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冒険者物語  作者: 蘭プロジェクト
第10章 王都と第二王子
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キーアキーラ

第百八十二話 キーアキーラ


 「うわあ! 大きいね!」


 俺とヴェルヘルナーゼは神域、迷宮「神域」の三階層にある森に来ている。森の泉側に巨大な楢の木がある。幹の太さは大人二十人が手を繋ぐと囲めるだろう。


 「二柱目の始まりの木ね・・・」


 ヴェルヘルナーゼは幹の回りを歩き始める。


 「わあ、凄い虚よ。洞穴みたいね。ルーアナーゼルーシュも入れるわよ」


 「そうかな? おーい、ルーアナーゼルーシュ!」


 俺が叫ぶと、ルーアナーゼルーシュが飛んできた。ミスリルの龍の飛翔する姿は危なっかしく、見ている方がはらはらした。


 右手には大龍筒を持っており、左手には肉の塊を持っている。


 「あら? どうしたのお肉を持って?」


 「ぎゃっ」


 「え? 狩りが出来なかったから分けてもらったの? あらあら」


 「デークラルさん達か・・・あとでお礼を言っておこう・・・」


 「ぎゃっ」


 「いい人だって。ウフフフ。可愛いわね」


 ヴェルヘルナーゼが優しく鼻を撫でる。ルーアナーゼルーシュは肉を食べ始める。体の大きさは馬二頭分だろうか。魔物としては十分に大きいのだが、龍としては小さいだろう。


 「ぎゃ?」


 食べ終わったルーアナーゼルーシュが虚に気が付き、中に入っていく。相当大きくなっても入れそうである。


 「ぎゃ・・・ぎゃっ!」


 「気合い入っているな・・・体が全部入ったぞ。そんなに奥行きは無いはずだよ。おかしいな」


 「そうね。入りましょうか」


 虚の中は木を削りだした通路になっている。


 「通路だ・・・もしかして・・・」


 「昔、始まりの木はいくつもあって、互いに行き来できたって聞くわ。当然、レングラン男爵のお屋敷に通じているんじゃない? あ! ルーアが行くとみんな吃驚するじゃない!」




 

 「どうじゃ? 具合は? ご神木の側だと顔色が良いぞ」


 「ああ、ハハム爺。邪魔をしてすまないな・・・」


 「キーアキーラさん、紅茶とビスケットです。少しお食べになって」


 キーアキーラはレングラン男爵家のお茶畑の始まりの木の木陰で椅子に座り、ハールレが淹れた紅茶を口に運んだ。


 「ウッ!」


 キーアキーラは頭を抱え込む。頭痛がし始める。頭が壊れるかのように痛かった。ユージーとヴェルヘルナーゼが王都に旅立ってから、キーアキーラは頭痛に悩まされている。頭痛の正体はわかっている。頭に住む何者かがキーアキーラの体を支配しようとしているのだった。


 日に日に支配が強まっていく。キーアキーラは瞑想を深く行い、支配させまいと念じるのだが上手くはいっていなかった。


 「ユージーの魔力?」


 懐かしい魔力が流れてきた。もう会えないと思っていたユージーの魔力だった。半年後に帰って来ると思っていたが、どうやら持ちそうになかった。完全に支配を奪われる前に自らを決するつもりだった。


 「居るわけ無いか・・・今、王都はユージーを必要としている・・・王都に溢れた魔物を退治したらしいしな・・・デルフォーとうまくやっているかな・・・あいつは男好きだから、ヴェルヘルナーゼが困るだろうな」


 「ぎゃ?」


 始まりの木から何かが顔を出した。


 「ぎゃああ! り、龍じゃあ!」


 「きゃあ! あわわわわ」


 ハハム爺とハールレは驚きの余り腰を抜かし、地面に尻餅をついた。龍は幼生だった。しかし、鱗は白銀に輝き、美しかった。いや、それ以上に懐かしい魔力で満たされているとキーアキーラは感じた。


 「ぎゃ?」


 左右を見まわしていた白銀の龍は、キーアキーラに気が付いた。白銀の龍はキーアキーラに近づくと、匂いを嗅ぎ始める。


 「ぎゃっ」


 キーアキーラには不思議と、言っていることがわかった。


 「父の匂いがするって?」


 「ぎゃっ、ぎゃっ」


 白銀の龍はキーアキーラに頭を擦り付けてきた。


 「父の大事な人だろうって? フフフ。本当にユージーの魔力だな。お前は何者だ? ああそうか、龍だからルーシュ神族だな? ヴェルヘルナーゼが産んだのか? そなたの父と母は愛し合っているが、ちと早すぎる気がするな」


