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冒険者物語  作者: 蘭プロジェクト
第10章 王都と第二王子
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石弓の魔法

第百七十一話 石弓の魔法


 「メリーカーナ殿下、今日の授業の前にお話があります。いいですか?」


 「はい。なんでしょう」


 「冒険者ギルドより、魔銀級冒険者への就任打診がありました。正式依頼は後ほど王宮へ行くようです。受けますか?」


 「魔銀級ですか?」


 「冒険者の階級は鉛級から白金級までランクがあり、通常は白金級で打ち止めです。その上には魔銀級があり、通常は王族が就任するそうです。王太子殿下は魔銀級を辞したようで、今は空位なんです。百五十人の配下を持つメリーカーナ王女が適任かと」


 「ええ? 配下なんていませんよ?」


 「聖堂で治療を行うと、金貨五十枚とか百枚とかかりますよね。冒険者も同じで、パーティ外の人の場合は同額を払わないと奴隷落ちするんです。百五十名は殿下の奴隷ですよ。銀級くらいなら払えるはずなんですが、嬉々として払わないようです。盾になるって言っているらしいですね」


 「盾?」


 「ええ。強大な魔物は剣では倒しづらく、魔法で倒すんです。普通は詠唱時間が必要ですから、魔法使いを守るんですよ」


 「ええ? じゃあ守っている人は?」


 「当然死にますね。冒険者は屍を築いて次代に意志を手渡すんです。盾になるという言葉、冒険者が一生に一回言うかどうかの絶対的な信頼の言葉です。嬉しかったんですよ。最前線で殿下も戦ってくれたことが。彼らの意志を汲み取って下さい」


 「わかりました・・・実際には名誉的な感じですよね?」


 「いえ。金級以上には大きく三つの特権があります。罪人の認定、金級と白金級の罪人認定の取り消し、緊急時のギルドの支配と関係者の処刑です」


 「罪人の認定・・・ギルドの支配・・・あああそうでした・・・わかります」


 メリーカーナ王女はにやりと笑った。良くない笑いだ。


 「引き受けます。ウフフ」


 「・・・良くない笑みですね」


 「そんなことありません!」


 「メリー、凄い・・・」


 「ではギルドに行きたいのですが、いいですか?」


 「はい。行きましょう」


 六人で冒険者ギルドに向かう事になった。ギルドの回りは冒険者でいっぱいだった。手を洗っている冒険者も居る。


 「殿下!」

 「殿下!」


 俺達が建屋に向かうと、あっと言う間に冒険者に囲まれる。俺とヴェルヘルナーゼ、フォールーで冒険者をかき分けてギルドに入る。


 「す、凄い人気です・・・」


 「メリーカーナ殿下はあの苦しい戦いを先頭で戦っていましたからね」


 「はい! みんな通して! 通して!」


 デルフォーが叫ぶと、冒険者達は左右に分かれ、道が空いた。


 「ようこそおいで下さりました。いつもの三階へ」


 俺達は三階の部屋に案内される。部屋の中には六人の男が待っていた。五十代前後の男性だ。メリーカーナ王女はデルフォーと握手をする。


 「殿下、魔銀級冒険者就任を受諾していただけますか」


 「私はアーガス卿を実の兄の如く慕っております。それで良ければ引き受けます。言い換えればアーガス卿の傀儡です」


 「もちろん。本当はアーガス卿に就任して貰いたいんですが、そうもいかないですし」


 「皆さん! 殿下より魔銀級就任の内諾を頂きました」


 おおっと歓声が沸き、部屋で待っていた男達はメリーカーナ王女を取り囲んだ。ギルドのお偉いさんであろう。俺は面倒なので部屋の隅で待機している。


 「ヴェルヘルナーゼ、売店を殿下と一緒に見てくる。頼むよ」


 「わかったわ。任せて」


 「殿下、ちょっと一階を見に行きましょう。ギルドには売店があるんです」


 「行きます! メーフォーリも行こう!」


 三階から一階に降りて行く。殿下は苦しそうな感じを受けない。体力が着いてきているようだ。


 「殿下、一階は受付があるんです。冒険者登録や、依頼の受け付け、素材の買い取りも行うんです。必ず酒場があるんです。冒険者はその日暮らしです。明日死ぬ可能性が大きいですからね。よく酒を飲みます。飲むと暴れるのでギルドで飲ますんです。稼いだ金を使わせてしまうという事ですけどね」


