神域 その三
本話が抜けておりました。
追加いたします。
第百八十一話 神域 その三
俺とヴェルヘルナーゼはミスリルの龍、ルーアナーゼルーシュを連れて迷宮、いやもはや神域と言っても良い場所は二階層にあって、一階層は元々の大きな回廊だった。
「ここは今まで通りよね・・・あ、デルフォーさん!」
ヴェルヘルナーゼが冒険者ギルドのマスター、デルフォーを見つけると大きく手を振った。後には王都の剣の五人が控えていた。
「・・・」
デルフォーは何かを言いたそうだったが、言い出せないでいる。目はルーアナーゼルーシュを凝視している。
「デルフォーさん紹介しますね。チュシディーグローシュ様のお生まれ代わり、ミスリルドラゴンの幼生、ルーアナーゼルーシュです。俺の騎龍です」
「り、龍・・・」
「単なる龍じゃないですよ。れっきとしたルーシュです。この世に現存する数少ない神の一柱ですね」
「神ぃ?」
「ほら、ルーアナーゼルーシュ。デルフォーさんだ。お世話になっているからご挨拶するんだよ」
ルーアナーゼルーシュは俺を見た後、デルフォーの匂いを嗅ぎ始める。
「ひ!」
ルーアナーゼルーシュは首を捻りながらデルフォーを見ている。
「挨拶は?」
「ぎゃああああ!」
「きゃああ!」
「こら、吃驚したじゃないか。大きな声をださない!」
「ぎゃ」
「よし」
「慣れているのね」
「可愛いでしょう?」
俺は鼻の辺りを撫でてやる。
「ぎゃ」
「ユー君、迷宮はどうなったの? 迷宮じゃないわよね。私が来たら凄い光が漏れて、学園の前庭が森になったのよ。吃驚したわ。残っている生徒達も驚いて集まって来たわよ」
「ああ、迷宮ですね。迷宮は止めて貰いました。ルーアナーゼルーシュの神域にしてもらいましたよ。二階層が神域です。森になってます。我々ルーシュの古里の森をイメージしてます。ああそうか、一応迷宮なのかもね」
「わかったわ・・・じゃあ二階層に行きましょ」
俺達は二階層に潜る。二階層は清らかな泉が溢れる森だ。二階層の端は崖になっており、洞穴が開いている。洞穴を通じて階層を行き来するのだ。
「清らかな場所ね・・・」
「なあルーアナーゼルーシュ、ここを三階層にして、二階層を新たに作れないか? 二階層は広い草原で、中くらいの大牙猪が草を食べている感じで。大牙猪は魔物じゃないから、冒険者に狩ってもらって安全な肉を王都に供給したいんだよ」
「ぎゃ」
「いいって言ってるわね」
「ぎゃぎゃ」
「でも精々数頭が限度だって」
「ぎゃああああ!」
ルーアナーゼルーシュが吠えると、地鳴りがした。俺達が居る場所に崖が生じ、洞穴が通じている。
「・・・呆れたわ・・・私達は今、迷宮の創造を見ているのね・・・マスターはユー君か・・・迷宮「神域」ね。二階層のみ攻略可、でいいのかしら?」
「ええ。良いですよ。行ってみましょうか」
二階層に行くと、土壁に穴が二つ開いている。
「ちょっと近いな。三階層に行く穴は少し遠く出来る? で、この辺りに泉と温泉を」
「ぎゃ?」
「温泉って何って言っているわよ」
「ヴェルヘルナーゼは言っていることがわかるのかい?」
「うん。なんとなくね」
「地の底で暖められたお湯だね。人間が入れる温度で頼むよ。硫黄とか、体によい成分が混じるんだよ。冒険者に入らせれば寿命が延びると思うんだ。毎日入って欲しい感じだね」
「ぎゃああああ!」
草原に二つの泉が湧いた。一つはこんこんと湧き出る泉で、片方は硫黄の匂いがする温泉だ。
「大きめの湯船を作って欲しい。地面をくり抜いて石で覆う。石は磨いた石だね。お湯を導き入れる。三階層にも頼むよ」
「ぎゃああああ!」
露天風呂が出来た。俺のイメージそのまま、床が大理石で、周囲は岩である。
「なあドラゴンの旦那、狩ってもいいか? ここは小高くなってて、下がった草原に大牙猪がいるな。あれは旨いし、魔物じゃない。上等の肉だ。ここを肉の出荷場にするのか?」
「デークラルさん、良くわかりましたね。王都から魔物食を一掃したいんですよ。魔物を食って良い訳ありませんからね」
「わかった。狩っても問題ないな。じゃあ行くか!」
王都の剣の五人は丘の下の草原に向かって行った。
「ぎゃ」
「え? ルーアナーゼルーシュも行くの? ああそっか。食べるのね」
「ぎゃ」
ルーアナーゼルーシュも飛び立って行った。
「負けないからな!」
「ぎゃ!」
王都の剣はルーアナーゼルーシュに勇ましい声を掛けている。ルーアナーゼルーシュは楽しそうに答えている。
「お湯が溜まってきたわね・・・顔を洗うのかしら?」
デルフォーが手でお湯を掬い、匂いを嗅いでいる。
「お風呂ですよ。入るとさっぱりしますよ。真ん中に仕切りを入れて、男湯と女湯を分けましょうか。小屋を建てて湯屋にした方がいいでしょうね」
「へえ。わかったわ」
デルフォーは鎧を外し、服を脱いで全裸になる。均整の取れた見事な裸体が露わになる。美しい裸体に見とれてしまうと、ヴェルヘルナーゼに蹴られてしまう。
「ちょっと、デルフォーさん!」
「あ、ヴェルちゃんゴメンね。ちょっとおっぱいが垂れてきちゃったのよ。ヴェルちゃんには敵わないから大丈夫よ。恥ずかしい物をみせちゃうわね。じゃあ遠慮無く・・・」
デルフォーは湯に浸かると、ふうと声を出した。
「これが高級貴族が入る湯船なのね・・・良い感じよ」
「ほら、あなたはデレデレしない! 三階層に戻るよ!」
「じゃあ二階層の管理はギルドでお願いしますね。建物も適当に建てちゃってください」
「いいの? 三階層には行かせないようにするわ。しかし開放感が堪らないわね。私はしばらく入っているわ。お肌がつるつるしてくるわね」
三階層に戻ると、二階層と同じく温泉が湧き出る泉があり、隣に湯船があった。
「うち等も入ろうか」
俺とヴェルヘルナーゼは鎧を脱いで全裸になる。ヴェルヘルナーゼの裸体も神々しい。
「デルフォーさんに負けていないでしょ?」
「うん。綺麗だよ」
「うん」
湯船に隣り合って入る。俺はヴェルヘルナーゼの肩を抱き、のんびりと湯に浸かる。ヴェルヘルナーゼは俺に体を預ける姿勢になっている。
「ウフフ。うち等の秘密の場所ね・・・」
すうっと風が通り抜ける。心地よい風だった。
「キーアキーラも呼びたいわね。三人で入ってさ・・・あ、そういえば大きな楢の木あったのよね! 行きましょうよ! 早く、早く!」
ヴェルヘルナーゼは湯から出ると、慌てて服を着始める。俺はヴェルヘルナーゼの可愛いお尻を眺めていたら、無理矢理湯から出されて服を着させられた。
「早く! 早く!」
俺は手を引っ張られて巨大な楢の木に向かった。