 「ぎゃ」


 「違うのか? まあいい。しばらく側に居て欲しい。ユージーの魔力が心地よいな」


 「ぎゃああ!」


 「どうした、大声を出して・・・」



 


 「ルーアが大声を出したわ。何かあったのかしらね」


 「急ごう。結構長いな、虚の道」


 俺とヴェルヘルナーゼが虚の道を出ると、想像通りレングラン男爵家の庭に出た。目の前には茶畑が広がっている。


 「やはりルーガルに出たね・・・ルーアナーゼルーシュは? いたいた」


 「ぎゃあ!」


 「早く来いって」


 「うんうん」


 「どうしたんだ、お前達・・・ユージーにヴェルヘルナーゼじゃないか・・・」


 俺は絶句した。ルーアナーゼルーシュに護られるように座っているキーアキーラを見て驚いた。顔色が蒼白である。俺を見るなり、キーアキーラがぼろぼろと泣き始める。


 「ぎゃぎゃ!」


 ルーアナーゼルーシュが焦り始める。


 「キーアキーラ・・・頭の中のあれよね・・・あなた、行ってあげて」


 俺はヴェルヘルナーゼに背中を押され、キーアキーラの目の前に立つ。


 「ユージー、どうしてここに・・・」


 キーアキーラがよろめきながら立ち上がる。俺は思わずキーアキーラを抱き留めた。


 「逢いたかった・・・私はもう持たないんだ。最後に逢いたかった・・・」


 キーアキーラは俺の胸に顔を埋め、泣き始める。俺は黒く、美しい髪を優しく撫でる。


 「ぎゃ」


 「あなた、神域へ連れて来いって」


 「ぎゃ」


 「ルーシュしか通れないけどキーアキーラはあなたの魔力で満たされているから大丈夫だって」


 「ぎゃ」


 「そうか・・・キーアキーラさん、来て欲しい所があるんです」


 「わかった。連れて行ってくれ。だが歩けないんだ・・・」


 俺は両手でキーアキーラを抱き上げる。


 「おい・・・恥ずかしいじゃないか・・・」


 「ハハム爺さん、キーアキーラさんを連れて行きます。しばらく帰ってきませんので」


 「う、うむ」


 ハハム爺が現状を理解しない感じであったが、俺はキーアキーラを抱いたまま虚に入って行く。


 「ウフフ。キーアキーラ、ようこそ神域へ。王都の魔道学園の前庭の迷宮三階層よ。ここは私達ルーシュの神域なの。少しは良くなると思うわよ」


 「お前達、迷宮まで手に入れたのか」


 「そうよ。話せば長くなるわ。この虚の道を抜けるとね、王都に着くのよ。吃驚したわ。でも伝承どおりね。私達ルーシュは、自由に虚の道を行き来できるわ。キーアキーラ、あなたもルーシュね。ウフフ」