 「へぇ。流石に飲んでいる人はいないですね」


 「今日はメリーカーナ殿下が来ていますからね。凄い人気でしょう」


 「流石メリーだ」


 「で、売店は・・・あったった。行きましょう」


 王都のギルドの売店はなかなか広い。武器、防具、魔法薬、冒険用の小物類が揃っている。


 「わあ、武器庫みたいですね」


 「俺も最初はギルドの売店から買ったんです。なまくらですぐに曲がりましたけどね。この辺が武器ですね」


 武器はなかなかの品揃えだ。ナイフから両手剣まで、各種サイズあるし、斧、槍、ハルバードまで置いてある。弓と矢、クロスボウとボルト、スリングまである。


 「多分殿下はまだこのくらいのサイズでしょうね」


 俺は短めの短剣を手に取る。鋳造の数打ち品だ。殿下に渡すと、数度振っていた。


 「なるほど、しっくり来ます。重さもちょうどいいです」


 「来月になると軽すぎるはずですよ。王宮にちょうど良いのがありましたか?」


 「それが大きい剣しかないんです」


 「殿下が持つべき品質の剣では無いですが買っていきますか。ついでに石弓とボルト、スリングを買っていきましょう」


 「この紐はなんです?」


 「スリングって言って石を拾って振り回して石を投げるんです。極めて安い武器ですね。殿下の体力増進用にでもしましょう。安いし・・・ああ、忘れていました。ナイフを三本持ち歩くんです。ルーガルのギルドで教えられたというか、買わされたというか。俺のような小柄だと十分に予備の武器になるし、投げつけるのに丁度良いんです。初心者の頃は俺がナイフを投げて出来た隙を使ってキーアキーラさんが切り伏せたりしましたね。腰ベルトも買っていきましょう。鎧はまだでいいと思います」


 支払いはメーフォーリが行っていた。売店の店主に腰ベルトを装着させてもらい、ナイフを三本差し、短剣を吊す。右側には矢筒を下げ、ボルトを二十本ほど入れた。百八十本は俺が持つ。


 「どうです? 似合いますか?」


 「石弓を持つと兵士っぽいですね。なかなか似合いますよ。戻ったら試射しましょうか」


 「私は石弓を使うんですか?」


 「使うと言うか、魔法用です。ヴェルヘルナーゼはエルフだから、弓が良かったんです。殿下はクロスボウかなって。弓は習熟にかなりの時間が必要なんですよ。殿下は剣だけで精一杯だと思うんです。石弓は慣れるのが早いですから」


 「あ、居た居た! あなた帰るわよ!」


 冒険者達をかき分けてギルドの敷地から出て、大型の魔道馬車で林に帰った。


 「マクミリヤニお兄様、クロスボウを買ったんですか?」


 「うん。撃ってみたいな」


 「じゃあ撃ちますか。一つお願いがあるんです。エルフにとって、木は命そのものです。エルフは森を愛し、森と共に生きるんです。俺とヴェルヘルナーゼが林に居るのも森の中に身を置きたいからなんです。無闇に木を傷つけるのは止めていただきたいなと。少なくても、ヴェルヘルナーゼの前で木を狙い撃つのは止めていただきたいなと」


 「森で生きる・・・」


 「ええ。エルフは森で生きます。森に感謝をしながら生きるんです。ほら、あそこに枯れ木が倒れてますから、的にしましょう」


 「はい!」


 「じゃあ撃ちますよ。弦を引っかけて、ボルトをセットします。引き金を引くと、打ち出せます」


 マクミリヤニ殿下は苦労して弦をセットし、引き金を引く。ボルトは枯れ木に突き刺さった。


 「じゃあボルトを魔法で形作ってください。細くていいですよ」


 「魔法で・・・」


 マクミリヤニ殿下は目を閉じ、魔法を練る。指に細い魔法の矢が現れる。石弓に置こうとしたら、消えて無くなった。


 「ああ、消えた・・・」


 「惜しかったですね。でも練習すれば出来そうですね」


 「私にも魔法が・・・」


 「マクミリヤニお兄様! 凄いです!」


 マクミリヤニは魔力を使いすぎてフラフラである。メーフォーリは慌てて駆け寄ると、マクミリヤニ殿下を抱き留めた。メーフォーリは嬉しいのだろう。泣き始める。


 「距離五百は飛ぶように頑張りましょう。矢の射程よりも、魔法の射程よりも遠くへ撃つんです。軍が欲しいはずなんです。では、明日から遠くへ飛ばすために必要なことを学びましょう。物の理をお教えします」

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