう・・・」
「魔道学園の戦いの時、生徒で動けたのは辺境伯の息子さんと俺の同室の二人、俺を良く知っていた冒険者の子二人と商家の子だけでしたね。五人には殿下自ら短剣を下賜されてましたよ」
「ほうほう。で、お前は何を貰ったんだ?」
「え? 何も。治療のアミュレットを二百個作って無償で提供です。どちらかと言うと損してますよ」
「いや違うわよ? ユー君は大変な物を手に入れたわよ。地上にでればわかるわよ。地上も良い感じよ」
「そうか、じゃあ出てみるか。お前達は地上を見たのか?」
「見てないわね。どうなっているの?」
「ヴェルちゃん、森になっているわ。綺麗な泉が湧く素敵な森よ。もしかしたら迷宮の一部かもね」
俺達が地上に出ると、巨木が立ち並ぶ森の中にいた。
「うわー。森だ!」
「ぎゃ!」
ヴェルヘルナーゼが喜ぶと、ルーアナーゼルーシュも喜んだ。ルーアナーゼルーシュは奥の方へ歩き出した。
「おや? おーい! ミハエール!」
俺は二日間同室だったミハエールの姿を見つけた。南部の騎士の息子だ。女の子を連れている。
「あなた、二人でいるのよ。駄目じゃないの」
「う・・・」
ミハエールは俺達に気が付いたようで、女の子の手を持って俺達に近づいて来た。女の子の顔は強ばり、手は震えていた。
「ほら、ユージー殿です。大丈夫です。ユージー殿は恐ろしいお方ではありませんよ」
ミハエールは女の子の背中を押し、俺の前に立たせた。女の子は上等な服を着ている。上級貴族の娘であろう。騎士家に過ぎないミハエールと釣り合わない気がする。
女の子が口を開かないので、ミハエールが口を開いた。
「キューフリール・デーガさんです」
「デーガ・・・もしかしてデーガ大祠祭儀の・・・」
「はい・・・父が・・・アーガス様に大変な失礼を・・・過分な物までいただいて・・・」
キューフリールの顔はこわばり、がくがくと震え始める。
「お茶でも飲みながら話しましょう」
俺は人数分のテーブルと椅子を出し、紅茶を淹れた。俺とミハエール、キューフリールのテーブルと、ヴェルヘルナーゼ達のテーブルは離して設置する。
キューフリールはなかなか口を付けないので、俺は無理に飲ませる。
「まずは一口飲んでください。俺と話をする時はクッキーを食べないと駄目なのです。おい、ミハエール、お前から飲めよ。遠慮しているだろ」
「ユージー殿、これは・・・」
「良い香りだろ。殿下のお気に入りだぜ。モグモグ」
俺はクッキーを食いながら話す。ミハエールもわかったのか、クッキーを手に取り、食いながら話してくる。
「噂になっていたお茶ですね・・・モグモグ。この菓子も甘いですね。モグモグ」
「あいつはどうだ? 相変わらず笑い方が少し気持ち悪いだろ・・・モグモグ」
「ダウフェム殿? モテモテですな。魔力は豊富で、殿下から短剣を下賜されているから将来有望と思われていますね・・・モグモグ」
「嘘だろ? ミハエールだって貰ったじゃないか・・・モグモグ」
「やはり騎士爵は駄目ですね・・・モグモグ」
「俺だって騎士爵だぜ。領土無しの法衣だぜ・・・モグモグ」
俺達がだらしなく食べているのを見て、キューフリールはくすりと笑い、紅茶を口に運んだ。
「おいしい・・・」
「王都は息苦しくないかい? 居づらくないかい?」
「・・・はい。父の事が・・・」
「大祠祭儀様はお亡くなりになられたのは俺の責任でもあります。学園の責任を取れと言ったのです」
「いえ・・・あの、父は何をしていたのでしょうか。出来れば教えていただきたいのですが」
「・・・わかりました。お話しましょう。この国は聖なる王を戴くロスメンディア王国という名称です。聖なる王というのは王が秘技により体に大いなるお方と呼ばれている王国の神、ロスメンディフェルトを体に宿すのです。ロスメンディフェルトは疫病の神ではないかと想像しているのですが、疫病を宿すと人は死んでしまいますので、恐らくアンデットにされていると考えます。王に秘技を授けるのが王都聖堂枢機卿会という、公侯爵の集まりです。王を選ぶ機関です。実質的に王国は王都聖堂枢機卿会の集団統治体制なんです。王都聖堂枢機卿会は聖堂の大神儀という役職の認可を得る必要があるらしいんです。大神儀の諮問機関として祠祭儀と呼ばれる人がいます。祠祭儀の長が大祠祭儀、キューフリールさんのお父さんです」
「え・・・?」
「王族にも知られていない、二百年間秘密にされた最高指導者が大祠祭儀です。実質的な王は大祠祭儀なんです」
「嘘・・・」
「王宮を預かる伯爵がアンデッドだったんです。もしかしたら、王都聖堂枢機卿会のメンバーもアンデットかもしれません。大祠祭儀さまは秘密を飲み込んだまま、亡くなられました。歪な体制が露呈した責任を取ったんです」
「・・・父が・・・」
「今思うと、もう少しお話を聞ければ良かったなと思います。大祠祭儀様は、ある意味王国の生贄というか、王国の歪みを一身に受けておられたのです」