 キーアキーラは目を閉じ、俺に寄りかかってきた。ヴェルヘルナーゼと違う、芳香が俺を刺激する。俺は無性にキーアキーラが欲しくなった。必死で堪える。


 「フフフ・・・お前の魔力が濃くなったぞ。心地よいな・・・」


 「え?」


 俺は変な声を出してしまう。


 「フフフ」


 キーアキーラは答えてくれない。虚の道を抜けると、静かな森が広がる神域に着いた。始まりの木にキーアキーラを降ろす。


 キーアキーラは目を閉じ、もたれかかった。


 「空気が濃い。そして、綺麗な魔力で満たされているな・・・体が軽くなる・・・立てそうだ・・・」


 キーアキーラはよろよろと立ち上がると、大きく息を吸った。血色も良くなっている。俺は大型の魔道馬車を出し、テーブルと椅子もセットする。


 「ん? 泉があるな。湯が湧いているのか?」


 「そうです。温泉といって、体に良いんですよ。特に肌がすべすべになりますね」


 「湯屋か・・・フフフ、王宮で暮らしていたときは毎日入ったんだ・・・ああ、湯にも綺麗な魔力が籠もっているな。入っても良いか?」


 「無論よ」


 「じゃあ、ユージー、湯に入りたいから脱がしてくれないか?」


 俺は、衝動を押さえきれなくなりつつある。神域に来た事でキーアキーラは血色が良くなり、益々芳香が鼻孔をくすぐった。


 俺は震える手で、キーアキーラの服を脱がしていった。上着を脱がし、ピッタリとした革のズボンを脱がす。


 「さ、下着も脱がしてくれ」


 俺は震える手でキーアキーラを全裸にする。美しい肢体だった。豊満なヴェルヘルナーゼとも違う、締まった体だ。胸はBカップくらいだが、とても綺麗だった。


 「そんなに見るな・・・胸が小さいんだ。恥ずかしいだろ・・・お腹に傷があるだろ。醜くてごめんな」


 言われて、お腹に傷があるのに気が付いた。俺はそんなに気にならなかった。


 「お前も脱げ。一緒に入るぞ」


 「二人で脱がそうよ」


 俺はキーアキーラとヴェルヘルナーゼ二人に全裸にされる。


 「ね、すごいでしょ」


 「す、すごいな。私で興奮してくれたのか・・・」


 俺は既に、どうにもならない地点まで来ていた。キーアキーラを抱きたくて仕方が無かった。ギリギリ踏みとどまる。


 「フフフ・・・とうとうお前に脱がされたな。私はもうお前の女だぞ」


 「・・・」


 「さ、体が冷えるからお湯に入ろうよ。あなた、二人目の妻を湯に入れて上げて」


 「妻・・・」


 「当たり前だろう。私は古い人間なんだ。肌を見せるのは夫だけだ。よろしく頼む、旦那様」


 俺はキーアキーラの手を取り、湯に浸かる。


 「ウフフ。ルーア、ちょっと二階層へ行っていてくれないかしら」


 「ぎゃ」


 ルーアナーゼルーシュは頷くと始まりの木の虚へ入って行った。


 「あ・・・ルーガルに行ったわよ。まあいいか」


 ヴェルヘルナーゼも湯に入ってくる。二人は俺に体を密着させてくる。


 「なあ、子宮を治してくれないか・・・これからお前を迎え入れるんだからな」


 「俺は・・・」


 「ウフフ。まだ気に病んでいるのね」


 「仕方ないな。墓場まで持っていくつもりだったのだが、最後の秘密を教えてやる。私とヴェルヘルナーゼはな、男を愛せるようになろうって言ってパーティーを解散したんだ。お前もリーク達の話をしていただろ。人を殺した時に男は女を抱くって。女も男に抱かれるんだ。でも私もヴェルヘルナーゼも男が苦手でな・・・私は子をなさない都合の良い女であったはずなんだが、この通りお腹の傷がコンプレックスでな・・・ヴェルヘルナーゼは魔道学園の時にヴェルヘルナーゼの取り合いで酷くてな・・・でだな、パーティーを解散してちょっとしたらヴェルヘルナーゼはお前を捕まえていたから吃驚したぞ。まあ私もお前にイチコロだったがな・・・好きになる男も一緒だ。変わっていると思うが、受け入れて欲しい。私とヴェルヘルナーゼは二人で一人なんだ」


 俺は心を決めた。


 「では、まずはお腹の傷から」


 俺はキーアキーラを抱き寄せ、唇を奪う。キーアキーラは俺を受け入れ、舌を絡めあう。俺は右手をキーアキーラのお腹にあて、傷を癒やしていく。子宮は動いていなかった。魔力を流し、子宮を癒やしていく。


 「・・・お腹が熱い・・・今から私はユージーに・・・」


 「そうよ。思いっきり抱かれて。見ててあげる」


 「痛いのか?」


 「そうね・・・でも幸せだったよ」


 「そうだな」


 「うん」


 キーアキーラはお尻を俺に向けた。美しく、卑猥なお尻だった。


 「キーアキーラさん。いきますよ」


 「ああ・・・」


 俺はキーアキーラを抱いた。キーアキーラは破瓜の痛みを堪え、ヴェルヘルナーゼに抱かれながら歯を食いしばる。俺は果てると、ヴェルヘルナーゼも抱いた。果てると、キーアキーラが俺に抱きついてきた。


 俺達は三人で抱き合い、湯に浸かった。不思議な感覚だった。一夫一婦制の国で暮らした俺には、なかなか理解出来ない感覚だ。


 「まだ腑に落ちていないみたいだな。後はだな、メリーもユージー以外には抱かれないだろうな。ユージーが娶るか、独身だな」


 「そう思うわ。もうユージーを好きなことを隠そうともしないのよ。何処に言ってもお慕いするお兄様って言っているのよ」


 「フフフ。王家を二人も妾にするとは流石ユージーだな・・・やっぱり体が軽くなったな。私はユージーの側にいないと死んでしまうのか」


 「ウフフ・・・風の神って何って感じよね」


 「私も不思議に思っていたぞ。ユージーは風使いだと思っていたけど違うしな」


 「精を受けて初めて理解したわ。言いにくかったんだろうって。ウフフ」


 「え? 俺は風の神じゃないの?」


 「ああ、違うぞ。良く言うと神産みの神じゃないか? お前の精はな、純粋な魔力の塊だった・・・で、まだ子供は要らなくて私を抱きたいと思っているのも筒抜けだったな。こりゃ暫くは子を産めないな。このスケベめ」