「父は、何をしたのでしょう・・・」
「何もしなかったのです」
「え? 何も?」
「ええ。最高指導者の責任を果たさなかったんです。大祠祭儀という役職は基本、神職です。この世の最高であり、全てである大いなるお方の前に神々の大戦で大敗北を喫した記憶を消し去り、相手を甘く見てしまったのです。史上最強の龍に対し、宮廷魔術師という銀級冒険者クラスと学園の生徒で対処しようとしたのです。ロスメンディフェルトが絶対で祈れば敵は死んでいくみたいな思想に取り憑かれ、目測を誤ったんです。結果が、今の学園の生徒達です。今の生徒達は、貴族活動は出来ないでしょう。大量の貴族のご子息を病気にさせてしまったのです。何もしなかったために」
「・・・お話はわかりました・・・大変お手数をおかけしました・・・」
「で、ミハエールはキューフリールさんと結婚したいのか?」
「ブッ!」
「汚いなミハエール・・・」
「いえいえいえ、あの今の話をお聞きしたらとても私など私など」
「・・・」
「お前南部の男だろ、いいじゃないか」
「ユージー殿、しかし、事情が事情であるし・・・私の手に余るというか、騎士爵家にはとても・・・」
「ミハエール、南部の男らしく無いぞ。はっきり言え」
「ぐ・・・この短剣に掛けて誓う。私はキューフリール様と結婚したい」
「駄目です、ミハエールさま! 私など!」
「話は聞いたわ。ふたりとも、南部でのユージーの人気を見間違えているわ。ね、あなた、この方って、ここでの戦いの時に剣を抜いてくれた人でしょう?」
「そうだよ。俺の同室の一人だ」
「なら他人事じゃないわね。うちはヴェルヘルナーゼ。よろしくね」
ヴェルヘルナーゼがこちらの席に来た。
「ヴェルヘルナーゼ様・・・あのご高名な・・・」
「後にいるのがキーアキーラよ。殿下の姉ね。もう一人がギルドマスターのデルフォーさん」
「ユージー、ハールレの部下にいいんじゃないか? お前の要求はハールレにはちょっと厳しいな。ハールレより高位の貴族出身だから喜ばれるぞ。ユージー、何か身につける物を渡しておけ。ここにいてもしかたないだろうし、家は大変だろう。行くか」
キーアキーラが紅茶を飲みながら口を挟んできた。
「あら、いいわね」
「で、でもご迷惑だし、アーガス様の名前に傷が・・・」
俺は飾り気の無い銀の指輪を取り出すと、心が安まる祈りを込める。セロトニンを放出して交感神経と副交感神経のバランスを取るアミュレットだ。
「ほら、俺からのお祝いだ。前に渡した鱗のアミュレットより強力なアミュレットだよ。貸しだな。これを付けていればいいと思うよ。これでどうかな? ヴェルヘルナーゼ」
「うん。いいんじゃない? ほら、うちもよ」
「私もだ」
「あ・・・皆さん・・・」
「フフフ・・・ここでの戦いで剣を抜いてくれた人の思い人ですもの。協力させてもらうわ。で、ルーガルでのユージーの人気を舐めてもらっちゃこまるわね・・・っていうか、舐めすぎよ。ウフフ」
「あの、ありがとうございます・・・家にも帰りづらいですし、お世話になります。で、何をすれば・・・」
「今飲んでいる紅茶畑の管理よ。王女殿下にお出ししている紅茶ね」
「え、女の子の間で話題になっていて、お茶に呼ばれるのが夢なんです・・・そのような大役を・・・」
「レングラン男爵の妹であるハールレ様が責任者なんだけど、紅茶の味を見るのを手伝って欲しいんだ。レングラン男爵家は貧乏だから贅沢が不足しているんだよね。味のアドバイスをお願いしたいんだ。いわばマスターテイスターだ。これから沢山の種類の紅茶を作る予定なんだ。ハールレ様では、出荷すべきか否か、判断に迷うと思うんだ。そこをアドバイスしてあげて欲しい。これは貴族でないと出来ないんだ。男爵家は貴族と言い辛くてね・・・」
「まあね・・・じゃあ行きましょう。すぐよ。ルーア! おいで! ルーガルに行くよ!」
「ぎゃ!」
森の向こうからルーアナーゼルーシュが飛んできた。
「ひ!」
「龍!」
二人とも驚くが、無視する。
「ね、あの二人をルーガルに連れて行きたいんだけど、どうしたらいい?」
「ぎゃぎゃぎゃ」
ルーアナーゼルーシュはキューフリールの持つ指輪に気が付いた。
「ぎゃぎゃ」
「あら? この指輪があればいいの?」
「そうか、じゃあミハエールにも」
俺はルーガルで買った気持ちの悪い踊る像のネックレスに祈りを込める。耐病と耐毒だ。この際だから処分する。
「ほら、耐病のアミュレットだ。お祝いだ」
「あ、ありがとう・・・?」
「ちょっと、その気持ちの悪いネックレス、まだ持っていたの? 違うのにしなさいよ」
「いえ、十分です。有り難くいただきます」
「無理しちゃ駄目よ? さっき言葉に詰まっていたじゃない」
「さ、行くぞ。元気になるまでルーガルに居るといいさ。じゃデルフォー、明日の昼にでも行くか」
「わかったわ。ギルド経由で殿下に連絡しておくわ」