 「ウフフフ。でも私一筋で嬉しいのよ。精を放つときにしか神の力を解放しないとしてもね。あ、ユージーの精を受ければ受けるほど魔力は強くなるからね」


 「あの、まさか数年はこのままでいたいって思ったのは・・・」


 「ああ、筒抜けだぞ。まあいい。落ち着いたら孕ませてくれよ。でも龍は産めないからな。産卵も嫌だぞ」


 「ぷ」


 「まさかヴェルヘルナーゼが龍を産むとは思わなかったぞ。産む時は角とか鱗が痛いだろう? どうやって産んだんだ? まさか卵なのか?」


 「ちょっと! 龍なんて産めるわけ無いじゃないの! ルーアナーゼルーシュはね、ゲルア様と、ルーディールーシュ以外の全てのルーシュの魂の生まれ変わりなの」


 俺は魔道学園の戦いから、ルーアナーゼルーシュ誕生までをキーアキーラに話す。


 「ええとだな、話が盛りだくさんだったんだが、魔道学園には火の神が封じられていて、亡くなった時の魔力が放出されて迷宮になり、即スタンピート、ユージーがサイクロプス級を四十三体撃破。魔道学園の生徒は精神をやられ、貴族活動が無理な子も発生・・・責任を取って大祠祭儀なる役職の男が自害、この国は大祠祭儀なる人物の独裁だった・・・神殿から報復を受けて後三人残り、宮殿を預かる伯爵のサールソーグはなんとアンデットで人間じゃなくて、操っていた死霊術師もアンデットだった。死霊術士が火の神の魂を呼び出し、ここを迷宮に変えた所に乗り込んで説得し、生まれ変わってもらったと・・・なるほど・・・凄いなお前達。二百年続いた王都聖堂枢機卿会の支配も崩れてきたのか」


 「そうよ。スタンピートの時にうちとユージーは白金級になったのよ」


 「ほう・・・流石だな・・・で、どうしてサールソーグに襲われたんだ?」


 「メリーカーナ殿下の後をついてきたマクミリヤニ殿下を治療して魔術を教えたんだけど、気にくわなかったみたいなのよ。ゴミとか言われたわ」


 「なに! マクミリヤニを治療って、アレは王家の呪いで・・・」


 「違いますよ。肺と心臓の病気でしたね。魔力が豊富でしたのでヴェルヘルナーゼと同じ、矢を飛ばす魔法を教えましたよ。魔法障壁はもう破ったみたいですね。距離も五百は飛ぶと教えましたよ。索敵も魔法も相当な範囲を飛ばせるはずです」


 「ま、魔法まで教えてくれたのか・・・」


 キーアキーラはぼろぼろと大粒の涙を流し始める。


 「お二人には聖なる儀式に対抗出来るよう、ロビーリーサさんに作ってもらったアミュレットも渡して有ります。耐病と耐毒は無論、外部からの魔力的な侵入を防ぐ強力なアミュレットです。申し訳無いですが、二度と聖なる王は誕生させませんよ」


 「ありがとう、ありがとう・・・お礼は何も出来ない・・・ありがとうとしか・・・」


 「確かに、さっきまでだったらお礼を貰わないと駄目でしたね。でも、キーアキーラさんは俺の妻だし」


 「そうだな。そうだな」


 「ちょっと、泣き止みなよ」


 「嬉しくて仕方ないんだ。お前を好きになって良かった、ユージー。ありがとう」


 俺はそうっとキーアキーラを抱き寄せた。


「キーアキーラさん、大好きです。もちろん、ヴェルヘルナーゼも」


ヴェルヘルナーゼも潜りこんでくる。俺は二人の温もりを楽しんだ。


 「フフフ・・・まだうちら二人を娶るのに抵抗がありそうね。でも慣れてもらうわ。でないと体が持たないもの」


 「え? 何?」


 「夜が激しいのよ。キーアキーラと二人でちょうどいいわ。キーアキーラも覚悟してね。ユージーの愛撫は凄いから。意識が何回も飛んでいくのよ。王国一のテクニシャンね。回数も凄いわ」


 「・・・お手柔らかにな・・・」


 「まだ足りないでしょう?」


 「うん・・・したりない・・・」


 「じゃ、馬車に入りましょう」


 「神の妻も大変なのか・・・」


 「大変じゃないわ。うれしいもの」


 「そうだな」


 「俺ってやっぱり・・・」


 「そうよ。神で間違い無いわ。正しくいうと性交の神ね・・・」


 「そ、そうか・・・」


 「でもあなたは神の力を一切使わずにここまで来たのよ。それは誇って」


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